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第十七話:プロケルの策略と三騎士と忠誠心

 デュークからの報告で、俺の不在中に反プロケル同盟の魔王どもがアヴァロンを襲撃してきたことがわかった。

 三十分ほど今回のために作った防衛に特化した部屋で侵攻を防ぎ、その後、創造主によるペナルティを受けて撤退したらしい。


 戦いに出した魔物すべてが没収とはえぐいな。

 これではうかつにルールは破れない。


 隣でデュークの報告を聞いていたベリアルが立ち上がる。

 驚愕を浮かべた表情で。

 ……さきほど、一瞬だけ見せた、脂汗をこらえ、苦しみながら、それでもにやりと笑った見せた表情は嘘のように消えている。


「いったい、これはどういうことですか!? プロケル様は、たしかに僕を守るために魔王たちの軍勢に手を出したはず。なのに、ルール違反になるなんて!?」


 この反応だけを見ると、罠に嵌めようとして罠に嵌った小物のように見えてしまう。

 先ほどの表情を見ていなかったら裏切り者だと断定してしまっていたかもしれない。


「さあな。単純に、ベリアルを襲った軍勢と、アヴァロンを襲った軍勢と、持ち主が違うんじゃないか? あるいは、俺が手を出す前に仕掛けたのかもしれない」

「そんなことはありえない」

「なぜ、ベリアルにそれがわかる? 確証なんてないだろ」

「……考えてみればわかります。いくらなんでも、このタイミングで別の魔王の集団がアヴァロンを襲うなんてことはないです。それに、状況からして僕を襲ったのはプロケル様をおびき寄せるためのはずだ。アヴァロンを襲ったことで、僕もようやく気付けました。僕は悔しいです。良かれと思ってプロケル様の同盟に入ったのに足を引っ張ってしまって」


 そう簡単にボロは出さないか。

 まあいい、なぜアヴァロンを襲った魔王がルール違反になったかのネタバレをするとしよう。


「俺はベリアルに救援を求められたときから、俺に手を出させることこそが奴らの目的だと疑っていた。だから、相手に俺が手を出したと思わせるための罠を用意した。それが三騎士だ」

「どういうことですか? あのゴーレムはプロケル様が使役しているはず。ゴーレムは支配者の装備品とみなされるから、ゴーレムのやったことはプロケル様のやったことと同じ。……ゴーレムを他人に預けたとも考えにくい、支配者以外の命令を受け付けないし、誰かの命令を聞けなんて複雑な命令はこなせない」


 ベリアルの言うことは正しい。

 ゴーレムは魔物ではないが、支配者の装備品扱いだ。だから、ゴーレムが倒した魔物の経験値は主人のものとなるし、ゴーレムのやったことは持ち主のやったことになる。

 普通のゴーレムであれば、支配しない限り命令できないし、複雑な命令に対応できないも当たりだ。

 だが、残念ながら三騎士は普通のゴーレムではない。


「三騎士を誰も支配なんてしていない。あの子たちはただのゴーレムじゃない。思考能力と感情を持っている。人形じゃなく一つの生命いのちだ。あの三騎士の忠誠心にはほれぼれするよ。契約を破棄して自由になったと言うのに自分の意思で俺に協力してくれているのだからな」


 このゴーレムこそが今回仕掛けた罠だ。

 普通のゴーレムではできない、複雑な命令もこなせるので、マルコに支配権を移すという手も考えたが、契約すればマルコとゴーレムの間にパスができる。そのパスや第三者の魔力で気付かれる危険性があった。


 だから、いっそのこと誰も支配していない状態にして三騎士たちが得た感情、彼らの忠誠心を信じた。

 支配し、命令なんてしなくても、彼らは力を貸してくれる。

 もはや、三騎士たちは人形ではなく、一つの生命だ。そのありえない性質のおかげで敵の意表を突くことができた。


「さっ、さすがはプロケル様、そんな方法があったなんて」

「参考にはならないがな。感情と思考力を持った三騎士だからできた。普通のゴーレムじゃ無理だよ。あいつらのことを誇りに思う」


 自然と笑みがこぼれる。

 今回の作戦で一番不安だったのは、感情をもち自由にした三騎士たちが俺のために働いてくれるかだった。

 直前まで悩んだが、ロロノの言葉が悩みを断ち切ってきれた。


『三騎士たちは、マスターのことを父親、私のことを母親と思って慕ってる。絶対に裏切らない』


 そこまで言われれば、信じるしかない。


「この方法を使えば、プロケル様は一方的に、親世代の魔王たちを攻められますね」

「それは無理だろう。【創造主】はこういう抜け穴を塞ぐのは早い。次からは対策される。あいつは一方的な状況を好まない」


 実際、【鋼】【粘】【邪】が使った、親世代が組んで、それぞれの子に魔物を貸すというやり方もすぐに使えなくなった。

 そう遠くないうちにルール追加のアナウンスが来ると思っている。

 一度しか使えない奇襲で、うまく罠に嵌めて大幅に戦力を削れたのは僥倖だ。


「脱帽しました。プロケル様の奇策で敵の戦力はガタ落ちですね」

「そっちはおまけだ。ここまで罰則はきついとは思っていなかった。……本当の目的は他にある」


 罰則がここまで大きかったのは想定しておらず、予想外の収穫にすぎない。本来の目的があり、そちらは無事果たした。


「教えていただいてもいいですか、その目的を」

「敵の魔王を特定することだ。アヴァロンには映像を記録する装置がある。アヴァロンでの戦闘はすべて映像に残すように命令していた。Aランクの魔物も敵の軍勢には多数いたと報告にある。雑魚なら持ち主はごまかせるかもしれないが、切り札たるAランクの魔物は魔王の象徴だ。正体を隠し通せるものじゃない……俺を襲った魔王が特定できれば、一人ひとり潰していく」


