異世界にて7
御法川
エゴ名:【我儘】
自分の拳を使った攻撃の威力を等倍から100倍まで変換することができる。
四方田さん
エゴ名:【サイレンとナイト】
相手の強さを色で可視化し、相手と同程度の力を持ったナイトを召喚することがで きる。
嵯峨さん
エゴ名:【黒】
任意の範囲の重力を0.1倍から100倍までの倍率で操作することができる。
無月
エゴ名:【正義漢】
一定時間状態異常を含むあらゆる攻撃によるダメージを受けない。
エゴ名:【自己矛盾】
一定時間指定した相手1人の戦闘能力を自分と同程度にする。
……エゴサーチを確認しそれぞれから自覚した能力を聞いた結果、みんな随分個性的な能力が発現しているとわかった。
正直聞いただけでは本当にそんなこと可能なのかと思う内容ばかりだが、僕を含め本人からするとなぜか『出来て当たり前』のように思えてしまう。
まるで初めて自転車に乗ることができた時のように、一度できるとわかればそこに理屈などいらずできて当然のように思えてしまう。
……エゴとはこういった感覚を含めての能力なのかもしれない。
「……谷々様、もう一度ご自身のエゴを教えていただいてもよろしいでしょうか?」
不思議な感覚に物思いにふけっているとティアラから声がかかった。
「え? あぁ、僕のエゴは【一激】です。能力は……」
話を聞くティアラの顔が険しいことに気づき、思わず話すのをためらってしまう。
「……一定時間自身の身体能力を2倍にできるようです」
聞き終えたティアラは伏目がちに思案し、先ほどカードを取り出した側近に何事かめくばせをした。
「……わかりました。谷々様、残念ですがこういったことは最初にハッキリ申し上げるべきかと思いますので、お伝えします。……あなたの能力では戦いについていくことはできません」
どこか蔑むような意図を感じる声が広間に響く。
「……理由を聞いても?」
「単純なお話です。あなたの能力は《《弱すぎる》》のです」
「……弱すぎる……ですか」
「はい。身体強化系のエゴは戦闘において有用ではあります。しかし、効果範囲があなた自身のみ、そして倍率が2倍程度では到底戦いについていくことはできません」
「はぁ……」
「従軍しても戦力にならないどころか足手まといになる可能性が高いのです」
……なるほど、さきほど蔑むような声色になった理由はそれか。
現れた助っ人が、頼りにならないどころか足手まといだったとわかり失望したのだろう。
先ほど無月の能力を聞いて喜色満面だった広場の人間達が僕の方を見てヒソヒソ会話しているのが聞こえる。
会話内容まではわからないが、その顔を見るにとても良い話だとは思えない。
「ちょっと待ってください! 能力が弱いからといってそんな言い方はあんまりではないですか!?」
ティアラの話を聞いていた無月が唐突に声をあげた。
「そもそもまだ僕たちは戦いに行くと決めたわけではありません。そんな中能力の強弱だけで人を値踏みするような発言を聞かされて、誰が喜んで協力するでしょう?」
「……ごもっともなお言葉です。谷々様、大変失礼いたしました。しかし、それほどまでこの世界におけるエゴの重要度は高いのだとご理解いただければ幸いです」
ティアラは謝罪したが、その言葉に謝意は一切感じられない。
それは周りにいる人間たちも同じのようだ。
「まだ戦うかどうか決めかねるのもよくわかります。情報が足りない中、この場で決めろと言うのも性急なお話ですしね。……よろしければこの後別の会場にてお食事でもしながらより詳しい情報をお伝えしたく存じます。皆さまこちらの世界に来て以降、何も口にされていませんよね?」
その場の雰囲気を変える明るい声、そして提案された食事という内容に対し緊迫していた空気が少しだけ弛緩した。
「あー、そりゃぁいいな。これからどうするにしても腹が減ったまんまじゃ何も考えられねぇ」
「あんたはいつも何も考えてないでしょ」
「あぁ!? 今なんつった!?」
御法川、それに四方田さんがいつもの調子で話す。
「2人とも一旦落ち着いて。……なんにせよ考える時間をもらえるのはありがたい話です。お誘い感謝します」
それを制し、ティアラに向き合った無月が軽く頭を下げた。
「いえいえ、それでは皆さんこちらへどうぞ」
そう言うとティアラは先導しながら大広間の出口へ歩き始める。
しかし、歩き始めてすぐにこちらを振り返ると――
「ただ、谷々様はご一緒いただけません」