124話 勇者誕生
ニコラウスが落ち着くのを見計らい、事の顛末の説明が為される。
フリッツも落ち着きを取り戻し、ヒナタと旅に出てからの出来事を包み隠さずに全て話した。
子供達もグレンダに連れて来られて、フリッツの説明を聞き入っている。疲れているだろうに、一様に真剣な表情で聞き入る子供達。
グレンダに食事を与えられたようだが、それだけでは精神的な疲労は回復しないだろう。それなのに、文句や泣き言も言わずに自分達なりの意見を述べている。
フリッツはその様子を眺め、ヒナタの行いは間違いでは無かったのだ、と強く思った。
ニコラウスは、状況を整理する。
まず重要なのは、自由組合の総帥である神楽坂優樹が敵であるという事実。
彼による思考誘導や洗脳の程度は不明であるが、復活した魔王カザリームを配下に加え、その危険度はかなり高い。
次に、ヒナタの行動理由。
魔王リムルとの戦いで、自分に対する思考制御蟲"呪いの結晶"を解呪され自由意志を取り戻したヒナタは、同様の者を生み出さないように子供達の救出作戦を決行した。
しかし、ユウキによる子供達を囮にした罠を仕掛けられて、その場で戦闘行為が開始された。
相手は勇者。数十年も姿を隠し、表舞台に現れなかった勇者が、ユウキに従いヒナタと戦闘を行ったという。
ニコラウスには信じられない思いがあったが、フリッツや子供達の証言から間違いは無いと判断した。
その際の会話で得た情報。
ユウキの目的は世に混乱を齎し、この世の支配者になる事らしい。
その為に何度も召喚を実行し、何らかの取引目的に添って動いているとの事。
恐らくは、ユウキの協力者か、或いは利用している者との共通目的の為だと考えられる。
自由組合の副総帥が魔王カザリームである事。
神聖法皇国ルベリオスの教皇、自分達の信仰の対象は、神の代理人では無く操り人形であった事。
西方聖教会の定める聖霊に準ずる唯一神ルミナスの意思、それこそが、魔王の意思であったという事。
つまり、唯一神ルミナスが、魔王だったなどと……
だが、この情報は流石に素直に信じる事は躊躇われる。
ヒナタは疑う事なくその情報を信じた様子だったと言うが、千数百年にも渡る神聖法皇国ルベリオスの歴史を鑑みても、そこには紛れもない平和と安定が確かに存在しているのだ。
魔王の支配下であったと言われても、素直に納得出来るものでは無い。
まして、勇者が魔王の手の内にあり、ユウキがそれを奪い利用しているなどと、聖なる存在への冒涜も甚だしい。
事実ならば決して許せる話では無く、全てを賭しても勇者開放へ向けて動くべき事態であった。
けれども、ヒナタと勇者と称する者の戦いが、紛れも無くその存在が勇者である事を証明する。
ニコラウスやフリッツ、聖騎士達強者の目から見ても、ヒナタの強さは群を抜いていた。そのヒナタが、為す術も無く敗北したと言うのだ。
魔王リムルとの対峙以降、更に腕を上げていたヒナタを圧倒出来る存在など、それこそ勇者であるとしか考えられなかった。
「しかし……敵に勇者が居るなどと……
こんな事を発表すれば、各国は教会を見放しますね。
魔物や魔王ではなく、勇者。
最悪です。そして、ユウキほどの者ならば、その情報を利用しないハズが無い」
聖騎士団長レナードの発言に、神妙な顔で頷く聖騎士達。
しかし、果たしてそうだろうか? ニコラウスは思考を重ねる。
嘗ては、ヒナタが全て行っていた。ニコラウスは全てをヒナタに任せていれば良かったのに……。
怒りと悲しみ、そして悔しさがニコラウスの心を満たしそうになるが、今は意志の力でそれらの感情を捻じ伏せる。
「いえ、それならば魔王ルミナスに自分が勇者を攫ったと自白するようなもの。
魔王と戦う程の戦力が無いからこそ、策を持って行動していたのではないでしょうか?」
ニコラウスは自分の考えを述べる。
頼れるヒナタは既に居ない。自分達で判断を下さねばならぬのだから。
「しかし、勇者の力は圧倒的でした。
ユウキは勇者を支配したようですが、それならば魔王に対抗出来るのでは?
