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272 魔 物 5

「ウィンド・エッジ!」

「地獄の業火!」

「ハイパー・ホット!」

 メーヴィスのウィンド・エッジを先に撃たせ、ワンテンポ遅れてそれぞれの攻撃魔法を放つ、レーナとポーリン。そうしないとウィンド・エッジの効果が判定できない。そしてポーリンも、奥の手のホット魔法のバージョンアップ版を放った。

 ドワーフ達に見られるが、雇い主としての守秘義務があるし、このドワーフ達がわざわざ人間達に触れて廻るとも思えない。また、魔法に疎いドワーフ達は、この程度の魔法であれば、別に特別なものだとは思わないであろう。特に、マイル、メーヴィス、レーナの戦いを見た後では……。


 坑道に到着した奪還部隊は、入り口前に見張りとして立っている数頭のオーガに向けて魔法による奇襲攻撃を行ったのである。勿論、先に発見されることのないよう、自分達が風下であることを確認し、木々に隠れての遠距離攻撃であった。

 魔法攻撃ができるのは、『赤き誓い』のみである。(『気』による攻撃のつもりであるメーヴィスを含む。)


 突然、攻撃魔法を連続で撃ち込まれた見張りのオーガ達は慌てた。

 最初に受けたウィンド・エッジは、所詮は魔法が不得手なメーヴィスが『遠距離攻撃も使える』というメリットだけのために会得した技であり、対人戦かゴブリン、コボルト相手ならばともかく、オーク以上の魔物相手には、致命傷どころか、深手を負わせることすら難しかった。

 それに、この技は、メーヴィスが『真・神速剣』を使い身体強化を行っても、別に威力が向上するわけではない。なので、この常識外れのオーガ達に対しても、重傷には程遠い、浅い切り傷を与えたに過ぎなかった。


 眼にでも当たれば話も変わるが、遠距離からのそのような攻撃が眼に当たるのをじっとして待っていてくれるオーガはいないだろう。せいぜい、仲間が危ない時に牽制として使うのが関の山……、いや、それだけでも、この遠距離攻撃『ウィンド・エッジ』を身に着けたメーヴィスの、ハンターとしての価値は非常に高くなっている。何しろ、彼女達が知っている範囲で唯一の、マイル以外で『魔法剣士』を名乗れるハンターなのである。

 ……あ、いや、マイルが仕込んだ、ベイルという者がいた。一応、あれも『魔法剣士』と名乗れなくはないだろう。おそらく、本人はそう名乗るつもりは更々ないであろうが。

 実際には、メーヴィスはそれを魔法ではなく『気』の力だと思っているが、マイルやレーナ達から『アスカム家の秘伝を隠蔽するためには、魔法だということにしておいた方がいい』と言われ、対外的には風魔法だということにしている。

 風魔法だと偽っている、本当は風魔法である『ウィンド・エッジ』。

 ……ややこしいこと、この上ない。


 そして、自分達にとり脅威には程遠い攻撃魔法を難なく凌いだオーガ達は、攻撃者を探そうとして周囲を見回そうとし、そこへ攻撃魔法の第2弾、第3弾が立て続けに着弾した。

「「「「「グギャアアアアァ!!」」」」」

 レーナお得意の火魔法、『地獄の業火』。

 そして、ポーリンの悪辣魔法、『ハイパー・ホット』。ホット魔法を更に悪逆非道に改造した魔法である。そしてそれは、眼や鼻、口等は勿論であるが、メーヴィスのウィンド・エッジによって作られた傷にも、耐え難い激痛をもたらした。

 更にそこに魔法による風が吹き込み、火魔法が一段と燃え上がり、ホット魔法による赤い霧が吹き払われ……。


 どしゅっ!

 空気が揺らぎ、そこから現れた人影が振るった剣で、一頭のオーガが両断された。

 勿論それは、魔法攻撃には加わらず、不可視、防音、防臭の結界を張って忍び寄っていた、マイルの仕業であった。

 ずしゅ、ばしゅっ、どす!

