243 まさかの報酬
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!
二百四十三
簡単に自己紹介を済ませた後、ミラ達はフィッティングルームにきていた。インナーパンツ選びに必要なのは、今の衣装との相性を確認する事。そう言って三人の少女は自然な流れでここにミラを連れ込んだのだ。
なおその部屋は、服飾店などによくある個人用の小さなものとは違い、広めの更衣室といった様子だった。
「にしても初めて見た時から気になってたけど、このデザイン、見覚えがないんだよね」
「製作者のロゴが見当たらないけど、これはどこの製品なんでしょう?」
「凄くしっかりした作りしてる」
三人の魔法少女風衣装好きは相当なもので、その熱意は凄まじかった。そのためミラは更衣室に到着するなり、襟を捲られスカートを捲られと、好き放題にされている真っ最中だ。
ミラの服をじっくりと観察する三人。一番のお姉さんであり、軍服風の衣装に身を包んだ少女がミレイ。好奇心が強そうで、動物をイメージした衣装の少女がマリエッタ。そして一見大人しそうだが大胆にミラのスカートを捲っている和風な衣装の少女がネーネである。
「あーっと、これはわしの知り合いが作ってくれたものなのじゃよ」
姦しいながらも可愛らしい少女三人に群がられる。状態はどうあれ悪い気はしなかったミラは、されるがままで彼女達の声に素直に答えた。
「凄い、手作りなんだ!」
「気合入っていますね!」
「いいなぁ」
流石は王城勤めの侍女達作というべきか、既製品に負けないどころか上回っているのではという程に、ミラの衣装の完成度は高い。それを一目見て気付いた三人は、尚更興奮した様子でミラの全身(衣装)を詳細に調べていく。
そして途中、羽織っていたコートは完全に脱がされ、ワンピースだけの姿にされたミラは、更にそれすらも脱がされそうな勢いで三人から好きなようにされた。
きっと一般的な女性ならば「ちょっと待って、それ以上は」とストップをかけた事だろう。しかしミラは、不動であった。決して動じず、そして逆らう事もせずに、ただただ為すがまま、全てを受け入れていた。
今のミラの状況は、傍から見ても相当なものだ。服を調べるだけでそこまでひっくり返されるのはと、誰でも思うはず。そこまでするなら全部脱ぐから、脱いだ方を調べてくれと、そう言うはずだ。けれどミラは文句一つ口にせず、少女達に全てをさらけ出していた。
(何をどう確認しておるのかは知らぬが、女のファッションとは面倒なものなのじゃな)
襟や袖にスカートやらと、徹底的に見られながら、何事もないとばかりに佇むミラは、そんな少々的外れな感想を思い浮かべていた。
女性が服の相性や組み合わせを確認するためには、着たままでこうするのが普通なのだろう。そうミラは、これまでの経験から学んでいたのだ。衣装関係でかかわった侍女達もまた、今の三人と同じように、いや、それ以上、もはや貪るかのようにサイズやら何やらと細部までこうして確認していた。
むしろ、あの侍女達のぎらついた目に比べれば、ひたすら衣装の方に注目する少女達の方が、数倍も穏やかですらある。
結果、不本意ながら侍女達の所業に慣れてしまっていたミラは、今の状況においても生温く、寛容な心で好きなだけ見るが良いと悟りの境地に至っていたのだ。
「あ、これってもしかして、コンバットコットン? しかもかなり上等なものよね。凄いわ! それにこれは細工術式。こんなに綺麗なものは初めて見たわ」
実はミラの衣装には、専門的に見ても色々な要素が織り込まれていた。
まず、軍事用に開発され、後に冒険者達にも広まったコンバットコットン。それは特別な加工が施された木綿であり、靭性が高く、衝撃吸収と通気性に優れた素材だ。術士用のローブや戦士用の鎧下などで重宝され、コンバットコットンを使用した防具というのは、一人前の冒険者になった証ともされる人気の素材だった。
