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1章 27話 難しい問題

『にしても、誰かがまっすぐこちらに向かってきてる。

 今度は二人だ。まるでこちらの居場所を把握しているかのようにこちらへ迷うことなく向かってきている。

 どうする?殺るかい?』


 洞窟の中で。泣き疲れて寝ているリーゼを横目にシリルがぽつりと呟いた。

 流石に大量殺人のあった場所は落ち着かないと、ファルネ達はあれから場所を移していた。

 今は以前人間が住んでいた、洞窟を改造した神殿跡地に落ち着いている。

 リーゼとリベルは仲良く枯れ葉でつくったベッドで眠りにつき、樹の精霊達も神殿跡地の前で木に擬態しながら待機していた。


 今現在起きているのはシリルとファルネだけである。


「その二人の他に待機しているものはいる様子ですか?」


 ファルネに言われてシリルは神経を研ぎ澄ました。

 確かに今まで襲撃があった時には森の入口付近で何人かが待機していた。

 もちろんシリルが迷うことなく殺したが。


 今回は誰かがいる気配もない。


「……いや、いないね。あんたの知り合いの可能性もあるのかい?

 神殿も派閥があって争ってるらしいじゃないか」


 そう。シリルも暗殺者集団の中から記憶を抜き取り、ファルネを狙うのがヴァルノ派の神官だということは目星をつけていた。

 暗殺者集団と森の中にいるラーズ派の神官とは一切接触がなかったため、今のところエルディアの森にいる神官達は生かしてやっている。


 リーゼに一切話さなかったのは、狙っているのが神殿連中と知られると、神殿の派閥の違いなど理解できず、エルディアの森にいる神官も殺す恐れがあったからだ。


「はい。暗殺者ならたった二人で動くということはありえません。

 失敗した時のために必ず後方に連絡するものを控えさせているはず。

 

 私がヴァルノア派の神官に命を狙われているのを察して、捜索隊が派遣される前に私の知り合いが探しに来てくれたのかもしれません」


 言ってファルネはカイルの顔を思い浮かべた。


 カイルが単独で探しに来てくれた可能性がある。


 恐らく自分の探索となれば必ずカイルがいるだろう。

 彼なら自分の魔力の波長を知っているからだ。

 ここにたどり着くのもそう難しい事ではないからだ。


『誰だか心当たりがあるのかい?』


「はい。金髪の背の高い男なら私の知り合いです。名はカイル」


『わかった。連れてくるよ。

 にしても運がよかったね。

 あんたが目を覚まさなきゃ間違って殺されていたかもよ』


 と、かなりシャレにならない冗談を言って、シリルが走り去る。

 カイルがリーゼに殺されてしまう図を一瞬想像しファルネは頭をふった。

 

 ………殺さなくても身を守れるということを教えないといけませんね。


 眠っているリーゼに視線をうつし思う。

 リーゼが殺してしまうのは恐らく反撃を恐れての事だろう。

 殺さないと反撃される、怖いという気持ちから罪悪感もなく殺してしまう。

 殺人は彼女の防衛本能の一つでしかない。


 人を殺すということが悪いと説明すればきっと彼女はそれを守るだろう。

 だが自分の命が危ないと思っても、ファルネとの約束だからと忠実に守りすぎ自らの命を落としてしまいそうな危うさがある。

 人を殺すのが悪いことだと理解できても、何故悪いのかはそう簡単に理解できない。

 人間の命に優劣を付けたくはないが、聖女であるリーゼは決して死してはならない。

 彼女の身を守るのを優先しなければならず、上辺だけの教育ではだめだ。


 根本的に何が悪いのかを説明するのは……難しい問題でもある。


 どうやってリーゼに倫理観を教えるか、ファルネは考え込むのだった。


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