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320 3対4

『何をモタモタしておる、早く呼ばぬか!』

『遅いぞ、ベレデテス!』

 マイル達のそばに着地した、3頭の古竜。

『コイツらを殺せばいいのか?』

 その中で一番態度のデカそうなのが、『赤き誓い』の4人を睥睨へいげいしながら、そう言った。やはり、ベレデテスは格下、下っ端扱いらしい。そして、人間のことは完全に馬鹿にしているようである。

(古竜って、人間より頭がいい、って言われているけど、あの横柄な態度からは、とてもそうは見えないなぁ……)

 マイルがそんなことを考えているが、それは単に、古竜達がマイル達を『色々と配慮すべき、対等の相手』とは看做みなしていないだけなのであろう。

 以前、ベレデテスが『下等生物愛護法』とか言っていたが、おそらくそれは、害虫指定されたものには適用されないのであろう。人間も、やハエを潰す時に、相手に配慮した言動を取る者はいない。


『どうするかは、我には関係のないことだ。我はただ、案内と、相手方に対する事前説明を命じられ、それを果たしただけである。後のことは知らぬ』

 ベレデテスは、そう言って数歩後退(あとずさ)った。


『では、始めるか』

「待って下さい!」

 マイルが、攻撃動作に入ろうとした古竜を制止した。

『何だ? 今更命乞いしても無駄であるぞ。何しろ、指導者殿からの命令であるからな。

 正直言って、ひ弱な小動物を潰すのはあまり気が進まぬのだが、仕方ない。我ら古竜に手出しした自分と、お前達に負けてこの事態を招いたベレデテスを怨め。間違っても、我を怨むでないぞ』

『それはないであろう!』

 戦闘担当の古竜の言葉にベレデテスが文句を言うが、確かに、あの時ベレデテスがマイル達を適当にあしらって追い返していれば、こんなことにはなっていない。もしくは、馬鹿正直に報告せず、少し報告内容をアレンジしていれば……。

 しかし、それは今更言っても仕方のないことであった。


「いえ、そうじゃありません。場所を変えて貰えないかな、と思いまして……。

 皆さんがよく使われるブレスとか、ここで放たれると大火事になっちゃいますよね? ここ、王都から近いし……。

 もし『王都近くの森で古竜が暴れて、森が壊滅。そしてそこから、少女達の惨殺死体が!』とかいう噂が世界中に広まったら……」

『うっ! わ、分かった、その提案を採用するとしよう』

 どうやら、そう話の分からない連中でもないようであった。


 ベレデテスがマイル達『赤き誓い』の4人を背に乗せ、4頭の古竜が遠方から見えないよう低空飛行で森から離れた。……近くにいる者達からは丸見えであるが、大勢の王都民に見られるよりはマシである。それに、下からであれば背に乗っているマイル達は見えないので、問題はない。

 ……少なくとも、マイル達にとっては。

 王都近くで4頭もの古竜が目撃されればかなりの騒ぎになるであろうが、それは仕方ない。それに、既に森に来るまでにかなりの人数に目撃されているであろうから、今更であった。


 そのまましばらく飛ぶと、すぐに人気ひとけのない岩山に到着した。さすが、古竜の飛行速度である。

 古竜の飛行には魔法による補助が掛かっているため、ベレデテスが4人を乗せることも、正面からの空気抵抗も問題なかった。また、岩山も比較的なだらかで標高も低く、空気が薄くて戦いに影響が出るようなこともない。


『ここで問題はないか?』

「はい、大丈夫です」

 マイルが場所替えを望んだのは、森の被害や王都との距離のこともあるが、勿論その主目的は『自分達が遠慮なく戦えるように』である。

 戦いが始まったら、古竜達は多分、森の被害も王都から見えることも全く気にせずに戦うであろう。一応は『ちょっとマズいかな』と思っていても、基本的には、あまり気にはしないはず。それが戦いに熱中すれば、下等生物に対する配慮など関係なくなるはずである。

