135話 事後処理
レオンの部下、見覚えのある銀鎧の騎士――銀騎士卿アルロス――が、俺の元まで飛んで来た。
緊急らしく、案内されるのももどかしげに到着するなり、
「レオン様と、神楽坂優樹が交戦状態に入りました。
至急、応援を求めます!」
と、奏上する。
うーん? レオンのヤツ、協力すると言いつつ抜け駆けしたのか?
そもそも、協力だから手助けする義務は無いとも思うが、同盟ではないし……
まあいいや。
レオンに手柄を奪われるのなら、それでいいのだが……
意地悪言って、レオンが死んでも寝覚めが悪い。それ以上に、ここでユウキを逃がす方が面倒くさい。
ああいう厄介そうなヤツは、叩ける時に叩いておくべきなのだ。
さっさと行って始末する方が良さそうだ。
「わかった。では、場所の案内を頼む」
「は! 場所は……」
アルロスが説明しかけるのを遮り、
「思念リンクさせて貰うぞ。場所の位置座標が知りたい」
アルロスの了承を待たず、思念リンクを構築した。
これにより、思考の伝達がスムーズに行える。事後承諾だが、緊急事態だし了承して貰う。
本部に居る幹部は、ベニマルとシオン。対ユウキ戦用の準備を整えさせていたので、シオンの準備も万端だった。
ベニマルとシオンにも思念伝達で状況を伝えると、即座に俺はアルロスを伴って瞬間転移を行った。
アルロスの脳内座標に従い、初めて行く場所への転移になる。
軽くドキドキしたけど、智慧之王のサポートは完璧だ。
問題なくレオンとユウキの戦闘している地点上空へと、転移が完了した。シオンにも位置情報は流しているので、遅れてやってくるだろう。
影の中にはランガもいるし、最悪ヴェルドラも召喚出来る。ともかく、先ずはレオンを救出して……
そう意気込んで転移した訳だ。
それなのに、ユウキは逃げた後だった。なんじゃそりゃ? と言いたくもなるというものである。
さて、状況を整理しよう。
地形が変わる程、激しい戦いがあったのだろう。山の山頂に向けて激しく抉れた痕跡が残り、周囲の木々は腐敗して腐っている。
地面も何だか腐ったようになっている部分もあるし、綺麗な真円にクレーターが出来ていたりもした。
そんなに広くもない山道で、何をド派手な戦闘を仕出かしているんだ、とそっと思う。
ここって、ドワーフ王国の上層部のハズ。位置的には大分端にずれているのだが、これだけの戦闘なら結構酷い振動で地震以上に被害が出たかも知れない。
震度で言えば4以上か? 下からの突き上げではなく横揺れだろうから、それなりに被害が出ているかもしれない。
ここは火山地帯ではないし、地震は珍しいだろうから、被害が心配だ。
様子を見に行った方が良いだろう。そう思っていると、シオンが到着した。
「おい、ちょっとドワーフ王国まで行って、様子を見て来てくれ。
被害が大きいようなら、お前とお前の部下達で手助けを。王には、後で挨拶に伺うとだけ伝言を頼む」
「は、了解しました。ですが、敵は宜しいのですか?」
「ああ、既に逃げられて、もう危険は無いみたいだ。なので、気にせず行け。
くれぐれも、失礼の無いようにな」
「はは!」
シオンは去った。
シオンの部下も速やかに付き従っていく。よく訓練されているようだ。
ふと、その中に見覚えのある三人組が見えた。あれって、魔王ダグリュールさんとこの三人息子では?
何というか、馴染んでいる。ちゃっかり指揮官のような動きをしていたが、シオンのヤツ、あいつ等を取り込んだのだろうか?
というか、いいのか? 他の魔王の息子を取り込んでも?
……まあ、いいか。知らなかった事にしよう。そうすれば、俺に責任はない、訳はないよな……。気にしたら負けだな。
それは今は考えないでおこう。先にレオンである。
「さて、レオン。説明して貰おうか?」
レオンは、先ほどから骨や肉を掻き分けて何かしていた。
何やら赤い塊――よく見ると、膝を抱えて丸まった赤い鎧を着た女性のようだ――を掘り出しているようだ。
その女性を引き摺り出すと、周囲の肉片を浄化の光で綺麗に消している。
その作業を一段落させると、ようやく俺に振り向いた。
「見ての通りだ」
わかるだろ? みたいに言ってのける。
わかるかーーー!!
叫びたいのをぐっと堪えて、
「いいから説明しろ、な?」
俺も笑顔で応えた。
無いから良かったが、あれば額に血管が浮き出る所だった。
口数が少ないイケメンというのも、こういう場合は許されない。というか、俺が女だったら許したのだろうか?
