第十九話:一人前の魔王になるために
敵の魔王を特定した。
【蛇】【樹】【血】【氷】【虫】の五人が確定。
Aランクの切り札たる魔物による特定なので偽装はほぼ不可能。
マルコとダンによると、この中でもっとも脅威なのは【虫】の魔王。彼がAランクで、残りの魔王はすべてBランクとのことだ。
真っ先に潰すべきは【虫】だ。
敵の主力の大半は創造主が与えたペナルティにより、消滅している。仕掛けるのなら今しかない。
俺は早速、そのための準備を始めていた。
攻めることにリスクがないわけじゃない。
考えられる最悪は、【虫】の魔王のダンジョンに敵対する魔王すべての魔物がすべてのダンジョンに配置されていること。
そこに攻撃を仕掛ければ、即座に全魔王がアヴァロンを攻めてくるだろう。
だが、それは考えにくい。
相手だって、俺の報復を恐れているだろう。しかも、主力を奪われて守りに不安がある。
戦力を分散したくない。加えて、勝負をかけた一手が無残に失敗して、責任を押し付け合っている連中が足並みをそろえられるかに疑問もある。
……まあ、これらは希望的観測だ。もちろん、どの魔王のダンジョンにも全員の魔物が配置されていることも考えられる。
それでも攻める。
それ以外の選択肢はない。
なにせ、あと二か月半で新人魔王を守るルールは消える。
何もしなければ、どっちみち二か月半後には総攻撃を受ける。
なら、リスクを背負ってでも潰せるときに潰す。
◇
居住区にあるドームの中に、グラフロスたちが輸送用コンテナと共に整列していた。
魔物たちが忙しく動き回り、武器・弾薬、回復アイテムを積み込んでいく。
敵だと判明した五人の魔王、その中で唯一のAランクである【虫】を滅ぼすための準備だ。
デュークを筆頭とした、リーダー格の魔物が俺のもとへやってくる。
「今回の指揮はデュークに任せる。デューク、必要なことはすべてやれ、俺の許可は一切必要としない。迅速に動け。全魔物に、デュークの言葉は俺の言葉だと伝えている」
「はっ、身に余る光栄です。我が君の期待、必ず応えて見せましょう」
今回は俺はアヴァロンを離れない。
理由としては、リスクを背負って俺がここを離れる必要がないのと、敵が反撃してきた場合、【階層入替】をするためだ。
前回のように偽装の襲撃をして警報をならし、門を閉じきるのもありだが、こういったことが短期間で連続すればアヴァロンの評判が落ちる。
だから、【虫】のダンジョンを攻め落とすのは、もっとも指揮能力にすぐれるデュークに任せて、俺はアヴァロンに待機する。
「ティロ、ラフェ。おまえたちはこの戦いで誰よりも敵を倒し、誰よりも成長しろ。それがアヴァロンの強化に繋がる」
「がうがう!」
「聖上、かしこまりました。だよ!」
青く、舌の長い狼のティロと黒い翼の天使ラフェロウが元気よく返事をしてくる。
今回の編成は今までとは少し違う。
デュークが指揮官と切り札を兼任し、全体指揮を執る。
そして陸戦の主戦力としては三騎士、多数のアヴァロンリッター、デュークが【強化蘇生】させたAランク相当の人工英雄をはじめとした強力な個体を総動員する。
他にも暗黒竜グラフロス、漆黒鳥ネヴァン、ゴーレムたちを整備するために少数のドワーフ・スミスを用意した。
異空間部隊は、ルルイエ・ディーヴァのルーエの副官で指揮力にすぐれるオーシャン・シンガーを中心に、オーシャン・シンガーの精鋭と多数のアビス・ハウルを派遣する。
「そして、クイナは前に出すぎず、みんなを守ってやってくれ。これはアヴァロンで最強の魔物であるクイナしか頼めない」
「任せてほしいの! ばっちり、ティロとラフェを育ててあげるの。だから、クイナはあんまり戦わないの!」
クイナは面倒見がいい。彼女がいれば、大抵の状況はなんとかできる。
クイナの役割は保険と切り札だ。
今回の戦争では、敵を叩き潰すのも重要だが、ティロとラフェに言ったとおり、二人の成長も重要視している。
異空間を跳躍する魔狼ティンダロス。
光と闇の二重属性を操る最高位堕天使ラフェロウ。
二体とも非常に強力なSランクの魔物であるが、将来性を考えて変動レベルで生み出したため、レベルが低く、その真価を発揮できていない。
今のティロとラフェならAランクの魔物に勝てるかも怪しい。
だから、成長できる機会は無駄にしたくない。
彼らの成長を促すために、三騎士たちの契約を一時的に彼らのものとした。
こうすれば、ティロとラフェが倒した魔物だけでなく、装備扱いになった三騎士の経験値もすべて彼らのものとなる。
……一体の魔王の配下を皆殺しにするのだ、すさまじいレベルアップができるだろう。
「我が君、出発準備は完了です。いつでも出発できます」
「ごくろう。では、頼む。デューク、増援が必要だと判断したら即座に連絡をいれろ。陸戦部隊が苦労するようならアウラ、異空間部隊が苦戦するならルーエを派遣する」
「はっ、確実な勝利を最優先に動きます」
デュークなら、必ず正しい判断をしてくれるだろう。
「……デューク、子供ができたばかりだというのに単身赴任を命じてしまい。申し訳ない」
「気になさらないでください。むしろ、この戦いで活躍すれば我が子に自慢できますよ」
「相変わらず、いい父親をやっているんだな。俺からはもう話すことはない。あとは任せよう」
「我が君に必ずや勝利を」
話はそれで終わりだ。
俺の魔物とゴーレムたちが全員、コンテナに乗り【虫】のダンジョンに向かえて飛び立っていった。
