表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/342

赤鷺黒鷺緑鷺

社会人たるもの、やるべき事タスクには優先順位をつけるべし。


学園の分裂やユールマグナへの対応は、やるべき事リストの重要項目に挙げておくけれども、優先順位は重要性の他に期限も考慮しなければならない。


よって現在の優先事項は、間近に迫った舞踏会への対策とする。




そんな風に整理をつけて、エカテリーナは翌日から、情報収集に取り掛かった。

入れ替わり立ち替わりやってくる女子たちから、パートナー情報を仕入れるのは簡単だ。みんな話したくて、うずうずしているのだから。


そしてちょっと意外なことに、パートナー詐欺の容疑者は、男子ではなく女子、小悪魔詐欺師のほうを、あっという間に特定できた。

話を少しふっただけで、複数の女子が特定の女子について『あの方は複数の殿方に申し込みをいただいて、お断りしていらっしゃらないようですのよ』と怒りの告発をしてくれたのだ。


ま……考えてみれば、そりゃそうか。

そういうタイプの同性には、同性こそ敏感に気付くものだ。そういうタイプは同性に嫌われるものだし。

特に、パートナー探しに四苦八苦した子から見れば、許すまじ!に違いない。




掴んだ情報は、定期的に生徒会室に通って生徒会長アリスタルフに伝えることになった。


パートナー詐欺の情報収集をしていることは、当然秘密だ。だから、役員でもないエカテリーナが足しげく生徒会室に通う不自然をごまかさなければならないが、そこは簡単だった。

舞踏会をより良いものにするために、ユールノヴァ家の知見やツテを伝えて生徒会に協力することになった。

という、立派な名目があるので。


実際、会長や会計たち生徒会役員を週末に公爵邸に招いて、執事グラハムや公爵邸のシェフと話をしてもらう手はずになっている。華やかなことが好きだった父親アレクサンドルの時代、ユールノヴァ公爵邸では始終パーティーが開かれていたから、彼らのスキルはかなり高いのだ。

そんな手配についても、アレクセイにきちんと許可をもらっているから、誰にはばかることもない。アレクセイは、エカテリーナが仕事を増やすのではなくグラハムやシェフに振ったことを評価して、すぐに許しをくれた。


その立派な名目は、クラスメイトや情報収集した女子たちに少し話しただけで、たちまち広まった。女子たちの衣装のグレードアップに心を砕いたエカテリーナだから、舞踏会のために動くのも自然なことと思われたようだ。

もっともその様子に、あらぬ勘違いをする者もいたのだが。


「エカテリーナ様、次の選挙で生徒会長に立候補するお気持ちがおありですの?」


マリーナから無邪気にストレートに、思ってもみなかったことを尋ねられて、エカテリーナはズルッとすべりそうになった……が、そこはこらえた。公爵令嬢なので。お嬢様なので。


「決してそのような気持ちはありませんのよ。わたくしには、家の奥向きを見る役目がございますもの」


ほほほと笑ってそう答えると、なんだか残念そうに頷かれたのがちょっと怖かったが。


「そうですわね、エカテリーナ様といえど、一年生が立候補するのは無茶ですし」


と言われたのもちょっと怖かった。


私の知らないところで変な期待をしてないよね?やめてね?

これからその手のことを言われたら、強く強く否定しなければ!

周囲に流されて立候補なんて、絶対しません!


こぶしを握ってお星様に誓うエカテリーナであった。




アリスタルフは、エカテリーナの話を丁寧に聞いてくれた。


「これほど早く特定できるとはありがたい。対処については、生徒会にお任せ願えるでしょうか」

「ええ、もちろんですわ。ですけれど、ご確認はしっかりとお願いしとうございます」


冤罪をかけてしまったのだったら、悔やんでも悔やみきれないことになってしまう。

生徒会長ならそのあたりは大丈夫だろうと思ったが、言わずにはいられなかった。


「もちろんですとも。間違いないことを、私自身で確認します」


アリスタルフは深くうなずき、微笑んだ。

うっすらと。


なんだろう……なんか、ひええって感じが。

色気?色気ですか?

なんでこの状況で、色気を漂わせてしまうんですか?


内心びびっているエカテリーナに気付いているのかいないのか、アリスタルフはすぐに生徒会長らしい品行方正な表情に戻る。


「引き続き、よろしくお願いします」




で。

アリスタルフがどう対処したかは、すぐにエカテリーナも知ることになった。


複数の男子を天秤にかけていた一年生の小悪魔詐欺師女子は、男子の一人と会う時に使っていたベンチに、忘れ物を発見する。男性もののハンカチだ。紋章が刺繍されていたことから、女子はすぐ気付いたらしい――持ち主が生徒会長であることに。

彼女はすぐに届けに来て、それをきっかけに雑談するようになる。困っていることはないですか?と生徒会長に言われて、女子は恥ずかしそうに打ち明けたそうだ。いまだに舞踏会のパートナーが決まっていないのですと。


彼女がベンチで会っていた男子には、彼女がパートナーだと確認は取れていた。

はい、有罪(ギルティ)

確定。


そりゃあ、生徒会長ほどの好条件男子、天秤にかけている男子たちなど彼方へ吹っ飛ぶだろう。

逆ハニートラップ。小悪魔詐欺師女子は、見事に逆詐欺に引っ掛けられたわけだ。


そして彼女は、生徒会長とベンチの男子にどういうことかと問い詰められ、パートナー詐欺を他の男子の分も暴かれて号泣。

他の男子からはきっちりフられ、家柄その他で一番釣り合いが取れている上に性格がしっかりしているベンチの男子とパートナーになることが決まったそうだ。


彼女の実家や学園の教師などに報告されはしなかったものの、生徒間には噂は流れる。今後は周囲から警戒されて二度と複数の男子からちやほやされることはできないだろうし、パートナーにはずっと、がっちり手綱を握られて過ごすことになるだろう。

そのまま婚約、結婚コースがほぼ確定。

今は不本意かもしれないが、相手の男子は詐偽行為を知っても彼女が好きなのだそうだから、女子も不幸になったわけではない。

それくらいの落とし所が、エカテリーナとしても寝覚めがいい。




そういえば……前世で読んだことがある。人を喰い物にする詐欺師を詐欺に引っ掛けて喰らう、逆詐欺師の漫画。

その漫画で知ったけど、異性の心をもてあそぶ結婚詐欺師を赤鷺と呼ぶそうな。それ以外の普通の詐欺師は、白鷺。

そしてそれらの詐欺師を喰らう逆詐欺師を、黒鷺と名付けていた。


生徒会長……。

髪の色は緑なのに、黒鷺でしたか。


アーロンさんといい、魔法学園の生徒会長には『実は黒』という属性が付加されるのだろうか。などと、半ば本気で考えてしまったエカテリーナであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ゲームでは一年間しか描いてなくても、来年も含め3年ある!というリアル感。早くエカテリーナちゃんもフラグを心配しないで過ごせるようになると良いですね。 [気になる点] ノヴァによる生徒会乗っ…
[一言] 更新お疲れ様です。 え~と、社会人じゃないけど、公爵家の令嬢としては正しい判断ですね σ( ̄∇ ̄;) エカテリーナ嬢が生徒会長になるのは、エカテリーナ嬢が手掛けているアレコレを考えると無…
[一言] いつも素晴らしい更新をありがとうございます! 今回もとても楽しく拝読しました! 実は黒属性があるアリスタルフ先輩素敵!! これからも楽しみでなりません!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