いや、許さん。絶対に。
「妾も詳しく聞きたいのう。当然、詳しく話してくれるのだろうな、レオンよ?」
ナイスタイミング。
空間を裂いて、ルミナスと"七曜の老師"が出現した。
どうやら、俺だけではなくルミナスにも応援を呼んでいたようだ。というか、一応協力する気はあったのか?
レオンなりの良くわからぬ基準で、俺達へ連絡してきたようである。
「ふむ、来たか。ユウキという人間一人、俺だけで何とかなると思っていたのだ。
スマンな、取り逃がしてしまった。甘く見ていたようだ」
俺とルミナスが揃ったと同時に、レオンが謝罪してくる。
そして状況を説明してくれた。
抉れた地肌に、腐食した植物。そういう背景の中、何故か優雅なティーセット。
甲斐甲斐しく"七曜の老師"達が準備したものだ。その中で、さも当然というようにソファーに寝そべるルミナスに、椅子で寛ぐレオン。
おいおい……何なんだ、その寛ぎようは。
「ささ、どうぞ」
老師――と言っても結構若そうな声だったが、顔が仮面で見えないのだ――に上等な椅子を薦められ、俺も座る。
なかなかに座り心地が良い。上質な造りであるようだ。
大きな団扇でルミナスを煽ぐ老師達。一種異様な光景であるが、気にしない方が良いだろう。
「さて、では説明せよ」
ルミナスが促し、レオンが説明する。
要約すると、俺の訪問の後、単独でユウキに仕掛ける事を決意。そして実行に移したそうだ。
俺達に声を掛けなかった理由は二つ。
ユウキを舐めていたのと、自身の能力を見せたく無かったから。
「仮にだが、俺達が共闘していた場合、お前達は真の力を見せたか?」
というレオンの問いかけに、俺とルミナスは言葉に詰まる。
「無論、見せておる。お前達を信用しているからな」
と思ったが、ルミナスが笑顔でそう答えた。
思いっきり嘘だろう。というか、魔物って嘘を吐けなかったのじゃないのかよ!?
確か、存在が揺らぐとか何とか言っていたようだけど……
《解。種族特性により物質的肉体を持つ者は、精神的存在値が高く"嘘"も可能です 》
あ、そう。
確かに、ミリムも嘘を吐いても平気そうだ。
というか、高位存在は大抵平気そうだ。案外当てにならないようなので、前提として考えない方が良さそうだ。
しかし、ルミナスの嘘はともかく――まあ、嘘とわかる時点で、本当は実力を隠すと言っているのと同意だが――確かに俺達が同時に来ていたとしても、状況は大して変わらなかったかもしれない。
ユウキは究極能力に目覚めたようだし、逆に俺達が実力を出せずに三人揃って出し抜かれるだけだった可能性もある。
ぶっちゃけ、俺も見せるつもりがあるのは暴食之王だけなのだし、その他は切り札だ。
魔王と言っても仲間では無い。いや、味方ではあるのだが心を許したわけではないのだ。
レオンの言葉に納得するしかなかった。
結局結論としては、ユウキにより部下を一人失い、ユウキの逃亡を許した、と。
だが幸いな事に、レオンの部下の一人である黒騎士卿クロードが、ユウキの部下として潜り込む事に成功したようだ。
一度はユウキにより心を奪われたらしいが、クロエにより元に戻されたらしい。どういう現象かは不明だが、クロエに治癒出来たのは僥倖だった。ユウキにはばれていないようなので、スパイとしての活躍が期待出来そうである。
警戒すべきはユウキの能力である。
命を奪ったり、人の心を奪ったり。どうやら、エネルギーを奪って自身のエネルギーに還元したりも可能なようだ。
《解。対象の能力は、究極能力『強欲之王』でしょう 》
え? そんな事までわかるの?
一瞬驚いたが、ラファエルには理解出来たらしい。奪う事に特化した能力で、それ程の脅威では無いと豪語していた。
俺の能力の劣化版に相当するらしく、究極能力と言っても格下に相当するようだ。
というか、ラファエルさんの自信は一体どこからやって来るのか、そちらの方が気になる所である。
気のせいだろうが、フッ、と鼻で笑う感じで、俺に強欲之王の解説をしてくれた。油断は出来ないが、恐れる事は無さそうだ。
レオンの話を聞き、今後の方針としては黒騎士卿クロードからの連絡を待つという事で話が纏まった。
そして問題となるのが、ミリムのペットの混沌竜を葬ってしまった事、だろう。
大問題である。
何故俺達が巻き込まれないといけないのか、という疑問が心に浮かぶ。
「うん? お前はミリムと仲が良いのだろう? 助かったよ、君が居てくれて」
爽やかな笑顔で、レオンが言い逃げするつもりのようだ。
何だか急に親しげな態度になっている。
ちょっと待て、この野郎……
「うむ、妾は話が聞けた事だし、そろそろお暇しようかの」
ルミナスが逃げようとしている。
何という自分勝手さ! だがまあ、それが魔王達だ。逆に、協調性を魔王に期待する方が間違っていた、そう考えるべきだろう。
俺が後始末をする事になるのは望ましく無いのだが……。
ふと、銀騎士卿アルロスと青騎士により清められている赤騎士を見る。
あれ? 何だか、まだ生きているような?
