01 ちっぽけな絶望
この物語はフィクションです。
飲酒・喫煙・グロテスクな表現等が含まれています。
よろしくお願いいたします。
人生を賭ける。
それはとても難しいことだと知った。
仕事、スポーツ、趣味、ギャンブル。
何でもいいが、全てをなげうって何かを成さんとすることは、現代の日本では難しい。
生活が、資金が、社会が、他人が、身体が、邪魔をする。
俺は学校などろくに通わず、成人してもろくに働かなかった。
ただひたすらに「頂」を目指した。
文字通り、全てを賭けて。
食事・睡眠・排せつといった最低限のこと以外の全てを「それ」に捧げた。
『世界一位』
結果がこれだ。
何百万という人間の頂点。
実に、実に爽快!
なんたる愉悦!
今までの努力が、俺の人生の全てが、報われたような気がした。
世界中の誰もが認める世界一位。全ての者に畏敬されるまさに神の如き存在。ただ一度の敗北も許されることのない史上最強の頂点。それが俺なのだ。
俺の人生の結果。
俺の人生の全て。
VRMMORPG『メヴィウス・オンライン』世界ランキングぶっちぎり第一位。
それもこれも、今日までの話。
「…………」
茫然自失とはまさにこのことだろう。
先日、俺のメインキャラ『seven』はクラックされた。
個人データだけでなくバックアップから何から全てだ。
被害は俺だけではない。その数およそ3000人に及ぶと聞いている。
それも「上位キャラ3000人」だ。
犯人は既に捕まっている。奴も上位プレイヤーのうちの一人で、なんでも「嫉妬心から軽はずみに犯行へと及んだ」らしい。キャラクターデータ3000人分を狙いすましてクラックするなど軽はずみで行えるワケのない常軌を逸した執念による所業のはずなのだが、メディアおよび一般人はそのあたりがよく分かっていないようだった。
さて。
その後のメヴィウス・オンライン運営からの発表はこうだ。
曰く、全ての被害キャラクターの復旧は不可能。補填は新規キャラクター作製時における課金等の優遇のみ。
「……………………」
俺は憤怒と虚無感に震え憎悪と共に胃液を何度も何度も吐き出したが、俺以外のプレイヤーはどうだっただろうか。
世論は「メヴィオン運営も被害者」といった風向きで、某掲示板でも「まあ妥当な対応だろう」とのこと。
ツベッター上ではキャラクターを消された有名配信者が発狂して暴れまわり運営本社の爆破予告まで発展、警察沙汰に。
しかし、その騒ぎが収まる頃にはもう、メヴィオンのクラック事件は完全に鎮火していた。
ふざけんな。
「……はー……」
何もやる気が起きない。
何も考えられない。
溜め息しか出ない。
もう三日も水しか口にしていない。
俺の世界一位は、もう二度と戻ってこない。
「…………よし!」
こんなんじゃあ、いつまで経っても駄目だ。
俺は膝をパンと叩き、気合を入れて立ち上がった。
「死のう!」