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義賊と詐欺師とドロップキック

パートナー詐欺対策・女子編の打ち上げ的な生徒会役員おもてなしが済み、次はいよいよ男子編!とエカテリーナは気合いを入れた。


生徒会に女子編対応をお任せしている間にも、情報収集は進めている。女子より特定が難しかった男子についても、おおむね目星がついてきた。


もう学園内はパートナーを探す雰囲気はほとんどなくなって、その日に向けての準備一色になっている。

衣装について相談に来る女子たちは、今回が初参加の一年生だけに、来るべき日に向けて胸をときめかせている様子だ。

可愛い。


こんな可愛い子たちに不幸な思いをさせる奴なんて、たとえお天道様が許しても悪役令嬢が許しません!


と、エカテリーナは強く思う。

だから、悪役令嬢とは。




ともあれその疑惑の男子は、名をセミョーン・ナルスという。

伯爵家の次男である。


見た目は『まあまあイケメン』、もしくは雰囲気イケメンというやつだ。と、本人をチラ見したエカテリーナは思う。

しかし、彼に引っかかった女子たちは『この世のものとも思えぬほど美しい方』とか表現したりする。


基本的にぼっちで、よく一人で学園内の森あたりに佇んでいたりするらしい。ぼっちには理由があるのだが、わざわざ森に佇んでいたりするあたり、ナルシスト気質もしくは厨二の気配が感じられる、とエカテリーナは思う。

しかし、彼に引っかかった女子たちは『本当は誰よりも優しいのに孤独に耐えておられる姿に、胸が痛んでなりませんの』とかため息をついたりする。


お兄様のシスコンフィルターは天下一品だけど、恋する女子の夢見フィルターもたいしたもんですよ。

おかげで本人特定に時間がかかってしょうがなかったわ!名前はなかなか言ってくれないから、特徴から類推してたのにそれだもの!




しかしまあ、そんなフィルターがかかってしまう理由は、恋心だけではなかったりする。


ナルス伯爵家は、伯爵家の中では抜群の知名度を誇る。名家と呼ぶ人もいる。

家の初代は、皇国中興の祖・雷帝ヴィクトルの懐刀(ふところがたな)と呼ばれた人物。権力を退位後の先帝が握っていた時代に、お飾り皇帝として即位したヴィクトルが、やがて力をつけて父親から実権を奪い取るにあたって、大いに活躍したとされている。


が、この初代はいろいろ謎が多く、元は盗賊だったという話がまことしやかに伝えられているのだ。


彼は貧しい平民の生まれながら強い魔力を持っており、それを使って貴族から盗みを繰り返し、盗んだ金を貧しい人々に配っていたとされている。いわゆる義賊だ。

しかし皇族の離宮に忍び込んだところで若きヴィクトルに捕らえられて心服し、影に日向にヴィクトルのために働くようになったそうだ。

のちには皇都の行政官を任され、皇都の治安維持に辣腕を振るうと共に、衛生や防火防災を考慮した都市計画を進めて現在の皇都の礎を作り、爵位を賜るという大出世を果たしたのであった。


日本の歴史に当てはめれば、鼠小僧次郎吉が将軍吉宗に仕えて、大岡越前になったみたいな?

ピカレスクロマン。映画化待ったなし!

というか演劇化はとっくにされていて、庶民たちが相手の大衆演劇では人気の演目だそうな。


なのだが、初代の知名度が高いだけに、子孫の代になっても『元盗賊』というイメージが付きまとい、社交界では孤立しがち。貴族をターゲットに盗みを働いて大衆から快哉を浴びる義賊だったため、貴族たちからは憎まれた。それがいまだに尾を引いているのだろう。


貴族の令嬢から見ればイメージが悪い家柄なのだが、それがかえってミステリアスで魅力的に思えるお年頃。

それが思春期。

ミステリアスフィルターにより、雰囲気イケメンも絶世の美男に変身だ。





遠い昔の初代のことでいまだに悪いイメージを持つのは不当な扱いなわけで、セミョーンに引っかかった女子たちには、偏見を持たない自分の正しさに酔っている様子も見受けられる。

親の価値観への反抗もあるのだろう。


ま、正しいだけではなく、打算もありそうだが。

セミョーンは次男で、跡取りではない。しかし長男である兄は、魔法学園に入学していない。入学が認められるだけの魔力がなかったそうだ。セミョーンが魔力を認められ入学したことで、兄が跡取りから外されて彼が伯爵を継ぐ可能性は高いらしい。


彼と結婚すれば、名家の伯爵夫人ですね。

舞踏会のパートナー用の仮婚約者に高らかに婚約破棄を宣言してギャフンと言わせたいという願望を、ばっちり叶えることができますね。


そんな願望は無意識下なのかどうなのか、女子たちは一様に、彼の優しさを語った。


セミョーンは、そんな状況に『苦悩』しているそうだ。実の兄と諍いたくはないが、周囲がそれを許さない。僕にはそんなつもりはないのに、兄も父も僕を疎んじて、すっかり虐げられているんだ……と打ち明けてくれたそうな。


苦悩を抱え、周囲から不当に避けられ、孤独に過ごすセミョーン。

僕と関わっていることが知られたら、君まで悪く言われてしまう。だから、こうして一緒に過ごしていることは、誰にも言わないでほしい。僕は君だけは絶対に守りたいんだ――。


と、言ってくれたとのこと。


本当に素敵な方。あの方をお支えできるのは、わたくしだけなのです。

ぽっ、と頬を赤らめる女子。


言うなと口止めされたことを言ってしまっているわけだが、エカテリーナならセミョーンを不当に扱ったりはしないと見込んで告白してくれたのだ。自分の素敵な恋を誰かに話したくて、うずうずしていたのも間違いないだろうけれど。


うん……いい台詞だと思いますよ。絶対に守るって、言われて嬉しい言葉だもの。超わかる。

でもね!複数の女子から同じことを聞かされてしまっておりましてね!


ただ、何股だかをかけていることがバレないように、口止めしているだけだよね。

台詞を使い回してるのもムカツク。

そして父と兄に虐げられて自由になるお金がないとか言って、ちょこちょこ貢がせているらしいという……。


もうね、女子たちに『素敵ですわね』とか相槌をうちながら脳内でヤツに、助走をつけてドロップキックとか入れずにいられませんわ!

ドロップキックって助走をつけるの当たり前?プロレスとかよく知らないからわからないけど、ついでにパイプ椅子で殴ろうそうしよう!


完全に騙しにきてるだろ、ガチ詐欺師ー!

女の子たちと、義賊だったご先祖様に手をついて謝れー!




さあ、どうしてくれよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪役令嬢ならぬヒールレスラー(笑) 気持ちはわかるけど、とりあえずいったん落ち着こうか。 誰にどう相談するのかにも寄るけど、 こちらもホントどうしてくれようかって位にクズですねぇ・・・・・…
[一言] 長ネギで叩く。
[一言] 「お嬢様でも助走つけてドロップキックかますレベル」 尚、基本助走アリです
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