第105話・魔力ブースト
テオろ! ほえドール!!
「正気ですか透ッ!?」
––––時間は少し遡って、
『ひゅうが』の医務室で起き上がったテオドールは、開口一番に我がマスターの正気を疑った。
理由は、彼が放った言葉にある。
「アノマリーは巨大な魔力に反応するんだろ? 今のお前なら、全力出せば十分引き付けられると思うんだけど……」
「で、できますけど……相手はあのアノマリーですよ!? 今まで色んな世界を巡って来ましたけど、ヤツが現れたら逃げるのが鉄則! 勝てるわけがないんですよ!」
聞けば、ダンジョン勢力は過去に一度だけアノマリーに異世界で挑んだことがあるらしい。
「本当に、本当に恐ろしかったです……!」
結果から言えば惨敗。
ダンジョンの外装は半壊し、使役していたモンスターは大半が死亡。
相手のタイプは、陸上特化の牛鬼にも似た化け物。
果敢に近接戦を挑んだテオドールは、振られた腕の一撃で軽く吹っ飛ばされ、呆気なくダウン。
瓦礫に埋もれた状態で気絶してしまい、その後他の執行者によって救出されたという。
「あれ以来、アノマリーが目覚めたら別世界へ逃げることになりました……。それくらい敵は強いんです」
確かに、テオドールの言うことは事実だろう。
さっき聞いた報告では、大量の対潜爆弾と18式魚雷を食らっても生きているらしかった。
しかし、透は特に気にせず続ける。
「それって、お前が栄養失調でかなり不完全だった時だろ? 今のテオなら十分張り合えると思うんだけど……」
「絶対嫌です! いくら透の言うことでも承服しかねます! アノマリーとは二度と戦いませんから!!」
眼前の可愛い眷属は、不機嫌そうに言ってプイと横を向いてしまう。
本人が嫌と言うなら強制はしたくないが、それでも––––透は彼女の持つ可能性を信じていた。
「……魔力が強化される条件ってあるか?」
「強化……? まぁ一応ありますよ、わたしと透の関係なら1つ手段が存在します」
向き直ったテオドールが、どこか思い出しながら話す。
「互いが主従関係にある場合、何か約束事を交わせば一時的にブーストできます」
「じゃあ俺がテオに何かあげる代わりに、テオはそれと引き換えで魔力を強化……とかできんの?」
「まぁ……一応。あっ! 言っときますけどやりませんからね! 散々言いましたがアノマリーとは二度と––––」
未だ拒否を続ける彼女の前で、透は立ち上がった。
「気持ちはわかるが、この“匂い”に耐えられるかな?」
医務室の扉が開かれる。
瞬間、テオドールにとって嗅いだことのない匂いが飛び込んで来た。
彼女の概念で言語化するなら、野菜と肉……それらを膨大なスパイスで煮込んだような香りだ。
口内にバッと唾液が溢れ、溢れそうになったのを思わず腕で拭う。
「約束だ。テオが300秒––––アノマリーを足止めできたら、この匂いの元の料理を食わせてやる」
「ぐっぅ……! なんですかこれ、涎が、涎が止まらないです……!」
「2日も点滴だったんだ……胃が寂しいだろう? 知ってるか? この料理は海自で一番美味しいんだぜ」
「ッ…………!!」
しばらく葛藤したらしいテオドールが、恥ずかしそうに目を逸らしながら口開く。
「さ、300秒ですよ……。それがわたしの稼げる限界時間です。終わったらその料理、ちゃんと食べさせてくださいね」
やはり、相当チョロい娘であった。
ご馳走で見事一本釣りを決めた透は、そのまま彼女を飛行甲板に連れて行く。
そして、切り札のレールガンが到着した頃に––––
「こっちを向け! リヴァイアサンッ!!」
“約束”によって一時的にブーストされた魔力を放出し、アノマリーの注意をこちらに引かせた。
「よっし、こっち向いたな……じゃあテオ。頑張るぞ。300秒稼げばそれで良い」
「グゥッ……、こんなに眷属をこき使うなんて、透は酷いマスターです」
「できないヤツには最初から何も頼まないよ、お前はちゃんとできる。だからお願いしてるんだ」
「ッ……!」
アノマリーの大口がテオドールを指向する。
透は風が吹き荒ぶ飛行甲板で、テオドールの背中を叩いた。
「リベンジだ、全力をぶつけてやれっ」
右手に魔力を充填しながら、テオドールは小さく呟く。
「やっぱり透は女たらしです…………」
「ん? なんて?」
「なんでもありません、約束通りこれ終わったら––––ちゃんとご飯食べさせてくださいね」
「あぁ、もちろんだ」
ニッと笑ったテオドールは、遂に放たれたリヴァイアサンのレーザーを前にしても全く引かなかった。
全身全霊で己を奮い立たせ、マスターのために全力の魔法を撃った。
「『収束衝撃波圧縮砲』ッッ!!!」
右手を振り抜く。
発射された青白いビームは、リヴァイアサンの超高出力レーザーと正面から激突。
光同士での鍔迫り合いを展開した。
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