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学校・リビングデッド

瞬間、時間が止まったように全員の動きが止まった。


あれ? 何か変なことを言っただろうか。


口火を切ってしまった手前、続けて話すことにする。


「王都で噂話を聞いたときには、魔王を倒すのは無月たちのパーティだって皆が言ってた。でも……アナウンスで流れた名前は、《《深谷無月》》だった。無月の苗字って、上遠野かみとおの……だよね?」


視線が、一斉に無月に集まった。


当の本人はというと──まるで感情を切り落とされたかのような、表情の欠落。


あの無月が、表情を失っている。付き合いの中でも、こんな顔を見るのは初めてだった。


「そうだ……深谷無月。あいつ……!」


御法川が何かを思い出したように唸り、顔を強く歪める。


「おい無月、あいつはなんなんだよ!? お前、知ってるんだろ!」


その剣幕は授業中に怒鳴り込んだときと同じ熱量で、今度は僕らの真横にまで迫っている。


……さっきの教室騒ぎ。御法川が話していたのは、あの“もやの男”ではなく、“深谷無月”のことだったのか。


「俺たちで魔王を倒せたはずだったのに、あいつが突然現れて、横から全部持っていきやがった!」


「……」


無月──上遠野無月は、なにも答えなかった。


さっきは無だった。今は、白い。

顔色が、信じられないほどに白い。

一瞬、自分の心臓の音までが聞こえてくるような沈黙。


「お前には話しかけてたじゃねぇか! 俺らには見向きもしねぇくせによぉ!」


「ちょ、ちょっと実里、やめてよ……無月が困ってるじゃない」

四方田が慌てて御法川を止める。が、御法川の興奮は収まらない。


それでも、ようやく──ようやく、無月が口を開いた。


「……ち、違うんだ。あいつは……“無月”じゃない……」


掠れた声だった。


焦点の合わない瞳は宙を彷徨い、まるで“あの場所”にまだいるかのようだった。


「なんだよそれ、意味わかんねぇぞ。お前──」


「ひぃぃぃぃいいいい!! みんなっ!! グ、グラウンドを見てぇ!!!」


御法川の声をかき消すように、教室の窓際から女生徒の絶叫。


全員の視線が一斉にそちらへ向かい、彼女の指差す先──校庭へと走った。


見下ろすグラウンド。青々と茂った桜に囲まれ、血の色が異様に鮮やかだった。


「こ、小玉先生……?」


誰かが呟く。


距離にして3、40メートルあるにもかかわらず、はっきり見えた。


グラウンドの中央。

白衣の女性が数人の生徒に喰らいつかれ、内臓を撒き散らしながら地面に崩れ落ちていた。


その姿に、誰かが胃の中を吐き出し、誰かが声を失い、誰かが崩れ落ちた。


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