 魔法攻撃による奇襲で混乱に陥っていた見張りのオーガ達を一瞬の内に斬り捨てたマイルは、すぐに後退し、前進してきたメーヴィスやドワーフ達と合流した。

 不利な坑道内に入り込んで戦うつもりなど、毛頭無い。籠城戦、などという概念のないオーガが、自分達の巣を襲撃されて、出てこないわけがなかった。そして先程のオーガ達の悲鳴や戦いの音が聞こえていないはずがない。


 オーガ達が全員出てこれるだけのスペースを空けて、それを囲むように布陣したマイルとメーヴィス、そしてドワーフ達。レーナとポーリンは、少し離れた灌木の陰。遠隔攻撃の魔術師が、わざわざ敵の側に近寄る必要はない。

 そしてしばらく待っていたが、オーガ達が出てくる気配がない。

 調査隊の報告から考えると、少なくともあと7~8頭はいるはずである。なのに出てくる様子がないのは、残りは狩りにでも出ていて不在なのか、非戦闘員であるメスや仔ばかりなのか、それとも、見張り達だけで充分だとでも思っているのか……。


「ファイアー・ボール!」

 マイルが、一応は坑道にあまり被害が出ないようにと配慮し、かなり威力を抑えた攻撃魔法を坑道内に叩き込んだ。そしてしばらくすると、中からオーガ達が飛び出してきた。怒りに満ちた様子で次々と飛び出てくるその数、20頭少々。

「な! まだこんなに残っているとは!」

 ドワーフ達が驚きの声をあげるが、何を言おうが、いるものは仕方ない。先程と同じようにやれば、そう大した脅威でもあるまい。このオーガ達を殲滅した後、坑道内にメスや仔が残っていないか確認して……。


 マイル達がそう考えていると、それらが現れた。

 そう、20頭少々のオーガ達が出てきた後、僅かな間を置いて出てきた、『それら』。

 オーガウォーリア、ハイオーガ、そして、オーガキング。

 ……そう、オーガの上位種達である。


 突然現れた、今までこの辺りにはいなかったはずの、特殊なオーガ達の群れ。おそらく、他の場所から移動してきたのであろう。

 そして、統制が取れた集団行動、巣の入り口に見張りを立てるという、オーガらしからぬ用心深さ。それらが何を意味しているかというと……。

「統率者の存在、ですよねぇ……」

 マイルが、あちゃー、というような顔をして呟いた。

 マイルの言葉に、メーヴィスは、特に動じた様子もない。

 騎士、及び騎士志望者たるもの、この程度のことで狼狽うろたえることはない。騎士とは、己の任務、己の義務を遂行するためであれば、自らの命など然程さほど重要視しないものである。いや、できれば死にたくはないが。


 ……そして、ドワーフ達は、思い切り狼狽えていた。

 あまり頭が良いとは言えないドワーフ達であるが、仮にも技術者であるのだ、比率計算くらいはできる。

 自分達が集団で掛かっても苦戦する、ここの特殊なオーガ達が、普通のオーガに較べてどれくらい強いか。

 そして、自分達が元々集団で掛かっても苦戦する『普通のオーガウォーリア』、瞬殺される『普通のハイオーガ』、そして、その存在を知っただけで即座に村を捨てて全員で逃げ出すべき『オーガキング』。

 その、普通であってもまともに戦うなど問題外である上位オーガが、複数で、しかも異常に強い特異種。こんなもの、軍の精鋭部隊1個中隊でも足りやしない。いくら『赤き誓い』が強いといっても、所詮はCランクの少女達4人。軍隊レベルの戦いをどうこうできるものではない。

 そして、皆で一斉に逃げたところで、この頑強なオーガ達から逃げおおせるはずもない。後ろから襲い掛かられ、ひとりずつ、抵抗もできずに殺されるに決まっている。


「……終わりだ。村は、終わった……。

 あとは、このことを村に知らせ、村人を避難させるしかない。そして人間の街に知らせ、せめてこいつらが繁殖して大陸全土に広がり、ヒト族が滅亡への道を辿るようなことのないように……。

