表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかしな転生  作者: 古流 望
第34章 ふわふわお菓子は二度美味しい
420/521

419話 ふわふわお菓子は二度美味しい

 穏やかな昼下がり。

 のどかで呑気な雰囲気の漂う、休憩中の執務室。


 「村開きも無事終わり、代官である村長も決まり、魔の森の開拓も順調そのもの」

 「そりゃよかった。俺も臨時で代官なんぞさせられましたし、決まってせいせいしてまさぁ」

 「せいぜい一週間ほどでしょう。何度もぐちぐち言わなくてもいいじゃないですか」

 「おかげで嫁の機嫌が悪いったらねえ。全部坊のせいでさぁ」


 従士長シイツが、しみじみと呟く。


 「取り急ぎで片づけねばならないことは、全部片付きましたか?」

 「そりゃまあ。早めに片付けねえといけねえ仕事は幾らでもありますが、新しい村の件についちゃ、ひと段落でしょうよ」

 「チョコレート村です。さて、そこで、やらねばならないことを思い出しました」

 「何です、そりゃ?」


 ペイスが、執務室の椅子からすくっと立ち上がる。

 シイツには、どうにも嫌な予感が走った。


 「マシュマロを、キャンプファイヤーで焼かないと!!」

 「……はい?」


 こいつは何を言ってるんだ、と言わんばかりのシイツのあきれ顔。

 それを確かに見ているはずなのに、あくまでマイペースなペイス。


 「この間、マシュマロを作ったじゃないですか」

 「ああ、あの妙ちくりんな食感のお菓子ですかい?」

 「そう、それです」


 先日、魔の森から手に入れた蜂蜜を水あめ代わりに使い、マシュマロを作った。

 ふわもことした不思議な食感のスイーツは、女性陣には特に受けた。

 女性従士たちだけを集めたモルテールン家の懇親会でも、ひと際珍しいマシュマロは注目の的であったのだ。


 「確かに、マシュマロは美味しいお菓子です。しかし、マシュマロの潜在能力は、ただ単に食べるだけにとどまらない!!」

 「あ~はいはいそうですね。お、ジョゼお嬢の健康状態の定期レポートじゃねえか。順調そうで何より」


 ペイスは拳を振り上げ、滔々と語る。

 マシュマロとは、それをそのまま食べるのも勿論美味しいが、それだけが食べ方では無いのだと。

 尚、シイツは既に書類仕事をしながらペイスの熱弁を聞き流している。


 「冷やして食べるとまた固めの食感になりますし、温めて食べると柔らかくなる」

 「はいはい」

 「特に、軽く炙ったマシュマロは熱で蕩けて、全然違った食べ物に早変わりする。その変化の過程をじっと見るのも楽しい。食べてよし、見てよしのスイーツとなる!!」

 「はいはい」

 「食べる場所も重要です。マシュマロは、室内で食べるのも良し、屋外で食べるのも良しです。特に屋外で食べるなら、焼きマシュマロが最高なんですよ」

 「はいはい」


 お菓子狂いの異常なスピーチは、佳境に入る。


 「つまり、マシュマロがあって、森の焚火があるなら、焼きマシュマロなんですよ」

 「俺には、坊の言ってる理屈が微塵も理解できねえです」

 「ふふふ、実物を食べれば意見も変わりますよ」

 「はいはい」

 「じゃあ、いきましょうか」

 「ん? 何です、坊」

 「だから、話を聞いてましたか?」

 「いえ、全然」

 「焼きマシュマロの美味しさを体験してもらう為にも、早速チョコレート村に行こうじゃないですか。マシュマロもお菓子もたっぷり持って」

 「は?」


 行動力は無駄に有り余っているのがペイスという少年。

 シイツが話を聞き流していたことを良いことに、強引に新しい魔の森の村に視察すると決めた。

 荷物で最初に用意されたのが、マシュマロ。

 一体、何を視察するつもりなんだとシイツがぼやいたのは甚だ余談である。


 新しい村に着くと、ペイスは早速バーベキューの準備を始める。

 駐屯部隊も何をしようとしているのかが分かったのだろう。ウキウキと手伝いを始めて、コンロの準備もあっという間に出来た。


 最初にペイスがやったこと。

 それは、勿論マシュマロを焼くことだ。


 「甘ぇ。これが焼きマシュマロってやつですかい?」

 「ええ。美味しいでしょう」