中でも軍の高官用に使われる上等なコンバットコットンは、桁が一つ上がるほどの高級素材である。そしてミラが羽織っていたコートには、裏地としてこのコンバットコットンがふんだんに使われていた。
「これだけのものとなると、防具としても一級品ね。ミラちゃんのためにこれを作ったっていう人達の愛を感じるわ!」
着る者を守るための工夫が施されたミラの衣装。ミレイは、その工夫を一目見て、侍女達が込めた愛をそこから感じたようだ。けれど、その愛がどれほど狂おしいものかまでは読み取れない様子である。
とはいえ物は確かだ。戦いに携わる者の目に、ミラのコートは実に頼もしい防具と映る事だろう。しかも魔法少女風コートであるため、魔法少女愛好家にとっては、特に惹かれる逸品であり、実際ミレイの顔には、ありありとした羨望が浮かんでいた。
(相当に金がかかっているとは聞いておったが、それ程のものじゃったのか)
ミラの衣装制作は侍女達だが、その制作費は主にソロモンとルミナリアが出している。聞いた話によると結構な金額だという事だったが、こういった部分に使われていたのかと、ミラは感心する。
そこから更に、ミレイは他にも専門用語的な言葉を口にしながら勢いを増していった。どうやら彼女が言うに、ミラの衣装には魔法少女愛好家達の理想がふんだんに盛り込まれているらしい。
魔導工学を利用した仕掛けやらコンバットコットンの裏地、そして着用者を術的に保護する細工術式の他、ミラも聞いた事のない様々な要素が羅列されていった。
(何と、そこまでの代物じゃったとはのぅ……)
侍女達の熱量が非常に高かった事は把握していた。けれど、あくまでも趣味の範囲だろうとミラは思っていた。大人が大人げなく本気を出した趣味の延長線上。それに面白おかしく二人の出資者が乗っかっただけのもの。素晴らしい出来栄えだが、趣味の範疇だという認識だった。
しかし、どうにも興奮したミレイの言う限り、ミラの服の完成度は圧倒的で、戦闘用に調整されたマジカルナイツの最高級品にも匹敵する性能を秘めているという。
どうやら市場価格にして、一千万は下らないそうだ。ミレイはうっとりとした眼差しでミラの衣装に触れる。するとマリエッタとネーネもまた、憧れを湛えた顔で拝み始めた。いつか、これだけの衣装に巡り合えますように、と。
高じた趣味とは時として、本職にすら届く事があるようだ。
ミラは、自分の衣装にどれほどの性能があるのかを理解すると同時、そのとてつもない価値もまた知った。そして、友人二人と侍女達の熱意に呆れ返る。
尚、当然というべきかミラは、ミレイ達から制作者について怒涛の質問を受ける。これだけのものを作り出せる知り合いとは、いったいどれだけ凄い職人なのかと。
その質問に対してミラは、ただ衣装作りが趣味で、とても頭数の多い集団であるとだけ答え、それ以上は秘密だと告げた。
詮索は良くない。少女達もそのあたりは弁えているようで、とても知りたそうな様子ではあったが呑み込んで、それ以上に訊いてくる事はなかった。
ミラの衣装の性能云々についてのあれこれが収まった後、事は初めの、衣装デザインとインナーパンツの相性診断に戻る。そしてその最中、ミレイがふとミラの左腕に気付いた。
「あ、操者の腕輪! とするとやっぱりミラちゃんは上級冒険者だったんだ?」
「わわ、凄い凄い!」
「かっこいい」
コートを脱がされた時点で、それは丸見えだったはずだが余程衣装ばかりに注目していたのだろう、三人は驚くと同時、興奮したように声を上げる。その腕にあった腕輪を見て、ようやくミラが上級冒険者だと気付いたようだ。
するとどうした事か、少女達は憧れと尊敬の篭った目をして、ミラを見つめ始めたではないか。
その矢面に立ち、喜ばない男などいるだろうか。ミラもまた類に漏れずふんぞり返り、「何、たかだがAランク程度じゃよ」と、得意げに笑ってみせる。そしてさりげなくない仕草で、冒険者証をちらりとさせた。
