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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第六章
301/410

努の真価

 成れの果ては終盤に差し掛かると新たな攻撃パターンが追加されるが、その中でも珍しいのは拘束攻撃だ。石化の魔眼と同じ即死攻撃に分類される手掴みを受けてしまうと石化が急速に進行し、最後には解放され地面に落とされて砕かれるというものだ。


『ライブダンジョン!』ではその特殊演出が大好きな者が自分好みのキャラメイクをしたキャラクターに延々と拘束攻撃を受けさせるという、中々に闇が深いライブ映像が盛んに行われていた。そんなこともあって成れの果ての拘束攻撃は注目を浴び、研究が進むうちにネタ構成のPTはとあることに着目した。



「メディック、メディック、メディックッ……!!」



 その拘束攻撃中に、白魔導士四人でメディックをして石化に対抗するとどうなるのか。そのネタが検証された結果、成れの果て攻略方法の一つとして拘束ハメというものが確立された。


 その拘束中に石化してしまう速度以上にメディックや祝福の光などを当てて耐久させると、一分ほどでシステムエラーが起きて成れの果ての動きがずっと止まってしまう現象。その隙にアタッカーが悠々と削り倒すという、致命的なバグを利用した攻略方法が拘束ハメである。


 そのバグは緊急メンテナンスによってすぐに修正されてしまったが、『ライブダンジョン!』廃人だった努は勿論知っていた。そして今成れの果てに拘束攻撃をされている努は、灰色のポーションを飲みながらメディックを連呼して石化状態を治し続けていた。


 普通ならば一人でメディック耐久をしても十秒程度で完全に石化してしまうのだが、森の薬屋のお婆さんが作成した灰色ポーションの効能は凄まじかった。それに加えて白の波動に合わせてメディックを適切に連打することによって、努は石化することなく一命を取り留めていた。それどころか石化状態も段々と治っていき、頬まで白くなっていた努の肌が健康的な色に戻っていく。



「キャアアァァァァアアッァァ!?」

「ぎゃああぁぁぁあぁあ!?」



 成れの果ては努が石化しないことが理解出来なかったのか、念押しするように手の中で白い波動を何度も連発した。そして努は腹が抉れている状態であるにもかかわらず石化を治したことにより、麻痺していた痛覚が戻って激痛に悶えた。一度ハイヒールを自身にかけて落ち着き、何とか粉っぽい灰色のポーションを気合で流し込んで石化に耐える。


 そして十秒、三十秒、一分と経っても努が石化することはなかった。残念ながら『ライブダンジョン!』のバグをそのまま引き継いではいないようだったが、成れの果ては一分半近い時間何度も努を石化させようと攻撃したことによってヘイトを大分消化していた。



「コンバットクライ!! タウントスイング! ウォーリアーハウルゥゥゥゥ!!」



 その間、ダリルはリーレイアのサポートを受けながら尚もヘイトを稼いでいた。死ぬことには慣れているのに精神力を削がれることには慣れていない探索者にとって、精神力が短い時間で増減を繰り返すのは相当気分が悪いことだろう。しかしダリルは止まることなく、着実に成れの果てのヘイトを稼いでいた。



「うおっ」



 その甲斐あって成れの果てのターゲットはようやくダリルへと移り、努はポイ捨てされるように離された。ただやっとのことで成れの果てから逃れたはいいが、努はもうほとんどの精神力を使い切ったせいでフライも満足に使うことが出来なかった。頭を下にしてそのまま落ちていく。



「だあぁあぁぁあ!!」



 ボロボロの右腕を押さえながら近づいていたハンナは、何やら凄そうな波動を何度も受けた割には無事そうな努へと向かう。そして落ちてきた彼を小さい身体で何とか受け止め、そのまま地上へと降りていく。



「師匠! 無事っすか!?」

「…………」

「えっ!? ちょ、師匠!? どこ触ってるっすか!?」



 何とか生きている様子の努に問いかけると、彼は突然ハンナの腰辺りを右手でまさぐり始めた。自分より大きい成人男性を抱えて身動きの取れない彼女はこの状況で何をしているんだと訴えるような声を上げる。


 すると努はハンナが腰に付けていたポーション瓶を入れるホルダーを見つけ、適当に引き抜いて全部口にした。完全に絞り切った精神力とまだ治っていなかった腹部の怪我が癒えていく。



「あぁ、クソが!! 死ぬかと思ったわ! あーーーーしんどっ!!」

「げ、元気っすね?」

「空元気だよ!! ……あ、もういいよ。助かった」



 ハンナにフルマラソンを終えた直後のようなテンションで返した後に精神力も回復して冷静さを取り戻した努は、彼女の手から離れて自分で飛んだ。そしてえげつない火傷を右腕に負ったままの彼女を見て、予備のマジックバッグから緑ポーションを渡した。



