第166話
本日も二話投稿です!多分明日からいつも通りですね。
今回は恋愛要素MAXです!
僕らが通されたのは、謁見の間であった。
入口からはレッドカーペットが敷かれ、その赤色は奥の奥───エルグリットの座る玉座まで続いている。
左右に広がる壁際には貴族達がこちらを睨みつけて立っているが、全員の足が生まれたての子鹿のように震えている。中には上から目線でこちらを睨んでいる者もいるが、そいつらは正真正銘の馬鹿だろう。相手の力量くらい察してくれ。
でもまぁ、パッと見た感じ僕のことを悪意を持って睨みつけているのは......約五十人中、十数名程度だろう。まだ良心的な人数でよかったよ。
僕の右隣と左隣には、形だけ戦闘態勢をとっているマグナさんと紫髪の少年───どうやらこれでも王国軍の一番隊隊長なのだとか。二人共僕がここで暴れだしたら手がつけられないと分かっているのだろう、敵意は全く感じられない。
僕の背後には恭香と暁穂が付いてきており、ギルバートとオリビアは玉座の付近に立っている。
とまぁ、これが今の現状だ。
報酬を受け取るなら別にこんな公にしなくても良かったのではないかと思うが、エルグリットの真面目ぶった顔を見るに、なにやら案があるのだろう。僕としてもこの場をなるべく問題を起こさずに納めたい───面倒くさそうだし。ならばここは彼の考えとやらに乗ってやるのが最善であろう。
僕はそう考え至ると静かに歩き出す。
(恭香、エルグリットが何しようとしてるか分かるか?)
歩きながらそう念話をしてみるが......どうやらこの空間では念話の使用が禁止されているらしい。そういう魔導具があるのか知らないが、ノイズがかかって聞き取れたもんじゃない。ましてやこの念話自体が通じてるかもわかりやしない。
そんなことをしている間に、僕らは玉座の前までやってきた。
見上げるは玉座に座るエルグリットと、その横に控える王族たちと、アルフレッド。
───さて、どんな茶番を見せてくれるんだろうかね?
僕は少し、口の端を吊り上げて笑みを浮かべた。
☆☆☆
茶番を始める前に、そこまで至る前に。
なにやら僕の行動が気に入らなかった人物がいたらしく、なにやらいきなりこちらへとズカズカと歩いてくる奴がいた。
「貴様かァァァっ!! 父上をあんなにした大馬鹿者はっ!? 貴族に手をあげさらには国王陛下の前でその態度っ! もはや許してはおけんっ!! 我がキューリップ家の名の下に国家反逆罪でこの場で成敗してくれるッッ!!」
どうやら昨日のキューリップの息子のようだ───今思ったんだけど、そのネーミングセンスヤッバイな。レオン以下なんじゃないか?
見事なまでにその父親とやらの顔はもう覚えてはいないが、どうやらこの息子はその父親が僕にやられたと言伝に聞いて、王都外から駆けつけたのであろう。でなければこんな言い方はしまい。
───が、もう少し頭を冷やしてから行動すべきだったな。
次の瞬間、その男は何かに弾かれたように吹っ飛び、見事なまでに謁見の間の壁へとクレーターを開ける。こりゃ治すのが大変だ。ついでにキューリップ家も衰退確定したな。ざまぁみろ。
そんなことを考えながら後ろを振り返れば、片腕だけ狼のそれに戻した暁穂が、とてつもなく冷たい瞳と恐ろしい無表情で、淡々と語り出した。
「エルグリットさん、先日はマスターの意思を尊重して私共は手を出しませんでした。けれど二度目以降は別です。マスターの体に傷一つでもつけてご覧なさい。数秒でこの国ごと滅ぼして差し上げましょう」
───もちろん、私達はマスターのようにお優しくありませんよ?
それは言外に『皆殺しにする用意は出来ている』と、そう告げているようなものだ。流石に猫を被っていたエルグリットも素で顔色を青くしてブルっている。さらには貴族の連中はもちろん、僕や恭香もブルってる───いや、ガチで怖かったんだからしょうがないでしょ。それと暁穂さん? 僕さっき暗躍する宣言したばっかりなんですけどー、正確に言えば前話の一番最後。
「す、すまないっ、今のは俺としても完全に想定外だった。本当に申し訳ない......」
「......どうやら本当のことらしいですね。次は無いですから覚悟しておくことをお勧めします」
どうやら暁穂の怒りはひとまず治まったようだ。良かった良かった......とは言いきれないだろうが、まぁ最悪の事態になることは防げたのではないかと思う。
あたりをちらっと見渡せば、流石にもう僕らを見下している貴族も存在せず、目の前で起こったことに目が追いつかなかったのであろう左右の二人は固まっており、エミリー様とルネア様は顔を真っ青にして抱き合って震えてるし、ギルバートに至っては爽やかな笑顔のまま気絶してる。アメリア様は......え、何。あのロリっ子滅茶苦茶笑ってるんですけど。......将来大物になるかもな。
「こ、コホン、そ、それではあまり長引かせるのも良くはないだろう。早速報酬の授与と先日の件の.........あっ、そうだ。先日の件と今回の件に対しての慰謝料を払おうと思う」
ねぇちょっと、今の何、今の「......あっ、そうだ」って何? 何でその言葉の前と後で言ってること違うの? すっごい嫌な予感しかしないんだけど?
