12月14日:おそるべきもの
プロットを書いたら一時間で書けたわ
多種族大同盟の盟主にして、南海のラビッツ永世の存在。
ヴォーパルバニーの王……ヴァイスアッシュ。
今回の開催地、断崖の王国キャッツェリアに君臨する猫の君主。
ケット・シーの王……ニャイ十三世。
超超超規格外規模生物、牛上国家ゴブリスタンの背より降り立つ騎王。
ゴブリンの王……ロノ・ドア。
極北。吹雪く銀世界に未だその姿を隠せし未確認の白き賢猿。
イエティの王……灰躯。
なるほど多種族大同盟と言うだけのことはある。右を見れば犬頭の小人のようなコボルトにミノタウロス、あっちはケンタウロス? 椅子じゃなくて止まり木にしゃがんでいるのはハーピィ的な? 他にも多種多様なモンスターが人間が座るような円卓を囲んでいる姿は、さすがファンタジーといったところか。
何故かチラチラこっちを見られている気がするが……理由は恐らく二択だろう。
「…………」
多種族サミットという場だから静かにしているのか? それもあるが違う。
ちら、とディプスロがこちらに視線を向ける。この状況を煽ってんのかと半目で視線を合わせると何故か凄い勢いで顔を背けられた。なんやねん。
サバイバアルは……ダメだ、コロポックル(小人、というより植物人間の小人、みたいな一般のイメージとはかけ離れた存在だが)の女王をガン見している。このクソロリコンが……ついに人外でもいいってか。
ヤシロバードはそもそも目を合わせようとしないし……あっ、あの野郎肩震わせてやがる! 俺のこの状況を笑ってやがるな!?
カローシスUQは……なんか胃の辺りを押さえて沈痛な顔をしている。社内会議に雰囲気が近いから? 他人のリアルに口出すつもりないけどもういっそ辞めちゃえよ……わざと匂わせてるんじゃなくて無意識で苦しんでる姿見せられるとこっちもどう接すればいいか分からないよ………
「コロロロロロロ………」
「ヌッ」
「ム………失敬」
「お、お構いなく………」
お、お腹が鳴ったのかな?
くっ、ディプスロてめーいつもは無駄に心読んでるようなムーブしてるくせに何こっち無視してんだ! アイコンタクト! アイコンタクト!! くっ、目を合わせすらしねぇ。なんなんだ一体。
無視するくせに脇腹を肘で小突くと変な喘ぎ声を出しやがるので頭を引っ叩くこともできねぇ。ぐううう……この俺をして、恐怖を感じている……! これが戦いのエンカウントであれば別だが、このサミットの傍聴席という理性的な場所だからこそやりづらい。
「ッスゥー………」
事の始まりは俺達が傍聴席に案内された時に左詰めでカローシスUQ、ヤシロバード、サバイバアル、ディープスローター、俺の順番で座った事だ。
つまり俺の隣に空席ができていたわけで、まぁ当然俺たちの後に来た傍聴者はそこに座るわけだ。ていうかそもそも傍聴席に座る奴とか俺ら以外にいるのか? と足を広げてくつろいでいたのだが……そんな時に、奴は来た。
なんだろう……この、なんなんだろうこいつ。
輪郭、というかキャラクターとしての素体は頭が狼? 猪? まぁとにかく頭が獣な人型だ。まぁ体長3メートル以上あるんだが。
そして体長が人間の二倍近い、ということは横幅もデカい。ていうか全身から生えてる棘? 甲殻? が隣の席の俺に刺さりそうでさっきからサミットの内容よりも右隣が気になって仕方がない。
そう、甲殻。甲殻なのだ。この隣席の方は体高3メートル以上、横幅は力士かってくらいに広く、全身がえげつない殺傷力を持つ甲殻に覆われており、爪や牙はもはや言うまでもなく、四つの目とカブトムシ……それもアトラスとかコーカサス、シャンフロ的にはクアッドビートルを彷彿とさせる凶悪なツノが生えたなんかやばい生物が、とても真面目な様子で俺の隣の席(二席占拠している)に座っているのである。
最初は蟲人族かと思っていた。だがその姿は母親の趣味故にそこそこ詳しい俺の知識にあるどの昆虫にも該当しないし、何より蟲人族なら大抵の場合は目が複眼だ。こいつの目は人のそれに近い眼球だ。尤も、瞼がないので半分ほど埋まった眼球がぎょろぎょろ動く……まぁ、控えめに言ってグロテスクな目をしている。
「………………」
「………………」
助けて欲しい。い、いや待て。さっきの対応を見るに理性は持っているはず。石臼で何か硬いものをゴリゴリ削ってるみたいな重低音ボイスだが、失敬と発言するだけの理性はあると見た。
や、やれるか……? 失敗したらピザ留学っていうか俺がピザみたいな形にされそうなんだが……や、やるか?
「……波濤ノ」
「……………えっ、あっ、はい?」
「波濤ノ、ヒトト……オ見受ケスル」
波濤? あー…………なんか………そんな風に呼ばれた記憶があるようなないような……確か、旧大陸から来た人間をそう呼ぶんだっけ。
フシュルルル、と牙というよりも剃刀を肉厚にしたような食い込ませて引き裂くことに特化した牙を覗かせる口から恐らく呼気と思しき音を出しながら生体殺戮兵器キリングビースト(暫定名称)さんの四つ目が俺を見る。口元もよく見ると嘴のようにも見える……硬質で鋭角的だ、狼頭と錯覚したが頭蓋というか甲殻の突起でオオカミの耳のように見えているのか。
お、俺も複数の目を持っているが? しかも顔が燃えてるから勝負はイーブンってところか……あ、脚とか組んじゃうもんね。
「聞キタイ、事ガアル」
「奇遇だな……俺も、聞きたいことがあるんだ」
生体殺戮兵器キリングビーストさんと俺の間に緊張感が張り詰める。もはやサミットの事は二の次三の次だ、少なくともこの隣の席の生体殺戮兵器キリングビーストさんとの決着なくして、俺は次に進めない。
「…………」
へ、へへっ。俺の質問からお先にどうぞってか。いいぜ……時の支配者たるこの俺は恐れない! 好感度は座して待っても上がらない! ピザを食わせるな! 走れ!!
「……お名前と、ご種族は?」
「……ウル・イディム。オークだ」
「いや嘘つけェ!!」
しまった、思わず声が。
オークだよ、特技は全身の甲殻を振動させて敵の身体を内側の体組織から破壊する超振動グラップルだよ
顔が燃えてる人間だよ、特技は二号人類最速の機動力で高速の五連撃を叩き込む音速五連殺だよ
そんな奴らが何故か傍聴席で談笑してるよ、こわいね




