シキナの実家
ダンジョンバトルが決まったとはいえ、ちょっと時間がある。
というか、準備期間があと1カ月あるとか。どんなダンジョンにするかは、実際のダンジョンとコア本人を見てから考えるとして……
とりあえず、一旦ワタル達と合流することにした。
メイドさんから聞いたがワタルたちはシキナの実家、クッコロ伯爵の屋敷に行ったらしい……貴族街にあるので、城からは程々に近い。
というわけで、ロクコと一緒に木製の箱馬車に乗ってクッコロ邸に向かった。徒歩で帰らせるわけにも行かないというわけで馬車はハクさんの手配だ。
相当いいサスペンションが使われてるのか、ほぼ揺れない。さすが皇族御用達。
しっかし……あのシキナの家族かぁ……はぁ。顔を合わせるなり隠語連発したりしないよな?
娘さんを傷物? 状態にしてしまったので少し気が引けるが、会わないわけにもいかないだろう。一応時間の経過で治ると聞いてるし、状態を元に戻せる薬も用意してるから監督責任は果たしている。最悪その場でシキナに薬をぶっかければいいだろ。
クッコロ邸に到着すると、庭に通された。
そこではシキナとロップ、ニクとイチカがそれぞれ模擬戦形式の鍛錬をしており、ワタルとゴゾー、あとオールバックのおじさんエルフがそれを見ていた。いい服を着ているあたり、このおじさんエルフがダイン・クッコロ伯爵……シキナの父親だろう。
俺達が近づくとワタルが気付いて、手を挙げて呼んできた。
「お疲れ様ですケーマさん。ハク様とのお茶会はどうでしたか?」
「ちょっとした頼み事をこなしたら、ロクコとの関係はハグまでは認めてくれるそうだ。で、ワタル。そちらの方は?」
「おっと。紹介しとかないとですね。こちら――」
「ダイン・クッコロだ。娘がお世話になっている、ケーマ殿。ロクコ殿」
「あ、はい。どうも」
「そうね、お世話してるわね」
自己紹介をしつつ、ロクコの素直な言葉に苦笑するダイン氏。
シキナが問題児だという点については共通認識が取れそうでなによりだ。いや、だからこそ面識のなかった俺なんかに預けようとか思ったのだろうけど。
ちなみにウチの村にもダイン商会とかあるが、ウチの村の商人ダインはこのダイン氏にあやかって同じ名前を付けているらしい。平民なので苗字は無いが。
「あ、ケーマ師匠! お疲れ様であります!」
「おう。そのまま続けとけ」
「はいであります!」
それにしても、ロップとシキナだとシキナの方が優勢な感じだった。
地力は元々あったわけで、ただまっすぐでワンパターンだった弱点を克服すればそれだけでだいぶ強くなる。イチカも勝つのはそろそろ厳しいと言ってたっけか。
「そうそう、ハクさんの依頼を受ける都合で、俺達は【転移】で送ってもらうことになった。だからここでお別れってことになるな」
「なるほど、分かりました。まぁハク様ですからね」
「マジか。【転移】って数人がかりの儀式魔法だろ。ましてや、こっからゴレーヌ村までとなると……死人が出てもおかしくねぇぞ」
え、【転移】ってそんな危険なの? というか下手したら死ぬの? 俺、ハクさんに【転移】覚えさせられる約束してるんだけど。……あんまり遠くには飛ばない方が良さそうだな。
「ま、まぁハクさん1人で送れるらしいからね。さすが白の女神様だよ」
「ほぉ、そいつぁすげえ。さすが白の女神様だ……って、いやいや、畏れ多くねぇ? 白の女神様直々とかやべぇだろケーマ」
「逆に考えろ。ワタルの上司だ」
「なるほどそれなら……やっぱり畏れ多いんだが。むしろワタルまで神々しく見えてきたわ」
「そいつは重症だな。今日は早く寝た方が良い」
と、そういえばツィーア家から借りた馬車はどうすればいいんだろうか。
「馬車はゴゾーさんたちにツィーアに乗って帰ってもらいましょう」
と思ったら、丁度ワタルがそこを補足するように口をはさんでくれた。
ん? ゴゾーたちに、ってワタルは別行動になるような言い方だな。
「あ、僕は別で仕事あるんで。別ルート通ってまた帝国を巡る予定なんですよ。ハク様からお仕事仰せつかってますんで」
「そうなのか。ハクさんの仕事も大変だなぁ」
「ケーマさんへの借金返済のためですからね? 本当ならもうとっくにワコークに行ってたところなのに……くっ」
そう言えばそうだった。もう借金って半分くらい返されてたっけ? ……まぁ払い終わったらワタルの方から言うだろ。
「んじゃ馬車はゴゾーに頼むわ。帰りはゴゾーとロップ、シキナの3人になるのか。あと御者。……道中、案外ヤバかったよな。護衛雇った方が良いんじゃないか?」
「いや、ワタルが掃除したからな。大丈夫だろ…………でもまぁ、もしゴレーヌ村に来たいってやつがいたら一緒に行ってもいいよな、コーキーとかでちょっと声かけてみるわ」
そういえば、ウゾームゾーって仕事したらウチの村に来るとか言ってたはずだけど、どうなったんだろう。結局まだ来てないってことは仕事中か、あるいはそこで……冒険者だもんな、何があってもおかしくないか。
と、そこでダイン氏が俺達を見ていたことに気付く。
「えーと、何か?」
「……白の女神様から直々に仕事を仰せつかっているとか、凄いなと思ってね」
「ははは、僕らはただの小間使いですよ。ダインさん」
「ワタル殿はそう言うがね、普通の貴族にとっては雲の上のお方だよ? 祭りの時にとっておきのワインを奉献するくらいが関の山なのだよ。私なんかは戦争で手柄を立てて平民から貴族になった口だしね」
祭りってなんだ、ハクさんにお酒を献上するお祭りでもあるのか?
「ところでケーマ殿は宿は決まってるのかい? ゴゾー殿たちは帝都にいる間はこの屋敷に滞在してもらう話になっているのだが、よければケーマ殿も色々話を聞かせてくれないか?」
「はぁ、まぁそれほど大した話はできないと思いますが……」
「なに、構わないよ。シキナの体について聞きたいくらいだから」
あっ。これバレてるな、むしろ自分から積極的にバラした可能性すらあるわ。『ただいまー〇んこ生えたであります』とか言ってるレベルだわ。
「何、たった1年あれば治るのだろう? エルフは人間や獣人に比べて長生きだからそこは問題ないさ」
「……一応対策薬は用意できたので」
「さすがだね、ケーマ殿。ワタル殿の言う通り中々の人物であるようだ」
よし。許された!
「だが、それはそれとしてな。嫁の貰い手という問題があるんだ」
「……そこは俺に関係ないところじゃないですかね?」
「分かっているとも。……あの子はどうも平民出の騎士が多い乱暴な環境で育ったものだから、多少……割と……かなり下品な一面があってね。しかもあまり自覚していないんだ。……そっち方面をもっと改善してくれると嫁に出しても安心なんだが、これからも頼めるかね?」
「娘さんの努力次第ということで……」
あ、とりあえずあの言動は親譲りではないんだな。ちょっと安心した。
(商人のダインと区別してダイン氏と呼ぶことにしたようです)