「僕はしばらく支援回復出来ない。その間はポーションで繋いで、ダリルの援護を頼む。それと、魔流の拳は絶対に安全圏を確保してから使用してくれ」

「わかったっす」

「よし、行ってこい」



 少し心配そうに振り返ってくるハンナの背中を強く押して向かわせた努は、成れの果てを視界に入れながら地面に座り込んだ。



(……何とか、なったか)



 最後に成れの果てへ近づいたのだけは、完全に賭けだった。そもそも神台でも確認されていない行動なので拘束攻撃を本当にしてくるかが不明だし、近づいても丁度してくれるかどうかも不明瞭。灰色のポーションもそこまで石化に対抗できるかどうかも検証していないのでわからなかった。


 だが満身創痍な状態で成れの果てを相手に二、三分を稼ぐとなると、もうあの可能性に賭けるしかなかった。拘束攻撃を耐久して何度も受ければヘイトを大幅に減らせるし、運が良ければバグが起きる期待もあった。そして結果としては何とか上手くいって凌ぎ切ったものの、もう二度とやりたくない。死ぬ可能性の方が高かっただろう。



「全体攻撃3!」



 だが成れの果てはゆっくり一息つく暇も与えてくれない。何百回も聞いた声を聞いて指示を出しながら努は動き、その時に弓を下げてこちらを見てきていたディニエルに向かって叫ぶ。



「ディニエーール!! サボった分、働けーーー!!」



 そんな努の叫びにディニエルはピクリと反応し、少しだけ動きを止めた後に今度こそ弓を上げて成れの果てに狙いをつけた。



「全体攻撃……わからん! 各自対応しろ!」



 それからも成れの果てとの終盤戦闘は続いたが、新しいパターンの全体攻撃や空から降ってくる武器などを努だけは『ライブダンジョン!』の知識で知っていたため、怪我を負わずに対応してPTメンバーの回復をすることが出来た。



「ぐうぅぅぅぅっ!!」



 それから多大なヘイトを稼ぎすぎて一人でタンクを務めることになってしまったダリルは、限界の境地もあってか相当な粘りを見せた。ハンナの魔流の拳やリーレイアの精霊を使ってサポートする立ち回りも光り、ディニエルも鬼神のような活躍を見せたことも大きかった。


 そして最後に成れの果てはまた先ほどと同じように動きを止めて俯き、ゆっくりと上空に上がりはじめた。



「メディック」



 三人を一瞬にして殺したその動作を見た途端に努は全員にメディックをこれでもかと送り、石化状態を完全に解除した。


 先ほどの攻撃で自分とディニエルだけが生き残った意味を、努はダリルがヘイトを取ってくれた後に余裕の出来た頭で考えていた。そして死んだ三人と生き残った二人の相違点そういてんを探した結果、自分とディニエルだけは僅かでも動きにくくなることを嫌って石化を溜めずに解除していたことを発見した。その状況からして努はあの未知の攻撃を、石化状態を急速に進行させるものだと仮定していた。


 だとすれば相当に質が悪い。ヒーラー初心者であればヘイトや精神力も気にせずに一々石化を回復させてしまうが、慣れてくると一定時間は蓄積させたままでも支障がないことに気付いて回復させなくなる。だがこの攻撃はそんなヒーラーたちの裏を突いたものだ。



「隙だらけだな。リーレイア! ディニエル! 畳み掛けろ!」

「はい!」

「…………」



 そんな努の推測通り、全員の石化状態を完全に治せばあの白い光に当たっても死ぬことはなかった。そして努は攻撃の反動で丸まった成れの果てに内心でざまぁみろと叫びながら、その勢いでリーレイアとディニエルに指示を送る。


 リーレイアのシルフを利用した目にも止まらぬ剣戟に、ディニエルの連射によって無防備な成れの果てはどんどんと削られていく。



「はっ!!」

「イヤァァァァァァァァ……」



 そして最後に放ったリーレイアの一突きで成れの果ては大きな悲鳴を上げ、内側から光を放ちながら爆発四散した。その周囲を光の粒子が飛び交い、最後には白と黒に分かれた魔石が落ちる。



「はあぁぁぁ……」



 ようやく倒せたことを確認した努は気が抜けたような声を出しながら地面に倒れ込む。訓練しているとはいえ、全力疾走を繰り返した足は千切れそうなほど痛く、集中も長時間していたので本当に疲れていた。



