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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第四章 王国編
200/671

第171話

もうすぐ通算200話ですね......。何だかんだで結構頑張ったと自分を褒めてやりたいです。

僕と恭香、エロースの三名は屋根伝いで目的地へと急いでいた。


───と言っても恭香は僕の腰に本モードでくっついてるし、エロースに関してはフワフワと空を飛んでいる。なんでもありだな世界神。


先程から目下の道を往来する人々からの好奇の視線に晒されてはいるが、僕らと並行してあいつらも住民避難及び王宮への連絡も入れているはずだ。それこそ今の僕らが心配することでもないだろう。



「それにしても......、もうこんなに広まってんのか。僕の婚約の噂」



誰に言うでもなく目下の人々を見てそう呟いた。


最近はちょっと油断して空間把握の精度を落としてしまっていた僕ではあったが、今回はあのメフィストが『そこそこ強い』と言った悪魔が来ているのだ。油断なんてしていたらそれこそ即死だろう。

そのため僕は空間把握を常時三十メートルに設定して警戒に当たっているのだが、そうなると自然と聞こえてくるわけだ───その噂が。


やれ「流石は執行者」だの、やれ「いい意味で女ったらし」だの、やれ「好感持てるよね」だの、やれ「まぁ納得だな」だの......、ねぇ本人聞いてるからね? 本人の前でそう言うのやめてもらえません? 超恥ずかしいんですけど。


そんな僕の懇願も届くわけがなく、やはり着々と先へと進む度にそんな噂話が空間把握の範囲内で噂されているのだ───ほんと嫌になっちゃう。



「でもさー、親友くんってば何でこんなに有名なわけ? 私ってばあんまり親友くんたちが何してきたかって知らないんだけど、これって迫害される対象である吸血鬼としてはちょっとばかし異常な光景だよね?」


『いやぁ、ギンは迫害とかそういう以前に多くの命を救いすぎてきたからねぇ......。救世主とかいう称号あるし。なによりこんな人望のある人、そうそう嫌われるわけないじゃん』


「おいちょっと待て、今現在進行形でクソ貴族共に滅茶苦茶嫌われてるんだけどそれどういう事だ。そもそも僕が人望あるとか、脳みそ腐ってきたんじゃないか?」


『いや、パシリアの街に住む人全員を救った後に隣街のビントスでも同じく救世主になる。その後に王族の護衛依頼まで受けてグランズ帝国でも一応国救ってるんだよ? そして今現在エルメス王国の王都も救おうと暗躍してる。これだけやった真の英雄が嫌われてる方がおかしいと思わない?』



───なるほど、そう言われれば納得してしまいそうになる。


ま、簡単に言えばモテ期(男もいるよ)到来ということだな。なんだよそれ、誰得だよ。



そんな感じで少し緊張を解しながら屋根を蹴って進んでいると、やっと貴族達の住む貴族街が向こう側に見えてきた。


この国は円形状に造られていて、外周部を市民が暮らす市民街、そしてその一つ内側にあるのが貴族達の暮らす貴族街、そして東西南北の入口から王城の前まで出店などが連なっている。まぁその境界線を超えて貴族や市民が移動できないかと聞かれればもちろん違うし、明確にそういうルールがあるわけでもない。だから外周部に屋敷を設けるもの好きな貴族もいるらしいが......、やはりああいう輩は例外ではないのだろう。



僕らは市民街を抜け、貴族街へと到達した。


ここから先は家と家の間隔が下手すれば数百メートル近くあるため、僕も人の目に付くのを承知で空を駆けねばならなくなる。



「ま、これから先もっと目立つことになりそうだし、そんな事言っても意味無いか」




僕はそう呟いて、進む速度を二段階ほど上げた。





☆☆☆




貴族街の中でも一際大きなその土地。

キューリップ侯爵の家はその土地のど真ん中に建っていた。


その門の前に降り立った僕達ではあったが、ほかの家と違って門の前に門番らしき人たちの姿はないし、更に言えばその門を閉ざしていたであろう扉も開け放たれている。


───これは......、件の貴族達はもう死んでると考えても良さそうだな。流石にこれは異常としか言えないだろう。


僕はその門をくぐり抜け、気配を消しながら少し駆け足で庭を駆け抜ける。


エロースの姿はいつの間にか消えており、その気配は僕でも感じられないが、ポンコツ女神と言えど命のかかっているこの場で間抜けるほど馬鹿ではない。

恐らくはメフィストを見つけて、そのまま遠くへと連れていったのだろう。これで助けは呼べなくなったがいい判断だろう。メフィストに邪魔される方がよっぽど死ぬ確率が高いし。