というより、その、魔王ルミナスとはどういった魔王なのでしょう?」
実際にヒナタと勇者の戦いを目撃したフリッツが、その疑問を口にする。
ヒナタを圧倒する勇者ならば、魔王ルミナスよりも強いのではないのか?
それ以前の疑問として、魔王ルミナスとは如何なる存在なのか?
ニコラウスは、その疑問に対し、自らの知識と記憶を探って答えを見つけ出した。
「ふむ、魔王バレンタインですか……。
古い文献を纏めた書物が、西方聖教会にも伝わっています。
まず、十大魔王について説明しましょうか」
ニコラウスは、自分の知識を説明する事から始めた。
十大魔王。
原初の三人。
"暗黒皇帝"ギィ・クリムゾン。
"破壊の暴君" ミリム・ナーヴァ。
"迷宮妖精"ラミリス。
この三名は有名だ。
都市を死滅させた逸話や、死の大地が生まれた経緯等が、恐れとともに伝わっている。
ラミリスは自分達の信仰する聖霊の一部とも言える存在の変異した魔王のようで、ギィとミリムを仲介する程の実力者だと言われていた。
決して怒らせてはいけない、神の如き存在である。
続いて、
"大地の怒り"ダグリュール。
"夜魔の女王"バレンタイン。
という、二人の魔王の名が上げられる。
死の大地にあるという、天空門を守護する巨人族が、濃厚な魔素を浴び続けて魔王に変異した存在のダグリュール。
彼も有名な魔王であった。
そして、問題のルミナス。
それは恐らくは、吸血姫バレンタインの事であろう。
吸血鬼の女王として、圧倒的な魔力を有する魔王。人外の美貌を持つ絶対者。
その住まう都は、夜薔薇宮と呼ばれる程に美しい、常夜の華だったと伝わっている。
しかし、大昔に"竜種"暴風竜ヴェルドラとの戦いに敗れ、その都市を破壊されてしまったらしい。
それ以降、魔王バレンタインは表舞台から姿を消している。
その消滅が確認されて居ない為に、除籍になる事なく今まで十大魔王として吸血姫バレンタインとして伝わって来たのだった。
「つまり、魔王バレンタインこそが、唯一神ルミナスを演じていた魔王であると考えます。
他にもう一名、古き魔王が居ますが、天使が堕天した存在であるようですが名前も不明です。
その他は、比較的に滅ぼされる事も多く、獣王カリオンや天空フレイ、金髪レオンと言った若い魔王になりますね。
我らの宿敵、魔族を使って暗躍していたクレイマンも対象外でしょう。魔王リムルに滅ぼされたようですし……」
ニコラウスの説明を受けて、魔王バレンタインこそが、唯一神ルミナスを名乗り神聖法皇国ルベリオスを影から支配していた者であると結論付けた。
状況から間違いはなさそうであり、聖騎士達からも反対意見は出なかった。
そして、余りにも重い事実に、皆言葉も無く黙り込んでしまう。
自分達の信仰の対象が、魔王だったのだ。
笑えないし、認めたくない。けれども、認めるしかない状況に混乱したとしても仕方が無いと言えた。
ヒナタの安置された大聖堂の中央にて、皆が思い思いに座り込み、今知らされた受け入れがたい真実に向き合っていた。
ニコラウスやレナードとしても、受け入れた訳では無いのだ。ただ、そう考えるしか辻褄が合わないという話なのである。
これも、ユウキによる思考誘導や誤解させるための罠であったならば、その方がどれだけ気持ちが楽になる事か。
