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第十五話:ベリアル救援

 ベリアル救援のためにデュークによって十体のグラフロスをフル装備……最高性能の爆薬を最大限に積ませて準備させた。

 その十体のグラフロスをすべて【収納】しておく。


 これらはベリアルを救うための戦力であると同時に、ベリアルが敵側の魔王であり、俺を嵌めようとしている場合の保険。


 そして、保険とは別に罠を用意する。

 もし、ベリアルが俺を嵌めようとしているのであれば、今回の戦いで馬脚を現すだろう。

 ……いや、そうなるように誘導する。


【絶望】の魔王ベリアルのことを信じたい。

 これは俺の持論だが、信じるということと疑わないことは違う。

 盲目的に、ただ信じると言って何もしないというのはただの思考放棄だ。


 信じるということは、十分に疑い、その結果として信用に値するという判断をすること。

 だから、俺はベリアルが俺の敵である場合の行動を想定し、対策も考えていた。


 ……ベリアルが反プロケル同盟に襲撃されるということも予想していた筋書きの一つだ。

 ベリアルが敵陣営であれば、自分を狙わせて俺を呼び寄せ、反プロケル同盟の魔物たちに手を出させることで新人魔王の庇護から外す。

 それが終われば、俺を足止めし、ベリアルを襲っていた魔王と協力して始末する。

 とどめに、ベリアル救援のために主力を欠いたアヴァロンを別の魔王たちに襲撃させるぐらいのことはする。


「信じさせてくれよ。ベリアル」


【収納】したグラフロスとは別のグラフロスの頭を撫でる。

 俺の準備は終わりだ。あとは魔物たちが来れば出発する。


「おとーさん、準備OKなの!」

「ご主人様、私もです」

「がうがう!」


 今回のお供は、クイナ、アウラ、ティロ。

 ティロには異空間に潜ってもらう。

 そして、ロロノがやってくる。

 ロロノがベリアルのダンジョンに向かうわけじゃない。ロロノは罠を持ってきてくれた。


「マスター、進化した三騎士を連れてきた」


 ロロノが作った最高傑作である三騎士、それを俺の【創成】によって進化させた至高の機械騎士たち。

 アヴァロン・リッターの時点でAランクの魔物と同程度の力があり、【バーストドライブ】することで短時間ならSランク下位の力を発揮できた。


 それが改良と特化により力を増し、更に進化したことで通常状態でアヴァロンリッターの【バーストドライブ】と同等。

【バーストドライブ】を解禁すれば、Sランク上位クラスにもなる。


 この三騎士だけで、並の魔王の軍勢なら蹴散らせるだろう。

 ベリアルが敵で俺を嵌めようとした場合、こいつらは罠となり、やつの真意を暴く。


「ロロノ、急ぎの仕事を頼んで悪かった。今回、クイナ、アウラ、ティロを連れていくが。この三人に力を振るわせるわけにはいかない。主力は三騎士になる」

「ん。わかってる。マスターの言われたとおりに調整した。これなら、マスターの目的を果たせる。マスターが名前をくれた三騎士、マスターのために力を使うのは当然」


 ロロノの頼みで三騎士には名前を付けている。


 重装甲・超加速・大火力の赤騎士には、ロート・ランツェ(赤い槍)

 航空型・軽装甲・長距離射撃の白騎士には、ヴァイス・ボーゲン(白い弓)

 汎用型・高機動・高性能頭脳の黒騎士には、シュヴァルツ・パンツアー(黒い鎧)。


 それぞれ、色と武具を組み合わせた名前にしていた。

 白騎士に赤騎士と黒騎士が接続される。

 通常、アヴァロン・リッターの運搬にはコンテナを使うが、白騎士は自力で、グラフロスすら超える速度で飛行できる。

 そして、残り二体の騎士をけん引することもできる。

 三騎士は、どんな戦場にも超高速で駆け付けられる。


「じゃあ、行こう」

「やー!」

「いつでもいいです」

「ガウガウ!」


 ベリアルのダンジョンとアヴァロンの同時攻撃を想定しているため、俺が不在時の指揮をとれるデュークと、異空間の守りの要であるルルをアヴァロンから離れさせるわけにはいかない。