その屋敷の前まで駆け抜けた僕は、空間把握を一気に拡げてその屋敷中を捜索する。






───のだが、






「......居ない、だと?」



その件の貴族達の姿はもちろん、例の悪魔とやらの姿もなく、さらに言えば人の気配も全く感じられない。



「恭香、これってまさか......」


『罠、もしくは全員殺した上で隠れてるかのどっちかだね。少なくとも一時間前は皆無事だったけど』



なるほど、問題はこの一時間で何があったか、ってことか。



僕は恐る恐るその扉の中を覗き見るが、中は真っ暗で、目を凝らして暗闇の中を見渡したところで誰か居るようにも思えない。

ふぅ、と息を吐いて、超直感も反応がないことをよく確認した上で、僕はその扉を開いてその館の中へと踏み出す。


しかし、その館に足を踏み入れたところで何かが変わるわけもなく、僕は警戒を解かずに辺りを見渡す。



悪趣味な絵画に、高そうな壺。


床に敷かれた赤い絨毯と、壁に飾られた楽器の数々。


そして今にも動きそうなフルプレートの鎧像に、


ロビーの奥に置かれた、一つの玉座。



おそらく罠だとすれば、あの玉座にその悪魔とやらが現れて、半ば壁に埋め込まれたあの鎧たちが動き出す、とそんな感じだろうか?


僕はそれらに注意をすると同時に他の場所へも警戒しながら、ゆっくり、ゆっくりと歩を進め......、





───ピチャリ、と。絨毯を踏んだ僕の足元から、そんな音が聞こえてきた。




「まさか........っ!?」



僕の頭に、最悪とはいかずともかなり悪い想像が浮かび、思わず僕は、その音が聞こえる直前に僕の目が捉えていた映像を思い出す。



───この真っ赤に染まった(・・・・・・・・)絨毯の端の方が、赤ではなく若草色の絨毯になっていた、という映像を。




『まさか......、これ全部、血液......?』




瞬間。その恭香の言葉が引き金になったように、壁に飾られていた楽器が一人でに宙へと浮かび上がり、まるで誰か、透明な人たちに演奏されているかのような音を奏で出す。


それらは個別個別に全く違う音楽を奏で、それらが相まって非常に耳障りな雑音を奏でる。



最早ここまでくれば僕もお化けだなんだと騒ぐ暇もなく、アイテムボックスからブラッディウェポンを取り出して身体に影を纏う。





───と、そんな時だった。





突如、ドパァ、という気色の悪い音をたてて、僕が踏みしめている地で真っ赤に染まった若草色の絨毯から、男性の右腕が生み出された。



「なっ!?」



僕は思わずその腕から距離を取るが、その変化は未だ衰えを知らず、次第に身体の他のパーツまで次々と浮かび上がってきた。


二の腕、肩、頭部、胸部、左腕、腹部、と徐々にそれが現れてくるに従って、絨毯に染み出していた血液が少しずつそれに吸収されてゆく。


腹部まで現れたところでその人型は、思いっきり地面を強く押すような姿勢を取り、そしてそれに押されて現れたのは───異形の身体。

混沌までもは行かずとも、肩から足が生え、足から大量の腕が生え、腹部にはギョロリとした眼球が。

まるでオークのような魔物をさらに大きくした身体を、切っては貼ってを繰り返して遊んだ結果、そのもののようだ。その頭部にあるべき本来の位置から人型の上半身が生えている。



───まるで、子供の稚拙な遊び。そんなイメージを受けた。



しかしながら、気持ちの悪く、醜く、悍ましいソレの顔を、僕は見覚えがあった。





「あの時の......キューリップ侯爵か......っ!」




───それは紛れもなく、今回の首謀者の成れの果てだった。





☆☆☆





『ふっはっはっはっは! 此度のショーは楽しめたか? 執行者ギン=クラッシュベル!』



突如その館中に響いたその声に、思わず目を見開いた。

未だ僕の空間把握にはそんな動きを見せている者の姿は映らず、動いているものといえば目の前の怪物のみ。



『ぎ、ギン! アレ見て!』



そんな恭香の叫びと共に、僕の視界にもう一つの映像が映し出される。


『視界共有』


確か恭香の能力のうち一つにたしかそんな能力があった記憶があるし、恐らくこれはその能力なのだろうと思えた。



その恭香の視界に移されていたのは宙に浮かぶ一つのマイクとタキシードスーツ。

まるで透明人間が中に入っているかのようにマイク片手に宙を歩いているが、恐らくあれは偽物だ。なにせ、エロースと並ぶほどにまで気配が無いからな。アレと同じことが出来るなら間違いなく大悪魔のトップに入っているに違いない。


僕のそんな思考もつゆ知らず、そのタキシードは置かれていた椅子へと予想通りに腰掛け、一人でに話し出した。



『俺の名は"悪魔ムルムル"、サタン様の忠実な部下にして、死と音楽を司る悪魔なり! 此度はメフィストフェレス様に認められたと言われる貴様を見るためだけにこうして思念を飛ばしては見たものの......、どうやら期待はずれだったようだな』



───期待はずれ......ねぇ?


何をもってそう言っているのかは知らないが、こちらとしても言いたいことがあるにはあるのだ。



「はっ、何が期待はずれだよ、人様の前に出ることもできない弱虫悪魔が。メフィストが居なくなった途端こんな稚拙な玩具を作り、あわよくば自分の元にたどり着く前に僕を潰そうって魂胆なんだろ? 実に愚かで、最高に女々しいね。お前の存在自体がサタンの顔に泥塗ってんじゃねぇか」



僕は「期待はずれはこちらの台詞だ」とでも言わんばかりに馬鹿にした顔で、ウザったらしく鼻で笑ってやった。


すると、どうだろう?


