番外編-激闘結婚式の前日譚
いつも閲覧いただきありがとうございます。星月子猫です。
この度、私が現在、小説家になろうの公式として連載しております『LV0の神殺し』(N-Star様のページにて閲覧できます)が株式会社フロンティアワークス、MFブックス様より書籍化され、7月26日付けで全国各書店様から販売されるのと、コミックス版『LV999の村人⑤』が同時期に発売されるのを記念しまして、LV999の村人の番外編を公開することになりました。
内容は書籍版LV999の村人⑧に収録されています本編の後日談である『激闘! 結婚式』の前日譚と後日譚の二つを更新する予定です。(⑧の番外編を読まなくても大丈夫な内容なのでご安心ください)三日に一度更新する予定ですので、覗いていただけると嬉しいです。
また、現在連載中の二作品も明日より3~4日間隔で更新再開予定なのと、最強人種4の番外編も更新しておりますので、知っているという方はご連絡までに。(詳細は活動報告にて)
今後もLV999の村人ならび、対のお話になりますLV0の神殺しをよろしくお願い致します。
これは最大級の脅威、星喰いデミスとの戦いを終え、鏡がアースクリアの世界へと帰還し、ヴァルマンの街に戻ってから一週間後の話。
現実での鏡の肉体は半死の状態であったが、アースクリアを作った張本人であるセイジが、現実での肉体のダメージが精神に届かないように調整を施してくれたため、鏡は外の世界であるアースへと旅立つ以前と変わらぬ状態で日々を過ごしていた。
「めっちゃ…………暇」
そして鏡は今日も、お金を集める目的のためにアースへと旅立つ前に建てたカジノの休憩室で、カジノ内のバーテンダーの制服姿で頬杖を突きながら深い溜息を吐いていた。
「え? ぶっ飛ばしていいですか?」
そんな鏡を、休憩時間でたまたま居合わせたティナが真顔で睨みつける。
ティナは現在、いつも着用していた修道服ではなく、カジノのインフォメーション係が着用する清楚な制服姿で汗だくになっていた。
というのも、デミスとの決戦で大活躍した英雄たちが経営するカジノということで、ヘキサルドリア王国だけではなく、フォルティニア王国とグリドニア王国からも人が来客し、かつてなく忙しくなっていたからだ。
これまでVIPルームを用意したものの、一般人と一緒だからと嫌悪して来客しなかった貴族たちも含めてやって来たため、カジノだけではなくヴァルマンの街全体が大忙しの日々を過ごしている。
モンスターが人を襲わなくなり、国家間を移動する際に魔王は一つの国にしか存在しない等の矛盾を合わせるために記憶を操作していたシステムがセイジによって取り払われ、旅行間隔で行き来できるようになったのも大きな要因の一つだ。
「なんで俺……カジノなんて経営してるの?」
それなのに、鏡がこんな態度なため、ティナは少し怒っているのだった。
「かー……鏡さんの帰る場所を守り続けた結果の果てに吐かれたこのセリフ。今すぐ皆さんを呼び出して鏡さんをボコボコに殴りたいですね。デビッドさんを筆頭に」
「帰る場所を守ってくれたのは嬉しいんだけどな? 冷静に考えるとこのカジノってエステラ―が要求した一万ゴールドを集めるために建てたカジノなわけだろ? 役目は終えてるっていうか」
「カジノで働く人たちは皆喜んでますよ。モンスターと戦えない人は働いて稼ぐしかないですからね、良い職場をくれたって感謝してますよ……デビッドさんに」
「ひえー」
「鏡さんが不在すぎて一部の人はずっとここの管理をしていたデビッドさんがオーナーだと思っていますからね。だから、尊厳を取り戻させるために鏡さんにも働いてもらってるわけですが」
「もうデビッドがここのオーナーでいいんじゃねえかな……別に俺はオーナーに固執してるわけじゃないし、住む家さえ用意してくれるならもうなんでもいいや」