そして、これからの方針についても問題である。
ユウキは敵だ。それは間違いない。ニコラウスとしては、何があってもユウキを許すつもりは無かった。
だが……
「原初の魔王程では無いにせよ、古き魔王の一柱でしたか……。
それでも……勇者ならば、ルミナス・バレンタインに勝てそうですね。
つまり、勇者を支配下に置いた今、ユウキとしては魔王を恐れる理由が無くなった、そう考えて良いのでは?」
悩むニコラウスに、レナードが意見を述べる。
そうなのだ。先ほど、自分で説明しながら、ニコラウスも同じ事を考えていた。
ユウキは魔王に劣るかも知れないが、勇者ならば古き魔王にも勝てるだろう。何しろ、バレンタインより強かったという暴風竜ヴェルドラを封印しているのだから。
だとするならば……
神聖法皇国ルベリオスを糾弾し、魔王の正体を暴くような真似をしている場合では無いという事になる。
唯でさえ、ヒナタが倒れた今、希望の象徴である勇者を敵にした聖教会に人心を惹きつける求心力は無い。そんな中、唯一神ルミナスが魔王だなどと発表しようものなら、聖教会の存続にも関わる事態になってしまうだろう。
ユウキがここまで見抜いた上で情報を流した訳では無いだろうが、知り得た上で尚、ニコラウス達に打てる手は少なかった。
ニコラウス、レナード、そして聖騎士達はその事に思い至り、誰も言葉を発する事が出来ないでいた。
「自由組合の総帥が、次に起こす行動は大胆になる、か」
ニコラウスの呟きに答える者はいない。
だが、その時。
「な、何だ!? この強烈な妖気は!! 全員、警戒態勢に入れ!」
レナードの叫びに、聖騎士達が一斉に剣を抜き、周囲へ警戒の視線を向けた。
皆の視線が周囲を見回し、空間の一点に集中する。空間に歪が生じ、何者かが出現する気配があった。
現れたのは、七名の素顔を仮面で隠した者達。
そして、その者達が跪き、奥から出て来る者を出迎える。
現れたのは、銀髪の可愛らしい少女。
その瞳は金銀妖瞳。青と赤の妖しい揺らめく光を放っている。
そして彼女こそ、今話題になっていた魔王の一柱。
"夜魔の女王"ルミナス・バレンタインであった。
『空間転移』にて、大聖堂へと出向いて来たのだ。
ルミナスの美しい容姿に見蕩れていた者達に、
「控えよ」
と、ルミナスの背後に立つ人物の低く良く通る声にて、言葉が告げられる。
今となっては例え相手が教皇だとしても、素直に従うべきでは無いのかも知れないが、その言葉に逆らう事の出来る者は聖騎士には居なかった。
ルミナスの放つ魔王覇気により、抵抗力を奪われている彼等に、支配の言霊に逆らう気力が残っていなかったのである。
抵抗しようという意思を持つ者も、膝立ちになり立ち上がる事も出来ない有様であった。
その様子を眺め、ルミナスは口の端を吊り上げ笑みを浮かべる。
その唇の端から、真っ白い剣歯が覗いており、彼女が吸血姫である事を証明する。
そして、その可愛らしい唇から、
「妾も舐められたモノよの。勇者、いやクロエにならばともかく……
ユウキとやらにまで妾を殺せるとでも? そう申すのか?」
と、言葉が紡がれた。
ニコラウスは心臓が締め付けられそうな程の圧力を感じ、言葉を言い返す事も出来ない。
(な、なんという……これが、魔王! 出鱈目だ、出鱈目過ぎる!!)
