幕間 -ギィ・クリムゾン-
彼が発生したのは、遥かな大昔である。
彼は生まれながらの絶対強者であり、周囲の者達を意のままに操るカリスマを持っていた。
傲慢の化身。
そのまま成長したならば、冥界の王とも呼べる存在となっていたであろう。
そんな彼が地上に呼ばれたのは偶然であったのだが、それが彼の運命を大きく変える事になったのだ。
呼ばれて周囲を見回す。
瞬時に自分が召喚されたのだ、と理解した。
何事か偉そうに喚きたてる魔術師風の男が煩わしい。
話を聞くと、戦争中である相手国を滅ぼせと言っている。
容易い事であった。
躊躇なく大規模破壊魔法――"死の祝福"――を使用し、滅ぼした。
100万規模の都市が死の都へと変貌する。その事に、さしたる痛痒を感じる事は無い。
だが、大量の人間の魂を獲得した事により、自分が真なる魔王へと覚醒している事に気付く。
どうやら、人間の魂を1万人分程刈り集めるだけで、覚醒に至ったのだと理解した。
では、もっと大量の魂を集めればどうなるのか? そういう興味もあった。
それに、自分に雑用を申しつけた者に、それ相応の礼をせねばならぬだろう。
自分に付き従う者――"上位魔将"――を二人召喚し、命じる。
速やかに対象の国を地上から消滅せしめよ、と。
今の自分は魔王に覚醒し、気分も良い。
という訳で、自分につまらぬ雑用を行わせた魔術師の所属する国家を、苦しみも恐怖も与えずに蹂躙させた。その事実こそが、彼が非常に上機嫌であった何よりの証拠であろう。
何しろ、召喚した悪魔達へ、肉体を受肉させるという栄誉を与えたのだから。
太古に栄え、分裂して相争っていた超文明を持つ魔法王国は、こうして滅びの時を迎えたのだ。
数千年前の出来事であった。
実験により報復を兼ねて国を滅ぼしてみた訳だが、人間の魂を大量に集めたものの、それ以上の変化は生じなかった。
故に、それ以上の強化は行われないのだと理解する。
退屈な日々の始まりであったが、ギィは気にしない。
各地を彷徨い、この世界を楽しむ事に集中していたから。
戦う事と魂の精錬のみに費やされていた冥界の生活と違い、この世界には刺激が溢れていた。
大型の魔獣と肉弾戦のみで戦ったり、君臨していた妖魔王を魔法で葬ったり。
土着の人間に、神とも魔王とも称えられる様々な伝説を残したのも、この時期の事である。
そして、出会った。
この世の創造主、至高にして最強の存在に。
"星王竜"ヴェルダナーヴァ。この世界を創りし存在。
自らが最強である事を疑わないギィは、当然のようにその存在へと挑みかかる。
結果は惨敗。
抗う事すら許されず、ギィは地に伏す事になる。
自らが最強であると疑っていなかった彼の誇りは、この時、木っ端微塵に砕かれたのだ。
「殺すがいい。オレは満足だ。
この世には、上には上があると理解出来た。
連綿と続く理の中に、オレの存在もまた、確かに組み込まれているのだ、と。
偉大なる者よ、汝に倒された事を誇りに思うぜ」
「小さき者よ。
ボクはね、ボクが生み出した存在を愛している。
退屈だったこの世界が、どんどん豊かに発展しているんだ。
知恵ある者が生まれ、ボクと意志の疎通が可能なまでに進化した。
今や、ボクと戦いと呼べる位階にまで耐えられる強者まで生まれたんだ。
君の様に。
でもね、このままの成長速度で発展した場合、数千年足らずで世界は滅ぶ。
だから、協力してくれないか?