机に伏してうなだれる鏡を見て、ティナは呆れて溜息を吐いてしまう。
鏡が戻ってから最初の三日間は、鏡も皆との再会を喜び、これまで留守にしていた分も頑張るとやる気に満ちていたが、それも三日で終わった。
鏡らしいといえば鏡らしくはあった。それに無理もないともティナは思っていた。
鏡には今、明確な目標が何もないからだ。
かつて魔族との共存を諦めていた鏡も地道にではあったが一万ゴールドの謎のアイテムを買うためにお金を貯めるという【やること】があった。だが今の鏡には、何も目標がないのだ。
長年望んでいた世界を手に入れて現状に不満はなかったが、やることがなくて鏡は暇を持て余していた。無論、カジノの経営という仕事はあったが、それでもこれまでのような目標に近付いているような充実感はなく、現在に至る。
「そのデビッドさんですが、ここの経営をやめてお城に戻りたいってこの前言ってましたよ」
「え!? なんで!?」
「さあ? 鏡さんが戻ってきたというのにいつまで経ってもデビッドさんに任せっぱなしだからじゃないですか? 一回デビッドさんを失って経営難に陥って苦しめばいいんですよ」
デビッドがやめると聞いて、鏡の顔色が変わる。
なんだかんだ言って、鏡がこうして「暇だ」とか言えているのも、週に二日の休日が用意されているのも、デビッドの経営手腕があってのものだったからだ。
「あ、噂をすればなんとやらですよ」
その時、妙にコソコソとしながら、少し慌てた様子でいつものダンディーな髭に似合う執事服に身を包んだ初老の男性、デビッドが休憩室へと入ってくる。
「……デビッドさん?」
あまりの動きの怪しさにティナが心配して声をかけると、デビッドは身体を一瞬硬直させ、振り返ってティナを見るやホッと安堵の溜め息をついた。
「これはご休憩中に失礼いたしました。少々慌ただしかったですかな?」
「いったい何に怯えてるんだよ……」
「いえ、ちょっと。さっき通りすがりにタカコ様と目が合いまして」
その説明を聞いて、ティナも鏡も「あー……」と納得顔を見せる。
「戦いが終わって平和になったからか、最近タカコさんも過激ですもんね」
「過激ってもんじゃありません……これまではなんとか私の密偵時代の技術を駆使して難を逃れていましたが……パワーアップを果たした現在、最早あの方から逃げられる気がしません」
命を狙われている人が如く、デビッドは焦燥して冷や汗を浮かべる。
「だったら受け入れて結婚したらいいじゃねえか、タカコちゃんは明確に好きって言ってくれてるんだから」
「アリス様とクルル様に好かれている鏡様に言われると無性に腹が立ちますが……それはいささか難しいですね」
デビッドもタカコの優秀さ、人柄の良さは認めていた。しかし見た目はともかくとして、それでもどうしても受け入れられない事情があった。
「どうしてですか?」
それをティナが率直に問いかける。
「例えば夫婦喧嘩をした時、どれだけ身を守ろうとしても貫通する攻撃を放ってきて、反撃しようとしたら手を加えた部分が爆発する相手とティナ様は添い遂げたいと思いますか?」
「すみませんでした」
今回の旅を終えてタカコが強くなりすぎて、人間の女性と呼ぶには難しい域の生物に成り果てていたからだ。
「もしかして、デビッドがやめようとしてるのもタカコちゃんのせい?」
鏡がそう質問すると、デビッドは申し訳なさそうにゆっくりと頷く。
それを見た鏡は、伏していた机から離れてゆっくりと立ち上がり、指の骨を鳴らした。
「モンスター退治の時間だ……」
「自分が楽するために仲間をモンスター扱いする鏡さん、さすがです」
「今回は一筋縄でいかないぜティナ……なにせ防御貫通……ティナの防御魔法も効かない相手だ……ティナのスキルのダメージ軽減も効くかどうか……遺書は書いておけよ」
「私も手伝う前提になってるの、やめてもらえます?」