閑話:ホープ
今回から閑話的なものを更新していくにあたり、一旦完結から連載中へと表示を戻しました。完結のままで更新をするやり方がわからなかったもので。
書きたい話を全て投稿し終えたら完結表示に戻します。
それはジン達が王都よりジャルダ村に戻って数日が経った頃のお話。
「――いいじゃないか。とても大盾を使い始めたばかりとは思えないよ」
対面稽古を終え、攻撃役を務めていた『風を求める者』のミラがホープをねぎらう。
ジン達が王都からジャルダ村に戻って数日経つが、彼等はバーン達と有角族の今後について会議をすることも多く、有角族への訓練教官役は変わらず『風を求める者』の面々が務めていた。
「ありがとうございます。道中ずっとジンさんに稽古をつけてもらっていましたので、そのおかげだと思います」
護衛団の一員であり、近い将来には冒険者になるつもりのホープもジャルダ村に帰ってからはこの訓練に参加しているが、そこで見せた彼の成長は同僚を驚かせた。それはレベルや技術の話ではない。元々は弱点ともなっていた争いを好まない穏やかな性格はそのままに、こと戦いにおいても臆すことがなくなった心の成長こそが最大の驚きだった。相変わらず攻撃はあまり得意ではなかったが、恵まれた体格を存分に活かし、盾役兼快復役として大いに期待されていた。
「ははっ。確かにあいつらと一緒だったんだから不思議じゃないね。……エルザも一年前と今では大違いだし、やっぱジンは教官としても規格外なんだろうね」
ミラは以前のホープを知らないが、ジンの指導により大きく才能を開花させた者は何人も知っている。その最たるものが常に一緒に行動している彼のパーティメンバーだが、特に同じ大剣使いであるエルザは、ジンと共に行動するようになってからみるみるうちに成長し、既にその腕はミラを超えている。ミラも自分が成長している実感はあったが、エルザのそれとは比べものにならない。ここまで差が大きいと、嫉妬よりも苦笑が先に来るほどだった。
「貴重な経験だったと思います」
冒険者となるホープは今後もジン達と顔を合わせる機会はあるはずだが、それでも共に旅をしていた時ほどに密度の濃い指導を受ける機会は今後ないだろう。自らも以前とは心構えが違うことを実感しているホープは、自らが変わるきっかけを与えてくれたジン達に心から感謝していた。
「あいつらがこの村にいる間に、あたしも模擬戦の一つでも相手してもらおうかな。リエンツに戻った後じゃあ、競争率も高そうだし」
数カ月前に『暴走』を撃退した戦い、特に終盤のAAランクと思われる変異種とのそれは今も尚ミラのまぶたに焼き付いている。今はまだ及ばないにしても、ミラはこのままで終わるつもりはない。自らの成長の為にも、超えるべき壁の一つであるジンとの模擬戦は、なんとしても実現したいものだった。
「ああ、そういえば大活躍だったんですよね。……貴族にもなったし、もしかしたら向こうでは気軽に話しかけたり出来なくなるんでしょうか?」
貴族としての地位に加え、英雄としての立ち位置もある。ホープが少しだけ不安に思ったのも無理はないだろう。
「ははっ。それはない」
だが、そのホープの不安をミラが笑い飛ばす。
傍から見ていただけだが、ジン達は『魔力熱』の時も、『暴走』の後でさえその態度は変わらなかった。いつも穏やかで、増長するどころか逆に謙虚過ぎると思えるほどだ。今更貴族という肩書きが増えたところで、その態度が変わることはないと断言できた。
「ただ忙しくはなるだろうね。なんと言っても結婚が控えているんだし」
リエンツの街に戻った後、ほどなくしてジン達は結婚式を挙げる予定だ。既に共同生活を営んでいるので、生活においてはそこまで大きな変化はないようにも思えるが、当然それだけで済むはずもない。色々な意味でジンが忙しくなるのは目に見えていた。
「ふふっ。確かにそうでしょうね」
トウカやシリウスという子供達も含め、彼等の仲むつまじさはホープもよく知っている。その明るい未来を予想し、思わずその頬が緩んでいた。
「よし、休憩はこれくらいにしてもう一丁やろうか。あたしらが教えられるのもそんなに長くないだろうしね」
現在は護衛兼指導役としてこの村にいてくれるミラ達も、いずれリエンツへと戻ることになる。Bランク冒険者である彼等がこれほど長期間この村に滞在してくれていること自体が、本当ならあり得ないことだった。
「はい! よろしくお願いします!」
ホープはミラに気合いを込めて応えを返す。
ジン達から学んだことは多いが、ミラ達『風を求める者』との訓練もまたホープ達にとって貴重な学びの時間だ。冒険者になる時がすぐそこまで迫っている今、無条件に指導を受けられるこの機会を無駄にするわけにはいかない。
この後もホープはミラや他の『風を求める者』のメンバーから指導を受けながら、これから待つ冒険者生活のために訓練に没頭するのだった。
――鬼人族改め、牛系有角族の青年ホープ。彼は後に冒険者として活躍することになるが、同時に初めての有角族出身の神官としても名を上げ、後に続く者達への見本となった。
「ジンさん、ジンさん。この間美味しい料理を出す店を見つけたんですよ」
そして彼もまたジン達の友人の一人である。
最終話を投稿後、しばらくボーッとしてしまっておりました。お待たせして申し訳ありません。
久しぶりだったからか、今回の話は着地点が予定外のところに。どこかで見たような〆ですが、ご容赦ください。
またお知らせが遅れてしまいましたが、二戸謙介先生による漫画版『異世界転生に感謝を』1巻が7月26日に発売されました。私もネーム段階から見させてもらっているのですが、漫画ならではのアレンジがとても気に入っています。よろしければこちらも応援をよろしくお願いします。
ありがとうございました。