近づいて様子を見た。生命力はゼロになっているようだ。普通は、死亡と判断する所であるけど……
「おい、ルミナス。お前って、生と死を司るんだよな?」
「ッチ。軽々しく言うな、殺すぞ!」
「あ、スマン。でもまあ、ちょっと見てくれよ」
軽く謝罪して流し、ルミナスを呼ぶ。
帰り支度を命令していたルミナスが立ち上がり、傍にやって来た。
「なるほど、確かに。生きてはいない、が……蘇生は可能」
目を細め、赤い髪の女性を見つめ、ルミナスも断言した。
この女性、魂が残っていたのだ。しかも、何故か二つある。
「本当ですか!? 姉はまだ生きて?」
「生きてはおらぬ。が、死んでもいないのじゃ。
死の定義とは、肉体活動の停止では無く、魂の消滅。
この女には、魂が残っておる。故に死んではいない」
「だけど、不思議だな。何で魂が肉体から切り離されないんだろ?」
通常は、肉体の活動停止と同時に、根幹が切れるのだけど。
俺のような、精神生命体はこの限りでは無いが、普通の魔物や人間などはこの法則に縛られる。
一体どういう事なのか?
《解。強欲之王の能力で、丁度ゼロになった為に、仮死状態になっております 》
なるほど、流石は先生だ。
では、何故魂が二つ? というか、答えに気付いてしまった……
《解。正解です、混沌竜の魂の結晶です。
不純物を取り除かれており、純粋たる元の状態の模様です 》
な、なんだと!?
呪われて無いのなら、復活させても問題ない。どころか、ミリムの怒りを免れる上、喜ばれて感謝までされるだろう。
「聞け、お前達。この女性は、何としても復活させねばならない。
しかも、思わぬオマケが付いて来る事になる。そこで、相談だ」
そして、ラファエル先生の解析結果を元に、相談を開始する。
青色の騎士さんは、何やら姉と言っていたので身内なのだろう。何か言いたそうにしていたが、弁えてアルロスと二人控えて待っていた。
魔王同士の会話に、一介の部下が参加する事は不敬だと考えたのだろう。だが、姉の生き死にの問題であり、気が気ではないようだ。
その事も踏まえ、結論を出す。
魂を分離する事は可能。俺の懐には、宝珠がある。
周囲に漂う魔素と核と魂で、復活させる事も出来るだろう。しかし、問題は弱体化――どころの話ではないが――する事だろう。
まあ、ミリムの怒りは解けると思う。ミリムは強さなんて求めていないだろうし。
その為に、赤騎士の蘇生も必要となる。なので、ルミナスに頼んだ訳だ。
生と死を司るルミナス。
自身の能力を一端とは言え見せたく無かったのだろう。散々嫌そうにしていたが、結局は蘇生してくれた。
ミリムに恨まれるのも面倒だと思ったのか、本当は優しいのか。
「はは、有難うさん。ルミナスはツンデレだな?」
とからかったら、殺すぞ! と凄まれた。
危険なので、これ以上弄るのは辞めようと思った。
赤騎士も蘇生し、青騎士と共に感謝の言葉をルミナスと俺に告げる。
俺はいいよ、何もしてないし。
そんな訳で、後始末を終えて解散したのだ。
俺の懐には、一個の宝珠。やがて怒り狂ってやって来るミリムの相手は、相談するまでも無く俺に決定していた。
まあ、仕方あるまい。
誰しも危険な目に会いたくは無いのは一緒だ。
レオンとルミナスに、今後はせめて何かする前に一言告げるという事で、話を終わらせる。
レオンとルミナスは、俺を介しての協定しか結んでいなかったので、ここで俺達魔王としても、対ユウキの協定を結んだのだ。
人間の国家群や、魔王達。
俺と魔物の国を中心に、様々な条約や協定が結ばれた。
今後これらの関係はその姿を変えていく事になる。
激動の波は、魔物の国へ向けて流れて来る事になるのだ。
暑さで、書く気力が湧かなかったです。
というか、話が上手く纏まらなくて文章化出来なかった。
次回は日曜には何とか更新したいです。