 それに対して、マイル達はやはりそれらを気にするし、レーナが火魔法を思い切り使えないのはハンデが大きすぎる。なので、森での戦いを避けるのは当然の判断であった。


 古竜達もマイル達も、あまりにも淡々と話を進めている。

 しかし、それも当然である。

 古竜達にとっては、ただの茶番。見習いやお嬢様の目の前で小動物を殺すことを躊躇った使い走りの若造が、事を丸く収めるために見え見えの嘘を吐いた。しかし虚偽の報告をすることに躊躇いがあったため、誰もが『あ、嘘だと分かるように、わざと荒唐無稽な報告内容にしているのだな』と判断できるようにして……。


 お荷物であるお嬢様を押し付けたという引け目があり、そして若造がお嬢様の目の前で小動物を殺すことを避け、自分が泥を被る形で報告したことを強く叱ることができず、族長も長老も、黙ってその報告を受け入れたのである。

 それで、丸く収まるはずであった。

 ……急な指導者の交代があり、その報告、つまり『古竜が人間に敗北した』ということが新たな指導者の逆鱗に触れさえしなければ。

 虚偽の報告だと分かっていて、それでもその内容が不愉快だったのか。それとも、あの法螺ほら話を、まさか本気にしたのか。それは分からないが、指導者に命じられたからには、それを遂行せねばならない。

 普段であれば、戯れる低脳で無力な小動物を暖かく見守ってやる程度の優しさを持っていても、部族における自分の立場が危うくなるようであれば、躊躇うことなく黙って潰す。プチン、と。それは、仕方のないことである。

 なので、古竜達は皆、別に何とも思っていなかった。

 ただ、無感情で簡単なルーティン・ワークをこなす。それだけのことであった。


 一方、『赤き誓い』の方は、説明だとか説得だとかは最初から諦めていた。

 一応の説明は既にベレデテスが行っているはずであるし、ゴキブリの駆除に来た人間に対してゴキブリが必死で説得しても、それで納得して何もせずに帰る駆除業者はいないであろう。

 ……そういうことである。

 なので、こちらもまた、無表情で淡々と話を進めるだけであった。

 作戦行動については、移動中にベレデテスの背中で打ち合わせ済みである。どうやらベレデテスは中立、というより、やや『赤き誓い』側に便宜を図ってくれているようなので、たとえ聞こえていたとしても何も喋らないであろう。それでも一応、マイルが防音結界を張ってはいたが。


『では、始めるぞ』

 古竜の言葉に、ベレデテスが皆から距離を取った。どうやら、巻き込まれるのは嫌らしい。

 『赤き誓い』の皆も、充分な距離を取っている。古竜と戦うのに、至近距離での肉弾戦でスタートしようという馬鹿もいるまい。


「「「「……え?」」」」

 マイル達が見ると、古竜達は1頭だけが『赤き誓い』に向かって立ち、他の2頭は側方に移動して座り込んでいる。

 当たり前である。4人の人間を相手にするのに、古竜1頭ですら超過剰戦力なのである、3頭で相手する意味がない。

 それに、わざわざここまで出向いてきて、僅か数秒で終わり、というのでは、あまりにも徒労感が大きすぎる。せめて数分間は遊ばせて貰いたい、と考えても不思議はない。

 しかし、それも、無力な小動物を苛め、いたぶるだけの行為である。遊ぶのは程々にして、なるべく死なせずに済むよう手加減してやれれば、と考える古竜達。

 完全に蹂躙し、二度と古竜に手出ししようなどとは思わず、古竜の絶対の強さをあちこちで喧伝けんでんする広告塔に仕上げれば、あの若き指導者も納得してくれるであろう。そう考える程度には、無力な小動物に対して慈悲の心を持っているらしき古竜達であった。


(よし、勝てる可能性が出てきた……)

 マイルは、考えていた。

(もし最強の古竜の力が100だとして、この古竜達の力が1頭あたり80だとすれば。

 自分の力が、50。そしてナノマシンに直接命令して効力が3.27倍になれば、約163。この古竜、2頭分だ。

 ならば、向こうがこちらを舐めて油断してくれている間に1頭倒し、相手が2頭になれば。レーナさん達からの援護で相手の注意を逸らし、統制の取れた攻撃が私に集中しないようにすれば、2頭相手でも何とかなる可能性が……)


『では、ゆくぞ!』

 そして、古竜達にとってはお遊びの。そして『赤き誓い』にとっては自分と仲間達の命を懸けた戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  なんとなく…また来るとは思ってた…。
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