恐怖に近い思いが湧くが、これはニコラウスだけでは無く、この場に居る全ての者の共通した認識であっただろう。
「まあ良い。
どうやら、神聖法皇国ルベリオスが妾の国の隠れ蓑である事がばれたようだな。
つまりは、唯一神ルミナスとは妾の事よ。
まあ、なかなか持った方だが、あの国が滅ぶならばそれはそれで仕方あるまい。
しかし、だ。
妾も舐められたまま終わるのは許せぬ。まして、クロエは妾のものだ。
ユウキとやらは、妾が殺す。
貴様達はどうするのだ? 妾に忠誠を誓うならば、共に戦う栄誉をやろう」
ニコラウスは思案する。
敵対は得策では無い。というよりも、戦って勝てる相手でも無さそうだ。
レナードに聞いた魔王リムルの圧倒的な強さ。目の前の少女は、その魔王と同格なのだ。
むしろ、古き魔王の一柱である以上、新参の魔王以上に油断出来ぬ相手であると判断するべきである。
それならば、忠誠を誓うのか? それについては、ニコラウスの心が拒否をする。
それはニコラウスだけでは無く、聖騎士全てが思う事。
自分達の忠誠は、ヒナタ=サカグチにのみ捧げられるのだ、と。
強さでは魔王ルミナスが上回るのかも知れないが、心だけは自由にさせる訳にはいかない、ニコラウスはそう思った。
「残念ですが、魔王ルミナス。
我等の忠誠は、既にヒナタ様に捧げております。
貴方に対し敵対するのは得策では無い、そう理解しておりますが忠誠を誓うのは話が別。
申し訳ございませんが、ご理解下さい」
ニコラウスは、ルミナスの目を見つめ返し、そう返事した。
面白そうにその目を見つめ、
「ほう? 生意気な……死者に操を立てるのか?」
その言葉にニコラウスが言い返そうとした時、
「私はまだ、死んではいないのだがな」
ルミナスの背後、大聖堂の入り口に立つ者が、ニコラウスの言葉を遮った。
長い黒髪を後頭部で一纏めにし、身を包むのは、濃黒に統一された軽装備。
美しい少女。
"勇者"がそこに立っていた。
「クロエ!」
ルミナスが嬉しそうな声を上げるが、
「ルミナス、残念ながら私はクロエでは無い。今は、ヒナタだ。
と言っても、既に私の魂の力は失われかけていて、最後の挨拶をと思ったのだが……
取り込み中だったようだな」
そう言って、ヒナタの面影を彷彿とさせる儚げな笑顔を浮かべる少女。
『ヒナタ様!!』
呪縛が解けたように、一斉に聖騎士達が立ち上がり、ニコラウスが走りよりヒナタを抱きしめる。
「そう、今はヒナタ、なのか。クロエはどうしたのだ?」
「クロエは眠っている。私と戦い、真なる覚醒を果たしたから。
能力の統合が行われ、私の力も殆ど持っていかれたよ。
長き時を経て、重複が全て解除されたから。
私がこの世界に召喚される前に、この身体はルミナスの下で眠りについた。
そして、ユウキがこの身体を目覚めさせた時、この身体と重複するクロエは精神体となり、他人に認識出来ない存在になったようだ。
ルミナス、お前も勇者の名前を思い出せなかったのではないかな?」
ニコラウスに抱擁されたまま、勇者、ヒナタはルミナスに答える。
そして、ニコラウスを軽く叩き、その身を自由にして、
「目覚めたクロエに、この世界、この時代の私を殺して貰ったのだ。
これは、既に定められた運命であり、予定調和に過ぎなかった。
勇者クロエは、この時代、次に目覚めた時に誕生するのだよ。
そして私は、クロエに同化した時の精霊の力で過去に飛び、"勇者の卵"を育てる事になった。
波乱に満ちた今では無く、安全に育てられる過去にて。
それこそが、何者かの定めた、"勇者育成プログラム"。
この時代の私の魂がクロエに統合され過去に飛んだ事により、クロエと過去を旅して来た私が目覚めた。
そして、既に私は異物であり、間もなく消える事になる。
だから、心配だったお前達に、最後の挨拶をしに戻って来たのだ」
慈愛に満ちた表情で、勇者はニコラウス達にそう告げた。
………
……
…
そして暫く、ヒナタとルミナス、そしてニコラウス達で話をする。
重複していた時間の事、勇者クロエの現在の状態、など。
クロエは、ユウキの支配下にある。
ただし、覚醒前の契約に縛られていて、解除は難しい。
ヒナタの見立てでは、自力での解除は不可能との事だった。
それを聞き唇を噛み締めて悔しがるルミナス。
そのルミナスを撫でながら、
「だが、真なる勇者に覚醒し、ある程度の抵抗が可能になった。
ユウキとの契約では、"三つの命令"を聞くと、支配は解除される。
願い以前に、ユウキへの戦闘行為は不可能だ。
だが、今のように情報を話す程度なら問題ない。無いが、重要な禁則事項は喋れない。
三つ命令をしてしまうと、私がユウキと戦えるようになる。
なので、ユウキとしても二つしか命令を実行出来ないのでは無いかな?