「ほんとだ、Aランクだ!」
「初めて会えちゃいました」
「しかも召喚術士……」
Aランクといえば、上級の中でも上級である。ミラのわざとらしさは気にもせず、冒険者証をしかと確認したミレイ達は凄い凄いと大はしゃぎだ。となればミラもまた、ますます調子にのっていき、これからは召喚術士の時代が来る、と大いにアピールする。
と、そんな時だ。
「思ったんだけど、上級冒険者の、しかもAランクにもなると、やっぱり戦いも激しいだろうからインナーパンツは必須のはずだよね? ミラさんは今までどうしてたの?」
原点回帰とでもいうべきか、マリエッタがふと思った事を口にした。きっと多くの激戦を繰り広げているのだろうAランク冒険者が、なぜ今更になってインナーパンツ探しをしているのかと。
どうやらミレイとネーネもまた気になったようで一転沈黙し、ミラの答えに集中する。
少なくともただファッションとして楽しむだけならば、絶対にインナーパンツが必要とは限らない。まだ無くても彼女達にしてみれば理解出来る範囲だった。しかし上級冒険者ともなれば、魔物との激戦は必至。特に今のミラが穿いているスカート丈からして、下着が見えてしまう事は必然。つまり、インナーパンツを穿いて当然の状況なのだ。
しかし、今まで穿いていなかったとミラは言う。彼女達にとって、それは女性として理解出来ない点だった。
「いや、何というべきじゃろうか……。今まで気にした事がなくてのぅ……」
下手な答え方をすると、痴女扱いされるかもしれない。そんな不安が一瞬過ったが、ミラはやはりここもまた素直に事実を答えた。これまでも、そしてきっとこれからも、下着を見られる程度は些事であると思えたからだ。
「……なるほどねぇ。たまーにそういう男勝りな人いるよね」
「ミラさんは、そのタイプでしたかー」
「男前」
窺うような表情から一転、三人娘はどこか呆れたように、だが笑いながらそう言った。何でも冒険者の中には、そういった事を完全に割り切ってしまっている女性が幾らかいるそうだ。たとえば着替えのために仲間達から離れて魔物に襲われたら元も子もないと。ただ、彼女達はまだ全然割り切れない組だという事だ。
「とはいえ、ミラちゃんみたいに女の子女の子な格好をしたそのタイプの人とは出会った事なかったけどねぇ」
ミレイ達の経験、そして出会いによれば、男勝りなタイプの女性冒険者は、ほとんどが実用性重視な服装ばかりだったという。特にミラのようにしっかりと可愛らしく着飾った女の子は例外なく、割り切れている者はいなかったとミレイは続けた。
「Aランクの人って何かしら特徴あるって聞きましたが、本当なんですねー」
「うん、何だか特別」
ミラの事を見つめながら、しみじみとした表情で呟くマリエッタと、尊敬の眼差しを向けてくるネーネ。どうやら彼女達の知るAランクは、何かと癖が強い者が多いらしい。
「そう、なのか、もしれぬのぅ……」
少しだけ思案した後、言われてみれば確かにと、ミラはかつて出会ったAランク冒険者を振り返りながら苦笑する。まず初めに、元プレイヤーであるセロ。天上廃都への道中で出会った侍のハインリヒ。五十鈴連盟本拠地で出会った戦士のアーロン。そしてキメラクローゼンとの決着がついた際、飛空船で同乗したジャックグレイブとエレオノーラ。最近では、古代地下都市で出会ったトライド。
はて、トライドはそこまで特徴が……などと、どこか失礼な事を思いながらも、確かに個性的な比率は高いかもしれないとミラは思った。そして自分もその中に加えられた事に、複雑な心境で苦笑する。
とはいえ、返って来た三人の反応が思ったよりも肯定的なものであったため、ミラは同時に安堵していた。女としてあり得ない、というような事を言われるかもしれないと構えていたからだ。ミラはここにきて再び、冒険者の道を行く女性達の逞しさ、そして寛容さを実感した。
