これは、幻想入り なのか?
本編すたーとです、
視界が真っ黒になり、
引き裂かれるような痛みすら感じなくなってゆく。
「まだ……死に……た……く……ない……」
痛みが離れていって熱さも寒さも何も感じなくなり、体が末端から冷えきっていくのを感じる。
これが、死ぬってことなの……かな?
もう死ぬんだと全てを諦めたその時、頭の中に声が響く。柔らかでそれでいて語りかける相手に価値を見出していない声が僕へ問いかけてくる。
『君は、その身を幻想としたとしても生きたいかい?』
虫にでも対して言っているかのような事務的な声の生きたいか?という問いに僕は反射的に答えていた。
「生きたい!」
『なら、せいぜい生きるといい。』
声の返答が聞こえた一瞬で浮遊感を感じ、床に叩き付けられた衝撃で息が出来るようになり体に熱が戻ってゆく。
いつの間にか閉じていた目を開けると、そこは木製のドア以外はなにもない6畳ほどの真っ白な空間だった。
胸に手を当てると、確かに心臓は動いているようだ。けれども、その音がやけに小さい。まるで息絶える寸前みたいで不安を感じる。
「やっと、起きたかい?」
さっきの無感情な声とは違う、母性を感じるようなあたたかな声が後ろから聞こえ、振り返ると青色の服を着た緑色の髪の女の人が何処からともなく現れる。
「誰なんですか?もしかして神様ですか?」
「いやいや、そんなものじゃない。ただの使いっぱしりの魔法使いさ。」
にこやかに笑って僕の質問に答えつつ女の人は腰の袋から虹色の液体の入った瓶を出して女の人はソレをこちらに差し出す。
「さて、選んで貰おうか。このまま死ぬか、これを飲んで新たな生を得るか。
まぁ、ここにいる時点で『アレ』の声に答えているようだし事務的な物だけどね?」
「死にたくないに決まっているじゃないですか!けど、その液体を飲むとなにがおこるんですか……?」
「私は知らない。始めに言った通り私はただの使いっぱしりだからね。」
女の人は飄々とした態度で僕の問いを受け流す。
「どうして、教えられないのですか?僕に飲ませようとしているのに。」
女の人は態度に機嫌を悪くしたのか、持っていた三日月の形の杖を僕へ突き付ける。ただの警告なのか、あまり危機感は感じないけれど、それがどう変わるかはわからない。
「言う必要はない。さあ!どちらだっ!」
あまりに聞いてくる僕の態度にムカついて来たのか杖に怒りが伝わって揺れ始めている。
これ以上言ったらなにか良からぬことになりそうだ。
「そんなに言いたくないなら聞きません。その瓶を下さい。」
渡されたビンのコルクを引き抜き、明らかに人の飲み物では無いだろう色合いの液体を口に含む。虹色の液体は少しだけ苦く、飲み薬の甘苦い味をしていた。精神崩壊するような味ではないことを確認し、一気に飲み干す。
正直に飲み干したのを見て女の人は頷き、腰につけていた白い袋を漁る。
「よし、飲んだな。」
袋の中から同じ白い袋を取り出し、向こう側に見えていたこの部屋唯一の扉を指さす。
柿渋で加工されたのか、焦げ茶色をした木材でできたそのボロ扉は何処へ繋がっているんだろうか。
「その扉を開き新しい命を堪能するといい。
必要はものはその袋の中にある。」
それだけ言うと、女の人は三日月の杖を振り空中に魔方陣のようなものを書いてその中へと飛び込み、消えていった。
魔法陣も消え、白い部屋に取り残された僕は、錆び付いた取っ手をギギギと無理やりに回し、扉を開いて足を踏み出す。
すると……?
「なに……これ?」
白い部屋から出て眩んだ目を開けると、そこは森だった。
the森、って位樹海になっている風景だ。
そして、1回戻って考えようと後ろを振り向くと……。
「……えっ?」
あったはずの白い部屋の姿は無く、僕が取っ手を握ったままの木製のボロいドアだけがゆらゆら揺れて立っていた……。