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鬼が笑う
なんとなく気まずい空気を感じる中、奴は箸を置いて立ち上がると、こちらに近付いてきた。
慌てて視線を逸らす俺の心を知ってか知らずか、奴は俺の横にすっと腰を下ろすと、自前の徳利を突き出して口を開いた。
「注いでくれよ。」
思わず差し出された徳利を受け取ると、その拍子に奴の顔が目に入る。
無邪気さを感じさせるその笑顔を間近で見たとき、俺は今まで抱いていた肉欲的な感情を忘れ、ただ純粋に可愛いと感じてしまった。
「早くしろよ。」
俺はどれだけの間、その笑顔を眺めていたのだろう。
気付けば彼女は頬を膨らまし、睨むように俺を見つめていた。
慌てて杯を徳利の中身で満たしてやると、彼女は嬉しそうにそれを飲み干した。
何度このやり取りを繰り返しただろうか。
気付けば部屋の中には穏やかな空気が漂っていた。