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279 辺境の小都市、マファンへの帰還

 宴会の後、商人の代表者が護衛組のところに来て、滞在日数の延長を申し出た。

「鉄製品の売買の話が、振り出しに戻りました。量は半分しかありませんが、今までと同じ単価で買い取れそうです。なので、帰投は明後日に延期したいのですが……」

 遠出をするハンターが、1日の余裕もなく次の仕事を入れていたりするはずがない。それに、拘束期間が延びた分、報酬額が増えるという話なので、護衛組は快くそれを了承した。


 そして翌日は、商人達は買い付け、『赤き誓い』は村の見物で、特にマイルは鍛冶場やら酒造場やらの見学、ドワーフの少女への聞き取り調査等に勤しんでいた。

「マイル、ドワーフの女の子達に、何聞いて廻ってたのよ?」

「それ、秘密です!」

 レーナの質問を、何とか誤魔化すマイル。

 実は、自分の体格が人間とエルフとドワーフの平均値なのではないかと疑っているマイルは、ドワーフの少女の成長速度が気になって、そのあたりを聞き取り調査し、自分でドワーフの平均を計算しようとしていたのである。

 それが分かったからといって、どうなるものでもないが、マイルにはそうせずにはいられなかったのである。……色々ある。そう、色々とあるのである、女心には。




「出発!」

 商隊の運行責任者である商人リーダーの号令で、ドワーフの村、グレデマールを後にする一行。

 これから先は、何事も起こらなかった場合のルート選択、野営のタイミング等は商人リーダーが指示し、魔物や盗賊が現れた場合の対処や行動は護衛リーダーであるウォルフが指示することとなる。これから先、ひとつひとつの判断が、積み荷の投棄等を含め、お金、人命、馬車と馬車馬、そしてリスクとメリット・デメリットを天秤に掛けた、自分達の命をチップとした賭けとなる。


 自分達も、いつか護衛リーダーを任される日が来るかも知れない。

 いや、荷馬車2~3台程度の護衛であれば、『赤き誓い』の単独受注となるかも知れない。その場合には、明日にでもその役割がやってくるかも知れないのである。

 ベテランであるウォルフの判断をしっかり見て、学ばねば。合同受注は、新人にとっては全てが勉強の場なのであるから。甘っちょろい新米を束ねるリーダーとして、自分がしっかりせねば……

 そう考えて気を引き締めるレーナに、メーヴィスが声を掛けた。

「……あの、一応、私がリーダーなんだけど……」

「あれ、声に出てたかしら?」

「顔を見れば分かるよ!」




「停止~!」

 村を出発した日の昼過ぎ、御者役を務めている商人のひとりが大声を上げた。

 皆が馬車を停めて集まると、どうやら車輪が窪みにはまり込んでしまった様子。このあたりは交通量が少ない……というか、殆どないため、道というのもお恥ずかしい、という程度のものでしかなく、こういうことも別に珍しくはない。

 ある程度の勢いがついていればそのまま抜け出せたかも知れないが、こうして止まってしまった場合、窪みから出るためにはかなり大きな力が必要であった。積み荷が重量物であり、スペース的にはともかく、重さ的にはかなりあるためである。


 今回は鉄製品の量は少ないが、少しでも現金収入を得たいというドワーフ達の要望で、鉄製品ほどではないが、少しは利益になる木工製品や余剰分の小麦等、とりあえず余っているものを片っ端から売り込まれ、殆どボランティアのような感じで買い取ったのである。

 まぁ、ボランティアのよう、とは言っても、ちゃんと幾分かの利益は出るのであるが。さすがに、赤字覚悟で商売をするわけにはいかない。慈善事業ではないのだから。それに、そういう悪しき前例を作ることは、互いの為にならない。単に、『空気を運ぶくらいならば、恩義と信用を運べ』という商人の信条を守ったに過ぎない。

 但し、危険が迫った場合に真っ先に投棄するつもりであるが、それは売り主であるドワーフ達には関係のない話である。


「あ~、こりゃ、このままじゃ無理だ。他の馬車の馬を加えて無理に牽くと、車輪か車軸が逝っちまうかも……。いったん積み荷を全部降ろして、軽くしてから牽くしかねぇよ」

 ベテラン御者の言葉に、うんざりしたような顔の商人達。そして、商人達の眼は、護衛達の方へ。

「ちっ、分かったよ。荷役仕事なんざ契約外だが、時間を無駄にするのもアレだ。無料で手伝ってやるよ。……但し、半数は見張りとして残すからな。護衛が全員荷役仕事をしているところを襲われて全滅、なんてことになったら、いい笑いものだ。死ぬことになる俺達はともかく、残された女房や子供に恥ずかしい思いはさせたくねぇからな」


 護衛リーダーのウォルフがそう判断したため、護衛の半数が手伝うこととなった。

「じゃあ、『赤き誓い』全員と、『邪神の理想郷』からふたり、『炎の友情』から3人を外して、残りの者は……」

「待って下さい!」

 ウォルフの指示を途中で遮り、マイルが口を挟んだ。

「それ、私達に任せて貰えませんか?」

「「「え……」」」

 マイルの言葉に、4人の商人達は驚きの声を上げたが、他の護衛パーティーの者達は、もう、今更驚いたりはしなかった。


「……任せる。やってみな」

「はい!」

 驚く商人や御者達をスルーして、マイルがメーヴィスに指示を出した。

「メーヴィスさん、真・神速剣モードで、身体強化を。筋肉と腱、骨の強度増加を第一優先にして、筋出力を少し抑え気味で。車体の弱い部分を持つと壊れちゃいますから、元々車重を支えるようになっている部分に……、って、御者さん、私とメーヴィスさんにひとりずつ付いて、指示して下さい!」

 こくこくと頷き、それぞれの側に付いてくれる、ふたりの御者さん。もうひとりは、窪みにはまり込んだ車輪の状況を確認してくれている。


「よし、いいですね! では……」

 そして、完全無詠唱で重力魔法を掛けるマイル。

 さすがに、あまり無理をして車軸がポッキリ、とかになると時間を無駄にし過ぎるだろうから、安全策である。但しこれは、『赤き誓い』以外の者には絶対に知られないようにしなければならない。

(馬車全体にかかる引力の、8割を遮断!)

「メーヴィスさん、そっと、ゆっくり持ち上げて下さい!」

「分かった!」

 そして……。


 ひょい!

「「「「「「え……」」」」」」

 とん!

「「「「「「…………」」」」」」


「車輪も車軸も、大丈夫そうですね!」

「「「「「「…………」」」」」」

「じゃ、出発しましょうか?」

「「「「「「…………」」」」」」

「あの……」

「「「「「「…………」」」」」」

「その……」

「「「「「「…………」」」」」」

((((気まずいいいぃ~~!!))))


 何か、微妙な雰囲気になってしまった商隊一行であった……。

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― 新着の感想 ―
[一言]  うん、まぁ、そりゃぁ、ねぇ…。
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