152話 大戦勃発 -動揺と覚悟-
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戦争が始まった。
それは思っていたよりもアッサリと。
テスタロッサの示した最終警告線を、躊躇う事無く踏み越える帝国軍。
その瞬間、東の帝国と魔物の国は、戦争状態に陥ったのだ。
即座に反応したベニマルの指示が、思念リンクにより第一及び第三軍団へと伝えられる。
一斉に行動を開始するテンペスト勢。
戦車砲の威力が定かでは無い以上、迂闊に同じ位置に留まるのは自殺行為だ。
未だ両軍が接触するには距離があるが、相手側の有効射程距離が判明しない以上、油断は出来ない。
元の世界の戦車と此方の戦車との目立った相違点は、砲身が短い事、だろうか?
木が生い茂るジュラの大森林の中にも、幾つかの貿易ルートが通っている。
牧草地を抜けて、そのまま大河を越え、東から侵攻して来た戦車部隊だが、木が生い茂る森の中であっても砲塔の旋回に困らぬ長さとなっていたのだ。
あれで命中精度と射程に影響が無いのか疑問だが、先程のライフル銃のような携行武器の性能から見てもその辺りはクリアされた問題なのだと思えた。
先程のライフル銃は、無反動な上に無音のようだった。
あくまでも、大スクリーンに映し出されるのは現地の光景のみであり、音の再現は出来ていない。
実況の者がいて、映像水晶で此方に映像を送ってくれる方のモニターには音声も出るのだが、監視魔法では音の再現は出来ていないのだ。
まあ、高高度からの光線による映像波形を魔法処理している訳で、音を伝えるにはどうしても誤差が生じる。
こればかりは、ラファエルによる修正が可能なレベルでは無かったのだ。
雷で例えれば判りやすいだろうか?
光から数秒誤差が生じるので、音の情報は負荷もかかるし伝達させていないのである。
そんな訳で、先程のライフル銃が無音なのかは大スクリーンの映像からは判断出来ないのだが、テスタロッサからの思念報告にて無音であると判明していたのだ。
であるならば、あの銃も魔法式と言う事になる。
火薬による方式を魔術で代用した代物。
間違いなく、戦車も同様の技術であろうし、無反動で精度もある程度は高いだろう。
後は射程距離と威力、か。
自分が戦うのではなく、仲間の戦いを見ているだけと言うのが思ったよりもしんどい。
だが、今の俺に出来るのは状況判断のみである。
この戦いを見守る事にしよう。
状況が開始する前に、改良した〈物理魔法〉"神之怒"を使用しようかと意見を言ったのだ。
だが、その案はベニマル――多分だが、ラファエルとの相談の上で――によって止められた。
理由は幾つかあるらしい。
まず、国家として歩み始めた以上、何時までも魔王である自分達の主――つまり、俺――に頼ってはいられない事。
自分達の国であると自覚し、祖国は自分達が守るという意思が無いなら、この国に住む資格もまた無い。
そういう理由がまず一つ。
次に、"神之怒"の弱点による理由。
管制室に居ながらに発動出来るのは、恐るべき魔法である。
ただし、そのネタがばれたら幾つかの対応策もまた可能となる。
前回は皆殺しにしたから、"神之怒"の情報漏洩は無い訳だ。
だが、今回のような戦争に於いて、不用意に使用して生き残りを出した場合、即座に対応されてしまうのは間違いないとベニマルは説明した。
太陽光を束ねた高温熱線がその正体であり、視認による回避はほぼ不可能。
しかし、遮熱効果を持つ素材にて被覆しておけば、ある程度の防御効果は得る事が出来る。
戦車部隊が出た時点で、あれを壊すのは簡単では無いと判断されていた。
威力を高めて、1万度程度に収束させなければ、戦車を貫通出来ないだろうから、である。
また、油で動いている訳ではないようなので、爆発炎上もしないと予想出来る。
貫通させた程度で、戦車の動きを止める事は出来ないかも知れないのだ。
対人魔法としては絶大な威力なのだが、あのような近代兵器が出て来ると話は別なのである。
寧ろ、普通に核撃魔法で吹き飛ばす方が簡単だろう。
その場合は、結界を張る魔法使いを先に始末する必要があり、結局は泥沼の戦闘に縺れ込む事になる訳で……
上手く行かない話なのだ。
じゃあ、人だけ狙い撃てば? と思ったが、これは自分でも無理だと理解出来た。
俺がファルムス王国に対し無双したのは、現地で直接対決したから可能だったのだ。
精密射撃を行おうとすれば、様々な中継地点を用意し、光の反射を利用する必要がある。
鎧の隙間を狙い撃つ必要があるからだ。
大スクリーンを見ながらでは、それは不可能だった。
