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第十六話:アヴァロン襲撃

 水晶を通して三騎士たちの戦いを見ていた。

 もともとの作戦は、罠を抜けた先にある【草原】で、防御に徹して、可能な限り敵の魔物を【草原】に引きつけ、過半数が【草原】にたどり着いたところをグラフロスの爆撃で一掃するというものだった。


 だが、ベリアルの魔物だけでは防御に徹しても、過半数の魔物が【草原】に集まる前に突破されそうになったため三騎士を派遣した。

 相手の魔王を特定するために、ベリアルの水晶に移る光景を隠しカメラで録画している。マルコに見てもらえば魔物から持ち主の魔王がわかる。

 それにしても……。


「いったい、敵の魔王は何人いるんだ?」

「少なくても五人はいるでしょうね」


 ……敵の数と種類が異常すぎる。

 今、見えているだけで。


 狼男型の魔物、ブラッドウルフマン。

 上半身だけで溶けた泥人形、クレイドール。

 襟巻が付いている大蛇、ウイングスネーク。

 氷の彫刻、アイス・ジャイアント。

 兜のような甲殻を持つ二足歩行の恐竜、スモール・ティラノ。

 歩く大樹、トレント。

 腐り落ちたゾンビ羊、アンデッド・スレイプ。

 鋼を貫く角を持つカブト虫、ヘラクルッセ。


 そのほかにも、様々な魔物がいる。

 属性も姿形も統一性がない。これだけで判断するのは危険だが、この軍勢を率いている魔王は一人や二人じゃない。

 俺に可能な限り多くの魔物を攻撃させたいのだろうが、あまりにも露骨する。


 これでベリアルへの疑いがさらに強くなった。

 そして、序盤にお互いの切り札が潰し合ったとベリアルは言ったが、これだけの多くの魔王が参加しているのだ。互角の戦いなんてできるわけがない。


 敵の魔王が一人二人なら、切り札クラスの魔物の投入数が少ないだろうが、この軍勢を見ればそうでないことがわかる。


 まあいい、そのための罠だ。

 ベリアルの表情をじっと見る。

 ベリアルに一時的に所有権を移したグラフロスと違い、三騎士たちはベリアルの目には俺の使役するゴーレムのように見えているはずだ。


 もし、敵の一味ならすでに合図は送っているはず。

 ベリアルがどう動くをうかがいながら、首飾りを握りしめる。


 これはロロノが用意した切り札。使い捨てだが、即座に空間に転移陣を描くアイテム。ロロノクラスの錬金術士しか作れない。

 俺が人前で使ったのは、【刻】の魔王の客間でだけであり、ベリアルはその存在を知らない。


「さすがですね。【創造】の魔王プロケル様の誇るゴーレムは。魔物ですらないのに。この強さ、Aランク。いや、もっと上の……恐ろしい。これはプロケル様の【誓約の魔物】が造り上げたゴーレムですよね。つまりは同じものをいくらでも作れるということ。はは、百年もたたないうちに、どんな魔王もプロケル様に届かなくなる」


 正しく言うと、三騎士はロロノだけの力では完成しない。

 だが、それを味方と確定していない状況で伝える必要はない。


「そうだな。ただ、どうしてもこれだけの性能を持たせようとすると、時間がかかる。他のゴーレムのように一日一体、というわけにはいかない」

「それでも魅力的ですよ。いいな、羨ましい。手に入れたい」


 ベリアルに動きはない。

 ただ、無邪気に水晶を見つめていた。


 俺もそれにならう。

【創成】により進化した赤騎士、ロート・ランツェが動いた。

 進化により、一回り体が大きくなり、その主力武器である杭打機パイルドライバーは二回り大きくなっている。

 特徴的なのは、背中にある巨大なスラスター。強化ツインドライブ・ゴーレムコアとアヴァロンジュエルの併用により、出力は二倍以上になり推進力もそれに比例するように上がっている。


 ロート・ランツェが構えた。あれは新たな必殺技だ。二回り大きくなった腕が変形し、脚部についていた補助パーツと合体する。右腕を前に突き出した姿はまるでロート・ランツェそのものが巨大な一本の槍になったようだ。