───大体こういう系統のプライドの高い奴に限って僕の挑発に耐えられるわけも無く......、




『き、貴様ァァァァっっ!! タダでさえメフィスト様から「なんでサタンはこんなやつ送ってきたのでしょう? かなり期待はずれなんですが」とか面と向かって言われて結構傷ついているのにぃっ!! ねぇ、なんでそういう顔してる奴に限って俺のことなじるのぉ? 我が心を抉ったその罪は重いぞ! 死霊人形、その妙にメフィスト様に似てる馬鹿者をぶち殺せッッ!!』



おーっと、どうやらメフィストから先制攻撃をくらっていたようですね。ならあそこまで煽る必要もなかったか。



僕は眼前十数メートルの所で動き出した件の死霊人形とやらへと視線を向け、余裕を持って左手を突き出した。




「不知火型───」




炎十字クロスファイア』の能力の一つである銀滅炎舞には、二つの使い道がある。




基本的な使い方としては、身体に直接纏っての身体能力の向上なのだが、普段、僕はこれとは違った使い方をしている。




それは、放出し、操作して対象を燃やし尽くすという使い方。




───それを僕は便利上、不知火型、と呼ぶ。






「『罪炎焼却(シルバーアウト)』」




瞬間、その怪物の身体がボンッ、と一回り巨大化し、その身体の穴という穴からチリチリと銀色の炎が伺える。






「次はお前だ、首を洗って待っていろ」




僕がそう言って館から出たのと、その貴族の成れの果てが、内側から銀炎によって燃やし尽くされたのはちょうど同時刻のことだった。





☆☆☆





僕は行きよりも足早に、今回は最初っから空中を駆けていた。


眼下に広がる街を見下ろすと、どうやらもう既に避難は始まっているらしく、もう殆ど人影は見当たらなかった。流石はレオンたち。やる時はきちんとやってくれているらしい。



そこまで考えたところで、僕はさらに一段階速度をあげて、人目もはばからずに空を駆け抜ける。



『ね、ねぇギン? さっきの悪魔ムルムルの居場所分かってるの? さっきから妙に迷いの無い進みようだけど......』


「はぁ......、この一ヶ月、僕がどれだけ新しい魔法を開発してきたと思ってるんだ? 魔力を追う魔法くらい開発してるに決まってるだろ」



この一ヶ月、僕はリハビリとちょっとしたレベル上げ、更にはスキルの統合と並行して新しい魔法の開発にも手を出していたのだ。


その過程で生まれた魔法が、館から出る直前に、目を見開いて固まっているであろうムルムルの偽物に使用したこの魔法。


───名付けて『魔力追跡(マジックチェイス)』である。


相手に放って見事当たった場合、僕はその魔力がある場所を簡単に把握できるようになるという、なかなかに優れた魔法である。さらに言えば、あの時は僕の隠蔽術と詐欺術による視線誘導を合わせて使用した為、恐らくあの馬鹿な悪魔は気付いていない。


その為、僕はあの馬鹿悪魔に対して、十分に奇襲が可能なのだ。このアドバンテージを使わないわけに行くまい。



「それに、だ。さっきは期待はずれとか言ったけど......、多分期待はずれなのは頭の中だけだろうしな」



仮にも悪魔。幾ら僕が頭脳で勝っていても、それだけで勝てるはずもない。もしも頭脳だけで勝負が決まるのならば、僕がルシファーに圧勝出来てしまう。

だからこそ油断なんて出来ないし、カッコつけずに、迷いもせずに、容赦なく殺すべきだ。



───それに何より、そのムルムルの居場所が問題だ。




僕は一旦近くの建物の屋根に降り立つと、目の前の悪魔の居城へと視線を移す。





『ま、まさか......、ここじゃないよね?』


「残念ながら、そのまさかみたいだ」




僕は作戦前に第一班へと下した命令を思い出す。





『僕はキューリップ家へと向かう。恭香は僕のサポート。白夜、輝夜、オリビア、アイギス、浦町に宰相さんを加えて第一班。レオン、マックス、暁穂、伽月、藍月、ネイルを第二班として、第一班は王宮へ、第二版は住民の避難を手伝ってくれ』




僕はそれを思い出して思わず拳を握りしめる。



確かに僕の選択は間違ってはいなかったのだろうし、恐らく何回記憶をリセットしてやり直したところで同じ結果にしか至らないだろう。




───けれど、





「クソッ......、まさか、白夜と輝夜が揃って負けるとは思えないけれど......、頼むから無事でいてくれよ」





僕は自らの間違いの責任を取るべく、悪魔が巣食う王城へと侵入を開始した。

次回! 悪魔巣くう王城へと侵入!

たぶんムルムル戦はもう少しあとです。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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