流石に空間を隔てた戦場に対し、『魔力感知』による正確な空間把握が出来ないからだ。
なので、離れた地点への攻撃は、常に上空から撃ち下ろすのみ、となってしまうのである。
確かに納得出来る話で、早々に使うと対策を講じられるのは予想出来るので、使う局面は見極める必要がありそうだった。
ならば、指揮権をベニマルに与えた以上、俺の仕事は見守る事のみ、という事になるのだ。
そんな訳で、俺は戦場を見守っていた。
ゴブタの隊は、一糸乱れぬ動きで、速やかに側面方向へ移動している。
恐らくは、帝国軍も魔物探知の魔法によりその位置を掴もうとしているだろう。
此処からは、錬度と速度の勝負になる。
ゴブタはベニマルの意思通り、その速度を利用して雷鳴の速度で戦車部隊の横面を叩く。
戦車砲塔が旋回するよりも早く、その懐に潜り込むのが狙いであった。
砲塔の死角を守るように配置された歩兵部隊へ打撃を与え、離脱する。
その動きは洗練された美しさでもって、大スクリーンに映し出されている。
ソウエイ配下の情報撮影部隊が送って来る映像でも、ハッキリと判る程に機動力は高い。
戦場を縦横無尽に駆け巡る、一個の巨大な魔物のように。
同時に、上空でも戦闘が開始されていた。
ガビル率いる第三軍団が、上空に隠れ潜む飛行船団に襲い掛かったのだ。
これには相手も相当に驚いたようで、即座に対応が出来ないでいた。その結果、三隻程を一瞬で沈める事に成功している。
欲張らずに波状攻撃となるように、全員一撃離脱を繰り返した成果であった。
ガビルも自分の配下の訓練を相当にこなしたようで、目ざましい程の空戦能力を獲得しているようだ。
飛竜の吐く火球は、それ程に威力は無い。
だが、全員で一点集中させるお陰か、魔力結界を突き破る火球が何発が出たのである。
ただし、その本来の戦術効果は、上空から地上への攻撃なのだ。
お互いが空の上での戦闘になるのを想定していない中での実戦なので、大健闘と言っても良い成果なのであった。
ゴブタにガビル。
二人は訓練の成果を最大に発揮し、初の実戦にて成果を上げる。
しかし、何事も全てが上手く行く事は無い。
それは直ぐに証明される事になってしまうのだ。
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ガスター中将は、忌々しげに迫り来る騎兵を睨み付ける。
(クソ共が調子に乗りおって!!)
内心の憤懣は、目の前に迫る魔物達により、晴らさせて貰う。
先程、緋色の髪のテスタロッサにより植え付けられた恐怖心諸共に。
一撃離脱しか出来ぬ魔物は、如何に素早く動けようとも戦車に傷を付ける事も出来ないだろう。
素早く部下に命じ、戦車砲を準備させる。
魔素を詰め込んで破壊力を高めた砲弾式と、空中より魔素を収束し放つ、波動式。
砲弾ならば連射可能だが、残数に限りがある。
波動ならエネルギー充填に3分少々時間が掛かるが、残数制限が無いのだ。
交互に放つ事も可能なので、一発目に波動式を放ち、次弾充填の間に砲弾を放つ。
ガスター中将の命令に従い、戦車砲が準備完了した。
(そもそも、上は何をやっておる。地上掃討など、上空から狙い撃ちし放題なのに!)
同僚の怠慢に腹を立てつつ、周囲の樹木目掛けて外周部隊の戦車砲を放つように命じた。
順次交代しつつ、周囲の樹木を薙ぎ払い、戦場を拡大していく戦車部隊。
そもそも、いくら広い交易路とはいえ、戦車が三台も並べば手狭となる。
密集した樹木の隙間から、野生動物以上の速度で襲撃を仕掛けて来る相手には分が悪いのだ。
先ずは有利な条件になるよう、戦場を整える事から開始した。
命令を受けた部下達は、慌てる事無く、淡々と任務をこなす。そう時間を掛ける事無く周囲の樹木が薙ぎ倒されて、戦車を運用するに足る広い空間が開ける事になった。
これにより、逃げ隠れする障害物を失ったゴブタ率いる第一軍団の優位性が失われる事になったのだ。
上空でも激戦が始まっていた。
初回こそ、不意を突かれて不覚を取ったものの、空戦飛行兵団の飛空船100機を統括するファラガ少将は有能な男であった。
今回の任務、対ヴェルドラ封じ込め作戦の要である、最大規模の魔素撹乱放射発生装置も備え付けた空の要塞とも呼ぶべき飛空船。
それを操縦するのは、精鋭たる魔術師クラスのメンバーが率いる魔法使い達である。
魔法増幅砲の調整も万端であり、魔力結界は常に飛空船を守っている。
更には、障壁盾という物理攻撃に対応する魔法を増幅させて、飛空船への攻撃を防ぐのだ。
生半可な攻撃は通用せず、現に最初の波状攻撃以降、飛竜の吐く火球程度ではダメージを受ける事など無いのだ。
自然とファラガ少将は笑みを浮かべ、余裕を取り戻していた。
