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第十一話:プロケルの失敗と看病

 オリハルコンすら超える金属を手に入れることができた。

 その金属をアヴァロン・ジュエルと名付ける。

 圧倒的な軽量性、防御力、魔力適応力、魔法防御力を備えた夢の金属。


 軽さは比重が1.5。それは鉄の四分の一以下であることを意味する。

 ロロノの話によると他にも様々な性質を持つようだ。

 感情に反応して魔力を生成する。

 鉱物でありながら、それ自体が超高度な情報集積回路・情報処理システムの機能を果たす。

 ロロノいわく、Gス●ーンやJジュ●ルの様なものらしい。非常にわかりやすい説明だ。

 他にも、特定波長の魔力を流し込むことで質量が増大する性質も持っている。

 これを応用すれば、軽く取り回しのいい武器でありながら、インパクトの瞬間だけ重量を増大させて破壊力を増大させるなんてことも可能だ。

 ロロノがぼそっと、ブラックホールキャノンが作れる……なんて囁いていた。

 ひどく物騒なものを作ろうとしているが楽しみではある。


 そして、今日も【鉱山】に来ていた。

 資源のリセットのタイミングで俺が【覚醒】していなければアヴァロン・ジュエルは採掘できない。

 とはいえ、ただぼうっとしているのは時間の無駄なので、書類を持ち込み簡易テントでせっせと仕事を終わらせる。

 商人などとの打ち合わせの類ではアヴァロンに戻る。そのときに、資源のリセットが起これば泣くしかない。

 ロロノも、様々な工具や機器を持ち込み、【鉱山】で開発を行っている。


「マスター、一つ提案がある」

「言ってみろ」

「ん。冷静に考えれば、こんな面倒なことをするより、どうせ【覚醒】するならオリハルコンの塊や、アヴァロン・リッターを【創成】したほうが大量のアヴァロン・ジュエルが手に入る気がする」

「その発想はなかった」


 オリハルコン製のゴーレムである三騎士を【創成】してアヴァロン・ジュエル製のゴーレムになるのなら、アヴァロン・リッターでもアヴァロン・ジュエル製のゴーレムになるかもしれない。

 もっと言えば、オリハルコンそのものを【創成】すればアヴァロン・ジュエルになる可能性がある。


【鉱山】からでは、せいぜい一日2kg程度しかとれないが、この方法ならもっと大量のアヴァロン・ジュエルが手に入るかもしれない。


「やってみよう。ただ、確実に成功するとは限らないし、【覚醒】は負担が大きい。一日に二度は使いたくない。今回の資源リセットのタイミングで【覚醒】したときにそっちも試そう」

「賛成。実験用にアヴァロン・リッターとオリハルコンを持ってこさせる」

「それとだな。もう一つ思い出した。【創成】によって強化した三騎士、それをさらに【創成】したら、さらにすごいものができるんじゃないか。もしかしたらアヴァロン・ジュエルすら超える鉱物が手に入るかもな」

