装備確認、そして衝撃
握りしめていたドアノブから手を離すと、木の扉はただそこに置いてあっただけで元から繋がった場所が無かったかのようにぱたんと倒れ、落ち葉を舞いあげた。
不思議なことの連続で頭が着いていかない。死にかけて、声が聞こえて、戻れなくなって。
ありえないことの連続で思わず叫んでしまう。
「もうっ、なんなんだッ!?」
そうして喉から出た声は何故か聞きなれた声の男としては高いアルトの音域の声ではなく、それの一段高いソプラノの声であった。
歌う時に無理に作らなければ出なかったその声は今は自然と発音されている。
「はあっ?」
声に驚いてまた声を上げてしまうと、ソプラノの鈴を鳴らすかのように透き通ったまるで他人のような声がする。
混乱していた頭がさらに混乱し、何時もの癖で頭をかきむしろうと髪を鷲掴みにしようとし……。
ふにっ
髪の中に隠れた明らかにおかしい感触のするものを髪と一緒に掴んでしまう。かなり柔らかい軟骨のような物だ。
何なのか確かめようと手でなぞってみる。
何か刺さってるのか……?
「ひゃんっ!?」
さらり、と毛に覆われたそれのふちをなぞると、いままで感じたことのない変な感覚がして全身の力が抜ける。
どうやらさわらない方が良いようだ。触らぬ神に祟なしって言うし。
「そういえば喉が乾いてきた……。水ってあるのかな……?」
軽い喉の乾きを覚え、渡された白い袋の中身を倒れた木の扉の上に出して並べてみる。
袋の中身は、
西部劇に出てくるようなリボルバーが一丁。
それに装填された色とりどりが宝石のはまった弾丸 5発分。
どうやっても抜けない刀一本 。
そして、中にステンドグラスみたいにキラキラ輝くカードの入った開かない桜色のカードケース。
必要はものは中に有るとか緑髪の女の人は言っていたくせに食べ物も水も有りはしなかった。これはまるであるある詐欺だ。
耳を澄ませてみると、小川が流れる音がしているのが聞こえる、それが飲める水であれば水の心配は無くなりそうだ。
水の音のする所へ蔦を刀の鞘で払いながら歩いていくと、小さな泉があった。カエルの像の祀られた祠が泉のそばにあり、お供え物のおまんじゅうが祠の石段に捧げられ、緑色のカビに侵食されていた。
泉の水は水底まで見えるほどの透明度で、どうやら飲めそうでは……ある。
「この水なら飲んでも大丈夫かな?」
水を口に含んで飲めるか確認しようと覗き込むと、その水に信じられないものが映し出された。
「え……あ……はあッ?」
水に映った僕の姿は、悪夢で見たあの兎耳の少女その物になっていたのだった……。