表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/352

【第19話】俺の名は……君の名は?

「この辺りでいいか」


 10分程森の中を走り、適度に開けた場所を見つけた。夜明けまではまだ時間があるだろう。色々とあり過ぎて完全に目が冴えてしまったが、ゆっくり考える時間が欲しかった。それに【暗視】があるにしても、これ以上魔物に遭遇するのも面倒だ。


 僚は腰を下ろし集めた枯れ枝に火を着けた。相変わらず、ガソリンに引火したような炎が巻き上がる。


「今の……アリュマージュなの?」


 ピクシーが炎の勢いに驚いて目を丸くする。


「え? ああ、そうみたい。ま、気にしないで」


 ピクシーは僚の肩から、膝の上にひらりと移動し、上目遣いにじっと見つめた。


「不思議なの、貴方からは魔力が感じられないの。それに暗闇の中をあんなに早く走れる、まるで見えてるみたいなの」


「それも、気にしないでくれると助かるかな」


 実際、自分でもよく分かっていない。


 ピクシーはちょこんと頷いて、僚の膝に腰を下ろした。


「夜明けまでまだ間があるから、暫く眠るといいよ」


 僚は何気なく言ったのだが、ピクシーは急に眉根を寄せ不安げな表情を浮かべた。


「……寝てる間に……どっかに行っちゃわない?」


 一人にされるのがよっぽど怖いのだろう、あんな目に合えば当然と言えば当然だが。


「大丈夫、どこへも置いていかないよ。明るくなるまでは一緒にいるから安心して」


 僚の言葉に安心したのか、ピクシーは自分の腕を枕に横になり、暫くすると可愛い寝息を立て始めた。


「さてと……」


 僚は、ピクシーが眠ったのを確認すると、【暗視】を解いた。


 辺りが夜にふさわしい闇に包まれる。


「まずは、メニューから……」



【メニューをひらきますか? YES/NO】



 僚は迷わずYESを選んだ。



【メニュー】


『ステータス』

『固有スキル』

『スキル』

『魔法』

『アビリティ』

『ガイアストレージ』

『ギフト』


 メニューの文字の後に、パソコンやゲーム画面のようなタブが並んでいる。


「とりあえず、ステータスかな」



『ステータス』


“ 明日見 僚 ? ”

 称号 ???? 龍脈からの帰還者 異世界の旅人

 年齢 17歳

 魔力 0

 魔力量 0

 固有スキル:翔駆 ガイアストレージ 解析 完全再現 抵抗

 スキル:無詠唱 並列思考 麻痺耐性 暗視

 魔法:火、土、雷、光、無、生活

 アビリティ:真力

 