「そっちもいい考え。やってみる。黒騎士も呼ぶ」


 ロロノは弟子のドワーフ・スミスに声をかけて早速手配させた。

 この目論見がうまくいけばいいのだが……。


 ◇


 そろそろ日が暮れそうだ。

 資源の回復のタイミングはランダム、今日は遅いようだ。

 今日の業務は一通り片付いた。ロロノのほうを見ると忙しく手を動かしている。


 だいぶ、ドワーフ・スミスに任せられるようになってきたが、ロロノの仕事は多い。

 新入りの堕天使ラフェロウのための新武装開発。

 アヴァロン・ジュエルの検証及び、それを使用した【機械仕掛けの戦乙女】の開発。

 そして、三騎士のデータをフィードバックし、新型の量産型アヴァロン・リッターの開発。

 ロロノによって、アヴァロンが支えられているのは間違いない。


 コーヒーでも入れてこよう。

 そう思ったときだった。

 資源リセットの予兆を察知する計器がうなり声を上げる。


「マスター、きた」

「そのようだな」


 さあ、【覚醒】をしよう。

 二日続けての【覚醒】は初めてだ。

 魔力を高める。

 黒い力と黒い感情が己の中で暴れ始める。

 黒く醜い己すらも、己だと認めて乗りこなす。

 黒い翼が背中を突き破り、真の力を解放した姿へと変身した。

 その瞬間だった。


「がはっ」


 心臓が軋む。

 己の存在が壊れていくような、そんな不愉快な喪失感が全身を蝕む。

 視界がぶれる。

 なんだ、これは、こんなのは知らない。

 怖い。膝をつく。


「父さん! 大丈夫、父さん!」


 ロロノが駆け寄ってきて抱き着いてくる。

 血を吐いた。

 深く、深く、深呼吸。


「大丈夫だ。……ちょっと、【覚醒】を、甘く見ていたようだ」


 マルコには、使いすぎると寿命を縮めると警告を受けていたが、今まで何度か短時間の発動を行って問題はなく、一日一度であれば大丈夫だと思い込んでいた。

 だが、やってみてわかった。

 これはまずい。毎日は使ってはいけない。もっと間隔が必要だ。


「父さん、ごめんなさい。私が、わがままを言ったから」

「謝らなくていい。自業自得だ。これが終われば、屋敷に戻るさ。あそこに戻ってアウラの黄金リンゴを食べれば、すぐに元気になる」


 測定器が資源リセット完了を告げる。

 最低限の目的は果たした。

 あと、少しだけ無理をするか。

 もう、【覚醒】してしまったのだ。なら、一度ぐらい能力を使っても問題ないはず。

 立ち上がり、ふらつく足でアヴァロン・リッターとオリハルコンの塊のところへ。


「父さん、止めて。無理しないで!」

「ついでだ、これぐらいはできるはずだ。【創成】」


【覚醒】時のみ使える進化の力を使う。対象は三つ。

【創成】によって強化された三騎士の一体黒騎士。

 量産型のアヴァロン・リッター。

 オリハルコンの塊が光に包まれる。


 黒騎士に注いだ魔力が拒絶された。【創成】が失敗する!? だが、量産型のアヴァロン・リッターとオリハルコンの塊は俺の力を受けて変質していく。

【創成】が終わる。

 さて、どうなるか。

 早く、結果をみたい。目を凝らそうとして、急に頭が冷たくなり前のめりに倒れる。


「父さん、父さん!」


 ロロノの声が遠き聞こえる。

 指先から順番に熱が消えていく、視界が黒く染まっていく、意識が保てない、俺は……いったい。


 ◇


 目を覚ました。

 周囲を見渡す。ここは俺の部屋だ。


「良かった。父さん、ちゃんと目を覚ました」


 泣きはらした顔でロロノが俺の顔を覗き込んでくる。彼女は俺の手を強く握っていた。

 そうか、俺は倒れたのか。

 二日続けての【覚醒】で弱ったところで【創成】を使い、無様に気を失ったというわけだ。


「心配かけて悪かったな」


 ロロノの頭を撫でる。


「ごめんなさい、父さん、私がアヴァロン・ジュエルをもっと欲しいなんて言ったから」


 ロロノは俺が倒れたのを自分のせいだと思い込んでいるようだ。


「謝る必要はない。俺が大丈夫だと判断した。その判断が間違いだった。それだけだ。次から、【覚醒】は最低でも三日は間隔をあけないとな」


 ……さすがに今回は恐怖を感じた。

 自分の存在が壊れていく喪失感、あれは二度と味わいたくない。


「父さん、三日もだめ、最低一週間。ううん、マルコ様にちゃんと話を聞いてほしい。マルコ様が一週間でもダメって言ったらもっと伸ばす」

「心配性だな」

「心配もする。父さんが目の前でいきなり血を吐いたり、倒れたりして平気でいられるわけがない」


 ロロノが頬を膨らませて怒っている。

 こういう仕草はクイナの専売特許で、ロロノがすると新鮮だ。

 彼女には悪いが、可愛いと思ってしまった。


「わかった。そうする」


 熱っぽい。どうやら、まだ体にダメージが残っているようだ。


「ご主人様、もう目を覚ましたんですね。もう、驚きましたよ。いきなり、リンゴ農園にロロノちゃんが『父さんが死んじゃう』って駆けこんで来たんですから」

「アウラか、おまえにも迷惑をかけたな」


 口の中が若干甘い。

 寝ている間に、アウラが黄金リンゴで作ったポーションを飲ませたのだろう。


「いえいえ、弱っているご主人様なんて、滅多に見れませんからね。役得でした。ご主人様、体も心も……なにより魂が衰弱しきってますよ。【覚醒】、危ない力ですね」

「……まあな。今度から気を付けるよ」

「私って、わりと魂とか気とか感じ取れる魔物じゃないですか。そういうのに人一倍敏感です。だから、聞き流さないでくださいね。ご主人様、ただ倒れただけとか思っているなら大間違いです。ぎりぎりでした。もう少しで魂に癒えない傷が入るところでしたね……ここまでならぎりぎり時間をかければ癒せます。今日から、毎日私が検診します。許可をするまで【覚醒】どころか、【創造】も禁止です。ご主人様の【創造】も魔力と魂の力です」


 アウラに言われると改めて事態の深刻さを認識する。


「【創造】も禁止なんてやりすぎじゃないか?」

「やりすぎぐらいにしないと駄目なぐらいにご主人様の体はまずいんです。黄金リンゴの気に包まれたこの部屋で、私の特性ポーションを飲めば、そうですね……四日ぐらいで【創造】の使用許可は出せます。【覚醒】はちょっとわかりません」