僕と同じようなことを思ったのか、オリビアに起こされたギルバートも思いっきり目を見開いているエルグリットの方を向いている。他の王族も同じ感じだ。
「まずは依頼について。国王である俺を二ヶ月間の間護衛したという内容だったが、その働きように感動し、俺は更に報酬を上げることにした。元の報酬金150,000,000Gに50,000,000を上乗せして、計200,000,000G」
依頼だけで二億とは......、これで暫く働かなくても良さそうだ。これで僕の嫌な予感さえ外れてくれれば万々歳なのだが。
「さらに加えて先日の件。俺自ら結んだ契約を期せずして破ってしまう結果になってしまったが......、俺個人として、国王としてそちら側と繋がりを断つような事があってはならないと思っている。その為に慰謝料とこれからも良い関係を、ということで、50,000,000G」
報酬の二億ゴールドと、昨日の慰謝料五千万ゴールド───合わせて二億五千万ゴールド。
小金持ちどころか大金持ちにクラスチェンジしてしまった僕ではあったが......、
王様という仮面に隠しきれず、ニヤリ笑みを浮かべたエルグリットを見て、僕は確信した。
───あぁ、やっぱりそれだけじゃないんですね。
「残念ながら、此度の件は全くの予想外。つまりはそれに相応した金額も用意出来ていない。ただでさえ三億近い金額。今から新たに用意するとなると、少なくともまる一日はかかるであろう」
「あ、いや僕はそれでも......」
「がしかし! これからの良い関係を望んでいる相手にその対応はあまりにも酷いというものだ。だからこそ俺は断腸の思いで、こういう慰謝料の払い方を取ろうと思う」
僕のささやかな反撃も意に止めず、エルグリットは満面の笑みを浮かべて、先程の件に対する報酬を支払った。
「我が娘、第二王女オリビア・フォン・エルメスを貴殿、ギン=クラッシュベルに嫁がせようと思う! 双方、異論はもちろんないであろう?」
僕はあまりの衝撃発言に、
「あ、えっと......うん」
としか、咄嗟に答えることが出来なかった。
☆☆☆
もちろん言わずもがな、あの後の謁見の間は混迷を極めた。
エルグリットの正気を確かめるような貴族達の絶叫、ルネア様の絶望したかのような悲鳴、ギルバートの笑い声、嬉しそうに泣いているエミリー様、状況が飲み込めずニコニコしているアメリア様。そして何故か後ろの方でハイタッチしている馬鹿二人。
───しかし、それもエルグリットの一言で静まり返った。
「実はな......、オリビアはギン=クラッシュベルのことを異性として好いているのだ。まさか、我が娘の幸せを祈って送り出そうとしている俺に『物みたいに扱うな』等とほざく輩は居るまいな?」
その言葉に謁見の間が凍りつき、全員の視線がオリビアの方へと向かった。
大衆に晒された上、いきなりそんなことを暴露されたオリビアはと言えば顔を真っ赤にして頭からぼふんと湯気をあげ、恥ずかしそうにコクリ、と一度頷いた。
「とまぁ、そんなこんなですね、はい」
僕は今現在、月光丸で正座していた。
───いや、咄嗟に答えた事とはいえ一国の王族と婚約をしたのだ。それは同時にこの国の王位継承権を得たということ。......この件がこのまま噂にならないだなんて有り得ない。十中八九、『執行者が王族と婚約した』とか何とかいう伝説が追加されることであろう。
もちろんそれをよく思わない人物もいるわけで、
「くっ......、君は私という肉奴隷に手も出さずオリビアに手を出すのかッ! やはり見た目かっ、見た目の幼さなのかッ!」
「そうだよ親友くん!! なんで私はダメなのにオリビアちゃんはおっけーなのっ!?」
そう、天才お馬鹿さんとポンコツ女神様である。
他の連中はソファーの上で赤くなって体育座りしているオリビアに「おめでとー」などと言った言葉を告げているが、残念ながらこの二名はそういうキャラじゃない。
「って言うかお前らどういう頭をしてるんだ。まず浦町、お前は肉奴隷じゃないし見た目でいえばお前も十分ロリっ子だ。あとエロースは論外な」
「ええっ、し、親友くん!?」
因みに何故かと聞かれれば......、そうだな。エロースはどちらかと言うとペット、って感じなのだ。たまに女性として見てしまう時もあるが、残念ながらエロースペット説に勝ってはいない。