 右腕が赤く輝く、過剰な魔力により機体の防御力をさらに強化。

 そして、スラスターが火を噴いた。ロート・ランツェが消え、周囲をソニックブームで吹き飛ばす。

 敵の魔物がひき肉になって散っていく、数十体の魔物を吹き飛ばしたロートランツエがようやく止まった。

 重量級の魔物が集団でスクラムを組んでなんとか止めたようだ。


 だが、それでロート・ランツェが止まったと思ってもらっては困る。今の突進など、ただの予備動作に過ぎない。

 本番はここからだ。

 カチリと音が聞こえた。……次の瞬間、炸裂音と共に巨大な槍と化した右腕が飛び出る。


 杭打機パイルドライバーの本領発揮、莫大な魔力を弾丸にして炸裂させる。それはただの強力な物理攻撃ではない。敵を原子レベルまで分解させる衝撃波を同時に発生させる。

 ロート・ランツェの正面から扇状に広がる衝撃波は大地ごとすべてを刈り取る。


 この一撃に必要とする莫大な魔力は、アヴァロン・ジュエルにため込んだ魔力を、弾丸のようにストックし瞬間放出することでなんとか確保している。


「プロケル様、敵の魔物がまるで紙細工のようです。なんて、力強いゴーレム」

「あれは、そういう機体だ。残りの二機も良くやってくれている」

「黒いゴーレムは、四つの腕で縦横無人に射撃し、斬り刻んでいますが、白いゴーレムは姿が見えません」


 ベリアルの言う通り、シュバルツ・パンツァーは四本の腕のうち、二本にロロノの新型重機関銃、二本に片刃の美しい剣を持ち、暴れまわっている。

 一見、ひどく地味に見える。

 だが、よくよく見るとその異常さが分かるだろう。

 あまりにも無駄がなさすぎる上、一発の被弾すら許していない。


 シュバルツ・パンツァーは汎用型故に派手な兵装はないがすべてが高水準で欠点がない。

 そして三騎士の中でも飛びぬけた頭脳とセンサーを得た。誰よりも素早く深く情報を集め、最適な行動をとる。


 黒騎士シュバル・パンツァーは三騎士の指令機であり、データリンク機能を使い赤騎士と白騎士に情報を共有し指示を出す。

 それにより、黒騎士は赤騎士と白騎士の力を引き出しつつ、連携ができる。


 最後の騎士、白騎士ヴァリス・ボーゲンは水晶に映らない。

 理由は簡単だ。白騎士ヴァリス・ボーゲンは高度二千メートルから狙撃しているのだ。

 飛行型の魔物すら立ち入れない超高度に滞在し、有余る出力を攻撃力に変換する。


 ヴァリス・ボーゲンの銃は、進化することにより、実弾と魔力弾、そして実弾と魔力弾のハイブリットを打ち分けられるようになった。


 今回は相手が雑魚なので魔力弾のみを使用している。

 単体でも射撃精度はずば抜けているが、地上にいる黒騎士とデータリンクすることで、その精度を増している。


「あははは、すごい、二百以上いた魔物が、あっという間に壊滅です」

「参ったな。これじゃ、グラフロスたちを連れてきた意味がない。足止めじゃなく、たった三機で勝負を終わらせてしまう」


 引き寄せて一掃するはずが、三騎士はその力を持って敵を殲滅してしまっている。

 水晶に映る敵の戦力は三百。そのうち二百が草原エリアに足を踏み入れていたが、それも残り少ない。


 当然と言えば、当然か。

 たかがCランクで進化した三騎士を止められるものか。

 三騎士は切り札である、【バースト・ドライブ】を使う必要すらない。


 三騎士は【バースト・ドライブ】すら進化させた。

 以前までは全開の出力で【バースト・ドライブ】をすれば、ゴーレムコアの出力は一時的に大幅に低下するうえ、機体の魔力回路系は焼けきれてリストアすらまでまともに戦えなくなる。

 そのため、よほどのことがない限り、六割程度に出力を押えて【バースト・ドライブ】を行っていた。


 だが、今の三騎士たちは全力で【バースト・ドライブ】を使用しても耐えうるだけの強靭さを手に入れた。

 とは言っても、耐えられる限界時間はある。高度な頭脳がその限界を判断し自動停止させることで、限界の【バースト・ドライブ】を安定して連続使用できる。


「プロケル様、敵が【草原】から引き返していきますよ! 【転移陣】を作って、逃げ帰っていく。この戦い、僕たちの勝ちです! ああ、僕はプロケル様の仲間になれて良かった。今日の戦い、一生、忘れませんよ」


 ニコニコとベリアルは笑う。

 ……まだ、ベリアルは手を出してこないか。


「ベリアル。敵の数が減れば、生き残った魔物に【転移陣】を潰させろ。増援を呼ぶつもりかもしれない。それまでは俺もここにいる」

「さすがプロケル様、油断をしないで詰めも完璧ですね。では、さっそく配下に命令を」


 ベリアルが配下を敵が【転移陣】を仕掛けたフロアへと向かわせる。


「それと、一度アヴァロンと連絡を取りたい。【転移陣】をどこかに作ってもいいか?」

「ええ、構いませんよ。この場に作ってください」

「……正気か?」

「もちろんです。なにせ、プロケル様ですから!」


【水晶】の部屋に【転移陣】なんて、正気の沙汰じゃない。俺ならストラス相手でも作らせないだろう。


 だが、作っていいというなら作らせてもらう。

 ティロが【転移陣】を構築する。

 すると、向こう側からアビス・ハウルがやってきた。青い宝石が付いた首飾りをしてあり、その宝石を掴むと空間にデュークの顔が転写される。


『我が君、ご報告です。我が君が予測していたとおり、さきほど複数の魔王による軍勢がアヴァロンに攻め込んできました。莫大な魔力を込めた個体が数十体、おそらくはAランク。その魔物たちを中心に千を超える軍です』


