帝都再び 1
ついに帝都に到着した。
長い道のりだった……無駄に。
帝都の門をくぐると、そこには広く長い石レンガの道路が伸び、左右には石造りの建物や木製の建物による店が並んでいた。今までの町に比べると圧倒的に華やかでオシャレだ。勇者工房とかいう錬金術集団の尽力もあるんだとかで、ヨーロッパ建築風のすごく「それっぽい」「いかにも」な建物が多いのが帝都の特徴だ。
首都の大通りという言葉がふさわしく人も多いし馬車も走っている。10台に1台くらいの割合で明らかに豪華な馬車や紋章入りの馬車もあるな。
「ここが帝都です!」
と、馬車の中でワタルが自慢気に大通りを背にして言った。
幌馬車だからお前がそこに立ってたらよく見えないんだが、それはさておきお上りさん丸出しで恥ずかしいやつに見えるなぁうん。
帝都出身のシティエルフなシキナは、「帝都にはたまにこういう人いるので、今更こういうこと言っても気にする人もいないでありますよ」と生暖かい目で見ていた。
「そうだな、帝都だな」
「あれ、驚きが無いですね。まるでこのくらいの町を見たことがあるかのような」
「ミーカンはともかく、ツィーアやドンサマ、コーキーとデカい町を見てきただろ」
「……規模がだいぶ違うと思いますが」
「よく言うだろ、1,2、3、いっぱい、いっぱい、いっぱいってな。一定以上はデカい町だって感想で同じもんさ。ゴレーヌ村と比べたらすごくデカい、そんなもんさ」
「雑ですね! さすがケーマさん」
まぁ前に来たこともあるからね。言わないけど。そして雑なことの何がさすがなのか。
ちなみにここ帝都の門でも俺達の馬車はノーチェックで素通りだった。呼び出し効果すげぇや。
「まぁとりあえず近場の冒険者ギルド行きますか。ここもコーキーみたくいくつかありましてね。東西南北中央の5か所ありますよ」
「門の近くにそれぞれ、か。じゃ、東のギルドだな」
ちなみにミーシャが居るのは中央の冒険者ギルドだ。特に会うこともないだろう。……ないよね? 会うとややこしいことになるくらいミーシャも分かってるだろうし。
「そんなことよりケーマ、美味しいものよ。ところでイチカ、帝都では何が美味しいの?」
「牧場とかもあるから、やっぱり乳製品とかやな。シチューとかあるで」
「ロクコ、ここはチーズも美味いんだよ。ニオイが独特だから好みは分かれるけど、好きな人にはたまらないよ」
「へぇロップのおすすめね。チーズも食べてみましょう。まぁ口に合わなかったらその時はその時で」
……ロクコ、お前すっかりイチカに影響されて……気持ちは分からなくはないけど。
「ところでロクコ、ここに来た目的って覚えてるか?」
「なんだっけ? 食べ歩き旅行じゃなかったっけ」
「惜しい。全然違うぞー? ドラゴンを倒したからそれで呼ばれてんだからな?」
「そう言えばそうだったわね」
「これまでの町と比べてここでは確実にやることがあるからな。ワタル、その辺の予定ってどうなってる」
「はい。門で手紙を見せたので、そのあたりは確実に連絡が行っているでしょう。おそらくギルドの方に顔出したタイミングで接触があると思うので、あとはその流れでってところですね」
宿もあちらが用意してくれる手筈になっている。なんなら配達依頼の荷物を納品してギルドで待っていれば確実か。
*
ギルドに荷物を納品し、少し待とうかとギルド併設の食堂へ行くと、そいつは現れた。
「やほー! 迎えに来ましたにゃーっす!」
「あっ、ミーシャさんお疲れ様です」
「おっすワタル。相変わらずこき使われてますねぇ? また稽古つけてあげるからいつでも来なさい!」