 ギフト:生々流転



「……また、初っ端おかしなの出たぞ……」


 色々と変わってはいる、が。


「名前の後ろ『?』 ってなんだよ……」



【特定に時間を要します。任意に変更が可能です。回数制限無し】



「え? 俺の特定に時間が掛かる? なんで?」


 それにもう一つ。


「変更可能って、名前を自由に変えられるって事か……こっちは便利かも」


 勇者たちから逃げるなら、偽名を使い別人に成りすます方がいいだろう。


「あと……うん、称号はどうでもいいな」


 相変わらず魔力、魔力量共に0。どうやって魔法を発動しているのか分からないが、ここまでくるともう気にしたら負けだ。そう思った。


「うん、気にしたら負けだ」


 翔駆、ガイアストレージ、解析は使ったから分かる。



『固有スキル』


【完全再現:一度見た魔法・特殊技能を再現出来ます。但し魔法は発動の過程まで見たものに、特殊技能は攻撃を受けたものに限ります】



「それで……魔法が使えるようになったのか……それはいいとして。特殊技能は攻撃を受けたものって……覚える前に死ぬんじゃないか?」



【抵抗:魔法・特殊技能及び状態異常の攻撃を受ける事によって、その攻撃に対する耐性を得る事が出来ます】



 ゲームのように即死系とか、腐食系とかあったらどうなるのか。


「だから、死ぬって」



『スキル』

【無詠唱:魔法を詠唱無しで発動する事が出来ます。詳しくは『魔法』の項目を参照して下さい】


【並列思考:幾つのも思考を同時に行う事で、別系統の魔法を同時多発的に発動します】


【麻痺耐性:麻痺攻撃を完全にレジストします。魔法・薬物・ガス等攻撃の種類は選びません】


『魔法』

 イメージ、又はメニューから発動する事が出来ます。

【火:フレアバレット】

【土:メタルバレット】

【雷:サンダースピア】

【光:セイクリッドリュミエール】

【無:マジックアロー】

【生活:洗浄 着火】



 確かに一度見たものばかりだ。だがおかしな点もある。聖系統である治癒魔法がリストにないのだ。


「何度も体験したのに、なんでだろ……まあ、いっか」


 これだけであれば十分チートと言える。



『アビリティ』

【真力:魔力・覇力・理力を同時に行使出来ます。但し覇力については現在未修得です】



 そしていよいよ一番知りたい項目の番だ。



『ギフト』

【生々流転:世の中の全ての物は、次々と生まれ時間の経過とともにいつまでも変化し続けていく】



「…………それ……まんま四字熟語の説明じゃん……」


 まるで辞書そのままだ。能力については、一切説明する気がないらしい。


「自分で答を探せって事かな?」


 溜息交じりに呟いてはっと気が付いた。


「……って、これ誰が解説してるんだ?」



【セクレタリー・インターフェイスです】



「……そうですか……」


 つまり、スマートフォンとかの音声ガイドみたいなものだろう。


「後は、身体能力補正と……覚醒が消えてる……」


 最後に賢者の石板で確認した時にはあった、覚醒の項目が消えている


「……まさか魔神の覚醒とかじゃないよな」



【覚醒については不明です。身体能力補正については、現在五感を含む体力、筋力、耐久力、持久力等の身体能力が超強化されているため消失しています】



「……超……」


 僚は握った右の拳をじっと見つめた。


「……なんかもう、人間かどうか怪しくなってきたな……」


 まるで、40年以上続く変身ヒーローのようだ。


 冒険者として生きる為、勇者たちから逃げる為には都合がいい訳だが。


「これ以上考えるのはよそう……」


 気が付くと、東の空が白み始めていた。






 辺りがすっかり明るくなり、朝を告げる小鳥の声が響き渡る。


 ピクシーは目を開けると、半身を起こして大きく伸びをした。


「目が覚めた?」


 ピクシーはきょろきょろと周りを見渡し、僚の顔を見上げた。


「……おはようなの。もしかして、ずっと起きてたの?」


「ああ。また魔物に襲われたら困るからね」


 何でもない事のように笑う僚の姿に、ピクシーは僅かに残っていた警戒心を解いた。


 この人は信用できる……。


 ピクシーはふわりと羽を広げ、僚の顔の前に浮き上がった。


「貴方はニンゲンだけどいい人なの。助けてくれてありがとうなの、です」


 ぺこりと頭を下げる仕草と変な敬語が妙に可愛い。


「気にしなくていいよ。偶々倒した魔物の中に君が居ただけだから」


 僚はゆっくりと立ち上がって、木々の間から見える空を見上げた。


「いい天気だ、俺はもう行くからお家にお帰り。魔物に気を付けてね」


 背を向けて歩き出した僚の目の前に、ピクシーは慌てて回り込んだ。


「待つの、ピクシーは受けた恩には必ず報いるの」


 確かに、そういう話は聞いた事があった。この世界に来てからか、元の世界で何かの本で読んだのかは、はっきり覚えていないが。


「ははは、返して貰う程の事じゃないさ。さっきも言ったけど偶々だしね。もしどうしてもって言うなら、そうだな。いつかまた会った時、俺が困っていたら手を貸してよ」


 ピクシーは少し考えて、ぷるぷると首を振った。


「ダメなの、ここで別れたらきっともう会えないの。だから何でも一つ、望みを言ってなの」


「え? 何でもって、そんな事ができるの?」


 僚は思った疑問を素直に口にした。どう見てもこの小さなピクシーに、人の望みを何でも叶えるような力があるとは思えない。解析でもそんな能力は表示されていなかった。


 ピクシーは俯いてもじもじと膝をすり合わせる。


「……今は……ムリなの……で、でも、ユルティーム・ピクシーになればきっとできるのっ」


 力説するが、そのユルティーム・ピクシーとやらになるのに、どれ位時間が掛かるのだろう。


「えっと、じゃあ一緒に来る?」


「いいのっ?」


 ピクシーは咲き誇る花のような笑顔を浮かべた。


「ああ。俺も一人で退屈してたところだし。それに、旅は道連れっていうしね」


「ありがとう、です。あの、名前を教えてほしいの、です」


「俺は、あす……」


 このピクシーが信用できない訳ではない。だが、これからは別人として生きていく方がいいだろう。


「アスカ、シリュー・アスカだよ。よろしく」



【固有名をシリュー・アスカに変更しました】



〝相変わらずいきなりで仕事が早いな、セクレタリー・インターフェイスさん〟


 もうツッコむ気にもならなかった。


「えっと、君の名前は?」


「ピクシーに固有名はないの、貴方が付けてくれたら嬉しいの」


 僚改めシリューは、ピクシーを姿に目をやった。


 透き通るように輝く翠の髪と瞳。美しく整った顔にギャップのある可愛い話し方。


「じゃあ、翡翠、ヒスイって言うのはどう?」


「ヒスイ……いい名前なの♪」


 名前を付けて貰ったのが余程嬉しかったのか、ヒスイはきらきらと星を振り撒くように飛び回った。


「ヒスイは頑張ってユルティーム・ピクシーになるの、です。それまで精一杯ご主人様にお仕えするのです!」


「うん、今なんか、不穏な事言ったね。何? お仕えするって。それとなんでご主人様呼びになった?」


 意味不明は、生々流転とセクレタリー・インターフェイスだけで充分いっぱいいっぱいだ。


 ヒスイはちょこん、と首を傾げた。


「ご主人様はご主人様なの、です!」


 何故か、ヒスイが力強く宣言した。それ以外の選択肢はあり得ない、とばかりに。


「うん、なんかもういいや……」


 喜びいっぱいのヒスイを肩にのせ、シリューは森を抜ける為歩き始めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