 「まあ、不味くはねえです」


 焼きマシュマロを試食したシイツの意見は、とにかく甘いであった。

 砂糖も蜂蜜もたっぷり使われているマシュマロであるから、確かに食べると甘い。火によって蕩けている分、尚更甘みが強く感じられた。シロップを舐めているような感じだ。

 美味しいか美味しくないかで言えば、まあ美味しい。ただし、一口で良い。

 酒飲みのシイツからしてみると、大量に食べたいとは思わない味だった。

 勿論ペイスも、そんなことは端から想定済み。

 マシュマロの奥深さを知らしめる、秘密兵器があるのだ。


 「そして、とっておきのスイーツが、これ!!」

 「何ですかい、こりゃ」


 ペイスは、火で炙ったマシュマロを、何やら細工し始める。

 出来上がったのは、サンドイッチにも似た小さな食べ物。


 「チョコとマシュマロを焼いてビスケットで挟む。スモアというスイーツですよ」

 「スモア?」


 スモアとは、元々アメリカで生まれたスイーツ。

 アメリカのボーイスカウトやガールスカウトでは定番のお菓子となっていて、焼いたマシュマロを、チョコレートとあわせてクッキーやビスケットで挟んで食べる。

 語源はSome more(もうちょっと欲しい)という英語から来ていて、一つ食べるともう一つ、もう一つ食べるとあとちょとといった具合に、ついつい手が伸びてしまうという子供に大人気のお菓子である。


 「やはり、森でのキャンプはこうでないと!!」


 森の中でマシュマロを焼くペイス。

 その顔には、笑顔が浮かんでいた。




これにて34章結。

ここまでお付き合いくださりありがとうございます。


マシュマロとチョコレートは、相性がとても良いですよね。


さて、以下宣伝が五点ほど。


・おかしな転生アニメ化

おかしな転生のアニメが本年七月から放送開始です。

それに合わせて色々と動いていますが、私も放送を楽しみにしております。

ペイストリー役が村瀬歩さんということで、ドラマCDから引き続いてペイスをお願いした形ですね。

公式HPも有りますので、是非覗いてみて下さい。


・舞台化

おかしな転生が、また舞台化します。

今度はキャストが女性のみということで、どういう舞台になるのか実にワクワク。

詳細は公式HPなどで確認してみて下さい。


・おかしな転生22巻発売&23巻予約開始

おかしな転生の22巻目が一月十日に発売されています。

また、今章の収録された新刊も四月に発売となります。

書下ろしもたっぷりですので、是非お手に取っていただければと思います。


・おかしな転生コミックス9巻

以前にあとがきで書いた通り、コミックスも今月発売です。

ボンビーノ子爵家を挟んでの海賊討伐。ペイスの活躍と、まだ初々しかった時代のウランタの頑張りが見られますので、是非ともお買い求めください。


・おかしな転生グッズ発売

おかしな転生のグッズが各種発売中です。

特にカレンダーは使い勝手も上々で、沢山のイラストがあるのでお勧めします。

また、もう少し先になりますが和三盆のグッズも出ます。おかしな転生にちなんだデザインを私が選びましたから、目でも舌でも楽しめますよ。

ポップアップショップやオンラインストアを、是非とも覗いてみて下さい。



以上、宣伝まで。


次章。

開拓を進めるペイスの元に、王都での仕事が入った。

何やら、外国の要人がやってくるという。

そこでペイスに与えられた仕事は要人の”奪還”!?


騒動が騒動を呼ぶ中で、お菓子好きの少年が渦中に飛び込んで……


35章「チーズとベリーはアイスが一番」


お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙絵
― 新着の感想 ―
この章は特に難産でしたね お菓子も無理やりだし
[良い点] マシュマロが出てきた点。 [一言] マシュマロは新しいスイーツのための調味料だと個人的には思っておりました。
[一言] チョコとマシュマロを使ったお菓子と言えば、エンゼ○パイしか知らなかったので、今回も勉強になりました。 てゆーか、この作品のせいでスイーツ男子が増えてますよね?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