 そのために、アヴァロンを攻める隙を作ってやった。

 敵の姿を見えないまま、戦うのにも飽きてきたところだ。

 敵の魔王どもが戦力の大半も失ったのも追い風となる。

 今なら各個撃破も容易だし、敵の魔王どもは自分の身を守るのに手いっぱいで、味方への援軍も送り辛いだろう。


 何より、いい実験ができた。新たに作った防御特化部屋は、魔物の被害ゼロで、第一フロアだけで三十分以上もの間、千を超える軍勢を防いでくれた。これがあれば攻撃部隊に多くの魔物を割り振れる。帰って第一フロアがどう作用したのか報告を受けるのが楽しみだ。


「敵の罠を利用して、相手を特定と弱体化を同時に行うなんて……プロケル様は、いったいどこまで考えているのでしょうか? 勉強になります!


【水晶】の部屋に、デミ・リリスが三騎士を連れて戻ってきた。すべてが終わったのだろう。

 三騎士たちがこちらに近づいてくる。

 俺は立ち上がり、彼らを出迎える。


「ありがとう三騎士。おかげで、今回の作戦は成功した。おまえたちは俺の誇りだ……改めて俺に仕えてくれないか」


 三騎士がその場でそれぞれの敬礼をする。

 そして、俺は契約をし、彼らの持ち主となる。

 彼らは機械だが、間違いなくアヴァロンの大事な仲間だ。


「プロケル様、今話題にでたアヴァロンの戦闘映像を保存しているという話ですが、僕のダンジョンでの戦いも撮っていたのでしょうか? そうであるならプロケル様のゴーレムの雄姿をもう一度みたいです!」

「それはできない。装置自体がかなり大きくてな。そうそう持ち運びなんてできないさ」


 大嘘をついた。

 俺の胸ポケットには小型の隠しカメラがあり水晶越しの映像を録画しているし、

 三騎士の実戦データを集めるために、三騎士の視界に入るものすべては録画されている。

 現時点でベリアルに今回の映像を残していることは言えない。


 ベリアルのダンジョンでの戦いはアヴァロンに戻ってから徹底的に解析する。

 ……敵の魔王を突き止めるだけであればアヴァロンを攻め入った魔物を見るほうがよほど正確だ。ランクが高いものほど、持ち主を特定しやすい。

 わざわざ、ベリアルのダンジョンの映像を解析する理由は一つ。


 ベリアルが自身のダンジョンの戦いで敵の軍勢に自分の魔物を紛れ込ませていないかを見るため。

 ベリアルが敵なら、この場で俺を始末するため、あるいはアヴァロンが落としきれなかったときのために、自分も俺を攻撃できるようにする必要があった。その場合、自分の魔物を敵の軍勢に潜り込ませているはず。


 敵の軍勢にベリアルの魔物がいれば裏切者と確定する。

 この乱戦だ。三騎士たちの攻撃に巻き込まれたベリアルの魔物もいるだろうが、巻き込まれるまでの経緯が不自然じゃないかも徹底的に調べる。


 今のベリアルの言葉も三騎士の戦いをもう一度みたいからではなく、自分の魔物を敵に紛れ込ませたのがばれるのを恐れてかもしれない。


「やっぱり、映像を残す魔道具は大きくなっちゃうんですね。プロケル様の雄姿を振り返れないのは残念です」

「悪いな」

「いえいえ」


 これ以上、ベリアルは聞いてこなかった。


「プロケル様、戦いも全部終わったようですし、祝勝会と行きましょう。残念ながら、僕のダンジョンでプロケル様に振る舞えるようなものは用意できません。ですので、このままアヴァロンに行きましょう。僕に代金を持たせてくださいね! あっ、それからお借りしたグラフロスをお返しします」

「ベリアルがそれでいいならいいが」


 俺は苦笑する。

 今日、ベリアルは怪しい行動は見せなかった。

 俺に手を出させ、作戦の成功を確信してアヴァロンを攻めさせたであろうタイミングでも、その後も。


 これでアヴァロン攻めにも、ベリアルのダンジョンでの戦いでも彼の魔物が不自然な動きをしていなければ信じられる。

 ティロにアヴァロンに繋がる【転移陣】の準備をさせる。


「……プロケル様」


 ベリアルに名前を呼ばれて振り向く。

 彼は何かを言いかけて、言葉に詰まり、そして、寂し気に微笑んだ。


「肉と魚、どっちが好きですか?」


 彼の喉まで上がってきた言葉が飲み込まれ、取り繕うように別の言葉を選んだ。

 俺は肉と答える。


 ……そして、俺は今日の最後の仕掛けをした。

 魔王も、人間も、魔術や魔物の能力による情報漏洩は恐れているし、探知魔術や結界などで対策は万全にする。

 なのに機械による盗聴は恐れない。

 まあ、そんなもの俺以外は作れないのだから疑うほうがおかしいのだが。


 小型かつ高性能の盗聴器を二つ水晶部屋に仕掛けた。

 小型でありながら、三か月はもつ。どこかで一度、理由を付けてこの部屋に再び訪れて回収しよう。


 これで今日の目標は達成だ。

 明日からまた忙しくなる。今日は無邪気にベリアルの無事と勝利を祝おう。

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