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第三話 友達

第三話 友達


サイド 福矢 亮太



その日、なんとか学校を終えて昭達がいる教室に向かった。たいへんだった。授業で『四人ぐらいで班作って』と言われた時は泣きそうになった。クラスで余ってしまい、特に話した事もないグループに入れられて肩身の狭い思いをしていたのだ。


 どうにか地獄の時間を乗り切ったが、受けた傷は大きい。これが今後も続くってマジ?


 白目になりそうになりながら昭たちの教室に到着する。相変わらず教室の前には人が多かったが、聞こえてくる会話からして今回は自分同様元々友人だった奴がほとんどみたいだ。


「よ~す」


「お、おう。どうしたよ亮太。そんな死にそうな顔して」


「今日授業で班作ってってなってさ……」


「あっ」


 昭が何かを察した顔をする。


「フクヤンはコミュ力クソ雑魚童貞でござるからな。さぞや苦行だったでござろう」


「ぶちころがすぞ」


 自分でもちょっと驚くぐらい低い声がでたが、優子はどこ吹く風で『そーりーそーりー』と言っている。


「ときに、これから二人とも時間あるでござるか?ちょっと色々話したい事があるでござる」


「……わかった」


 二人にも相談したい事なりなんなり色々あるだろう。自分に何が出来るとも思うが、可能な限り力になってやらねば。


「おう」


 昭も真剣な顔で頷く。三人そろって学校を出て、寂れた公園に向かった。ここは自分が小さかった頃とかは子供が結構遊びに来ていた所なのだが、遊具の大半が撤去されてからはほとんど人が来なくなっている。


「さて、何から話したもんでござるかなぁ……」


 胸の下で腕を組んだ優子が首を傾げる。


「まあ、とりあえず、無難にどういうスキルを持っているかとか話すでござるか?」


「そうだな」


 何か言うにしても場の空気が固まっていては話しづらいだろう。ここはとりあえず皆テンション上がりそうな話題をしておこう。


「じゃあまず拙者から」


 優子がそう言うと、ポケットから一枚の紙を取り出す。お札?


「見よ、これが拙者のスキルでござる!」


 そう言ってお札を投げたかと思うと、『ポン』と小さな煙と音がしたと思ったら、お札が折り鶴に変わっていた。


 しかもその折り鶴。『飛んでいる』。


「と、飛んだ!?」


 思わず声を上げながら空を自由に飛んでいく折り鶴を目で追う。やがて、折り鶴は優子の手のひらに戻った。


「これが拙者のスキル『式神作成』で作った式神でござる」


 ふふん、とドヤ顔を浮かべる優子に、昭と二人して『すげー』と声を上げる。


「これ以外にも『呪詛』というスキルもあるでござる」


「じゅそ……呪い的な?」


「ザッツライトでござる」


 式神に呪い。まるで映画に出てくる陰陽師みたいだな。


「あ、じゃあ次俺な」


 スキルの話題だからか、昭もいつもみたいなテンションで手を上げる。その時、その大きな胸が揺れていたのだが、意識して視線を逸らした。


「俺のスキルは『ファイヤー』と『アイテムボックス』。あと『超越健康体』だな。ちなみに前二つがアクティブで三つ目がパッシブな」


「おお、三つでござるか。三つ以上スキルを持っているのはレアらしいでござるよ」


「え、待ってアイテムボックス?アイテムボックスって言った?」


 昭がムフーと鼻を鳴らして、腰に手をあてて胸をはる。だから無意味に乳ゆらすなや。


「おう。ゲームキャラなら当たり前。けど異世界物の作品なら主人公のスキル間違いなしなあの『アイテムボックス』だ。しかも火属性の魔法。主人公属性なら俺は日本一かもしれねえ」


 そう言って昭が手を前にかざす。


『アイテムボックス』


 かざした手の平の下に、黒い四角形が現れる。横から見ると細い線が伸びているだけだ。縦横はティッシュ箱程度か?


「こんな感じで出せるんだよ。この出し入れする口は頑張れば縦横二メートルぐらいいけるぜ。具体的にどれぐらい入るかはわからねえけど」


 そう言って昭がその黒い四角形に手を突っ込む。肘から先が見えなくなってしまった。


「お、おい。大丈夫なのかよ」


「そうビビんなって」


 ニヤニヤしながら昭が手を引き抜くと、そこには漫画が握られていた。


「こんなふうに物をいれられるんだよ。凄いだろ」


「マジか。本気でゲームキャラみたいじゃん」


「あれでござるな。冒険者ギルドの受付とかで倒したモンスターをカウンターにのせまくって『またなんかやっちゃいました?』的な事が出来るでござるな!」


「どうよ俺のスキル!」


 こちらの言葉に気をよくしたのか、昭が滅茶苦茶ドヤ顔してくる。くっ、普段ならとりあえず脇腹をどつくのだが、今はなまじ見た目がいいせいで『可愛い』と思ってしまった自分がいる。


「ちなみに『超越健康体』は状態異常に滅茶苦茶耐性をもてるのと、筋力、耐久、敏捷の三つに+3されるんだぜ。凄いだろ」


「せ、接近戦もわりといける感じでござるか……」


 優子が悔し気に『ぐぬぬ』と声をもらす。お前そんな感じでリアクションする奴だっけ?