 救援は、少数精鋭で行く。


 クイナ、アウラ、ティロ、三騎士。これだけの守りを抜いて俺を殺すことはほぼ不可能。

 そして、状況次第ではベリアルのダンジョンでティロに転移陣を描かせ、救援を呼ぶ。

 念のために、アヴァロン側にはついになる転移陣はあらかじめ作ってあった。


 グラフロスが羽ばたき、白騎士のスラスターが点火する。

 白騎士の装甲の隙間からアヴァロン・ジュエルの赤い光が漏れていた。


 アヴァロン・ジュエルは装甲でありながら、サブジェネレーターの役割をも果たす。だからこそ、従来とは比較にならない出力を得た。

 さらに、鉄の四分の一という軽さ。それは航空機である白騎士にとっては大きなメリットだ。

 そのため、二機を抱えた状態でも白騎士はグラフロスを凌駕する速度が出せる。

 離陸する瞬間、ロロノが叫ぶ。


「父さん、絶対無事に帰ってきて」

「約束する。何があってもアヴァロンに戻る」


 ロロノが視えなくなった。

 手紙を運んで来た白い鳥の後ろを追いかけていく。

 これからベリアルのダンジョンに向かい一直線だ。

 

 ◇


 白い鳥を追いかけること、約二時間。

 ベリアルのダンジョンにたどり着く。

 ベリアルのダンジョンは塔型で登っていくタイプだ。

 第一フロアに入ると死体がのいくつかがゆっくりと青い粒子に変わりつつあり、壊れた装備などが散乱していた。


 生きている者はいない、すでに戦いの舞台はダンジョンの奥深くに移っているようだ。

 背後から襲撃をかけるよりも、まずはベリアルと合流するべきだろう。

 そう考えていると目の前に、女性悪魔型の魔物が【転移】してくる。


「私はデミ・リリス。主がお待ちです。すぐに送り届けましょう」


 どうやら、【水晶】でこちらの様子を伺っていたようで、こちらに気付き、向こうから迎えをよこしてきた。

 俺が頷くと、デミ・リリスの手により、俺たちはベリアルのもとへ送り届けられた。


 ◇


 送り届けられた先は、【水晶】の間だった。

 ……もし、ベリアルが裏切りものであれば自分の急所であるこの部屋には連れてこない。

 少しだけ疑いが晴れる。


「プロケル様、よく来てくださいました! このベリアル、信じていましたよ! 優しく強く正義感が強いプロケル様なら、すぐにでも、なにを置いても友である僕を助けに来てくれると、ああ、プロケル様の【誓約の魔物】が二体も、そちらの凛々しい猟犬もただものでもはない。その力まさしくSランク、立派なゴーレムまで、ああ、もう、この喜びを言葉で表すことができないことがもどかしい」

「……喜んでくれたのは嬉しいが、雑談はそれぐらいにしよう。今は一刻も争う状況だ」


 こうしている間にもベリアルのダンジョンは突破されつつある。

 話をしている暇すらない。


「はい、今は【階層入替】でもしものときのため用意したおいた下層にある罠地獄を上層にもっていき時間稼ぎをしているところです」


 マルコから聞いたことがある。

 長年魔王を続けているとDPが余り始める。


 それをすべて魔物に変えても、魔物を配置するスペースがないし、部屋を構築しさらに魔物を配置するのは高くつく。


 なら、いっそのことコストパフォーマンスが高い罠部屋を片っ端から購入してどんどん罠だけの部屋を増やし、敵に攻められて状況が悪くなれば罠部屋を敵の進行ルートに割り込ませる。


 これなら時間を稼ぎつつ、敵の戦力を削れ、さらに自軍の魔物の消耗が抑えられる。

 階層入替は、自軍以外の魔物が存在すると使用できないものの使いどころは多い。


「ベリアル、状況はわかった。それなら現時点で魔物の被害自体は抑えられているんだな」

「いえ、初動でかなり魔物を削られました。初動を乗り切ったあとの被害は破壊された罠部屋ぐらいです。……罠は壊されてもDPさえあれば、また買えます。ただ、その罠地獄もそろそろ限界で、ここからは魔物たちを壁にするしかありません」

「罠地獄の部屋の次はどんな部屋だ」

「……魔物の休憩所として作った部屋で、魔物たちがゆっくり休めるように広々とした草原になっています」


【水晶】により、罠部屋の次の部屋が移される。

 青々とした広い草原。障害物も天井もない。

 ここはいい。グラフロスの能力が生きる。


「なら、そこで仕掛けよう。防御力のある魔物でこの部屋に引き留めて、敵が固まったところで一掃する。……一掃するための戦力を連れてきた。暗黒竜グラフロスを十体。俺の情報を集めていたのなら、聞いたことがあるだろう。空から強力な爆発魔術に似た攻撃をする竜がいることを」