しかしそれも束の間、次の瞬間に三人娘の目の色が変わった。
「世にも珍しい、男勝りな魔法少女風のAランク冒険者様のインナーパンツ選び、か。私達の責任は重大だね。そういう事なら、しっかり選ばないと!」
「そう! これは、緊急任務レベルですよ!」
「絶対死守」
彼女達にとってミラという存在が、魔法少女初心者から、憧れのAランク冒険者へと昇華した。しかもその憧れの存在は、心から愛する魔法少女風衣装を見事に着こなしているではないか。その共通点が、ミレイ達の羨望を更に増幅する。
そして極めつけは、そんな憧れの存在のインナーパンツコーディネイトを任された事だった。今この時、ミレイ達のヤル気はかつてないほど燃え上がっていた。
ふとした事でちらりと見えてしまっても、パンツじゃないから恥ずかしくないもん。インナーパンツを穿くというのは、一般的にはそういった意味の対応策だろう。しかし、上級冒険者であるミラの場合は、その前提が大きく変わってくる。
上級、しかもAランクともなれば術士とて相当に動けるのは当たり前であり、その激しさもまたランク相応だ。ゆえにAランクの世界では、スカートなどあってないようなものである。
だからこそ、ちらり程度ではなく、完全に見えてしまう事を前提にして選ばなければいけない。ミレイはそう力説した。
どのような状況、そして状態にも対応出来て、尚且つ今の衣装の魅力を損なわず、更にはプラス出来るようなインナーパンツが必要だ。当の本人であるミラが意見をいう隙もなく進行した三人娘の作戦会議は、そのように可決した。
結果ミラは、完璧を実現しようと突き進むミレイ達の手で、更に全身を内部に至るまで精査される事となるのだった。
「これとか可愛いよね」
「色合い的には、こっちも捨てがたいですよ」
「ランジェリータイプ、どう?」
様々な種類や色のインナーパンツを更衣室のテーブルに並べて、あれやこれやと意見を交わす三人娘。そして、これだという一枚を手に取ると、ミラに穿かせて、多角からその姿を確かめる。ローアングルからの守り、更には激しい運動で露わになった場合を考慮してのスカート捲りからの見栄えなどなど。
ミレイ達の仕事には一切の妥協がなかった。
女性冒険者とはこういうものなのか、それとも魔法少女フリークという共通点が彼女達との絆を構築しているのか、ミラはこの数十分の間で下着姿を見せ合うほどに三人娘とフレンドリーになっていた。
若い娘達と仲良くなれて、ご機嫌だったミラ。しかしそれも束の間、その延長線にあった今の状況を嘆き、ただただそっと天を仰ぐ。
(……なぜ、こうなったのじゃろう……)
初挑戦となるインナーパンツについて、ミラは女としての先輩となる三人の少女に教えを乞うた。その結果、あれよあれよと仲良くなり、色々と試している内に、気付けばミラはインナーパンツ専用の着せ替え人形にされていたのだ。
「次はあえて、大人コーデを試してみるのはどうかな」
「いいですね。確か先月の新作に、幾つかありました。取ってきますね」
「私達には似合わなかった。けど、ミラさんなら」
初めの勢いが衰える事無く、更に加熱していく三人娘のインナーパンツコーディネート。若干暴走気味な感は否めないが、彼女達の表情は真剣そのものであった。だからこそミラは何も言えないでいた。そこまでしなくても、もっと簡単に、へんてこでなければそれで良い、と。
しかし、もうその言葉を告げる時機は逸していた。なぜならミラ用のインナーパンツ選びから始まった着せ替えは、いつの間にかファッションショーに似た状況にまで発展していたからだ。気付けば店員の他、別の客まで見学とばかりに更衣室に顔を覗かせていく。
全てのきっかけは、様子を見に来た店員の「まあ、ステキ!」という一言だった。どこかお世辞染みた調子ではなく、心の底から出たとばかりなその声が、何だ何だと周囲の客を呼び寄せたのだ。
