帰ってきたロクコ
(コア集会は、まぁ2泊3日)
その後、あっさりとアイディの参戦は決定した。――ということを、帰ってきたロクコは俺に話してくれたわけで。
「というわけで、明日にでも来る勢いよ」
「なるほど」
うーん。まさか魔王派閥のアイディが仲間になるとは予想外だった。
これは見せられないモノも多く……いや、元々ハクさん相手に切り札は隠すつもりだったからそこはさほど変わらないか。
というか、魔王派閥とハクさんの派閥の代理戦争になるんじゃないかと思ってたのになんでそんなことに。
「それね。驚くほどなんの問題もなく話がついたわよ? どちらかというと8番コア様――あ、DPランキング10位、獣王派閥のトップ、獣王ね? その獣王がハク姉様に『629番のことを頼むでな』って頭下げててひと騒ぎあったくらいよ」
「へぇ。獣王派閥っていうとミカンが所属してた派閥だよな」
「そうっきゅよー。第8番コア様がボクなんかのために頭下げてくれるなんて、カンドーしちゃったっきゅよ!」
ミカンがオレンジ色の尻としっぽをふりふりして嬉しさを表現している。もふい。
なるほど、トップが訳あって離反した下の者のために頭を下げて見せる。それだけでこんなに忠誠心が稼げるなら別段悪くない手だろう。話を聞く分にはへりくだるわけじゃなく、懐の深さを示せているようだ。
しかも離反したはずのミカンが戻って行けるフラグも立ててる。ハクさんの情報を持ったうえで戻れるということは実質スパイになれるということだ。
考えてやっているのか、それとも獣王なだけに野生の勘でやっているのかは分からないが、どちらにしても油断できる相手ではなさそうだ。
なるべく敵に回さないようにしよう。まぁ、トップ10位に入ってるようなヤツを敵に回すほうがどうかしてるけど。
「……でも、アイディが味方にーって、なんか余計なことになったと思うんだけど……ケーマとしては大丈夫なの? 計画とか」
「うん? ああ、そりゃ確かにアイディの参戦は予想外だったが、俺としては何の問題もないぞ。むしろ攻め手の問題が解決したな」
「え、そうなの?」
元々攻め手については相手である564番コアの正体なりがつかめてからと考えて後回しにしていたのだが、ここをアイディに任せてしまえることになる。
こちらでも一応用意しておいた方がいいだろうが、あくまで控えレベルで十分だろう。
「うん、アイディがこっちを裏切って攻め込んできたりしない限りは何の問題もない」
「なるほど。……となると、アイディには防衛は参加させないで完全に攻めに回ってもらう形にした方が良いわね。父様に宣誓してたから無いとは思うけど、決着がついた後にその勢いのまま反転とかありえるし……それを考えると、攻めにせざるを得ないわけね」
と、ロクコがすらすらとアイディの運用について俺の意見を先読みする。
ロクコもだいぶ賢くなったなぁ、しみじみ。うん、しみじみが深い。
「元々はワタルをそそのかして乗り込ませようかとも考えてたんだ。でもそれだと、どうしてもダンジョン側の事情が何かしら露見することになるだろ? ダンジョンバトルのこととか」
「それ考えると、むしろアイディの参戦は良かったわけね」
「あとはニクやイチカくらいしかないからな。もういっそアイディに丸投げするか……」
「……ケーマ、ケーマ。ボクは何すればいいきゅかね?」
「ミカンは、今はダンジョンに来てる冒険者たちに媚びを売ってくれ」
手持無沙汰にこちらを窺っていたミカンに、接客を頼む。
ダンジョンについては、ロクコ達が集会に行ったあの後、一度報告に戻ってウサギを愛でるダンジョンだと認知を広めてきた。不明点はあるが、さしあたり危険はなさそうなダンジョンだと。
今はイチゴとウサギたち、それとニクとイチカも白ウサギの操縦に加わって、可愛いもの好きの第2調査隊をもてなし中だ。(ミーシャが声かけておいてくれたらしい)
「わかったきゅよ。サキュバスばりに魅了してみせるっきゅよ!」
「今回は、前回ミカンが不在になってやらなかったアレをやるからな」
「お、おう。もっと早く集会のこと言うべきだったきゅね。てっきりロクコが伝えてると思ってたんきゅよ」
まぁ、普通はマスターとコアの間で連絡がとれているべき内容だもんな。言うまでもないことかとミカンが思っても仕方ない。
「来年は一週間前くらいにはちゃんと言ってくれよ?」
「あ、うん、気を付けるわね。忘れてなければ言うとするわね」
来年も言わなさそうだ。と、俺はため息をついた。
「ちなみに、集会ではほかにどんなことがあったんだ?」
「ああうん、去年ハク姉さまとダンジョンバトルした影響で私ってば結構注目されててね。あ、順位も上がったわよ! 182位! アイディは175位だったから来年には追いつけるんじゃないかしら。むしろこのペースなら抜くわね。さすが私とケーマよね」
ふふーん、とロクコは鼻を鳴らして自慢げだ。
順位が上がっているのがどのくらい喜ばしい事かはいまいちよく分からない所だが、多分俺が思っている以上に嬉しいのだろう。
「そうか、良かったな。……ミカンはどうだったんだ?」
「ボクは290位だったきゅよ。去年から10位もあがってたー」
というか、ミカンって俺とロクコに1年で抜かれてたんだよな……まぁ、俺達はイッテツやハクさん相手に結構稼いでたからっていうのもデカいけど。
「ちなみに今回の相手、564番コアは何位だったんだ?」
「167位ね。DPのとこみたら数百万あったわよ」
「それは強敵だな……」
「さすが魔王派閥で500番台よね。でも6番コアから死刑宣告されたみたいになってたわ。しかも、アイディが煽ってた。ものすごく。人化解けてバフォメット? ってのに戻るくらい」
「ほう、バフォメット」
これは重要な情報だ。相手の正体がつかめれば、こちらでメタを張る(特化した対策をとる)こともできる。しかしバフォメットって、なんだっけ。確か山羊頭の悪魔だよな。……弱点とか何だろ。想像つかないんだけど。
ハクさんか、なんならアイディが来たら聞いてみるかなぁ。
「あとダンジョンバトルにあたって特殊勝利条件とかは増えたか?」
「無いわね。普通にダンジョンコアにタッチで勝利よ。勢い余って破壊しちゃうかもー、なんてアイディは言ってたけど」
「アイディならやりかねないな」
「……まぁ、3対1になるわけじゃない? 逆に564番が可哀そうなほどじゃないかしら。600番台3人と500番台1人だし、つり合いはとれてそうだけど」
ふむ。確かコアは100番ごとに100年くらいの差があるんだったな。
そう考えると、3対1でもつり合いが取れているのかは分からないところだが……これもマスターの有無で変わったりしそうだ。
実際、同じ600番台でもマスターがいない三竦みトリオは3コアで1チーム扱いだったし。
「564番コアにマスターがいるのかどうかの情報も、アイディから聞けるかなぁ……」
「アイディなら知ってるかもね。魔王派閥で、6番コアのお気に入りだし」
うん、アイディが情報を持ってきてくれるのを期待しよう。
それまでは防衛の準備を進めるか。
(今回はさほど問題もなく(とロクコは認識している)集会はあっさり(とミカンも認識している)終わりました。ダンジョンバトル、楽しみ(にしてるのは主にアイディである)ですね!
締め切りまでに書かなければならない量と比べて現状のペースがやべぇ件。誰だ書下ろし率9割のプロットなんて書いたヤツは。GW中にどこまで書けるかが勝負所……ぐへぇ)