「もちろんです。プロケル様の常勝戦術の一つですね。罠を抜けて、疲労した魔物を一掃。これが決まれば、今回の襲撃は凌ぎきれます! なにとぞ、お願いします」


 ベリアルが勢いよく頭を下げる。


「それだが、提案がある。【収納】しているグラフロスを十体、一時的にベリアルへと所有権を移そう。ぎりぎりまでグラフロスの攻撃は敵に悟られたくない。だから、魔王権限でどこにでも【転移】できるベリアルが【収納】して攻撃直前に、【草原】に現れて取り出すのが一番いい」

「僕がやるより、僕の魔物にプロケル様を転移させるほうがいいと思います」

「いや、俺が姿を現せば奇襲性が薄れる。俺の手は敵も承知している。姿を見せたとたん、爆撃を悟られ、撤退や防御行動をするだろう。ベリアルが【収納】から取り出しても同じに見えるが、【収納】から取り出したのちに敵が動くのと、俺を見た瞬間に行動するでは数秒違う。その数秒が大事だ」


 まあ、これはただの言い訳に過ぎない。

 実際のところは、所有権を移しさえすれば俺の攻撃にはならないという点を目的としていた。

 かつて、【鋼】【邪】【粘】との戦争でやられた手だ。

 親からの魔物の移譲にたいしては対策されたが、その逆はされていない。

 だからこそ、グラフロスを彼に託す。


「確かにその通りですね。では、ありがたくお力を貸していただきます。すべてが終われば、グラフロスをお返しします。ああ、プロケル様の魔物を使えるなんて、光栄です」


 俺はベリアルの感情に変化はないかを注視していた。俺に手を出させるのが目的なら、計算が狂い苛ついているはずだ。

 とくにおかしなところはない。

 グラフロスの権利をベリアルに移譲し終え、一体ずつベリアルに【収納】させる。


 これで、準備は整った。

 水晶越しに罠部屋と、その先にある部屋を覗く。

 徐々に、罠を突破した魔物が現れて、ベリアルの魔物たちとの戦いになる。


 ベリアルの魔物たちは守り主体の戦い方をする。

 ……違和感がある。敵の魔物は数が多いがせいぜいCランクばかり。


 Cランクは【渦】で作れて、失っても痛くない魔物たちだ。

 本気で攻略する気があるのなら、主戦力はCランクでいいとしても、指揮役や、難敵対策にAランクの魔物数体を連れてくるべきではないだろうか?

 Cランクなど烏合の衆だ。エース格相手だとろくに被害を与えられない。


「プロケル様、まずいです。もう、これ以上、持ちこたえられません」


 ベリアルが叫ぶ。

 罠を抜けた先に部屋で戦っているベリアルの魔物が押され始めていた。

 ベリアルの布陣はBランクが十体ほどに、残りはCとDの混在。

 これではCランクの大軍を抑えきれない。


「Aランクの魔物は出さないのか」

「すでに、敵にぶつけて重傷を負って治療中です」

「なるほど、だから敵はCランクばかりなのか」

「ええ、そうでしょうね。前半戦がもっともはげしく、お互いの切り札を潰しあいました」


 その話が嘘か本当かは確かめるすべはない。

 あるいは、これも俺に手を出させるための言葉かもしれない。

 まあ、こうなることも想定内だ。

 だから、保険とは違い。今度は罠のほうを試そう。


「なら、俺の三騎士を使う。こいつらならCランク程度、いくらいても問題にならないだろう。……まあ、こいつらが姿を見せた時点で、俺が増援に加わったことがばれるが、もう奇襲性なんて言っている状況じゃないしな」


 赤騎士、白騎士、黒騎士が駆動音を鳴らす。進化してから初めての戦いが楽しみで仕方無いらしい。

 ……この三騎士たちには感情が芽生えている。

 人工知能までもが【創成】で進化した結果だ。

 だからこそ、感情を魔力に変えるアヴァロン・ジュエルで魔力生成が可能なのだ。こいつらはもう道具ではなく、一種の生命と言える。


「すみません、すみません、それから、本当に本当にありがとうございます。このベリアル、恩は必ずや返させていただきます。必ずです! ささっ、三騎士を送り届けてしまいますね」


 ベリアルは急いで俺たちを転移させてきたデミ・リリスに【転移】で三騎士を戦場に送り届けさせた。

【転移】させられた三騎士たちが暴れ始める。

 彼らはCランクの魔物など歯牙にもかけない。一方的な蹂躙だ。

 これでは、グラフロスの爆撃の出番はないかもしれない。


 ……これでベリアルからは俺が反プロケル同盟に攻撃を加えたように見える。

 さあ、ここからどう動くか。敵の陣営に与していれば行動を起こすはずだ。

 できれば、用意した罠が無駄になればいい。

 三騎士たちの獅子奮迅ぶりを見ながら、そんなことを考えていた。 

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