「ふふん、エロースよ。どうやら君は銀にペットとしてしか見られていないらしいぞ? 同じ新入りとしては私の方が数十倍リードしているようだな」
「ががーんっ! な、なな、なんでよぉぉぉぉっ!! 親友くんのアホーーっっ!!!」
そんなこんなで二人からの問い詰め攻撃をゆるりと躱した僕は、なにやらチラチラとこちらを見ているオリビアの方へと歩いて行った。
僕が来たのをいち早く察したオリビアはたまたま横にあった毛布を頭から被ると、まるでカタツムリのごとくその中に引きこもってしまった。いや、例えるなら熟練のニートか。
「おーい、オリビアちゃん?」
そう声をかけるが返事がない、ただの屍のようだ。
......とはさせず、僕はオリビアの隣に腰掛けると、ポン、とその頭らしきものの上に手を乗せる───なにやら雰囲気を察したのか、他の皆は居間から退避してくれたようだ。有り難りことこの上ない。
僕の手の感触が伝わったのか、ピクリと身体を反応させるカタツムリではあったが、残念ながらナメクジにグレードアップする気配はない。
いっそのこと、もうこのまま毛布を取り上げてしまおうかとも思いはしたが、そんなことをして嫌われたら目も当てられない。
そんなことを思って少し考えていると、毛布の向こうから少しぐぐもった声が聞こえてきた。
「ギン様は......、嫌だった、ですか?」
オリビアにしては珍しく落ち込んだ声だったため少し驚いた僕ではあったが、その言葉に対する答えは考えるまでもなく決まっていたため、さして間を置くこともなく答えることが出来た。
「そんなわけないだろ。仲間になった時も言ったろ、僕はオリビアと結婚してもいいって」
正直な事をいえば、その最初期のプロポーズ───白夜とエルグリットに邪魔されたアレだ、アレ───はその内ほとんどを『冗談』が占めていたのだが、時が経つにつれてその気持ちにも変化があった。
日本に居た頃なら「はぁ? お前何人好きになってんだよ」とか言う僕も居たのだろうが、人が人を好きになるのは自然なことだし、その人の傍にいたいと思うのも自然なことだ。
だからこそ僕はもう迷ったりしないし、ましてやここで行動を起こさずに後々後悔するなんてことは、絶対にしたくない。
───だからこそ、僕も本音を言おうと思えたのだ。
「僕は、オリビアの事が大好きだよ」
そう言った瞬間、その毛布がバサッと僕の視界を覆い尽くした。
「......へっ?」
予想だにしていなかったその状況に、思わず頭がフリーズする。
そしてフリーズした僕へとさらなる悲劇が襲う
「ぐふっ......」
思いっきり頭突きされたかのような衝撃がTシャツ姿の僕を襲い、先程から予想外の連続中の僕はそのままソファーへと倒れ込んでしまう。
後頭部を強めに打ち、僕はちょっとした痛みに思わず体を硬直させる。
───が、彼女にとってはそれが好機だったのだろう、と後になって僕は思う。
「お、オリビア......? 一体どうし......んぐっ!?」
気がつけば僕の眼前にオリビアの顔が迫っており、唇に柔らかい感触が伝わってくる。
僕は今回のこれと非常に似た状況に陥ったことが一度、神界にてある訳で.........、
───っておい!? こ、これってまさか......。
かなり長いソレを終え、唇を離したオリビアは、呼吸を止めていた為か少し荒くなった息を吐き出しながら微笑んだ。
「私もギン様のこと、愛してるのですよ」
僕はソファーの上で僕に跨っているオリビアを見上げながら、半分真っ白になった頭で尚、先程のとても長いキスを思い出して......、
「な、なな───ッッ!?!?」
何故かソファーの向こう側に居た、ポンコツ女神の驚愕に見開かれたその目と、目が合った。
───あっ、こいつって物凄く影薄かったっけ。
そんなことを思ったが時すでに遅し。
「し、しし、親友くんがッ、お、オリビアちゃんとエッチなことしてるーーーーっっ!?!?」
この後、恭香たちにみっちり問い詰められた僕でした。
───追伸、二度目のキスは、嬉し涙の味がしました。
オリビア〜! やっとオリビア来ました!
少しその過程は無理矢理ではありましたが、まぁ、幸せになって欲しいものです。