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第二話:デュークの晩餐

【絶望】の情報を仕入れられて良かった。

 そして、味方になったときの戦力としても期待できることもわかった。

 屋敷に戻る書類仕事を終わらせてから荷物を持って外にでる。

 ようやくオフの時間だ。

 妖狐にデュークへ今日出向くことを伝えてもらっており、デュークから歓迎するという言葉を受け取っている。


「さて、デュークが喜んでくれるといいが」


 そんなことを考えながら、俺はデュークの家に向かった。


 ◇


 デュークの家はアヴァロンの街部分にある。

 そちらのほうが色々と便利だからだ。

 街で働く魔物のなかで希望するものには家を与えている。


 中には、【森】エリアや【墓地】エリアのほうが落ち着くと、街以外に住処を用意するものもいるが基本的には街に住むものが多い。

 デュークの家は周囲の家に比べて普通よりも少々大きい程度だが随分と造りが立派だ。


 デュークの妻がリフォームしたのだろう。

 ドワーフ・スミスたちは、住みやすい家にするため空き時間で自分の家を改装することが多いとはいえ、少し度が超えている。

 愛のなせる業だろう。


「邪魔をする。プロケルだ」


 ノックをしてから声を上げる。

 ドタバタと足音が聞こえてきた。


「プロケル様、ようこそいらっしゃいました。まだ、主人は戻っていませんがどうぞ中へ」


 デュークの妻であるドワーフスミスが出迎えてくれる。

 部屋の中は温かさと幸せの匂いがした。


 居間に通される。デュークの趣味によるものか家具などは落ち着いた色合いのもので統一されている。

 ドワーフ・スミスが出したのは緑茶だ。最近、別の大陸から輸入され始めたものでアヴァロンの看板商品の一つとなっており、これを買うためだけに訪れる客も少なくない。

 いい匂いだ。


「いいお茶だ」

「気に入ってくださってよかったです。主人が気に入って買い溜めしているんですよ」


 ……なんというか、言葉の端々にすごく家庭を感じる。

 扉の開く音が聞こえた。

 ペコリと頭を下げてドワーフスミスが玄関に向かう。


「ただいま帰りました。スー」

「お帰りなさい。デューク様」


 二人の声が聞こえてくる。


「プロケル様はもういらっしゃっているのか」

「ええ、居間に案内しています」

「そうですか。……これはお土産です。スーの好物の菓子店Arnolt特製シュークリーム、運よく手に入った。保冷庫に入れておいてください。今日のデザートにしましょう」

「大好物です。デューク様、覚えていてくれたんですか? 嬉しいです!」

「忙しくて、なかなか家族サービスはできていません。これぐらいはさせてください」


 すごいなデュークは。

 有能なだけでなく夫としても良くできている。

 デューク夫妻がやってきた。


「我が君、御足労いただきありがとうございます」

「こちらこそすまん。宴会で声をかけられなくてな」


 デュークをいたわってやりたかったが、マルコとの会話に夢中になりすぎて、気が付いたら宴会が終わっていた。


「いえ、偉大な大魔王から知識を得る機会です。そちらを優先することは当然と言えましょう。私はこうして会いに来てくださっただけで感無量です」


 本当にデュークは出来た奴だ。

 いつも助けられている。


「デューク、改めて言わせてもらう。此度の【戦争】、アヴァロンを守りぬいてくれてありがとう。おまえの力での戦力増強も感謝する。Aランクの魔物はいくらいても困らない」

「はっ、ありがたきお言葉」

「それから、真の【竜帝】になれておめでとう。ささやかながら祝いの品を送らせてもらう」


 俺は大きな一抱えほどある包装された箱を用意した。


「おおう、素晴らしい匂いがします。これは酒ですね。それも極上の。竜となり肉の体を得てから食事……とくに酒には目がなくなりまして。ありがとうございます」


 趣味の少ないデュークだが、竜の性質を受けて酒を非常に愛するようになった。

 だからこそ、俺は最高の酒を揃えた。


「ああ、コナンナに頼んで十二種類の酒、その酒の中でも手に入りうる最高の品を世界各地から集めてもらった。……大国の王に献上するつもりで用意しろと伝えてある。変なものは一つもないだろう」


 とんでもない金額がかかったが、デュークのためなら惜しくない。

 この注文をしたのは、【竜帝】の試練を受けることが決まった日だ。


 俺は、初めからデュークが勝つと信じていた。

 デュークが勝ったから集めたのでは、到底この時期には間に合わなかったのだろう。

 その気持ちをデュークは何も言わずともくみ取っている。


「感謝します。このような気づかい。これより先もこの身は我が君のために」


 デュークが立ち上がり床で平伏する。


「頭を上げろ。これは祝いだ。優秀な部下にこれぐらいはする。ただな、これは金と人脈さえあれば誰でも用意できるものだ。できれば、俺でないと与えられないものを用意したい。今日はその要望を聞きに来た」

