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第124話・マスターとしての責務

 

「て、テオ!? なんでお前がここに……!?」


 突然の出現、さすがに驚く透と坂本。

 女子寮からここまでは距離がある上、自衛官の見回りや鍵にトビラもある。

 物理的に、侵入は不可能のはずだった。


「まさか…………」


 恐る恐る、唯一あった可能性を聞いてみる。


「魔法で来たのか……?」


「はい、『相転移次元跳躍(マジック・テーブル)』でこの部屋まで転移して来ました」


 やはりそうかと、透は頭を抱えた。

 彼女は異世界人……ある最強の自衛官を除いて、唯一魔法が使えてしまうのだ。テオドールにとって、鍵や見回りなど何の意味も無い。


「な、何しに来たんだ?」


「んー……、透に会いに来ました」


「もう寝る時間なんだけど……」


 そんな2人の様子を見ていた坂本は、机に置いていた充電中のスマホを掴んだ。


「あっ、隊長。自分……錠前1佐に用があるんで失礼します」


「はっ!? おい坂本––––」


 言っている間に、彼はサッサと部屋を出てしまった。

 テオドールと2人きりになった透は、仕方なさそうにベッドへ腰を下ろす。


「俺に会いに来たって言ってたけど、四条と久里浜が隣の部屋にいただろ。あの2人じゃダメだったのか?」


「透じゃないとダメです、それに……確認しましたが2人共部屋にいませんでした」


「なるほど、俺じゃなきゃか……理由を聞いても良いか?」


 しばらく恥ずかしそうにしたテオドールは、布団に顔を半分隠しながら……小さく呟く。


「透と一緒に寝たいです…………」


「ッ……」


「せっかくいっぱい頑張ったのに、暗い夜を1人で寝るなんて寂しいです。透とお喋りしながら寝たいです」


「そっか〜、俺じゃなきゃか〜……」


 普通なら追い返すのが正解だろう。

 だが、多くの日本人を救ったテオドールがここまでお願いしているのだ、無下にすれば……マスター失格だと感じた。


 何度も念じる、この子は戸籍上18歳……。

 つまり合法。諸々の風紀的な部分に目を瞑れば、一応問題は無い。


 警務にバレれば終わりだが、ここは引く場面じゃなかった。


「……とりあえず今日だけな、あと。これから駐屯地内では許可なく転移魔法を使わないと約束したら……その、ここで寝かしてやる」


 テオドールの顔が、花開いたように輝いた。


「はっ、はい! わかりました。ちゃんと約束します」


 可愛い眷属は、何度も首を縦に振った。

 ここまで来れば、もう引き返せない。

 透は部屋の電気を、僅かだけ残して消した。


 そして、布団を一緒にかぶる。


「…………っ」


 こうして近くで見ると、本当に美少女だということを実感させられる。

 地球ではまず見ない、銀髪に金色の瞳。


 しかも、めちゃくちゃ良い匂いがした。


「シャンプー、気に入った香りはあったか?」


「はい、四条に貰った物が凄く良い匂いで……その。透はどう思いますか?」


「どうって……」


 グッと、緊張した様子で顔を近づけるテオドール。


「この香り……好きですかっ?」


「ッ…………!!」


 透はふと思った。

 これまでの言動から察するに、テオドールは今まで人に甘えたことが無いんじゃなかろうか。


 比喩でもなく、本当に……人生でただ1回として。


 日本食を食べる時も、「自分なんかが」と謙遜していた。

『ひゅうが』では、やたらと自分の役に立ちたがっていた。

 認められることに、耐性があまりにも無い。


 そう思うと、こうして必死にアプローチしてくる彼女が……とても可愛く、可哀想であり––––同時に愛おしく感じてしまう。


「良い匂いだよ、俺の好きな香りだ。テオによく似合ってると思う」


「本当……ですか?」


「本当だよ、お前はいつだって可愛い。もっと自分に自信を持て」


「ッ!!!」


 ならば、今自分がこの子を認めないでどうする。

 ダンジョンマスターからも、他の執行者からも認められなかった子を……自分が肯定してやらないでどうする。


 羞恥は捨てろ、今まで我慢して来た分––––とことんまで言葉を浴びせるんだ。


「テオは偉いよ、本当に偉い。素直で真面目で……まっすぐなところが愛おしい。しかも実力だって超強いと来た、最強じゃん」


 銀髪で覆われた頭を、優しく撫でる。

 一撫でするごとに、彼女の全身が弛緩していくのが伝わった。


「俺の眷属になってくれてありがとう……、『ひゅうが』のみんなを守ってくれてありがとう……。大勢の日本人を笑顔にしてくれてありがとう。俺が保障する、テオは世界で一番強くて可愛い女の子だ」


「むふぅ……っ、えへへ」


 褒める、褒めて褒めて……頭をとことん撫でまくる。

 人生で我慢しか存在しなかった彼女に、マスターとしてご褒美を与えるのだ。


 時間にして20分ほどだろうか……。

 透の脳破壊ASMRを聞かされ続けたテオドールは、幸せの中で深い眠りについた。


 寝顔はまさに女神のようで、そのまま良い夢を見ているようだった。


「……本当に苦労して来たんだな」


 ゆっくり布団から出た透は、ベッドにもたれ掛かる形で床に座った。


「俺も……頑張らなきゃな、こいつのマスターとして」


 透はそのままベッドを背に、座った状態で眠る。

 陸上自衛官の習性か、地面でも平気で寝れる彼は……そのまま闇へ意識を沈めた。


124話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」

「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」


と思った方は感想、いいね(←地味に結構見てます)でぜひ応援してください!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 新海、アウトぉー! もう実質プロポーズじゃんw 加減を知れwww そして空気を読める男 坂本に幸あれ!!
[一言] 消灯時間をすぎて廊下をうろうろしている坂本は警らに発見され尋問の末にゲロってしまい翌朝には新海はロリコンという事実が広がっていたのであった。チャンチャン♪
[一言] もしもし警務メン?
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