 どうやら、俺が考えていたよりも重傷だったようだ。

 ……もし、今の状況で【戦争】を仕掛けられたらまずいな。【覚醒】と【創成】という切り札の一枚が使用不能になる。

 少なくても、【覚醒】ができるまでは、【戦争】になりそうでも時間稼ぎをしないといけない。


「わかった。アウラの言うことを聞こう……ロロノ、いい加減、泣き止んでくれ。おまえのそんな顔をみると俺も辛い」

「ん。泣き止む。だけど、父さん、本当にもう無理はしないで。血を吐いて苦しんでるのに、【創成】を使うって言ったとき、ほんとにほんとうに怖くて、【創成】を使って倒れたときは死んじゃったかと思って、目の前が真っ暗になった」


 ロロノが俺の胸に顔を擦り付けて泣く。

 そんなロロノを見て苦笑する。

 そうしていると、乱暴にドアの開く音が聞こえた。


「おとーさん、無事なの!?」


 クイナがすごい勢いで飛び込んできた。

 そのまま、俺の元へダイブしてくる。

 あれは痛そうだ……なんて思っているとアウラがクイナの首根っこを捕まえる。


「クイナちゃん、気持ちはわかりますが病人にとどめをさすことになりますよ」

「はーなーすーの、おとーさんの無事を確かめるの!」


 クイナが手をバタバタとして暴れる。

 アウラがにっこりと笑うとゆっくりと近づいてきて、俺の布団の上にクイナを置く。クイナががばっと抱き着いてきた。


「良かった、ちゃんと生きてたの!」

「クイナにも心配をかけたな」

「むう、おとーさんはいつもクイナに無茶をするなって言ってるくせに、自分が無茶するなんてだめなの」

「それはロロノとアウラにも言われた」


 さすがに今回のは情けない。


「ロロノ。無茶をしたことは後悔しているが、無茶の結果を知りたい」

「ん。ゴーレムはちゃんと今日もアヴァロン・ジュエルを採掘できてる。……ただ」

「ただ?」

「【創成】のほうは成果がなかった。黒騎士は元のまま。アヴァロン・リッターは進化したけど新技術が導入されているだけ。オリハルコンは、オリハルコンにいくつかの金属が混じった合金になって性能はあがったけど、私でも作れる合金」

「そうなったか」


 おそらく、俺が一度【創成】したものは【創成】できないのだろう。あるいは進化させられる限界がある。

 それができれば、いくらでも無限に強くできる。

 アヴァロン・リッターがアヴァロン・ジュエル製にならなかったのは、アヴァロン・リッターの完成度からの進化ではアヴァロン・ジュエル製のゴーレムには届かない。三騎士クラスの完成度がなければアヴァロン・ジュエル製のゴーレムにならないと考えられる。

 オリハルコンについても同様の理由だろう。

 得られたものはないが、【創成】について理解を深められたのは収穫だ。


「ロロノ、悪いがアヴァロン・ジュエルの追加はできそうにない。今、ある分で新武装を作ってくれ」

「わかった。父さんが無理をした分、がんばる」


 たった4キロ。鉄の四分の一の軽さだから量はそれなりだ。

 満足のいく量ではないが、ロロノなら最善の使い方をしてくれるだろう。


「さて、元気になったし、今日届いた手紙の類をチェックしよう」

「「だめ(なの)」」


 ロロノとクイナが顔を近づけて大きな声をあげる。

 クイナなんて、俺に馬乗りになっている。


「おとーさんは病人だから絶対安静なの!」

「ん。今日はベッドの上から逃がさない」


 冷や汗を流す。

 心配してくれるのはいいが、大げさすぎる。


「ご主人様、それには私も賛成です。朝までは安静にしてください。マルコ様に手紙を送り、明日来ていただく手配は整えました。マルコ様が大丈夫と判断するまでお仕事禁止です」


 アウラの言葉にクイナとロロノも頷く。

 魔王権限で命令すれば、どかせることもできるが、それはしない。

 娘たちを心配させてまで、するような急ぎの仕事はない。


「わかった。今日はゆっくりするよ」

「やー♪ 今日は一日中看病するの」

「ん。全身全霊を込めて父さんを元気にする」


 そんなに気合を入れられると逆に辛いが、その気持ちうれしい。

 クイナとロロノが布団にもぐり込んでくる。

 これは逃げられないな。

 今日はおとなしく、娘たちに看病されよう。

 二人の看病を楽しめるなら病人も悪くない。

 そして、元気になってから今日の遅れは取り戻すとしよう。

 


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