表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/604

【ヴィオル視点】君が進みたい道を

俺は出来るだけ穏やかに、ゆっくりとした口調を心がけて言った。


俺の考えを押し付けたいわけではないからだ。ただ、一方で問題提起だけはしておく必要があると思っていた。



「もちろん親に相談しなくて良いのかと聞いたのは、今話した経験があったからこそだが……あの幼い日の俺のように、家族のためを思ったつもりでも、それが的外れなこともあるだろう?」


「……そう、かも知れません」


「あの時俺は、親は親で子供が思うよりもずっと多角的にものを見ていたり、子供の将来のことを考えてくれているのだと知った。ただ」



そこでいったん言葉を切ると、セレン嬢は不安げに俺を見つめる。


彼女を安心させるように、俺はその白い手にそっと前脚を置く。肉球がぷに、と柔らかくセレン嬢の肌を押すとセレン嬢の表情が少しだけ和らいだ。


セレン嬢に目を合わせ、俺はゆったりと語りかける。



「……ただ、親といえど人間だからな、性格などひとりひとり違うわけだし、その価値観も様々だ。家の事情も平民と貴族では大きく異なることも重々承知している。打ち明けるのが最善かどうかは場合による……というか、セレン嬢が何を大事にしたいかによるだろう」


「何を、大事にしたいか……?」


「そもそもセレン嬢が特級魔術師になろうと思い立ったのは、ヘリオス殿下を思ってのことだろう? そして家族にすら相談しないのは、その立場を慮ってのことだと理解している」


「はい、その認識で間違いありませんわ」


「では、今は?」



俺の問いに、セレン嬢はなぜ問われるのか分からない、という顔をした。



「乱暴な言い方だが、セレン嬢の今のやり方は『問答無用型』だ。誰が何を言おうとも絶対に、何があっても特級魔術師になりたい、そういう場合ならこの方法がベストだろうな」



特級魔術師にさえなってしまえば、あとで誰が物言いをつけようともあとの祭りだ。



「ただ、婚約を破棄したいだけなら本来解決方法は他にもあるだろう? それこそ父君に相談するのも手だ。これなら父君には選択肢ができる」


「確かにお父さま自身が婚約破棄のために動くか、わたくしを止めるか……もしくは、わたくしが特級魔術師になるのを静観するということもできますわね」


「そして、ヘリオス殿下の希望を叶えたいだけなのならば、今ならば本心を引き出すことができるだろう」


「えっ……」


「君の手の中には特級魔術師になれるだけの切り札が既にある。確実に婚約を解消できる手立てはあると話した上でなら、殿下が本当に妃にしたいのは誰か、分かるかもしれない」


「……!」



セレン嬢の顔が強張る。返ってくる答えを想像すると胃が痛むが、これだけはどうしても確認しておかねばならないのだ。俺は慎重に口を開いた。



「セレン嬢は特級魔術師としての素質は群を抜いているし、魔術師団長としては正直に言って喉から手が出るほど欲しい人材だ。魔術と……多分魔道具の発展にも大きく貢献してくれるだろう」


「ほ、本当ですか!?」


「本当だ。それに、俺個人としてもセレン嬢が特級魔術師になってくれたら嬉しいんだ。この二か月はとても楽しかった」


「ヴィオル様……!」



心底嬉しそうな顔でセレン嬢が笑ってくれて、これからもこの笑顔を間近で見たいという気持ちが湧き上がる。それでも、俺は現第三師団の長として、言っておかねばならないのだ。



「しかし特級魔術師はいったんその任についてしまえば、簡単には辞することができない……他に類を見ない不自由さも内包した職業だ。他人の希望を叶えるために選ぶには制約が重すぎる」



実際に精神を病む場合もあるのだ。長時間魔法防壁を張り続ける忍耐強さと魔術や魔道具を作り出す発想力、激強な魔獣と死闘を繰り広げるだけの戦闘力があって、それにストレスをさほど感じないというのは本当に稀有な才能なのだろう。



「婚約を解消するだけ、ヘリオス殿下の希望を叶えるだけなら、なにも無理に特級魔術師になる必要はないんだ。道など探せば無限にある」


「無理にだなんて、わたくし」



無理をすることに慣れ過ぎて、自分が無理をしていることにも気づいていなさそうだから心配なのだ、と言いたいが……分からないだろうなぁ。


それでも、人生の岐路になるだろうここでは、自分の気持ちだけに焦点を当てて真剣に考えてほしかった。



「君の人生だ。君が最も進みたい道を選ぶべきだ。……俺は、その道を全力で応援しよう。今一度、しっかりと考えてくれ」



目を見開いて俺をしばし凝視してから、セレン嬢はふふふ、と小さく笑った。垂れた眦が優し気だ。



「お口から出る言葉はこれでもかというほどヴィオル様なのに、やっぱりどう見てもヴィーなのね」



それは仕方ないだろう。この部屋でヴィオルの姿で話し込むわけにはいくまい。


真面目な話をしていたつもりなのに、ちょっと拍子抜けした俺はヒゲをピクリと動かした。


俺の頭から耳の周りを手のひらで覆うようにゆっくりと撫でてから、セレン嬢は穏やかな口調で話し始める。


仕事が忙しかったのもあるけど、今回めっちゃ難産でした……!

遅くなってごめんなさい。。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【★個人出版してみました】読んでみて気に入ったらぜひお買い上げください♡


『出戻り聖女の忘れられない恋』
― 新着の感想 ―
[一言] お手はゆったりと、って誤字、直してしまわれましたか。 お手をした後の描写だったのでこれはこれで面白いと思ってました。残念。
[一言] ヴィオル様、最高やんけ……。 思考誘導もしてないのだから、このままトンビが油揚げを掻っ攫ったって何も悪い事はないのに。 セレン嬢の心に寄り添って真に想いやらなければ出てこない考えですよ。これ…
[一言] 良い師だな、ヴィオル
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