マンパワー・ヒューマンパワー
高学歴、それはリアルステータス。
高学歴、それは頭がいいということ。
高学歴、それはテストに強い。
嗚呼高学歴、高学歴。こうも歴然としたパワーを見せつけられると俺も勉強頑張ろうという気持ちになってくる。
「キョージュ、宝石の魔力的組成問題ってことは鉱石系ですかね?」
「いや、文体で騙しているがメインは魔力組成の方だろう、だからあっちだね」
「あー、これ宝石そのものは単なる結果なのか。流石シャンフロ、ゲームにしては中々にやらしい問題文だ」
「磐斎君、きみ先程マナ理論の植物転用の資料を見ていたね? 天然の樹木に干渉する場合のマナ方式について……」
「125ページですね、確か地中式が引っかけです。そういえばセートさんはどうしたんです? オルケストラの検証はミレィさんが指揮取ってるんでしょう?」
「彼女なら一身上の都合というやつだ、日を跨がないと来れないと言っていた」
「あー、まぁ時期的にもですかねぇ。ちょっと勉強を見たことありますけど余程ミスしなければ問題なさそうでしたが」
「君が押した太鼓判なら私も安心だよ」
一応【ライブラリ】に入団する条件にリアル学歴は関係なかったはずなのだが、キョージュや毘猩々 磐斎が本格的に動き出してからの速度は圧巻の一言に尽きる。
恐らく第一階層からこちらに来る前に攻略チャートが完成していたのだろう、続々とやってくる後続のプレイヤー達の中にちらほらといる【ライブラリ】メンバーが嬉々とした顔で資料漁りに参加したことでもはや俺たちに出来ることは雑用以外無くなりつつある。
「す、すごいですね……!」
「いやこれは流石に真似できねぇな……」
「そう、ですね……」
個々人が「象牙」から渡されたテスト用紙を照らし合わせることで一つ一つが違う五十問で構成されていることを割り出し、その上で合計して三百問くらいの中からランダムで割り振られていることを割り出し、そして「三百問くらいなら全部解いちゃいますか」と気軽な様子でこの有り様である。
俺は【ライブラリ】というクランを舐めていたのかもしれない、いや見縊るとかそういう意味ではなく彼らは本気でこの世界の頭から爪先までを解き明かすつもりなのだと今理解できた。
「いやこれこれ! これを求めてたんだよ、ファンタジー文明だと解剖図とか参考にならないのばかりでさー」
「やっぱマナ理論について意図的に穴があるなこれ、リヴァイアサンの方でもそうだったけど最終解答に到達するための数値が足りないって感じだ」
「著者の名前見てるだけで満腹ですよこれは……フレーバーテキスト勢としては宝の山だ。しかし各分野で天津気 刹那って単語が頻出してるの割と怪物では?」
ヤバイぞサイナ、インテリジェンスで勝てない。俺はまだなんとかなるがお前からインテリジェンスを抜いたら何が残るんだ。
まぁサイナは色んな意味でそれどころじゃない、といった様子なので俺が気に病む必要はないか。流石【ライブラリ】と太鼓を持って恩恵に預かるとしよう。
「磐斎氏、カンペ見せて」
「あ、いいねそれ採用。虎の巻よりよっぽど響きが好きだ」
まるでカンペの世話になったことなど一度もないと言わんばかりの様子にメンタル方面のHPにヒビが入ったが俺はめげない。
なんだろう、多分オルケストラの所で会ったミレィとかも頭良さそうだったんだけど磐斎氏の方が対面しててキツい。何故だ? 一挙一動が学歴で構築されてるっぽいからか? いや学歴人間ってなんだよ。
「三百問もあるとそれはそれで探すの面倒くさいなこれ……」
「あ、問題文の頭文字で五十音順になってるからそれで探してね」
手厚い……! あまりに手厚い……っ! ソロプレイがバカバカしくなってくる利便性……っ!!
恐ろしくあっさりと第二階層をクリアする者が続出する中で、俺達もまた満点答案を提出して階層クリア。
「もうここに住む!」と永住宣言した【ライブラリ】メンバーを何人か残してベヒーモス攻略第一陣は第三階層へと進む。
◆
『第三階層。ここはある種、私の「趣味」と言いますか……お恥ずかしながら惑星環境に関しては「勇魚」の領分であることは承知していたのですがそれはそれとして生態系のシミュレートがしたくなりまして』
「その恥じらい、いいと思うぜっ」
「まさかとは思うがその涎掛け装備するとか言わないよな? なぁ目を見て否定してくれ」
『その結果、外界に出せない系統の生態系が出来てしまいまして』
第三階層でやる事、それは……
『人数は問いません、この階層で活動する人為的環境生物を一体討伐してください』
極めてシンプルなモンスターハンティングであった。
だがそれに対して喜びの声を上げる者はいない、何故なら……
「あの、質問いいっスか」
『答えましょうレイジ』
「環境生物ってのは……アレのことですかね?」
どうやら彼も順調に上がってきたらしい。他人事ながら嬉しく思いつつも、若干強張った人差し指が示す先には……なんだろうね、小学生が考えた最強のドラゴンみたいな何か、全身が甲殻に覆われたケルベロスみたいな何か、それ以外にも明らかに生物兵器と呼んだ方がしっくりくるような何かがリヴァイアサン第二殻層を思わせる草原地帯に鎮座しているのだ。
『重ね重ねお恥ずかしながら……シンプルな摂理のみで食物連鎖を繰り返し続けたらどうなるかというシミュレートを行った結果、ああなりまして』
糾弾すべきは倫理観か? それとも手心か?
誰が言うでもなく集まった俺達は作戦会議を始める。
「いや無理では?」
「他ゲーならラスボス張れそうな奴がちょいちょいいるんだけど」
「や、でも言うて序盤よ?案外体力少なめとか……あの筋肉が脆いとは思えない……っ!!」
だがボソリと誰かがこう呟いた。
「素材落ちるのかなアレ」
「「「「…………」」」」
それは乾いた土に甘露をぶちまけるような誘惑をプレイヤー達に齎す悪魔の言葉だ。強いモンスターということは当然強い素材が落ちるわけで……それは「象牙」の肯定によってプレイヤー達の躊躇いを溶かしていく。
「全員がかりで行けば倒せるだろ」
「いやその場合落ちる素材の分配がゴミだぞ、回数繰り返すにしても効率が悪い」
「向こうもこっちも数が多いからチーム分けするとかどう?」
「倒せない場合置き去りになるから素材目当てと次階層目当てでまず分けた方がいいな、階層優先なら袋叩きの方がいいわけだし」
「いや逆だろ、素材が欲しいなら残ればいい。次に行くのは任意だろ?」
「ちなみにサイガ-0さんとかは……」
「……………階層、優先です」
「同じく、八層までダッシュなもんでな」
「私も先を見てみたいなって思ってます!」
結局全員で袋叩きにする流れになった。これが人類の団結だ!!!
Q.外に流すとどうなるの?
A.ファステイアとセカンディルを粉砕してサードレマを襲撃するのでサードレマ大公の胃が死に、鉛筆の笑顔が凍る