"調停者"の一人として、ボクに協力して欲しい」
思い出すのは自らが滅ぼした魔法王国の姿。
権力欲に取り付かれ、血族でありながら争いを始める愚かな姿。
(なるほど、確かにアレは醜かった)
迷うまでも無い。
ギィもまた、この世界を気に入っていたのだから。
「いいぜ。オレは何をすればいい?」
「そのままで。今のままに、魔王として君臨して欲しい。
この世に脅威があると知らしめて、人が傲慢にならないように」
傲慢。
言われてみれば、自分に相応しい役割である。
ギィが、ユニークスキル『傲慢者』を所有している事を見越したように、いや、見越したからこその発言であろう。
「いいだろう。オレがこの世の魔王となろう。
人が傲慢になったならば、お前に代わって俺が裁定してやるよ」
ギィは、自らの誇りを砕かれた事で、更なる深みを増した。
究極能力『傲慢之王』を獲得したのだ。
神に匹敵する力を持つ魔王が誕生したのは、この時である。
「ああ、頼んだよ」
ギィの返事を聞いて、"星王竜"ヴェルダナーヴァは嬉しそうに笑う。
ギィとヴェルダナーヴァが認め合い、友となった瞬間であった。
ギィは約束通り、毎日を魔王として過ごしていた。
とは言え、特に何かを行っている訳ではない。
諜報活動に向わせた、配下の悪魔達の報告を受けて、指示を下すのみである。
傍に侍るのは、白い竜。
深海色の瞳の、美しい竜だった。
何を勘違いしたのか知らないが、
「兄が認めても私は認めない!」
などと息巻いて、喧嘩を吹っかけて来たのだ。
退屈していたギィは喜び、本気で相手をしてやった。
三日三晩の戦いの後、ギィの根城は氷に覆われた白銀の世界へと変貌していた。
ギィにすれば笑い話だが、住んでいた者達からすれば、大災害である。
ヴェルダナーヴァの妹で、兄に認められたギィに嫉妬したらしい。
しかし、嫉妬の能力に目覚める気配は無かったので、本当の目的はギィを試しただけなのだろう。
結局、何が気に入ったのか、ギィと供に歩む事になる。
それが、"白氷竜"ヴェルザードとギィの出会いであった。
本拠地を北の大陸へと移した。
ヴェルザードから洩れ出る妖気により、周囲の気温が下がる為である。
どうせなら影響の少ない北の大地へと、拠点を移す事にしたのだ。
その頃になるとヴェルザードも人化を習得していたのだが、余計に妖気の流出が増えたのである。
本拠地を移したのは正解だったらしい。しかし、人どころか魔物すらも立ち入る事も出来ない極寒の地となってしまったのは残念であった。
退屈を紛らわす為に、村から国へと発展し、各地に台頭し始めた大規模な集落の監視を行う。
嘗ての超文明からすればお粗末なものではあったが、ひっそりと継承されていた魔法や、技術も再び日の目を見て、それなりに発展を始めたようだ。
人の営みを見るのは面白かった。
いつしか、村々は国々へと姿を変え、小規模な小競り合いも行われるようになっていく。
手を下すべきか?
警告の意味も込めて、幾つかの国を滅ぼした。
人は、目に見える脅威としてのギィを恐れ、団結する心を養っていく。
(それでいい。オレの逆鱗に触れさえしなければ、お前達を滅ぼしはしねーよ!)
"調停者"として、ギィはそれなりに、自分の仕事に満足していたのだ。
時が流れ、数百年が経過した。
ある日、退屈を持て余していた彼に、一組のパーティーが挑みかかって来た。
その者達は、何人も立ち入れぬ筈の極寒の地へと、侵入して来たのだ。
「俺様はルドラ。ルドラ・ナスカだ!
人間の勇者にして、人々の希望を一身に受けし者。
邪悪なる魔王め、滅ぼしてやらあ! ついでに、持ってる財宝全部寄越せや!!」
「ルドラ兄様、それではどちらが魔王か判りませんよ!?」
「ああ、駄目だな。欲で目が濁っている。
間違いなく、負けて痛い目に合いそうだぞ?」
そんな遣り取りをする、可笑しな三人組。
勇者? 何だ、それは?
久しく退屈していたギィは、その言葉に興味を持った。
「フフン! 俺様は最強だから、お前等の手助けはいらん。
魔王よ、一対一で正々堂々と一騎打ちだ!」
美青年と呼べる美しい青年が、精巧な造りの全身魔法鎧に守られて切りかかって来た。
余裕を持って回避するか、受け止めるか。或いは剣を叩き折って泣かせてやるか。
超速思考で考えつつ、3人を観察するギィ。
だが、
「兄様! せめて、支援魔法だけでも――聖剣発動――!!」
妹であろう、銀髪の少女が放った魔法により、ルドラと名乗る青年の持つ剣が光を帯びた。
目を見張る程に神々しい、邪悪を滅ぼす破魔の光。
(不味い。あの光は、結界を全て切り裂く力がある!)