反プロケル同盟におけるAランクの魔王は、すでに倒した【豪】と、今回挑む【虫】だけだ。
この戦いに勝てば、あとは雑魚しかいない。
Bランクメダルの魔王は自力でAランクの魔物を作れないため、地力が圧倒的に劣る。
Bランクメダルの魔王が徒党を組んでも、今のアヴァロンにとっては大した脅威ではない。
なにせ、敵がオリジナルメダルを消費して作れる切り札と、こちら側が【渦】から毎日一体生むことができる魔物が互角なのだ。
とはいえ、潰しておいたほうがいいのは間違いない。
できれば、三か月後までに反プロケル同盟の魔王をもう一人ぐらい始末しておきたいところだ。
デュークが早く【虫】を仕留めることを祈っておこう。
◇
デュークたちを見送ったあと、俺は街のほうに移動する。
敵対魔王を潰すのは重要だが、俺の仕事はそれだけではない。
そろそろ、本格的に新人魔王を卒業したあとのことを考えないといけない時期だ。
ルールに守られている間にしかるべき準備が終わっていなければ、他の魔王の食い物にされる。
だから、同じく新人魔王の【風】の魔王ストラスと【粘】の魔王ロノウェを読んで会議をする。
街にある屋敷に着くと、お手伝いの妖狐からすでに二人が到着していることが告げられた。
急いで応接間に向かう。
「プロケル、久しぶりね」
「おいら、緊張してきたんだな。大事な話ってなんなんだな?」
「よく来てくれた。二人にこれからのことを話すために来てもらった。俺たちはもうすぐ新人じゃなくなる。……マルコの話じゃ、なんの用意もしていない新人魔王たちは、卒業と同時に狡猾な魔王の標的にされるようだ。だから、対策をする」
ロノウェがひっと声を上げる。
「私もアスタロト様から聞いているわ。防ぐ方法は大きくわけて二つ。強い派閥に入っておくこと。もう一つは、自分自身の強さを示すこと。プロケルはどちらをするつもりかしら?」
【竜】の魔王アスタロトはストラスを溺愛している。
このあたりの教育は抜かりがないようだ。
「両方だ。次の【夜会】は、ちょうど俺たちが生まれてから一年経ち、新人魔王のルールの保護がなくなるのと同時に行われる。だから、一人前の魔王として【夜会】でプロケル派閥を立ち上げたことを宣言する」
次の【夜会】では、すべての魔王が集まり、新人魔王たちの巣立ちを祝福し、寿命を迎えて消えていった魔王たちの追憶を行う。
すべての魔王が集まる場だからこそ、宣言することに意味がある。
「それは逆に危険ではないかしら? 大きな派閥に属せずに新人魔王だけで集まっていると宣言すれば狙われるかもしれないわ」
「普通の魔王だったらな。だが、俺はすでに【豪】の魔王を倒し、これから【虫】の魔王を潰す。Aランクの魔王を二体屠った魔王になれば、俺の名は力を持つだろう。それに、次の【夜会】ではマルコとダン……【刻】の魔王ダンタリアンも協力してくれる」
本来、この二人は最後の年を迎えて消えるはずの魔王だ。
だが、マルコは俺の【新生】によって生まれ変わったし、ダンは自らの【刻】の能力で寿命を延ばしている。
夜会では消えるはずの二人がいて、俺の力になると宣言すれば、他の魔王たちは驚くだろう。
「最強の三柱のうちの二人が、生きていて、しかも味方なんて知れば、誰も手を出してこれないわね。まともな神経をしていればだけど」
「あと、補足しておくが、マルコは俺の派閥だが【刻】の魔王は同盟者として名乗りを上げる予定だ」
【刻】の魔王が協力してくれるとは思わなかった。
彼曰く、『プロケルのためじゃない。マルコは君の魔物になった。彼女を守るために協力するだけだ。それにフェルも君がいなくなれば悲しむ』。
相変わらず、彼はツンデレだ。
「プロケル、すごいんだな。これで、安全なんだな」
ロノウェが騒ぐのも無理はない。
それほどまでに最強の三柱の力は圧倒なのだ。
「その案に賛成するわ。私にも伝えたいことがあるの。私は【夜会】で【竜】の魔王アスタロト様の遺産を引き継いだことを宣言するわ。それが私の義務よ」
「俺もそうすることに賛成だ」
今、ストラスは【竜】の魔王の遺産を引き継ぐために、彼女の【竜】であるエンリルと共に奮闘中だ。
本当の意味で、アストの竜たちに認められたとき、ストラスは一気に最上位の魔王に名を連ねるだろう。
【竜帝】となったエンリルが率いる、【狂化】し圧倒的な力を得ながらも統率された竜の軍勢。
それらが偏在で二倍になって襲ってくれるのは悪夢に近い。
おそらく、俺の魔物たちでも戦えば無傷ではすまない。
「プロケル、気になってることがあるんだな。なんで、新しく仲間になったベリアルを呼ばないんだな?」
「それも、考えがあってのことだ。仲間になったタイミングがタイミングだけに彼のことを疑っていた。先日、その疑いがほとんど晴れている。……ただ、思うところがあって、二人にも協力してほしいことがある」
俺は自らの考え、そして一つの仕掛けを話した。
基本的に、俺はもうベリアルのことを信じている。
言うならば、これはただの保険だ。
それが終われば、ベリアルも呼んで、改めてこういう場を持とう。
その日が来るのが楽しみだ。
ストラスとロノウェが頷く。
これで根回しは済んだ。
その後は、ロノウェが作るダンジョンの相談に乗ったり、ストラスと意見交換を行った。
俺たちが一人前の魔王になるまで、もうすぐだ。
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