冷静になってみると、たかが飛竜如きに驚かされた上、三隻も沈められた事に憤りを感じる。
障壁盾の展開が間に合わなかったにしろ、魔力結界を抜かれるとは、弛んでいる証拠であった。
その怒りを迫り来る飛竜達に向け、
「反撃だ! 魔法増幅砲台に待機する魔法使いは、呪文詠唱を開始せよ!」
と、檄を飛ばした。
普通に放つ魔法使いの呪文を、20倍の威力に増幅する魔法増幅砲。
砲とは名ばかりで、実際には使用する魔法を増幅する能力がある台座しか無いのだが。
純度の高い魔石にて作製された巨大な呪文制御宝珠――本来は、拳大の杖の先に付いている宝珠――による、呪文増幅効果により、様々な大規模魔法が解き放たれる。
上空の戦場には、雷や氷雪、炎や真空刃にて、眩しい魔法の光が乱舞する事になる。
当然、その対象となるガビル達も無事という訳にはいかないだろう。
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戦況を眺めていた俺は、椅子から立ち上がった。
戦車砲の爆発を受けて、ゴブタの配下数名が吹き飛ばされる。
大規模魔法に襲われて、ガビルの部下の飛竜を駆る蜥蜴人族諸共墜落していく。
最初の優位性が失われると同時に、被害が出始めたのだ。
被害が出る事は予想していた。
いや、予想していたが、半ば楽観していたのかも知れない。
大した事なく勝てるだろう、と。
智慧之王が何も言わない以上、何の問題も無いと甘い考えを持っていたのだ。
だが、現実は違った。
そりゃそうだ。だって、今やっているのは戦争なのだから。
此方に全く被害が出ずに、勝利する事が当然な訳が無いのだ。
俺は自分の見通しの甘さに、何とも言えぬ腹立ちと焦りを感じていた。
「座っていて下さい、リムル様。想定内です。問題は御座いません」
ベニマルが涼しい顔で俺に言う。
その言葉に、俺の中で何かが暴発したように反応する。
「お前、犠牲者が出ているじゃねーか! だから俺が出て"神之怒"で――」
だが、途中で俺の言葉は遮られた。
「それは駄目です。総大将として、王を危険に晒す事は認められない。
何より、敵方にユウキという危険人物が居る。
更に皇帝近衛は強者だと聞きます。
他にも帝国には強者が居るかも知れない。
相手の戦力が確定せぬままに、王を前線に出すなど、論外。
我等を信じて下さい」
その言葉に、俺は椅子に力なく座り込んだ。
この、腹立ちとも苛立ちとも付かぬ、不快な感情が消えた訳では無い。
無いのだが、ベニマルの言葉は余りにも正しすぎた。
俺の背後に控えるシオンも、傍らに立つソウエイも。
ディアブロは言うに及ばず、俺を心配そうに見るシュナまでが、皆、犠牲は覚悟していたのだと悟る。
そしてそれは、ここに居る者だけでなく――
恐らくは、前線で戦っている者達も、また。
自分達が、強者を釣る為のエサになる覚悟を持って、戦場に立っていたのだろう。
覚悟が無かったのは、俺だけだったのだ。
そしてその時、
――だからこそ、私が完璧で無ければならないのです――
と、どこかで声が聞こえた気がした。
お前にまで、心配かけてしまったのか?
だが、もう大丈夫だ。
俺が悲しむのは、奴等に失礼だしな。
「すまん、ちょっと冷静じゃ無かった……」
俺がベニマルに謝ると、ベニマルは頷き、
「ご安心を。勝利は必ず、リムル様のものです」
と、俺に約束する。
普段の気軽な顔はそこに無く、兵の命を預かる大将軍の真剣な表情で。
その言葉に、俺の苛立ちや葛藤、そういう不快な感情が消えていくのを感じた。
自分が死ぬ事も、敵を殺す事もとっくに覚悟出来ている。
だが、自分の為に誰かが死ぬ事に対しては、深く考えないようにしていたのだ。
俺は受け止める必要があった。
その行為は俺の為だけに為されるものでは無く、彼等の家族やそれを保護し守る国、そういう全てを象徴するものとして俺という存在があるのだ、と。
だからこそ、俺はその彼等の行為に対する代償として、決して敗北は許されないのだ。
「当然だ。俺の言葉を全員に伝える。いいな?」
「は! ぜひ」
ベニマルの承諾を得て、『思念支配』の能力を最大に発揮し、俺の魂の系譜に連なる全ての配下に、
『聞け! 全力で敵を叩き潰せ。
容赦する必要は無い、そして手加減の必要も無い。
お前達の持てる力の全てで、速やかに敵を排除せよ!!』
想いの全てを込めて、命令を下した。
俺の言葉に頷くベニマル。
幹部達の顔に笑みが浮かぶ。
その命令は、一つの事柄を意味した。
制御されていた、力の解放。
俺の言葉の意味を正しく理解し、魔物達は活動を再開する。
そして……
俺の言葉は、戦局を大きく変える事になるのだ。