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異世界にて3

「はっ……ははっ……! やった、やったぞ……! ついに僕にもチャンスが来たんだっ!」


笑いがこぼれる。というより、漏れ出す。

抑えきれない興奮に胸が焼けつきそうだった。


踊り出したい、いやむしろ、飛び跳ねながら歓喜の言葉を叫び続けたい――そんな衝動を、沢田石礫さわたいしつぶては必死に押し殺していた。


仲間たちと距離を取り、能力【被害妄想ラブ・ミー・テンダー】を解除する。気配遮断が解け、ひんやりとした風が頬を撫でた。


「……夢にまで見た異世界転移……まさか、本当に起こるなんて……っ。神様、マジで感謝ですぅ……!」


顔を上げ、両手を広げる。

空を抱きしめるように。

そこに本当に女神がいるのなら、彼女の指先にキスしてやってもいい。


「ふふ、ふふふっ……しかも、初陣でこの完璧な作動……さすがだよ、僕のエゴ……【被害妄想ラブ・ミー・テンダー】」


うっとりと自分の両手を見つめる仕草は、まるで恋人を見るかのようだった。


「……あいつら、全然わかってなかったな。特に御法川、あの筋肉バカは相変わらずのド低脳で……転移者って言葉にすら反応しねぇって、笑えるな。あんなの、真っ先に死ぬタイプのNPCだろ」


吐き捨てるように言いながら、舌の裏で含み笑いを浮かべる。


「……ま、四方田と嵯峨はちょっと惜しかったかな。でも仕方ない。これが格差ってやつだ」


沢田石は、現代日本で“オタク”というラベルを半ば誇りに抱いて生きてきた。

だが、自分がただの「下」だとは一度も思っていない。

むしろ“わかる側”の人間、“知っている側”の存在――そう信じていた。


それを裏付けるように、彼はもうひとつのエゴ――【誇大妄想じぶんさがし】を使って、この世界のルールを理解していた。


この世界には「マナ」という見えないエネルギーが存在し、それによって魔法や【エゴ】が成り立っている。

いわば、チート能力を使うためのガソリン。

それを吸って、燃やして、力に変える――そういう世界。


「くくっ……転移したてのチュートリアルで、ここまで把握できるってヤバくね? やっぱ俺、選ばれし者だわ」


【誇大妄想】によって自分のステータスを確認した時、彼は悟ったのだ。


「どうせ出てくるのはゴブリンとかスライムとか、チュートリアルモブだろ。サクッと倒して、サクッとレベリング……それで気づいた時には、世界最強。あはっ、まじでテンプレ過ぎて笑える」


自分が“異世界で無双する物語の主人公”であるという妄信。

だが、彼にとってそれは妄信ではない――確信だった。


「……にしても、空気うま……」


鼻から深く吸い込む。現実味がないほど清らかな空気に、思わずうっとりと目を細める。


気づけば、彼は草原の端を抜け、薄暗い森の入り口まで来ていた。


「……いいね。マップが広がったって感じじゃん? どこから出てくる? 狼? コウモリ? ……それとも、最初の犠牲者?」


不敵な笑みを浮かべ、沢田石は森の中へと消えていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アビリタの名前が被害妄想と誇大妄想な時点でもうダメそう
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