更に、実力を隠していたのか、青年の剣速が上昇しギィに迫った。
ギィは咄嗟に、魔剣"天魔"により受け流す。
青年の剣技は鮮やかであり、ギィの"未来視"でも、剣筋の予測が困難な程であった。
「手前、やるじゃねーか! オレに剣を抜かせたのは、お前が初めてだぜ!」
「はっ! 俺様の剣を受けるかよ! 中々に楽しめそうじゃねーか、魔王!
滅ぼす前に、名前を聞いてやる」
「人間の癖に、生意気なヤツだ……。
オレはギィ。
オレを前にしたヤツは、ギィヤーーーーって叫ぶんだよ。
それがオレの名前になるのかな?
面倒臭いから、縮めてギィってのがオレの名前なんだろうぜ」
「……。ちょっと待て。
それは名前じゃない。名前じゃないよ!?
そんな変な名前の魔王を倒しても格好付かないし……
そう言えば、お前は綺麗な真紅の髪の色だし――」
「待て。真紅色と言えば、この私。私の呼び名だからな!?」
「ん? ああ、判ってるって、煩いヤツだな……
じゃあ、深紅色! どうだ、文句ないだろ?」
「……似たようなものだが、まあ良い。どうせ貴様には言っても無駄だろう」
「良し! 決まりな。お前は今日から、"魔王"ギィ・クリムゾンだ!」
こうして、"魔王"ギィ・クリムゾンは誕生したのである。
名前を付けた事により、青年――ルドラ――が意識を失い、生死の境を彷徨う事になり、ギィとの勝負が流れる事になったりもしたのだが……
思えば、ギィとルドラの妙な因縁は、この時に生まれたものだったのかも知れない。
ルドラの回復を待ち、何度も勝負を行った。
勇者と名乗るだけあり、ルドラは強かった。
覚醒した勇者であるルドラと、覚醒した魔王であるギィ。
技術を極めたルドラと、力と才能のみで戦っていたギィ。
勝負は拮抗していたが、段々とギィが優位になるのは自然の理であったと言える。
そんな二人を呆れたように眺めるルドラの妹のルシアと、蒼色の髪の美しい女性に化けた"灼熱竜"ヴェルグリンド。
何時しかそれは、日常の光景となっていたのだ。
そんなある日、
「手前! 正々堂々とか言っていた割に、やる事が汚いんじゃねーか!?」
目潰しをした上で、聖結界にて状態異常による能力減少効果をギィに齎したルドラに対し、ギィが文句を言う。
「勝てば正義! いや、勝たなければ、それは正義じゃなくなるんだよ!
故に、俺様は何が何でも勝つのだ!
それに、さっき手前が使った技は、俺がこの前使ったヤツだろうが!
人の技を盗みやがって……汚いのは、お前だ!!」
言い返すルドラ。
最近では実力伯仲するものの、若干押され気味になってルドラが焦ってきたのだろう。
最初の口上など何処吹く風で、ありとあらゆる手段で勝ちを拾いに来ていたのだ。
ギィは溜息を吐いて見せるが、内心ではそういう遣り取りすらも楽しんでいた。
自分と互角に闘える者が居る事自体嬉しいものであったし、ルドラの言う通り、戦えば戦う程に自分の強さが増すのを実感出来たのだ。
究極能力は獲得して終わりなのではなく、使いこなしてこそその真価を発揮するのだ、と。
ルドラに合せて剣のみで戦っていたのだが、それでも徐々にギィはルドラを圧倒し始めていた。
今の所は何のかんのとルドラが小細工を弄し、勝負は毎回引き分けて、決着が着く事は無かった。
しかし、このまま続けていれば、いつかはギィが勝つのは間違いない話だったのだ。
だが……
ギィにはどうしても納得いかない事があった。
「おい……。手前、オレと最初に戦った時、何故オレを倒さなかった?