「ツトムさぁぁぁん!!」



 そして最後まで慣れの果てのヘイトを取り続けていたダリルは、フリスビーを咥えた犬のようにどたばたと足音を立てて迫ってきた。



「バリア」

「へぶっ!」



 重鎧を着込んで迫ってくる巨体のダリルにタックルされたら死ぬ気がしたので、努はバリアで間を塞いだ。するとダリルは顔面をバリアにぶつけ、つるつるとその場に落ちていった。



 ▽▽



 PTメンバーの四人は完全に力を出し切ったため、努やダリルだけでなくリーレイアやハンナもぐったりとしたようにしてしばらくその場から動けなかった。その中でポツンと所在なさげに立っていたディニエルは、黒と白に分かれた魔石をただ見つめていた。



「お疲れ、ダリル」

「お疲れ様です……」



 その中で自分にだけ残っている精神力でメディックやヒールをかけて落ち着いてきた努は、バテたように地面へ顔を付いているダリルに声をかける。すると彼は大理石のようにひんやりとしている地面に頬をつけながら答えた。その近くにいるハンナも横向きに寝転んでいて、神台を見ている人たちが喜んでいるような有様になっていた。



「ハンナもお疲れ。今回はどっちもいい活躍してくれたね。ありがとう」

「いやいやいやいや、師匠こそ! 色々凄かったっすよ!!」

「そうなんですよ、ハンナさん! ツトムさん、四人蘇生させたんですよ?」

「おー!! なんかよくわからないっすけど凄いっすね!!」

「おい、そこは流石にわかれや。四人だぞ四人。苦労したわ」

「いじぇじぇじぇ!?」



 能天気な顔で適当に褒めてきたハンナに腹が立ったので頬を引っ張ると、彼女は疲れているせいかろくな抵抗も出来ずにただ喚いていた。そして努がハンナをいじめ倒している背後からは、全体攻撃によって壊れた魔道具を体にくっつけているウンディーネを手に持っているリーレイアもやってきた。



「お疲れ様です。一応魔道具を回収させましたが、ほとんど壊れてしまっていたようです」

「あぁ、ありがとう。それとお疲れ様。ちょっと僕は余裕なかったから見られなかったけど、色々してくれてたよね?」

「いえ、ツトムに比べれば些細なことです」



 そうリーレイアは謙遜するが、ダリルが効率的にヘイトを取れたのは彼女のおかげでもある。全体攻撃に対してもダリルとハンナの誘導を行って精霊を使ってのサポートも行い、ポーションも的確に使用していた。そんなPTリーダーのようなことをしつつも、更にアタッカーとしての火力も十分に出せていた。努からはその活躍があまり見えなかったものの、彼女も最善の行動をしていたといっていい。



「ウンディーネもお疲れ。助かったよ。シルフもね」

「サラマンダーとノームも頑張ったので、後で褒めてあげて下さいね。私が責められるので」

「そう、じゃあクランハウスで褒めておくよ」



 ぽよんぽよんと嬉しそうに跳ねているウンディーネの上で踊っているシルフを見ながら努はそう返すと、スキップする勢いで極大魔石の所に向かった。



「ディーニちゃん♪ 何してるのかなー?」



 努は手を後ろに組んでエイミーのような猫なで声を出しながら、にっこにこの笑顔でディニエルに近づいた。まるで初デートの待ち合わせ場所で上機嫌そうに待っている少女のような動作をしている努に、彼女は思わず顔を顰めた。



「おう、何だその顔は? 取り敢えず、そのポニテ解いて腕出せや」

「…………」



 有無を言わさないような声にディニエルは素直に従って金髪を縛っていたヘアゴムを解くと、努はちょいちょいと手を動かしてそれを要求した。そしてそのヘアゴムを出されたディニエルの腕に通すと、思いっきり上に引っ張った後に離した。


 パチン、とそのヘアゴムはディニエルの腕に強く当たる。しかしディニエルは表情一つ動かすことなく、痛がることもなかった。そんな彼女を見て努は鼻で笑うと、腕からヘアゴムを取って彼女に投げ渡した。



「今までの活躍も加味して、今回のことはそれで勘弁してあげるよ。それじゃ、おつかれ」

「…………」



 ファレンリッチを討伐した時よりも表情というものが抜け落ちているディニエルから離れた努は、不思議そうに自分たちを見ていた三人に顎をしゃくって黒門へと向かわせた。


コミカライズの一話後半が公開されましたので、よければ下のリンクからご覧下さい。

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[良い点] このバトルはアニメで見たいねb
[良い点] この回の「ディーニちゃん♪ 何してるのかなー?」が好き過ぎて不定期に読み直したくなる。
[良い点] 成れの果て戦はなろう全体で見ても屈指のバトルだと思います。
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