何と間の悪い
例の騒動から二週間が経った。
長いようであっという間だったその二週間で、色々なことがあった。
まず三人の国王による会談は無事に終わり、三種族の同盟についての話も順調に進んでいる。
今回でこそ同盟を結ぶことが出来なかったものの、それぞれの国に話を持ち帰った国王たちの尽力によって同盟が結ばれるのも時間の問題だろう。
また俺の回復魔法が戻った、という件については国王に伝えておいた。
実際には初めて見る獣王は、俺の回復魔法の異常さに驚きを隠せていなかったが「これなら確かに戦争も止められそうだ」と笑いながら言っていた。
因みに俺がこんな回復魔法を使えることは、未だにルナは知らない。
これまで黙っていたこともあって、何となく言い難い。
機会があれば言うかもしれないが、少なくとも今では無いだろう。
そして俺の周りの人たちの関係性も少しずつだが確かに変わり始めていた。
まず獣人であるニアについてだが、本人の強い希望もあり、しばらくは俺のもとで預かるということになった。
ただ奴隷という立場ではなく、あくまで付き人的な立場としてではあるがそこあたりは正直気にしなくてもいいだろう。
因みにニアに想いを寄せていたグリムについてだが、帰国する際に正々堂々と告白していた。
その姿は男の俺から見ても格好いいと思ってしまうくらい立派だったのだが、やはり最初の印象がそれだけ悪かったのかあっさり振られてしまっていたのが可哀想だった。
しかしそこまで落ち込んだ様子はなく、また来る! と胸を張って帰っていたので恐らくしばらくしたら成長してニアに再び告白しに来るだろう。
その時はいい返事が貰えるといいなと思いつつ、いつも俺の腕に引っ付くニアをどうしたものか……というのも悩みの種の一つだ。
そんなニアには幸いなことにリリィたちもよく懐いてくれている。
偶に家の庭で遊んだりしている姿は、何とも微笑ましい。
ただそんな中であまり微笑ましくないことが一つあるとすれば、アウラだ。
ここ二週間、アウラの機嫌はあまりよろしくない。
表面的には普段通りを装っているのがまた怖い。
その原因についても、微妙に分かっている。
恐らく俺とアスハさんの様子が原因だ。
というのもあの一件以来、俺はアスハさんに若干の気まずさを感じている。
そりゃあ誰だって美人にあんなことを言われたら「えっ」となるだろう。
それで本当に少しだけ距離を取ろうとする俺だったのだが、それに反してアスハさんはどんどん距離を詰めてくる。
何というか気付けば隣にいる感じだ。
それでどうしてアウラが機嫌が悪くなっているのかは分からないが、そういえば最近は二人の仲は良かったようにも思える。
もしかしたら友達を盗られたくない、とかいうそういう理由なのかもしれない。
ただそんな中で、今日はアウラと商店街にやって来ている。
普段ならこういうとこには大人数でやって来るのだが、今日は珍しくアウラと二人だけだ。
リリィたちの面倒はニアに任せているので心配はないだろう。
最初は不機嫌なアウラと二人で一緒に買い物なんて大丈夫か心配だったがどうやら杞憂だったようで、今日のアウラはやけに機嫌がいい。
常に笑みを浮かべて、今も俺の手を引っ張っている。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
「そんなこと言ってたら、あっという間に一日が終わっちゃうでしょ?」
「そ、そんなことはないと思うけど……」
まあ何はともあれアウラの機嫌が良いに越したことはない。
アウラに釣られて俺も笑みを浮かべながら、アウラの買い物に付き合う。
そして色々と買い物を済ませ、「そろそろ昼食にするか」と近くの喫茶店に入る。
荷物持ちの疲れをようやく取ることが出来ると、ホッとしたのも束の間、思わず喫茶店を飛び出したい衝動に駆られる。
「あれ、ネストさん……?」
「ア、アスハさん」
何と間の悪いことに、その喫茶店には同僚と昼食中のアスハさんがいたのだ。