うわぁミーシャ来ちゃった。ピンクのおバカ猫耳Aランク冒険者兼ギルドマスター来ちゃった。しかもなんかテンション高いんだけど。どうしよコレ。
とりあえず俺は知らない人のふりをした。
「おいワタル、そのミーシャってのは知り合いか? 紹介してくれ」
「は? なにいってるんですケーマさん、別に今更紹介なんて――必要ですよね! そうですよね! ええそうでしたそうでした。お初にお目にかかりますでした」
苦しい言い訳だが、そう。俺とミーシャはあったことが無いはずなのだ。なぜなら普段俺はゴレーヌ村から出ないし、ミーシャは帝都のギルド本部でごろごろしている。
つまり、俺とミーシャは本来は出会うはずのない2人。ダンジョン関係な都合で面識はあるが、それを除けば面識があるのはおかしいのだ。
「……あれ、ミーシャさんケーマさんと知り合いだったんですか?」
「いや初対面だ。何者か知らないけどノリがいいやつだなーミーシャ。気が合うな!」
「そうですね! 初対面ですがもう何度も顔を合わせているような気の合いよう! 私たち、親友になれますね!」
「そうとも、ひと目見てこんな親しみを感じるんだもんな、親友だ親友! いえーい」
「いえーい!」
とりあえずハイタッチした。誤魔化せただろうか。誤魔化せてると良いな。誤魔化せてなかったとしても勢いで押し切る。
「まぁ自己紹介しようか。俺はケーマ。ゴレーヌ村の村長だ。こっちはロクコ。で、俺の奴隷のクロとイチカだ」
「僕は不要ですね。えーっとこっちはパーティーメンバーのゴゾーさんとロップさんです」
「自分はシキナ・クッコロであります!」
「うんうん、私はミーシャ。帝都冒険者ギルドのギルドマスターをやってます、よろしく!」
よし、これで以降は顔と名前を知ってても不自然じゃなくなった。
でもってまだ首を傾げているワタルに耳打ちをする。
「ワタル。ここだけの話、ミーシャは前にウチに来たことがある。が、お忍びだったからな。そういうことだ、変に言いふらすなよ」
「ああなるほど。そういうことでしたか」
納得して頷くワタル。聞こえていたのかぐっと親指を立てるミーシャ。
よし。完璧。しかもこれは今後ハクさんのパーティーメンバーと顔を合わせても使える言い訳だ。相手が知らないふりしてもお忍びだったから。知ってるふりしてきたらお忍びで会ってたから。バッチリだ。
「それじゃ行きましょうか! 私の騎獣で先導するんで、馬車ごとついてきてくださいねー」
と、ギルドの外に止めていた座席を載せたライオン(羽の生えてて尻尾が蛇の)にまたがるミーシャ。俺達も馬車に乗る。
「んじゃ、ロクコ様はこちらへどうぞ」
そしてミーシャはごく自然にロクコだけに手を伸ばす。
「ミーシャ。今の私はただのロクコだから余計な気を回さなくていいわよ」
「……あ。すみません、配慮がたりませんでした」
ちらりと見ると、ワタルはともかく、ゴゾーとロップが「あぁ……うん、そっかそっか」と何か言いたげな、けど言わない方が良いなって顔をしていた。シキナはその反応に首を傾げていたが、そうだよね、ギルドマスターが様付けで呼ぶとかね。あからさまにロクコだけ優先するとかね。
「それじゃ改めて、城へ行きますよ。離れずについてきてくださいねー」
改めてミーシャを先頭に帝都の往来を行く。ミーシャの騎獣はやはり珍しいのだろう、注目を集めていた。……それにロクコ乗せようとしたんだ? へぇー。
しかしホント大丈夫かミーシャ。お前対応穴だらけじゃねーか。
……いやもしかして、そういう対応をロクコにしろとハクさんからのお達しが?
ないか。ミーシャだし。
(やばい(´・ω・`)お絵描きとか動画作りとかしたくなってきたけど書籍化作業しなきゃ)