表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/341

申し出

フローラは、ぐっと拳を握ってミハイルに言う。


「身の程知らずなことをと、お笑いになるかもしれません。でも。

舞踏会で、私をパートナーにしていただけないでしょうか!」




思わず、エカテリーナは目をまんまるに見開いた。


フローラちゃん!

直球!

豪速球火の玉ストレート!


でもどうして?

フローラちゃん、どう見ても皇子ルートには入っていないと思うのに。

そしてフローラちゃんが皇子を見る目は、さながら果し合いを申し込んでいるかのような鋭さ。


といっても、私のこの手のことへの見識は全くアテにならないんですが……もう、自覚しましたよ。というか、諦めました。私、お姉さんなのに……なぜ……。


いや自省は後にするんだ自分。

ここで突然、ゲームの皇子ルートが息を吹き返した、と思うには状況があまりにもゲームとかけ離れている。直近の学園祭では最も活躍した人はフローラちゃんではなかったわけだし、他にもクリアできていないイベントがあったはず。

あ、今になって思ったけど、皇子がパートナーに申し込んでくれたのは、私が最も活躍した人に選ばれたから?


……でも、そんな風には思えない。目の前にいる皇子もフローラちゃんも、プログラミングされたキャラクターじゃない。条件ひとつで分岐するような、単純な存在ではないんだもの。

だいたいゲームのあれだって、ただ学園祭イベントだけ頑張っても駄目で、いろいろ好感度を上げておかなければパートナーになることはできなかったはず。

だから皇子が私に申し込んでくれたのは、今までの付き合いで親しくなれたからであって、条件分岐なんかじゃない。

な……なんかちょっと、親しくなりすぎた?でもでも、いろいろあったし〜〜〜。


なんで今、ふともも見られたこと思い出したのか自分!


そ、それはともかく。フローラちゃんがこんな直球を投げる理由を、ゲームとは無関係と仮定して考えると。

皇子が好きだからパートナーになりたいわけじゃ、ないよね?

フローラちゃんのことだから、自分のためじゃない。


「ええっと、フローラ。その、ありがたい申し出だけど、君はそれでいいの?」


鍛え上げられた社交的な笑顔に、ほんのりと困惑をにじませてミハイルが言う。


「これが一番、皆で舞踏会を楽しめる方法だと思うんです」


揺るぎない表情でフローラは答えた。


「ミハイル様にもご都合はおありだと思います。でも、ミハイル様が参加できないと、エカテリーナ様が舞踏会を楽しめません。ミハイル様と参加したい、たくさんの方たちも。学園祭であらためて解ったんです、ミハイル様とご一緒できるかどうかは、皆さんにとってとても大切なことなんだって」


その言葉にエカテリーナは、やっぱり、と思う。

フローラちゃん……私や皆のために申し出てくれたんだ。

きっと大変なことになるのに。


「私のような身分の者がミハイル様のパートナーなんて、おかしいと言われてしまうと思います」


うん。下手をしたら、いじめが再燃してしまう可能性もある。


「でもだからこそ、私なら、なんと言うか……数に入らないというか。私をパートナーにしたからといって、いろいろな方のいろいろな考えに、影響が出ることはないのではないかと。後々困るようなことが起きないで済むかもしれない……と思いました」


おおお。

それはつまり、高位貴族の令嬢が皇子のパートナーになると、エリザヴェータちゃんを未来の皇后にと望むユールマグナをはじめ、いろいろな政治権力の均衡に影響してしまうのではないか、ということだね。

その令嬢の家が他の有力貴族から睨まれてしまったり、あるいはその家がもしかしたらいけるかも!と野望を抱いて引っ掻き回したり、することは確かに起こり得る話。


未来の皇后があり得ない(ゲームではあり得たけど!)フローラちゃんがパートナーなら、そういうことにはならないだろうと……。

さすがフローラちゃん、賢い。ちょっと前まで庶民の娘さんだったのに、もう貴族の権力争いとかに配慮できるって、本当に頭が良くて聡い。


でもひとつ、これは言わねば!


「フローラ様は、学園で一番愛らしく思慮深いご令嬢ですわ!どれほどのお家柄の方であろうと、ご自身の価値により、フローラ様のほうがずっと輝いておられましてよ」

「エカテリーナ様」


手を取って力説するエカテリーナに、フローラは顔を赤らめて微笑んだ。


目の前で展開される美少女同士の美しい友情に、ミハイルは眩しそうなような、困っているような表情になる。


「だけどフローラ、君は、一緒に参加したい人はいないの?」

「私はエカテリーナ様とご一緒したいです」


迷いもよどみもなく、フローラは言い切った。

ミハイルは、違うそうじゃなく……という顔だが、エカテリーナは喜んでいる。


「ええ、わたくしもフローラ様と一緒に参加しとうございますわ。領地での宴でご一緒はいたしましたけれど、舞踏会はまた趣の違う、年齢の近い方々との気楽な催しになることでしょう。それを、フローラ様と共に、楽しみとうございます。

ですけれど……お申し出のことは、わたくし、心配ですわ」


フローラちゃんは私が守りますが、私がいまだに解っていない、貴族社会の闇みたいなものがアップを始めそうな気がして怖い。


「フローラ様なら、引く手あまたですわ。きっと多くの殿方から、お申し込みがありますのに」

「そんなことはありません。身分はわきまえています」


さらりとフローラは言い、エカテリーナはもどかしい思いで口をつぐんだ。うう、ヒロインとか言うわけにいかないし、フローラちゃんがモテモテに違いない理由をフローラちゃんに説明できない。


しかしフローラちゃんもわりと、恋愛関係は鈍いほうじゃないかしら。小説や漫画だと、ヒロインはそうなりがちな気がする。そりゃ、鈍くなくて自分への好意にすぐ気がついてしまったら、ストーリーがさっくり終わってしまうもんね。


他人事として思うエカテリーナである。


と、ミハイルがうなずいた。なにか、決意した表情で。


「わかった。フローラ、申し出ありがとう。その……」




大変お待たせいたしました。角川ビーンズ文庫公式サイトにて本作6巻書影が公開されましたので、活動報告に掲載いたしました。

今回も大変美麗なイラストです。ぜひご覧くださいませ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] だよね〜(笑)安定のブラコンにおちついて、オマケまでついちゃったよ ⁽⁽ଘ(ˊᵕˋ)ଓ⁾⁾₍₍◞(•௰•)◟₎₎
[気になる点] 案外、エカテリーナはミハイルと踊ることになったりして…? 劇も出ないつもりだったのに代役で出る羽目になったし。
[良い点] まず最初に話が面白い!!キラキラ輝いてる働く女性と令嬢物語とブラコンなどとても綺麗に組み合わさりとてもイキイキとした話になっている。 [気になる点] 特にない、がんばれー [一言] これか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