砂城ミスフィリト完成
トルネルがちょっと気になるものの、俺は彼を信じて自分の作業場へと向かう。
確かミスフィリト城の中庭には、中央あたりに休息場であるガゼボという建物があった。
少々ミニサイズになってしまうが、それも再現しておこうと思う。
やっぱり綺麗な庭園にはガゼボがないとな。
俺は土魔法を発動し、庭にある砂を持ち上げる。
ミスフィリト城の内部にあったガゼボは八角形になっていた。八角形の土台を作り、そこから柱を上に伸ばしてから屋根を作る。
ふむ、大体こんな感じだったな。後は少し寂しくなっている柱や屋根に凹凸をつけたり、滑らかにしていくだけだ。
それぞれの柱の大きさがバラバラにならないように、気を付けながら装飾をすると完成だ。
「これで中庭は大体完成かな?」
ガゼボの作業がひと段落したところで、俺は息をホッと吐いて周りを見渡す。
ふむ、人工的に統一された美しい西洋式の庭園だ。
西洋の庭園は花や緑を基調とするが自然を人工的に加工して、幾何学的な秩序のある形態にはめ込んだものを基本にシンメトリーな美しさで表現している。簡単に言うと、人の手が入っていかにもデザインされたように見えるのだ。
一方で、日本の庭園は自然のありのままの石や木、苔、花、水など季節により日々移り変わる時間的な自然美をアシンメトリーで表現している。こちらはできるだけ手を加えたようには見せず、いかに自然と調和させた姿を見せるかを重きに置いている。
どちらも甲乙つけ難いけど、見慣れた日本式よりも西洋式の方が新鮮に見えるな。
中庭ということを考えれば、こうやって整理されていた方がスッキリ感あるし。
俺がガゼボをいじっている間に、トルネルは中庭の地面を均し終えたのか、庭園の地面はすっかりと平らになっていた。
こういう単純作業は得意なのか、特に文句をつける部分もないな。変に地面も抉れてないし、盛り上がってもいないな。
今では城の裏側をやっているのか、奥の方から地面をトンボで均す音が聞こえる。
どこか規則正しいその音を聞くと、随分と慣れたということがわかるな。
トルネルの均した地面が問題ないことを確認すると、俺は土魔法を地面にかけて圧縮して硬質化をする。
うん、これで人が中に入っても問題ないだろう。
それから俺は土魔法で梯子を作って登り、城本体の窓を作り始める。
ほとんど全体は作り終えたので、後は細部を詰めていくだけだ。
ミスフィリト城は大きな建物だけあって、それなりに窓も多かったからな。
窓やレンガの模様も作っておこう。
とは言っても、細かいところまで見ることはできなかったので正確な窓の位置まで覚えていない。
「うん、それらしく見えればいいんだよ」
何事も作り込めばいいというものではない。それらしく見えれば人間は十分に理解することができる。だから、それらしくでいいんだ。
俺は自分の心にそう言い聞かせるように、大雑把に窓やレンガ模様を再現していく。
「おーい! アルフリート! 城の周囲全部平らにしたぜ!」
そうやって作業をしていると、トルネルがこちらを見上げながら元気な声を上げる。
どうやらもう終わってしまったらしい。
「あ、そうなの? じゃあ、庭にある花の葉に葉脈でも刻んでおいて」
「それマジでやるのか!?」
「冗談だよ。城門を手伝うなり、見るなり自由にしていていいよ」
「わかった! じゃあ、城門を見てくるぜ!」
俺がそう言うと、トルネルは元気よく城門の方へと向かっていく。
さて、俺も外の様子が気になる。さっさと作業を終わらせて見に行くとするか。
◆
「おー! 貝殻をそんな風につけるとは考えもしなかった」
作業を終えて城門へと向かうと、そこには想像するよりもずっとお洒落なものが待ち受けていた。
形状そのものは王都にある城門だが、浜辺で回収した貝殻や魔石の破片を壁に埋め込んでいるところが大きく違った。
砂色の壁に淡い色合いをした貝殻や、透明感のある魔石の破片がとても美しい。城門全てが砂でできているためか、それらの装飾は際立って見える。
「やっぱり、貝殻や魔石の欠片を埋め込んだりするのはマズかったですか?」
「いや、そんなことはないよ。さすがだねって驚いていたんだ」
おずおずと尋ねるクイナに、きっぱりと答えるとクイナは安心したように息を吐いた。
これがダメだなんてとんでもない。むしろクイナのお陰でより、海らしい作品になったといえるだろう。
俺だったらバカみたいに城壁としてのクオリティを上げるだけで、このような海らしい装飾なんて思いつかなかっただろう。
細部に凝るだけでなく、こういうデザイン性も養わないといけないな。
「おい、アルフリート。俺の活躍には気付かないのか?」
「うん? エリックの活躍? ……ここら辺にある貝殻の角度が少しおかしいやつ?」
左側だけ妙に傾いた貝殻が多いんだよな。多分、これはエリックがやったやつだろう。
「うぐっ! そうだが違う! もっと全体をよく見てみろ! 貴様にはわかる規則性があるはずだ!」
顔をムスッとさせるエリックの言葉を聞いて、俺は改めて城門を注視する。
うん? 俺にだけわかる規則性。貴族だから知っている何か? いや、そんなものないと思うぞ。
じゃあ、王都で見たことのある俺だから知っているものか?
