二人の乙女
活動報告にお知らせがあります。
アウグストが、先制の魔法を放ったあと、真っ先に飛び出していったのは、マリアとミランダのコンビだった。
「さあて、ミランダ! 特訓の成果を見せるわよ!!」
「い、いきなり魔人相手は不安だけど……やってやるわ!!」
「ミランダは、さっきウォーミングアップしてたじゃない。いけるいける!」
「あ、ああ!!」
割と必死な感じのミランダに比べて、マリアは少し気楽そうである。
というのも、マリアはミランダの実力を信じているから。
皆が対魔人戦のためということで努力をしていた期間、マリアもミランダとの連携で魔人に挑むことを思いつき、訓練のために魔物を討伐していた。
その訓練と称して倒していた魔物とは……。
「……災害級の魔物より強いとはいえ、あの野生の恐怖に比べたら軽いもんよ!!」
シュトロームの動物実験により増えた災害級の魔物ばかりだった。
最初、自分には無理だと拒絶していたミランダだったのだが、マリアに無理矢理付き合わされた結果、二人でなら災害級の魔物を討伐できるまでになった。
その要因として、シンからバイブレーションソードを譲り受けたこと、それとミッシェルから訓練を受けるようになったことが挙げられる。
年末のシンたちの誕生日パーティー以降、ずっとミッシェルと訓練をしていたミランダは、二年生になった際、ついに主席の座を勝ち取った。
その結果、騎士学院主席の剣技を持ちながら、バイブレーションソードを使いこなす、今のアールスハイド王国にいる前衛としては最強に近い力を持っているのである。
とはいえさすがのミランダも、一人では戦闘訓練を受けた魔人を相手にするのは厳しい。
だからこその、マリアとの連携なのである。
「さあて、それじゃあ私からいくわよ!!」
ミランダが魔人に向かって行く中、マリアは途中でストップし、魔人相手に炎の魔法を放つ。
「くうっ!」
派手な爆発音と共に着弾するが、魔人たちも魔力障壁を張ってその魔法を防ぐ。
元々魔法が使える者が魔人化しているだけあって、マリアの魔法は完全に防がれる。
だが、マリアの放った魔法は炎の魔法。
相手に与えるのは、衝撃だけではない。
「ぐっ……」
「これほどの熱量とはっ!」
魔法という魔力攻撃については防ぐことができる魔力障壁だが、その余波である熱までは防ぎきれない。
伝わってくる熱量に、魔人たちの表情が歪む。
「だが……」
「防ぎ切ったぞ! 今度はこっちの番だ!」
なんとかマリアの魔法を防いだ魔人たちが、今度は自分たちの番だと攻撃の準備をしようとしたとき……。
「遅い!!」
魔人たちは、マリアの派手な魔法にばかり目が行ってしまい、先に突進してきていたミランダの動きを見落とした。
その結果。
「なっ!?」
「は、はやっ……」
「でえああああっ!!」
ジェットブーツによる高速機動で魔人に迫ったミランダは、剣を高速で二回振るった。
剣を振るう速度を重視しているため、普通の剣であれば相手に致命傷を与えることなどできない、手打ちの剣技。
だが、ミランダが振るったのは、バイブレーションソードである。
「ば、ばかな……」
「ぐはっ!」
軽く振るった剣で真っ二つに切断された魔人たちは、信じられないといった表情のまま絶命した。
「貴様っ!!」
「よくもっ!!」
味方がやられた魔人たちは、一斉にミランダに向けて魔法を放つが、さっきまでそこにいたはずのミランダはもういない。
二人の魔人を斬ったあと、またもジェットブーツを使って早々に離脱していたからだ。
それは、当然一撃離脱という意味もあるが……。
「ちょっと! 熱過ぎよ! 肌が焼けちゃったじゃない!」
マリアの放った炎の魔法の余波に、耐えきれなかったというのもミランダの本音である。
「分かったわよ! じゃあ、熱くなけりゃいいんでしょ!」
ミランダの抗議を受けて、マリアは熱くない魔法を選択した。
「これなら……どうよっ!」
マリアが選択したのは、風の……いや、竜巻の魔法。
荒れ狂う竜巻が、魔人の一団を襲う。
「くうっ……舐めるな! こんなたかだか竜巻ごときで……」
マリアの放った竜巻の魔法は、相手を吹き飛ばすという観点からいえば相当強力な魔法である。
だが言ってみれば、それは相手を吹き飛ばすだけで倒す魔法とはいえない。
しかし、マリアの放った魔法は、それだけではなかった。
「いっつ! な、なんだ!?」
「石の礫!? くそっ! なんてえげつない真似しやがる!!」
マリアは、竜巻による暴風と共に、石の礫を巻き上げ魔人たちを攻撃したのである。
「くそっ! 魔力障壁じゃあ礫まで防げない!」
「円陣だ! 円陣組んで物理障壁に切り替えろ!」
たかが石の礫とあなどってはいけない。