 だろうな、俺とアヴァロンの主力を引き離し、さらにこちらから手を出させて新人を守るルールの適用外にしたんだ。

 なら、俺と主力がアヴァロンに戻る前に攻めるに決まっている。


「そんな、僕のせいでこんなことに!? 今すぐ帰ってください。もう、ここは大丈夫ですから」


 それは心の底から、心配しているような声だった。

 俺を罠に嵌めようとしているとは思えない。


「いや、その心配はいらない。予想していたからこそ、出発前にいろいろと準備をしている」


 アヴァロンと街の人々を守るため、出発直前に魔物の群れが近づいていると警報を流し外壁を封鎖し、【階層入替】で地上部を地下の奥深くに移した。

 さらに、人間たちには外壁から出ることを禁じた。

 演技のため、外壁付近にはデュークの【強化蘇生】で蘇らせた捨て駒たちを置いており、ミスリル・ゴーレムたちと戦わせている。

 壁の外に出ようとしなければ、地上から地下に【転移】していることに住民は気付かない。


 街の代わりに第一階層になったのは、ドワーフ・スミスたちに用意させた考えうる最高の時間稼ぎフロアを三つ。その突破の難易度は今までの一本道での重機関銃による出迎えの比ではない。

 俺たちが戻るまで、十分持ちこたえられる。


 残してきた連中も信頼できるし、もしものときに備えてマルコにも、彼女が誇る最強の魔物十体を【収納】した状態でアヴァロンに常駐してもらっている。


「ですが、千を超える魔物の襲撃ですよ!?」

「ベリアル、落ち着け。慌てる必要はない。アヴァロンは無事だ」


 デュークとは長い付き合いだ。顔を見ればだいたい状況はわかる。

 デュークは動じていない。それは想定外のことが何一つ起こっていないことを意味する

 この水晶はただの映像装置、こちらから言葉を伝えることはできないので、次の言葉を持つ。


『我々はプロケル様の指示通り、第一階層が突破されるまでは静観する方針でした。敵の魔王軍が攻撃を開始して十五分後……すべての魔物が消失しました。その直後、私を始めとした数体の上位の魔物たちに創造主を名乗るものから声が届いております。【ルール違反した悪い子たちにはお仕置きだ。今回使った魔物は、みんな没収。終わり終わり】。現状、敵の援軍はありません。また、プロケル様考案の防衛フロアにより、我らの陣営の被害はゼロです。あのフロアの実用性が証明できました』


 これが、子を守るルールを破った末路か。

 戦争に派遣した魔物すべて没収なんてなんて大きすぎる罰則だ。洒落になっていない。


 子を守るルールが適用されたのは、単純に三騎士を俺が支配していないからだ。俺は、ベリアルを襲った魔王に攻撃を行っていない。

 かと言って、三騎士の支配権を誰かに移譲したわけでもない。


 ベリアルだって、支配権の移譲は疑っていたはずだ。そして、その確認も容易だった。

 支配をすれば、支配者とゴーレムにパスが繋がり、持ち主の魔力を魔物やゴーレムから感じ取れる。

 少し、魔力操作に長けるものならその痕跡がわかる。


 だが、三騎士からは俺とロロノの魔力以外は感じなかったはずだ。だからこそ、ベリアルも支配権の移譲をしていないと判断した。

 そして、通常のゴーレムは支配権を持つものの命令に従って動くだけの人形、ゆえに支配していないという線も考えられない。

 この二つの前提があるからこそ、俺は罠を仕掛けることができたのだ。


 ベリアルが敵であれば、俺を罠に嵌めたつもりで、罠に嵌った。動揺は隠せないはずだ。

 奴の顔を見る。


 ……なぜだ?

 ベリアルは笑っていた。苦しみに耐えて、脂汗を流しながら。してやったりと。

 今までの軽薄な彼とは違う。だが、それが彼の本当の表情に思える。


 その表情は一瞬だけで、いつもの薄っぺらい彼に戻り、慌てた様子を見せる。

 先ほど見せた笑顔の意味を知らなければならない。そう直感が囁く。

 ベリアルは完全に味方ではない、だが、裏切り者でもない気がする。


 ベリアルはことのからくりを聞いてくるだろう。

 話をしながら、仮面の下の表情を覗くとしようか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 攻撃中の魔物の没収はただ違反行為の停止であって、それ以上しなきゃ何の罰則にもなってないでしょ。
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