そして声の原因となった人物を見てみれば、中身はどうであれ見た目は絶世の美少女である。流石というべきか、その見栄えはやはり注目を集めやすく、またモデルとしても適していたわけだ。
ミラが穿いてみせたインナーパンツは、いつもよりステキに輝く。
気付けばミラに試着してもらい、それを参考に商品を選ぶという流れまで出来上がっていた。
それは、どういった心理だったのだろうか。憧れのあの人と同じものがいい、とでもいった心境であろうか。ミラは今、ここに集まった魔法少女愛好家達の代表モデルとなっていた。
(いつまで続くのじゃろうか……)
脱いでは穿いて、脱がされては穿かされてを繰り返すミラは、何がどうしてこうなったと困惑しながらも、このまま大人しくされっぱなしというわけではなかった。
「偵察工作罠の解除と、にゃんでも出来ますにゃ。かゆいところに手が届く。小生達ケット・シーは、そんなパートナーににゃれると自負しておりますにゃー」
ミラは傍らにケット・シーを召喚して、召喚術の利便性をここぞとばかりに語らせていたのだ。その内容は召喚術の、というよりケット・シーのではあったが、評判はすこぶる上々だった。
何でもマジカルナイツのカタログや発表会といった場には、ケット・シーのようなマスコットキャラがいつも登場しているらしい。魔法少女といえば、小動物的なマスコットキャラ。さもそれが完璧な形であるとばかりに広告されているわけだ。
印象操作とでもいうべきか、だからこそ、ここマジカルナイツ店内において、マスコットキャラ足り得る団員一号は今のミラに並ぶほどに注目の的だった。いってみれば、ミラの負担の半分を引き付けて、尚且つ限定的ではあるが召喚術の素晴らしさをアピール出来ているというわけだ。
ケット・シー効果もあり、召喚術士へのイメージは大分向上した。特に若者達へアピール出来たのは良かったと手応えを感じながら、ミラは笑顔で差し出されたインナーパンツに足を通すのだった。
結果としてミラは、二時間ほどモデルをしていた。しかもインナーパンツから始まったそれは、気付くとマジカルナイツの様々な衣装にまで広がり、いつの間にやら店に置いてある数々の衣装を試着させられるにまで至る。
また、美少女がマジカルナイツでゲリラファッションショーをしているという噂が瞬く間に広がって、かなりの人数が店に押し寄せる事態となった。
とはいえ意外にも、集まってきた者達の中に男の姿は少なく、女性の方が多かった。どうやらこの世界において魔法少女風衣装は、コスプレではなくファッションとしての確かな地位を築いているようだ。
「何やら、大きく予定から外れた気がするのじゃが……」
ただのインナーパンツ選びが、とんだ大事にまで発展してしまった。あれやこれやで怒涛のように時間が過ぎた後、特別に従業員の休憩室で休ませてもらっていたミラは、そう呟きながら爛々とした笑顔を浮かべる三人娘を睨む。
「まあ、ほら、終わり良ければ総て良しって、ね?」
ミレイはそう言って視線を逸らせた。
「ミラさんが魅力的過ぎたから仕方がありません、よ?」
マリエッタはそう言って視線を逸らせた。
「二時間で二十万リフ分。時給十万はお得」
ネーネはミラの隣に置かれた大きな紙袋を見つめた後、真剣な眼差しでそう口にした。そして、凄く綺麗だった、色々な着こなしを見られて参考になったと続け、心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「まったく……。それならば頑張った甲斐もあったというものじゃな」
ミラは屈託のないネーネの笑顔に完敗し表情を和らげると、いざ紙袋を手に取った。
