スカウト(DP)
(7巻発売です! あと重大発表は『コミカライズ決定』とのことでした。だんぼるの薄い本へまた一歩近づいたぜ……!)
さて、ハクさんとミーシャは一旦帰った。
ので、ここからは自重せずにミカンのダンジョンを改装していこうと思う。
そのことを告げるとミカンは「むぅ」と不機嫌そうに唸った。
「これでも生還率0%のきょーあくダンジョンだったんきゅけどねぇ。自信あったのにー」
「そこも、良し悪しってヤツだな」
「そうなんきゅか?」
初心者相手で誰一人返さない。これは良い事でもあり、悪い事でもあった。
生存者がいないということは、評判が行きわたらない。死人に口なし(ただしアンデッドは除く)という名言の示す通り、侵入者が増えないということだ。
「いいことじゃないきゅか」
「DPが入らないぞ」
「……おー、なるほど」
敵が来なければ死ぬこともないのだから、長生きするにはそれでもいい。
だが、敵がこなければダンジョンは稼げないのだ。
「ちなみに、ハクさんの手前引っ越しすると言ったが、引っ越し先は2つ以上作る」
「そうなんきゅね。DP足りるかな……」
「なに、これから安定していくらでも稼げるようにしてやる。……生還率100%のダンジョンを作るんだよ。そのために、帝都に近い立地を確保させてもらった」
帝都から半日となれば、頑張れば日帰りもできるだろう。リピーターも見込める。
「生還率100%? それでDP稼げるんきゅか? 地脈の収入以外は殺さねーとDPはいんねーきゅよね?」
「なんだ、知らなかったのか? 殺害じゃなくてもダンジョン内への滞在でもDPが入るんだぞ」
「……え。そうなんきゅか?」
え、知らなかったのか。
「そこのニクとイチカが滞在してるだけでそこそこのDPになるはずだが、どうだ?」
「マジきゅか? ……マジきゅか!」
メニューで確認してみたのだろう。ニクたちの1日当たりの滞在DP量(/DP)なら滞在分のDPが既に少し入ってるはずだ。
しかし滞在で入るDPはてっきりダンジョンコアの常識だと思ったのだが。え、もしかして違うのか?
……もしかして、逆にロクコが知らないDPの稼ぎ方がまだある可能性が……?
まぁそれは後々検討しよう。
「ほへぇ、DPにこんな増やし方があったんきゅねぇ。べんきょーになったっきゅよ」
「そいつは何より」
「それで、生還率100%のダンジョンとなると……捕まえて閉じ込めるんきゅね?」
実際、それを大規模にしてるのが人間牧場だ。
「いや、閉じ込めるが詰め込まない。店を作る」
「……みせ?」
「ちょっとまってケーマ。それって、ウチのダンジョンみたくニンゲン相手に商売するってことよね? 629番、人化できる?」
「うきゅぅ……商売っきゅかぁ。人化もできねーっきゅよ。や、頑張ればできなくもねーんきゅけど、30万DPかかるからなぁ」
ウサギをつっついていたロクコが話に割り込んできた。的確な指摘だ。
人化というのは、ダンジョンコアたちの間では一種の地位である。
それはダンジョンコアたちの『父』が人の形をしているからで、それに敬意を示すためだけにベテラン勢は人化を習得しているという感じだ。
そして、それだから最初から人化の習得が必要無いロクコやハクさんは嫌われ者とされているそうな。
30万、となるとミカンの貯蓄が大半吹っ飛ぶか。
「人化って覚えてもあまりメリットなさそうだしな……」
「そこは人化したことないからわかんねーっきゅよ」
そんなものに30万DPを出せる余裕はまだミカンにはない。そういうことだ。
「まぁ人間相手に店をやるとして、人間に擬態できる人員がいればそれに越したことは無いな。シルキーとかおススメだぞ」
「んー、ちょっと待つきゅよ。そんなのいたっけかなぁ」
と、ミカンは何もない空中に目を走らせる。多分メニュー機能からカタログを見ているんだろう。
「シルキーないきゅねぇ。ソルジャーラビットじゃだめっきゅか? 立って歩くし、武器だって使えるきゅよ。ニンゲン語しゃべれねーけど」
「イチカ、判定は?」
「ウサギ獣人って言ってもキツイやろ。却下」
うーん、二足歩行して槍を持てるけどまんまウサギだからなぁ。さすがに無理か。
「ちょっとカタログを可視化してくれ。品揃えを見たい」
「わかったっきゅよ」