 もはや、矜持が、などと言っている場合ではない。ドワーフだの人間だのエルフだのという問題ではなく、ヒト族全体の存亡に関わる事態だ。そしてこの知らせを届けることができたなら、たとえ我らがここで全滅しても、我らの名はドワーフの歴史に残るだろう。命を賭して知らせを届け、ヒト族を救った英雄達としてな。

 マヴィジュ、ルロバルト、そっと下がり、そのまま離脱、村へ向かえ。その後、皆を説得して避難、人間の街へ知らせを。他の者達は、なるべく戦闘開始を引き延ばし、戦いが始まったら、できる限り長く生き延び、死ぬまでに多くの時間を稼いでくれ。マヴィジュ達が無事、逃げ切れるようにな。すまんな、貧乏くじを引かせて……」

 オーガ達をなるべく刺激しないよう、落ち着いた小さな声で皆にそう指示する隊長。

 既に自分達の生還は諦め、開き直っているらしかった。


「へへへ、何、当たり前のことを……。そんなの、この奪還部隊に志願した時から覚悟してますって! なぁ、そうだろ、みんな!」

「「「「「「お、おぉっ!」」」」」」

 戦闘開始の引き金にならないよう、小さな声で、しかし力強く返事する、ドワーフ達。

 その声が少し震え、足がガクガクしていようとも、関係ない。

 恐怖を感じず、自分より強い敵に平気で突っ込んでいく者。……それは、ただの『馬鹿』である。そんなもの、勇気でも何でもない。

 彼我の実力差を理解し、恐怖と絶望に震え、己の敗北と死に恐怖する。

 しかし、それでも精一杯の虚勢を張って、逃げずに踏み止まる者。

 ……人、それを『勇者』と呼ぶ。


「……よし、では、なるべくこの睨み合いを続けるぞ。オーガ共を刺激するなよ……。

 マヴィジュ、ルロバルト、行け!」

 おそらく最年少だから伝令役に指名されたのであろうふたりが黙ってこくりと頷き、そっと包囲網から抜けようとしたその時。


「炎爆!」

「凝固螺旋弾!」

 得意の炎魔法を放つレーナと、以前レーナが使ってみせたことのある土魔法を丸パクリで使い、敵に叩き込むポーリン。回転して相手の肉体にもぐり込むというえげつない攻撃であれば、筋肉の鎧も貫けると考えたのであろう。得意魔法が治癒魔法や水魔法であるポーリンには、これが一番貫通力のある魔法であった。

 ……ホット魔法? それは、すぐに味方が突っ込む場合には使えない。


 ちゅど~ん!

 どすどすどすどすどす!!


吶喊とっかん!」

 既に自分の判断でミクロスを飲み干していたメーヴィスは、レーナとポーリンの攻撃魔法が着弾すると同時に叫ばれたマイルの指示で、マイルと共にオーガの群れの真っ只中へと飛び込んだ。

「「うおおおおおぉ!」」


「何じゃ、そりゃああぁ!!」

 確かに、持久戦で時間を稼ぐなら、向こうが仕掛けてくるまでは睨み合って、戦闘開始を少しでも遅らせた方が良い。特に、相手が圧倒的に強い場合には。

 しかし、相手を殲滅するのであれば、先に仕掛けた方が有利であった。


 せっかくの手筈てはずがぶち壊されて、悲嘆の叫びを上げる隊長であった……。



今週の木曜日、15日に、本作『私、能力は平均値でって言ったよね!』の書籍7巻、発売です!

よろしくお願い致します!!(^^)/


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― 新着の感想 ―
[一言]  ……人、それを『勇者』と呼ぶ。 >イカンね 人、それを〇〇と呼ぶ というセリフの後に、キサマらに名乗る名などない!と続かないと、不自然に感じてしまう
[一言] 鍛冶師バカ一代 これに正しくツッコミを入れる人はそう多くないかもしれない。 精々、格闘ファンくらいだろう…。
[気になる点] 無駄な(そして)が多すぎる。
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