つまりは、迂闊には勇者を利用出来ないだろうという事。
あの者は異常だ。
世界の破滅を真面目に望んでいるとしか思えない。
私が自由ならば、間違い無く世界の敵として成敗する事になる。
だが、危険な男だ。精々、気をつけて欲しい。
それでは、私は行くよ」
そう言って、勇者は立ち上がった。
「ひ、ヒナタ様……」
行かないで欲しい、そう願うニコラウスだが、それは叶わぬ願いである事は理解出来た。
言いかけた言葉を飲み込み、ヒナタにこれ以上無様な姿を見せまいと努力する。
拳を握りしめ、
「お元気で!」
精一杯の痩せ我慢で、笑顔を浮かべた。
「ふふ、お元気で、か。お前もな、ニコラウス。
皆も、達者で。決して無茶はするなよ。そして、何かあったら、魔王リムルを頼るが良い」
そう、最後の挨拶をするヒナタ。
魂の力は残り少なく、間もなくクロエの魂に全て飲み込まれ、完全に消滅するだろう。
これは仕方の無い事なのだ。
ヒナタは、"勇者の卵"をクロエに預ける事で、その役目を終えたのだから。
だから、ヒナタは満足している。
自分の足で、数多くの者を救えたし、シズさんへの恩返しも出来たのだ。
自分の願った事は叶えられた。これ以上望むのは、贅沢と言うものだろう。
後は、クロエの中で、最後の時を待つだけである。
去ろうとするヒナタに、
「待て!」
と、冷たい声が掛けられた。
呼び止めたのは、ルミナス。
「お前は、幸運だ。
妾が覚醒した能力『色欲之王』の実験台にしてやる。
生と死を司るこの能力、死者蘇生をもってしても、完全なる魂の復活は不可能。
しかし、貴様は今そこに肉体も魂も揃っている。
失敗するハズが無い。
勇者とは、"勇者とは、諦めぬ心を持つ者"なのだろう?
貴様の生を諦める事は許さぬ!」
ルミナスの言葉に、ニコラウス、レナード、フリッツ、そして聖騎士達全てが、ヒナタを祈るように見つめる。
その視線を受けて、ヒナタは戸惑いの表情を浮かべ、
「ふふ、あははははは!」
と、笑い出し、
「失礼。思い出したよ、私は確かに、諦めた事は無かった。
最後まで足掻いてみる、か。まさか、魔王に諭されるとは。
成功したとしても、以前の強さも無くなっているだろうけれど……」
と、困ったような笑顔を浮かべた。
「強さなど! 我等でヒナタ様をお守りします、我等を導いて下さい!」
「今度こそ、俺達にヒナタ様を守らせて下さい! 次は負けません!」
「我等には、貴方が必要なのです!!」
それらの想いを受け止めて、ルミナスの申し出に頷くヒナタ。
ルミナス。
その気紛れな魔王が、何を思いその提案を申し出たのかは、定かではない。
しかし、その申し出により、一つの運命が書き換えられる事になる。
「再誕!!」
祭壇に祭られたヒナタの遺骸と、勇者の中の魂の欠片。
その二つの因子が、ルミナスの発動した究極能力『色欲之王』により結合される。
そして生まれたヒナタと、異物が混ざる事なく完全な状態で誕生したクロエ。
勇者の髪は、黒色に銀の輝きが混じり、人とは思えぬ神々しい美しさを放ち始めた。
ヒナタとクロエが、完全に分離した瞬間である。
一度同化し、再び乖離する。
その起りえぬ奇跡により、ヒナタが生み出した"勇者の卵"は、クロエの中で繭を経て完全に羽化したのだ。
そして、この時こそが、"真なる勇者"クロエ・オベールの誕生の瞬間だったのである。