「そしてこれが俺の攻撃魔法だ!」


『ファイヤー』


 そう言って昭が手を空に掲げると、そこから野球ボールぐらいの火の玉が空に撃ちあがった。


「おお……」


「どうよ!もうあれだぜ。俺いつ勇者召喚されても無双できるぜ」


「いやそれは調子にのりすぎだろ」


「ぶっちゃけ噛ませキャラ感が凄いでござるな」


「なんだとぉ!?」


 地味にショックを受けた感じの昭を放置して、優子がこちらに視線を向ける。


「で、トリはフクヤンでござるよ」


「期待してるぜぇ、お前のスキルをよぉ……!」


 昭が「ケケケケケケ」と変な笑い声をあげる。よかった、いつもの昭だ。


「僕はあれだな。『全耐性』『超感覚』『サンダー』『万象一閃』。あと固有スキルで『世界樹の加護』だな」


「……多くね?」


「固有スキルとは。またレアなものを」


 昭が無表情になって頬に汗をながす。意趣返しにこっちもドヤ顔を浮かべておく。


「おう。『全耐性』と『超感覚』はパッシブ。『サンダー』と『万象一閃』はアクティブ。で、最後の『世界樹の加護』はアクティブでもありパッシブでもあるって感じだな」


「待つでござる。たしか、『全耐性』は実質『打撃耐性』や『刺突耐性』、『斬撃耐性』、『熱耐性』とか有用系スキルの複合型。実質上位互換なスキルでござる。え、マジでこのスキルもっているでござるか?」


「マジだ」


 自分もネットで色々調べた。どうやら、この『全耐性』をはじめ自分が持っているスキルはどれも『当たり』と言われるのばっかりだ。


「そんで『超感覚』と『サンダー』も当たりって言われるぐらいにはいいスキルでござるし、『万象一閃』もわりと当たりに分類されるやつでござるな。最後の『世界樹の加護』はわからんでござるが」


「『世界樹の加護』はな」


 そう言って、『世界樹の加護』について説明する。


「え、なんでござるかそのチート」


 真顔でドン引きしている優子に、自慢げに胸をはっておく。


「どうよ」


「凄いでござるな。もしかして三人の中で一番強いのフクヤンでござるか?モブ顔のくせに?」


「ねえ今モブ顔って言う必要あった?ねえ必要あった?」


「必要だったでござる」


「そっかぁ……いややっぱ必要なかったろ」


 そんな会話をしていると、突然昭がこちらの脇腹目掛けて貫手をしてきたので、咄嗟に避ける。


「な、なにすんだよ!?」


「うるせええ!お前それはずるいだろ!ずる過ぎんだろ!?」


「知らんがな!」


「大人しく制裁をうけろやぁ!」


 次々脇腹目掛けて攻撃してくる昭を、片手で捌いていく。凄い、次どう動くか手に取るようにわかる。しかも身体能力はこちらが圧倒しているのか、あっちが両手でド突きに来ているのに片手で防御してても余裕だ。


「きえええええええ!」


「落ち着くでござる昭。たとえつよつよスキルを持っていてもモブ顔はフクヤンでござる」


「はっ!?すまん亮太。俺、お前が亮太である事を忘れていた。お前は紛れもなくモブ顔なのに」


「なんでお前らそこまで人の顔面をモブ顔連呼するかなぁ!?」


 そんなモブ顔っぽい?風呂上りとか鏡を見ると中の上ぐらいはいかない?


「で、でござるな。空気も温まってきたことでござるし、今後について話したいでござる」


 両手を叩いて、優子が話を切り替える。


「単刀直入に言うと、二人はお互いどんな風に接したいでござるか?」


 その言葉に、ちょっと固まる。


「ちなみに、拙者に関して今まで通りの対応をしてもらいつつ、このメンツ以外の男には『女子』として扱ってほしいと思っているでござる。恋愛対象は女子でござるが、二人以外に気安くされて体を触られたらと思うとゾッとするでござるからな」


「……地味に難しいこと言うな」


「だって拙者理想の美少女になれたでござるしー。美少女の願いはたいてい叶えられるべきでござるしー」


 小さくため息をつき、はっきりと頷く。


「わかった。僕はお前を今まで通りに扱う。そして、他の男子の前では女子として扱うし、誰かがお前を『男子』として扱おうとしてきたら、出来る範囲で邪魔をする。それでいいか」


「おっけーでござる」


 優子の視線が昭に向かう。あいつはうつむいて、視線を左右に彷徨わせていた。


「アイカワン」


「……俺は、頼むから男としてあつかってくれ」


 顔をあげた昭は、少し不安そうだった。


「わかった」


「承知したでござる」


 間髪入れずに頷いておく。すると、昭はあからさまにほっと胸をなでおろす。


「だよな。お前ら俺が男だった頃知ってるもんな」


「安心するでござる。拙者、昭が去年クラスメイトの女子にラブレター送ろうとしていたのもはっきり覚えているでござる」


「ああ。今でも内容が思い出せる。というか、忘れないようその日の夜に覚えている範囲でメモに残したし」


「待って」


「確か同じクラスの山下環奈ちゃんでござったな」


「『君は俺の星さ。この社会って言う名の夜の中に輝く、たった一つの星なのさ』」


「ヒューヒューでござる」


「わ……」


 わなわなと昭が震えだす。


「忘れろお前らぁぁあああああ!」


「安心しろ!僕たちはお前の過去を絶対に忘れない!」


「そうでござる!一生忘れる事はないでござる!」


「もう……」


「「ん?」」


「もう、殺すしかねえ……」


「あ、ヤバいでござる」


「こいつ口封じというかこの世から消す選択選びやがった!?」


 そんな、変わってしまった友人達と、変わらない馬鹿な話をしてふざけあった。


 昭が、まだ少し何か言いたそうだけど、今は言えないのは察している。だが、本人が言いたくないのなら、踏み込むつもりはない。


 彼が本音を無理なく言えるようになるまで待つのも、友情だと思ったから。





読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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