「こんな極上の酒をもらったのに、その上でさらに褒美を頂くなど……」

「言っただろう。これはデュークが【竜帝】になった祝いだ。まだ、結婚祝いも出産祝いもしていない。上司として申し訳なくてな」


 デュークは微笑む。

 透明な笑みだ。


「スー、あの子を連れてきてください」

「はい、デューク様」


 ドワーフ・スミスが駆け足で部屋を出ていく。

 さきほどから気になっていたがスーというのはドワーフ・スミスの愛称だろう。

 種族名だけでは不便で、仲間同士で愛称をつけ合うのも、俺たちの中では珍しくない。


 ドワーフ・スミスは赤子を出して戻ってきた。

 白い肌に竜の角をした人型の魔物だ。心なしかデュークに顔つきが似ている。


「その子はおまえたちの子か。可愛い男の子だな」

「はい、先月産まれました。私の願いはこの子に我が君から名前を与えていただくことです。この子はプロケル様の魔物ではありません。ゆえに、文字通り名前を与えるだけとなります。プロケル様に名前をいただければ、この子には幸せな未来を歩んでいくでしょう」

「……一か月も経つのに名前をつけていなかったのか」


 いくら魔物は妊娠してから出産までの期間が短いとはいえ、生まれてから一か月経っても名前を与えないのは異常だ。


「お恥ずかしい限りです。実はプロケル様に名前をいただきたいと思い、切り出す機をずっと伺っておりました。この子が言葉を覚えるまでに言い出す機会がなければ、二人で考えようと話していたところです」


 まったく、こいつはどこまでも忠臣だ。

 一度持ち帰ってじっくり考えたい。

 そう思った矢先、閃光のようにひらめいた。

 これしかないという名前。これならこの場で決めてしまっていいだろう。


「決めた。シーザーだ」

「いい響きですな」

「……遥か悠久の彼方の皇帝カエサルの別名でな。軍事、政治の双方に優れ世界最大の野心家と言われた。もし、デュークの力を受け継ぎ、それだけの野心があればこの世界を手に入れることもできるさ」


 そして、二つ名は竜の皇帝。

 デュークが俺を支えることに喜びを感じるのであれば、俺に縛られない新世代の魔物の最初の子として野心を持ち、自分の世界を作り上げてほしい。

 その意味を込めた。


「ありがたくいただきます。シーザー。この子は必ず大成するでしょう。……プロケル様、よろしければ我が屋で食事を楽しんでいただけませんか」

「喜んで招かれよう」

「身内自慢になりますが、スーの料理は絶品ですよ」


 その後、デュークと共に盛り上がった。

 俺がプレゼントした酒をデュークは惜しみなく振舞う。


 さすがはコナンナが集めた最高の酒。天上の美酒だ。宴会でルーエが用意したものを上回る。きっとルーエに自慢すれば歯ぎしりして悔しがるだろう。


 そしてドワーフ・スミスの料理は素晴らしかった。

 素材は普通だが、手間と愛情がたっぷり込められており素朴ながらも味わい深い。

 何より驚いたのが、食事の最中、デュークは良く笑っていた。

 こんなデュークは初めてだ。


 今更ながら、それぞれの魔物たちに生活があり、家庭があるのだと思い知らされた。


 よりいっそう、アヴァロンを守りたいと思う。

 アヴァロンの支配者として、それが俺の仕事だし、こんな温かい空間が尊く思えたから。


「まったく、見せつけてくれる」


 デュークとドワーフ・スミスの二人に当てられた。

 露骨にいちゃいちゃしているわけではないが、互いへの愛情や思いやりが伝わってきた。

 ……いずれ、マルコをアヴァロンに呼ぼう。

 こんな幸せな家庭を作るのも悪くない。

 そんな風に思えた。

 もっとも、その場合尻に敷かれてしまいそうだが。

 それはそれで悪くないか。


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― 新着の感想 ―
名前被りは、まま有ることとしても。 【竜帝】の試練の相手と同名であることに言及しないのは、ちょっとあり得ない。 偉大な真の王の名前にあやかる…、とかなら分かるんですけどね。 作者様の適当さと言うか、…
[気になる点] デュークの子供の名前シーザーと 99部分、181~183部分、223部分で 竜の魔王の魔物のシーザーと名前が被っています。
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