オレに名前を付けたりせずに、本気で向かって来ていたら、貴様が勝っていただろ?」
誇り高く、その事実を認めたくないが故に回避していたその疑念を、ギィはルドラに問い質す。
ギィが『傲慢之王』を持つように、ルドラもまた『正義之王』を所有している。
その能力を最初から出し惜しみせずに向って来ていたならば、ギィに手傷を負わせる事が出来たのは間違いない。
ルドラが勝てていた可能性もあるのは事実なのだ。
「馬鹿野郎! 倒してしまっても意味が無いんだよ!
俺様の偉大さを認めさせて、改心して仲間になって貰わないとな。
俺は、いずれは世界を征服する男。
それが、我が師でもある"星王竜"ヴェルダナーヴァとの約束だしな」
それが答え。
自分をも従えて見せると豪語する、この男。
ギィは、自分がルドラを気に入っている事を自覚した。
もっとも、気に入っていなければ即座に殺していたであろうから、今更な話ではあったのだが。
「というかな、本気な話……全力で使用したら制御出来ないんだよ。
何しろ、この『正義之王』は、ヴェルダナーヴァからの借り物でね……」
続けて聞いたルドラの話に、ギィは肩透かしを食うと同時に納得もする。
あのヴェルダナーヴァの力の一端ならば、自分をも倒しうる性能であっても不思議ではない、と。
「何だそりゃ。それじゃ――」
意味ないだろ、そう言いかけたギィのセリフは、爆音に掻き消される事になる。
ヴェルザードとヴェルグリンドの姉妹喧嘩が原因であった。
どうやら、生まれたばかりの弟が我侭で、勝手気侭に暴れまわっているらしい。
その原因が、姉のヴェルザードが躾が厳しすぎるのが悪いだの、妹のヴェルグリンドが甘やかしたのが悪いだのと、お互いに責任を擦り付けあっているのである。
何時もの事であり慣れてしまったけれど、自分達に迷惑の掛からぬ所でやって欲しいものだと思うギィであった。
ギィとルドラは巻き込まれぬように避難する。
勝負する気は失せていた。
そもそも、自分が魔王であるのは、ヴェルダナーヴァからの頼まれ事でもあるのだ。
ヴェルダナーヴァの友だというルドラと戦うにも、本気になれないのは仕方のない話である。
「止めだ止め! オレはお前を気に入っている。
だから、お前を殺す気にはなれないし、本気で戦うつもりもねえ。
だが、世界の崩壊を起こさない為にも、オレは魔王であり続けるぜ?」
ギィがルドラの目を見て言うと、
「じゃあ、よ。勝負しねーか?」
気まずそうに照れ笑いを浮かべ、ルドラがそう言い出した。
「勝負だと?」
「ああ。
俺様とお前、お互いに手駒のみ使って世界の覇権を奪い合うんだ。
俺様……いや、俺は人間は一つに纏まれると信じている。
お前とだって、仲良くなれただろ?
魔王や"調停者"なんて要らないんだよ。
ヴェルダナーヴァは理想論過ぎると話も聞いてくれなかったけど……
説得して認めさせたんだよ。
限りなくゼロに近い確率だが、やるだけやってみろってね。
『正義之王』の天使之軍勢は、全てを滅ぼす破壊の天使軍団を召喚する。
だが、俺は使いこなしてみせる。
人が増長するならば、軍事力や文明のみを破壊する。
そして、必ず世界を統一して、理想的な世界を築いてみせる!
だから、お前も人間を殺しまくるのは止めて欲しい」
「はっ! オレは別に虐殺が趣味って訳じゃねーぜ?
気に喰わないヤツを殺すだけだ。
そいつが善人だろうが、悪人だろうが。
オレが気に入ったら生かすし、気にくわなきゃあ殺す。
だが、まあ……いいぜ?
どうせ退屈してた所だ。
オレは手を出さず、俺の代わりに魔王を集めて、そいつ等に任せるとするよ。
魔王による、徹底管理された世界が生まれる前に、お前が世界を統一したらいい。
オレは手出ししねーと約束しよう。
ただし、裁定は行わなければならない。
それがヴェルダナーヴァとの約束であり、"調停者"としての義務だからな。
それに、"勇者"たるお前なら知っているんだろ?