ミカンがちょいちょいと操作して、パッとメニューが現れた。カタログが表示されている。
……ふむ、UIはウチのと変わりないな。えーっと。なるほどなるほど。モンスターはやっぱりウサギが安いというか、殆どウサギしかカタログにないな。
落とし穴のトラップが無駄に安そうだ。アイテムも、素朴なものばかり。
まぁよく考えたらウチとミカンじゃダンジョンコアの基礎が違う。当然できることは異なるのだ。でも最悪こっちにDPを移してモンスターやアイテムを出し、それをミカンに譲渡する形でやりたいことは実現できる。問題はない。
ああ、人化したらシルキーとかそのあたりも手に入るようになるかもな。うん。
「お、このワーラビットってのは良くないか? あのミーシャがワーキャットだろ、ワーラビットなら人間に変身できるんじゃないか」
「……ご、5万DP……躊躇する額っきゅねぇ」
逆にワーラビットはこちらのカタログには無い。5万DPか、そこそこするな。
ミカンからしてみれば、全財産の7分の1。
たしかに重いが、ここは必要な出費だ。
「失敗だったらこちらで5万DPで引き取るから、やってみろ」
「うー、なら、やるきゅよ。っはー、めっちゃ緊張する。1万越えとかはじめてなのに、5万とかぁ……」
「こういうのは思い切ってやった方がいいぞ。ほらほら」
「うぅー、ダメだったらホントに責任取って引き取ってもらうっきゅからねー!?」
言いつつも、ミカンはワーラビットの召喚を始める。
きゅいん、と半径1mほどの魔法陣が広がった。
そして、にゅいっと、赤毛のうさ耳の女の子が出てきた。ミカンは耳がへたっているロップイヤーなのに対し、こちらはバニーガールのようにピンと上を向いてピコピコしている。……あと、全身毛が多めで、服は着てないのにワンピース型の水着を着ているよう。そして手足の肘・膝から先はファーのグローブ・ブーツのようになっている。
「おおお、ウサギたちと同じように出てくるんきゅねぇ……ひとがたうさぎー」
「……えと、んきゅ。はじ、初めまして」
「しゃべったぁああー! ニンゲン語しゃべったっきゅよー!」
懐かしいもんだ、俺もレイたちを召喚したときはこうなったもんだ。
「顔は中々可愛いわね、これは合格かしら? ケーマ」
「そうだな。ウチの宿の受付にも採用できそうだ」
これなら、最悪人間に変身できなくても誤魔化せるレベルだろう。
と、顔を見ていたら頬を赤くして、照れて手で顔を隠した。おっと失礼。
「ミカン、名前を付けてやれ。女の子らしい名前がいいだろうな」
「え? ネームドにするんきゅね。まぁ5万かけたんだし当然っきゅね……んー……ちだまり、とかは……だめきゅよねぇ」
なにその物騒な名前。怖い。と、ミカンは顔をあげてイチカを見た。
「おーい、そこのニンゲン、ぼきゅに名前つけたみたくなんか考えてっきゅよー。そもそも女の子らしー名前とかわかんねーもん、まかせたきゅよ!」
「ん? ウチがきめてええのん? ……じゃあイチゴなんてどうや? 赤いし」
「んきゅ! よーし、おめーの名前はイチゴっきゅよ! よろしくなー!」
「は、はい、ありが、よろし、ます!」
そしてこのイチカネーミングよ。お前は食いモノから名前つけるの好きだなぁ。
まぁイチゴなら女の子っぽくていいだろう。
「で、人間への擬態はどこまでできるんだ?」
「んきゅ! 見せてやるっきゅよイチゴ! おめーの力を!」
「えと……んきゅ、ふぁぁ……!」
両拳で口元を隠すようなガッツポーズで踏ん張り、イチゴは人に変身してみせる。耳は変わらないが、手足や体の毛が消えて行きまさに人に――って、服、服着ろよ!? え、無い? ウサギは全裸が基本ってか。
俺は顔を全力で背けて、イチゴの裸を見ないようにした。
「ろ、ロクコ。服用意してやれ」
「……ケーマのえっち」
「不可抗力だから!」
尚、服はこちらで出すことになった。いやまぁ、ミカンの方のカタログに載ってなかっただけなんだけどね。
「ところで、店って何を売るの? ウサギ肉の串焼き?」
「えええーーー! さ、さすがに仲間の肉を売るのは嫌っきゅよ!?」
「ああ、大丈夫だ。ウサギは売り物だが、肉は売らない。まぁ、説明するとだな――」
俺は、今回のダンジョンの構想を話し始めた。
(次回、新ダンジョン「うさぎカフェ」)