予想外でした。
一か月に一度は投稿したいと言っておきながら……
とにかく忙しかったので久々の投稿です。
どうか気長にお付き合い下さい。
初めて魔物相手に詠唱して魔法を使ってみたけど、予想以上の結果が出て驚いた。
その気持ちを、浮遊魔法を使って魔物の間を突っ切りながら素直に言ってみた。
「いやあ、ビックリしたな」
「ビックリしたな、じゃないですよ! 明らかにやりすぎです!」
結果が自分の予想を上回っていたことを素直に言ったら、トールに怒られてしまった。
まあ、確かに、先が見えないくらいに集まっていた魔物の群れを真っ二つに分断するほどに道が拓けてしまっているけど……。
「まあ、移動が楽になったし、いいじゃん。余計な体力は使うべきじゃないって」
「それはまあ、そうですけど……」
なんとかトールを言くるめると、今度はオーグが口を挟んできた。
「シンの言う通りではあるんだがな、後のことが大変だ」
「後のこと?」
「メリダ殿の説教とか」
「うわあ……」
オーグの台詞で、こちらに向かう前にみた憤怒の表情のばあちゃんを思い出してゲンナリしてしまった。
そうかあ、帰ったら説教かあ……。
「メリダ殿の説教だけではないがな。あまりに多くの人の前でシンの魔法を見せてしまった。今度はシンが恐れの対象にならないようにしないといけない」
「あー、ご迷惑をおかけします?」
「なぜ疑問形なのだ。まあ、いつものことだ、気にするな」
「ああ、いつも悪いな」
「……」
いつも俺の尻ぬぐいをしてくれているオーグに感謝の意を表したところ、なぜか絶句された。
なに?
「どうした?」
「いや……シンが素直に礼を述べるなど、何か良からぬことの前触れなのではないかと思ってな」
「失礼なこと言うな!」
「おい、やめろよ? 普段素直じゃない奴が土壇場にきて素直になるとか、物語で死ぬ奴が取る行動じゃないか」
「オーグって意外にそういう話好きだよね!」
俺とシシリーを引っ付けたときもそうだったし、死亡フラグを信じてるっぽい。
「ちょっと、やめてよね!」
「マリアまで!」
本当にコイツらは俺のことをなんだと思っているのか。
俺が世界の脅威と見られないようにオーグやディスおじさんが苦心してくれているのは分かってる。
それに対して礼を言っただけなのに!
っていうか、そんなツンデレな態度なんか、今まで一度だって取ったことないわ!
そんないつも通りのやり取りをしながら旧帝都、現在は魔都と呼ばれている場所に向かっていると、今回特別に加わったミランダが呟いた。
「……き、緊張感が……」
ミランダは魔法が使えないので、浮遊魔法で浮かせた後はマリアが手を引いている。
彼女が俺たちと一緒に作戦行動をとるのは初めてなのだが、何か戸惑っているようだ。
どうしたんだろう?
「どうしたのよミランダ」
手を引いているマリアも気になったのか、ミランダに問いかけた。
「いや、アタシたちこれから魔人の拠点、魔都にいくんでしょ?」
「そうね」
「魔人ともやり合うんでしょ?」
「今度こそぶっ飛ばしてやるわ!」
「が、がんばって……で、魔人の首魁、騒動の元凶シュトロームと対決しにいくのよね?」
「ちょっと、ミランダ大丈夫? そんな当たり前のことを今更確認するなんて」
マリアの言う通り、ミランダは大丈夫だろうか?
今のはただの現状確認だ。
それを確認しないといけないほど緊張しているのだろうか?
皆もそう思ったのか、気遣わし気な視線でミランダを見た。
「ちょっと! なんでそんな目で見るのよ! アタシがおかしいみたいじゃない!」
「ええ? でも、今更そんなこと確認するなんて……」
「アタシが言いたいのは! そんな超重大な局面なのに、なんで笑ってられるのかってことよ!」
……ああ!
しまった。
ばあちゃんがあまりに怖かったのと、オーグがからかってくるのとで、ついいつもの調子で会話してしまっていた。
また悪乗りしちゃったなと反省していると、オーグが真面目な顔でミランダに話しかけた。
「緊張し過ぎだウォーレス」
「で、ですが殿下!」
「入れ込みすぎると体に余計な力が入る。そうならないように普段通りに行動しているだけだ」
「そ、そうなんですか?」
「それにだ」
オーグはそこで言葉を切ると、俺の方を向いた。
「シンがいる時点で、負ける未来が想像つかん」
「それですよね!」
「さっきのも全力出してないっぽい。ウォルフォード君が負けるとは思えない」
「むしろ、シンがやりすぎないか、そちらの方が心配だ」
オーグの言いようにアリスとリンも賛同する。
さらに付け加えた余計な一言のせいで、皆に笑われてしまった。
「そ、そこまで……」
「だからウォーレス、そう肩ひじを張らずに、もう少し力を抜け。お前は私たちと違って剣士だ。肩に力が入っていると本来の実力が出せんぞ?」
「殿下……はい! 分かりました!」
そうかあ、よくよく考えてみればミランダってマリアとは仲良く一緒に魔物狩りに行くことはあっても、魔人と戦ったことはないもんな。
そういえば、出発する前も緊張し過ぎて眠れなかったって言ってたし。
ちょっと配慮が足りなかったかもしれない。
その点、オーグは今の話の流れでミランダを落ち着かせることに成功している。
オーグのことだから偶然だと思うけど、不測の事態から有利な方に持っていくのが本当にうまい。
こういうの、俺には無理そうだなぁ。
そんなことを考えていた時だった。
「……オーグ」
「ああ」
「悪い、一旦降りるぞ」
「……分かった」
オーグに断りを入れた俺は一旦浮遊魔法を解除して地上に降りた。
「ウォルフォード君? 急にどうしたの?」
順調に飛行していたのに突然地上に降りた俺にミランダが不思議そうに問いかけてくる。
他の皆は俺が地上に降りた理由は分かっているので何も言ってこない。
何が起きているのか分かっていないミランダにマリアが話しかけた。
「あ、そっか、ミランダには分かんないんだった」
「え?」
「魔力探知できないもんね」
「っていうことは、敵が迫って来てるのか!?」
皆が魔力探知により神妙な顔をしていると気付いたミランダが臨戦態勢になる。
「落ち着けウォーレス、迫って来ているわけではない」
「どういうことですか? 殿下」
「迫っては来ていないが、いるということだ」
「?」
「まあ近付けば分かる。ここからはジェットブーツを使って進むぞ。いいな」
『はい!』
ミランダもオーグの言うことならと素直にジェットブーツによる移動を始めた。
そして、遠くに見えていた魔都が近付いてくると皆の緊張感も高まってくる。
ようやくミランダにも見えたようだ。
「あ、あ、あれは……」
ミランダも認識したところで一旦止まる。
「……初めて見ました……」
「僕も初めて見たよ……凄まじいね」
シシリーもトニーも唖然としている。
それはそうだろう。
俺も話には聞いた。
けど、本物は迫力が違った。
それを一言で言い表すとするなら……。
「……ゴ〇ラ?」
俺たちが感知した魔力の正体。
それは、魔都の入り口に鎮座し俺たちを待ち構えている……。
「シュトロームは、こんなモノまで用意していたのか!?」
どうみても怪獣にしか見えない、魔物化した竜の姿だった。