その紙袋の中には、レギンスやスコート、タイツなどなど、スカート下用の様々な衣服が詰められていた。しかもその全てが、三人娘と店員が厳選した品であり、今回のゲリラファッションショーの報酬として、店側からミラに贈られたものだったりする。なおネーネの言葉通り、袋の中の総額は約二十万リフ分だ。
どうやら今回のミラの宣伝効果により、マジカルナイツ系列店において、歴史を塗り替える売り上げを叩き出したという事だ。その記念と、また今後ともよろしくという意味も込めての報酬である。
(まあ、良しとするか)
何はともあれ、目的の品がタダで手に入った。しかも幾つもの着せ替えを経て厳選された、専門家達推薦の品ばかりである。きっとどれも、今の自分に似合う事だろう。そう前向きに考えながら、ミラは細かい事を気にしないようにするのだった。
随分と大事になったが、目的を達成したミラは、三人娘と別れ大通りを突き進む。その際、ミラが歩くと同時に揺れるスカートの裾から、ちらちらと僅かに黒のレースが覗く。それは、報酬としてもらった内の一着。見事なレースが栄えるスパッツの裾だ。
パンツを隠すためのインナー。ミラにとって初めてとなる記念の一着目は、このスパッツタイプとなった。
外見は変わらず、それでいてパンツ隠しの性能は抜群で動きに支障もなく、スカートの裾から見えた時の印象も実にオシャレ。だが何よりも、三人娘の初めてもまたスパッツタイプだったそうで、初めてをお揃いにと押し切られた結果だ。
短い時間であったが、随分と好かれたものだ。ミラは、そんな事を思いながら、一枚のチラシに視線を落とす。
それは、いつかまたどこかでと再会を願うミレイ達から渡されたものであり、そこには『マジカルナイツ主催 衣装大展覧会開催決定』と書かれていた。どうやら、魔法少女風衣装を愛する者達の祭りが行われるようだ。
あの三人娘は確実に行くつもりなのだろう。そして再会を願いながら、このチラシを渡してきたという事は、つまりそれを期待してである。
(わしは、愛好家ではないのじゃがのぅ……)
行く予定などさらさらないが、三人娘の期待を裏切るのは少々心苦しい。ミラはそんな感情を抱きながら、ふと思う。
(短い時間じゃったが、存外わしもあの娘どもを気に入っていたのじゃな)
人との出会い、人との繋がり、人への好意というのは時として時間に比例しないようだ。
もしもこの展覧会で再会したら、彼女達はどんな顔をするだろうか。しなかったらどんな顔をするだろうか。ミラはチラシを大切にしまい込むと、心なしか足取り軽くスカートを揺らしながら歩いていくのだった。
なお余談ではあるが、インナーパンツについては、侍女一同もその制作に動いていたりする。しかし未だミラの元にそれは渡っていない。原因は、先程ミラが悩んでいた事と同じ。
そう、種類であった。そして衣装作りは一致団結していた侍女達だが、このインナーパンツ制作については意見が割れていたのだ。しかも下着すら廃して、代わりにワンピースタイプの水着にしてしまおうなどという新勢力まで登場する始末だ。
抗争は継続中。ゆえに侍女製のミラ用インナーパンツが出来上がるのは、まだまだ先になりそうだ。
年が明けましたねぇ……。
けれど、ここでクリスマスの事を……。
戦果は、バッチリでした。
無事にケンタッキーを入手し、
そして今回は、ケーキも入手してしまいましたよ!
しかも半額ではなく、フルプライスのケーキです!
あちこち探しても半額がなかったというのもありますが……
実は先日、コミカライズ版の1、2巻が重版する事が決まったのです。
そんなホットなニュースに後押しされた事で、覚悟が決まりました。
フルプライスでいってやるぜ! と。
そして、大好きなモンブランのホールケーキを買っちゃいました!
それもこれも、書籍版やコミック版をお買い上げくださった皆様のお陰でございます!
ありがとうございます!
ケンンタッキーと合わせて、どちらも素晴らしく美味しかったです。
今年も何卒よろしくお願いします。ウヒヒヒヒ。