勇者は、最強の力を持つ、正義の代行者。
天使之軍勢がそうであるように、魔王に対する抑止力以上の力を持つ。
それは、"調停者"が管理を放棄した場合に備えた、世界を滅ぼす計画因子なのだと。
ヴェルダナーヴァは完璧主義者で、夢想主義者じゃねーんだ。
数億年かけて知性を持つ生命体を生み出したからこそ、管理してやらないと崩壊するって考えているんだよ」
「だが、それでも!
俺は、アイツを安心させてやらないといけないんだよ。
ヴェルダナーヴァは、俺の妹のルシアと結ばれてる。
そして、ルシアがヴェルダナーヴァの子を身篭った。
今のヴェルダナーヴァは、殆ど人間と変わらない状態になったらしい。
今まで無縁だった、寿命というものに縛られたって、俺に笑いながら打ち明けてくれたんだ。
だがアイツは、ルシアと一緒に逝ける事を喜んでたけど、この世界の行く末を心配もしてたんだよ!
何より、自分の子の将来を……
だから俺が安心させてやる必要があるんだよ。
アイツの創った世界は、立派に成熟し、調和の取れた素晴らしい世界なんだ、って――」
ルドラの言葉に、ギィは言い返すべき言葉が出てこない。
頭の中には、幾つもの可能性や否定の言葉が溢れるのだが、ルドラの気持ちは理解出来てしまうのだ。
無駄に感情に聡い、自分の頭脳が恨めしくもある。
(何だよ、馬鹿やろう……それじゃあ、お前が全て背負い込む事になるだけなんだぜ……?)
自分の、愛すべき親友とも思えるこの愚かな男に、ギィはかける言葉を失っていた。
ギィの頭脳は冷徹に計算結果を算出する。
確率というにも烏滸がましい程の小さな成功率。
この、ギィが勝手に親友だと思っている男は、全ての苦難を背負い理想世界の実現を目指すつもりなのだ。
だが、この男なら、或いは……
そう思わせる何かが、ルドラにあったのは事実である。
結局、ギィはルドラとの勝負を受けた。
ギィの仲間が全て倒れたらルドラの勝ち。その場合は、ギィはルドラに従うのだ。
だが、それが達成出来るまでは、ヴェルダナーヴァとの約定に従い、ギィは"調停者"として在り続ける。
ギィが勝利するメリットは少ない。
せいぜいが、ルドラに無謀な計画を止めさせて、本来の"調停者"の一人として魔王が遣り過ぎるのを防止するだけの立場に戻って貰うだけ。
だが、ギィにはそれだけで十分であった。
頑固な友人は、言葉では決して納得しないだろうから。
こうして、ギィとルドラの二千年以上にも及ぶ勝負は開始したのである。
だが、結果は……
幾つもの悲劇が繰り返された。
子供が生まれた直後、ルシアとヴェルダナーヴァはナスカ国を狙う国の仕掛けた魔法攻撃により帰らぬ人となる。
ミリムは親の顔も知らずに育っている。そして、ルドラと血の繋がりがある事さえも知らぬのだ。
そんなミリムの護衛も、とある国家の計略により葬られた。
激怒するミリムを宥めるのに、ギィもまた全力で阻止に動く事になったのだ。
繰り返される苦難。
突きつけられる人の世の醜さ。
転生を繰り返すごとに聖なる力は磨耗して、"勇者"としての資格をも失っていく。
それでもルドラが"聖人"であり続けたのは、彼の理想を求める心の為せるわざであったのだろう。
だが――
何時しか、ルドラは心を蝕まれ、理想主義からかけ離れた手段を取るようになっていく。
冷酷で、残酷な。
ギィに勝つ事が全てとなり、それは結局、より多くの血を流す結果となった。
「だから言ったんだよ、馬鹿野郎……
そういうのは、悪魔たるオレ達、感情を完璧に制御出来るオレ達にこそ、相応しいんだ……」
そう呟くギィは、自分の頬に流れ出すモノに気付く事は無く……
ただ静かに、親友だった男の冥福を祈るのみ。
こうして、永きに渡るギィとルドラのゲームは、終わりを告げたのである。
本編再開は、もう暫くお待ち下さい。