王都で見た城門を思い出しながら眺めてみると、ちょっとした規則性のようなものに気付いた。
「……あっ、もしかして兵士が矢を射かける穴が巻き貝で表現されているところ?」
「そうだ! ああやって先の尖った巻き貝を使うことで、防衛時の攻撃性を示しているのだ」
俺が言うと、エリックが待ってましたとばかりに渾身のどや顔で語る。
また、それは凄いんだか凄くないのかよくわからない表現をしたものだ。
これにはクイナも苦笑い気味であり、見たことのないトルネルはさっぱりわからない様子だった。
まあ、エリックが楽しんで作ったのであればいいや。
「おい、今度は内部を見てもいいか?」
「あっ! 私も! まだ内部は見ていないので見てみたいです!」
「いいよー。内部も完成したから」
了承すると二人が城門をくぐっていくので、俺とトルネルもそれに続いていく。
「「…………」」
ミニサイズのミスフィリト城を見上げるなり、呆然とする二人。
おい、さすがにずっと無言だとこっちも居心地が悪いぞ。早くさっきの俺達みたいに声を上げて和やかに褒めてくれ。
「……さっきも凄まじいと思ったが、それ以上の出来栄えになっているな」
「私には、むしろこっちが本物のミスフィリト城なのだと思えます」
いや、さすがにこれでは人が住めないし、砂の城だと王様も可哀想だ。
「凄い。建物の柱の一本まで丁寧に装飾されています。しかも、八本とも歪な部分が見当たりません」
「こっちは花々の一本一本まで再現されているぞ。土魔法というのは極めれば、これほどまでに物を作ることができるのか?」
クイナとエリックがそれぞれを観察し、感嘆の声を上げる。
やはり拘った部分に気付いてもらえると、作った人からすれば嬉しいものだ。さっきエリックが気付いてもらえなくて、あのような言葉をかけてきたのも納得である。
「もうこの道で食っていけるんじゃないか?」
「……はい、アルフリート様は私なんかよりも凄い立派な装飾人です」
何か本物の装飾師からお墨付きを頂いてしまった。
まあ、土魔法で建物を作るのも好きだし、そうやって生計を立てるのも悪くないな。
でも、やっぱり俺としては作品として終わらせるのでなく、住めるようにデザインして大家的な収入を得たいところである。
「まあ、とにかくこれで皆の城が完成ってことだよな?」
「うん、そうだね」
皆の城。トルネルのその言葉を聞いて、俺の心には今までにない不思議な達成感が広がっていた。
一人でマイホームを作ったりするのとは少し違う。不思議な感覚。
そうか、これが皆と物を作る楽しさというやつか。
「ふぅ、ここまで真剣に砂を弄ったのは久し振りだな」
「すごく、楽しかったです」
そんな言葉を漏らすエリックとクイナの表情は、達成感に彩られたものあった。
最初はやらないと言っていたエリックや遠慮していたクイナも、最終的には凄く楽しんでやっていたようだ。
「なあなあ、それより気付いたか? ここにある地面を平らにしていたの俺なんだぜ?」
「ああ、そういえばずっと土を削るような音が聞こえていたな」
「手足だけじゃあんな音は出ないし、ここまで平らにはならないよね? どうやったの?」
「へへっ、アルフリートからトンボって道具を貰ったんだ。この棒で地面を押したり引いたりすると、地面が平らになるんだよ。すげえだろ?」
皆で共同作業をしたせいか、エリックやクイナ、トルネルからよそよそしい雰囲気はさっぱりと消えていた。
最初はトルネルの近い距離感に戸惑っていたエリック。エリックの貴族という身分さに恐れと遠慮を持っていたクイナ。しかし、それらは協力いて作業をすることの連帯感、それぞれの人間性の理解によって吹き飛んでしまったようだ。
俺だって共同作業をすることによって、皆で物を作る楽しさを改めて感じた。
これが共同作業の力というわけか。案外バカにできないものだ。
俺がそんなことを考えていると、どこかそわそわとした様子でトルネルが尋ねてくる。
「なあ、これすぐ壊れたりしねえよな?」
「土魔法で固めてあるから、ちょっとの衝撃じゃ壊れないよ」
「じゃあ、ちょっと友達に自慢してきていいか? 皆にもこれを見せてやりたいんだ!」
「勿論、いいよ。でも、そろそろ夕方前だし、俺達は屋敷に――」
「やった! そんじゃ友達に声をかけてくる」
屋敷に帰ると言おうとしたのだが、トルネルは待ちきれなかったのか最後まで聞かずに走り去ってしまった。
「あっ、ちょっとお兄ちゃん! エリック様とアルフリート様が帰るからちゃんと挨拶しないと!」
などとクイナが声を上げるも、すでにトルネルは彼方に。
運動性を遺憾なく発揮しており、中々に走るのが速いな。
「す、すいません! お世話になったのにお兄ちゃんが挨拶もせずに!」
「構わん。俺達には構わずに兄貴に付いていってやれ。あれは落ち着きがないからな」
「城については壊れてもいいし、好きにしていいから」
「はい、ありがとうございます! それでは失礼します!」
俺達がそう言うとクイナはぺこりと頭を下げて、トルネルを追いかけるように走り去っていく。
「慌ただしい兄を持つと大変な気持ちはよくわかる」
「まあ、うちの姉も元気だから、その気持ちはちょっとわかるよ」
お互い家族には苦労するものがあるようだ。
俺とエリックがしみじみと感じながらクイナを見送っていると、休憩所の方から奇声のような叫び声が聞こえた。
「わわっ! 大変です! シルヴィオ様! 私達、いつの間にか王都に来てますよ!」
「う、うええ? ど、どういうことミーナ?」