竜巻により高速で巻き上げられた礫は、弾丸と同じである。
石の礫は、必殺の勢いを持って魔人たちに襲い掛かる。
それを必死に防ぐ魔人たち。
そして、それを呆然と見ているミランダ。
「何やってんのよミランダ! 突っ込みなさいよ!」
「あんなのに突っ込めるか、馬鹿あっ!」
目の前で繰り広げられているのは、魔人ですら防御で手一杯の竜巻。
そんなところに、突っ込んで行ったら自分もどんなダメージを食らうか分からない。
ミランダも、防御用魔道具は持たされている。
だが、そもそもバイブレーションソードという魔道具を起動しながら剣技を振るえるだけでも凄いのだ。
魔道具の同時起動など、とてもではないができない。
結果ミランダは、竜巻が治まるまで待つしかない。
「ミランダ!」
「っ!?」
「この、クソガキどもが!」
だが、現在いるのは戦場の真っ只中。
竜巻に巻き込まれなかった魔人たちが、その隙をついて攻撃してきた。
マリアの警告で自分が狙われていることに気付いたミランダは、ジェットブーツを起動して高速移動。
魔人の魔法を回避した。
「おのれ、ちょこまかと!」
「たかが魔道具と侮っていたな……まさか、これほど厄介だとは……」
魔人たちもただ指を咥えてシンたちが来るのを待っていた訳ではない。
元帝国諜報部隊だけあり、シンたちの持つ魔道具などの情報は集めていた。
だが、観察をするのと実際に対峙するのとでは訳が違う。
今まで経験したことのない速度で目の前を移動されると、どうしても目測を誤ってしまうのだ。
「っと、あぶな……」
魔人の魔法を避けたミランダが、マリアの隣まで退避してきた。
「油断しないでよ。もう」
「マリアがいつもと違うことするからでしょ!」
「だって魔人なのよ!? いつもより強力な魔法を使わないと意味ないじゃない!」
「そうだけど! これだと練習した意味ないじゃない!」
「騎士でしょ! 根性で突っ込みなさいよ!」
「無茶苦茶言うな!!」
戦闘中にも関わらず、じゃれ合う二人。
その光景を苦々しい思いで見ている魔人たち。
文句の一つも言いたいが、実際に弄ばれているのは自分たちの方。
こんな小娘に……。
そんな思いが魔人たちの怒りを増大させていった。
「あ、竜巻が消えるわよ」
マリアの指摘で竜巻の方を見るミランダ。
その竜巻が消えた後に残っていたのは……。
「はぁ……はぁ……」
「こ……このやろ……」
まさに満身創痍といった体の魔人たち。
「さすがにしぶといわね……」
大きなダメージを与えることには成功したが、まだ倒し切ってはいない。
だが、魔法でダメージを与えたあとに止めを刺す役目を持ったミランダが魔人たちに向かって突進した。
「舐めるなあっ! このクソガキがあっ!!」
突っ込んでくるミランダに対し、魔法で食い止めようとする魔人。
だが。
「ふっ!!」
「なあっ!?」
魔人の放った魔法は、障壁ではなく、同じく放たれたマリアの魔法により相殺させられた。
「魔法を魔法で迎え撃っただとっ!?」
「そんなバカな!!」
魔人たちは、その衝撃の光景に思わず目を奪われた。
しかし、その間もミランダの動きは止まらない。
「! しまった!!」
「シッ!!」
弱ってフラフラになっている魔人に対し、バイブレーションソードを振るうだけ。
たったそれだけで複数の魔人を討伐したミランダは、またジェットブーツにより離脱し、マリアと並んだ。
「あれ? 前に戦った魔人って、こんなだっけ?」
前回は決め手に欠け、膠着状態に陥った経験のあるマリアが、今回はいとも簡単に魔人たちを討伐できていることに首を傾げた。
「こんなって……アタシは結構ギリギリだよ。油断したらすぐにやられそう」
今回、初めて魔人と戦うミランダは、いまだに緊張感を持ったまま魔人たちと向かい合っている。
そんなミランダを見て、マリアは得心がいった。
「あ、ミランダがいるからか」
「え?」
「いや、ミランダがいるだけで、こんなにも違うんだなって思って」
「な、何言ってんのよ……」
唐突に褒められたミランダは思わず照れた。
そんな戦場らしからぬやり取りをする二人を見て、魔人の一人が呟いた。
「……この化け物どもが」
小さい呟きだったが、それは確実に二人に届いた。
「「……だ」」
プルプル震えながら、魔力を高めるマリアと、剣を握りなおすミランダ。
そして……。
「「誰が化け物だ!!!!」」
怒り狂ったマリアの放った魔法は、魔人の魔力障壁を破り、単独で魔人に辿り着いたミランダはそのまま魔人を斬り伏せた。
結局、連携している意味はあまりない二人だった。
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