第163話
本日二話目です! 一話目を見てない方はご注意を。
そこは、とても大きな部屋だった。
部屋というよりはホテルのロビーを数倍大きくしたかのような、そんな感じの一室。
天井からは大きなシャンデリアが室内を照らし、床は赤い絨毯が敷かれている。
長方形の部屋の一番奥には数段の段差と、それに伴う低めのステージ。そしてそこには数脚の椅子が置かれていた。
部屋の中央は開けっ広げになっており、その和まりを囲むかのように無数の長机が置かれ、その周りを貴族達が笑顔を貼り付けて笑いあっている───内心どんなことを思っているかは知らないが。
とまぁ、一言で言えば、これぞ王宮、と言った感じの部屋である。よくラノベの主人公達が招待されるところだ。きっとそのうち久瀬あたりも来るに違いない。
「いいか、お前達。少しでも騒いだら......、もちろん分かってるよな?」
後ろは振り向かずにそう言った僕ではあったが、頷く気配がしたので大丈夫だろう。もしも騒いだりしたらどうなるか、コイツらは身に染みて分かってるだろうし。
───まぁ、最悪問題を起こし始めたら僕は全力で隠蔽して逃亡するから何の問題もないのだが。
僕はそこまで考えると、迷いの無い歩みでその部屋への中へと進み出る。
今はもちろん隠蔽等のスキルは使っていないし、さらに言えば小細工をしてローブが風ではためいているように見せている。さぞかし威圧感満載だろう。
その僕の考えは外れなかったようで、僕のようなバリッバリの戦闘狂と一緒に居ることに慣れてない貴族共は先ほどまでの威勢はどこやら顔を背けてこちらと目を合わせようとしない。このチキン共めが。
(パーティで一番の気弱チキンが何言ってんのさ)
(ちょっとー? 今カッコつけるんだから水差すようなことしないでくれます?)
なにやら珍しく念話で話しかけてきた恭香ではあったが、まぁ、この程度で済めば重畳だろう───恭香からの暴言も、貴族達の反応も。
僕は一先ず壁際へと歩いてゆき、そこで一旦仲間達を集合させる。たまたまそこに居た貴族達は女性組に思いっきり鼻の下を伸ばしていたが、一瞬だけ魔力を放出すると一目散に逃げていった。ざまぁみろ。
「そんじゃ、ここからは別行動でいいぞ? 但し恭香とネイルは少なくとも二人以上で行動な。二人は直接の戦闘能力が僕達の中ではかなり低いし......」
───それに何より、恭香はこれでも『理の教本』なのだ。傲慢な考えを持つ貴族共が恭香を狙わないとは考え辛い。
そこまで考えを小声で話すと、皆も分かっているのかコクリと頷いてくれた───これでひとまず安心だろう。万が一攫われても、やろうと思えばマスター権限で恭香の居場所も探れることだし。
「それと暁穂、誠実の片眼鏡の力が必要になるかもしれないし、一応僕と一緒にいてくれないか?」
「了解しました。わざわざ理由をつけないと女性を誘えないマスターが、既に相方持ちだぞ、と周囲に知らせるため、私は横に侍っていればいいのですね?」
「......言い方は最悪だが、まぁそういう事だ」
とまぁ、そんなこんなで僕らの舞踏会兼食事会が始まった。
ちょうど室内に置かれた長机に料理が運ばれてきたのはその時で、それとほぼ時を同じくしてステージ横に演奏者たちが姿を現した。
「ま、お前ら皆守ってやるから、安心して楽しんで来いよ」
僕はそう言って、笑って皆を送り出すのだった。
☆☆☆
「マスター、美味しそうなものを取って来ました」
「おう、済まないねぇ」
僕は壁際で暁穂から皿を受け取ると、一緒に取ってきてくれたのであろうフォークを使って料理を食べ始める。
───ちなみに皿は空間支配のエアロックで固定済だ。右腕が無くとも十分に食べることは可能なのだ。
横でフォーク片手に肩を落としている暁穂を傍目に、僕は会場中を軽く見渡してみる。
未だにステージ上の席に座るのであろうエルグリットたちは姿を見せず、演奏者たちもまだまだ踊れるような曲ではなく、前置きのような感じの、BGMにピッタリの曲を演奏している。
もちろん王族が出てきていないのに踊る馬鹿が居るはずもなく、今は完全に食事と歓談がメインになっている。
恭香と白夜は流石に長い付き合いだけあって仲がいいのだろう、二人で色々な机を回って料理を試食している───試食しているってことはそのうち試すんですかね? 切実にやめて欲しいです。
輝夜はシャンパンタワーのグラスを片っ端から飲み干している───飲む度にぷはぁ、とか言ってる時点で独身こじらせたOLさんみたいだな。決して死神ちゃんのことではないですよ?
レオンは恭香たちと同じように色々な机を回って味見し、その度になにかメモしているようだ。きっとこれを食べられない伽月の為なのだろうが、ほんと、微笑ましい限りである。マックスはレオンをニヤニヤしながら見つめており、万が一の為にそれについて行っていた。
アイギスとネイル、浦町の三人は何やら三人で集まって楽しげに歓談しているが、時たま何故かこちらをチラッと見てくる。そしてその視線に気づいて僕がそちらを見返せば目をそらすと言った感じだ。わけ分からんな。
そして最後、エロースはと言うと......、
「いやぁ、それほどでもないよぉー」
「いえいえっ、貴女様は実に美しい! それこそ私の側室に...」
「おい貴様っ! 抜けがけは許さぬぞっ!?」
「ふん、貴様のような能無しにこの方が相応しいわけなかろうて、疾く失せるがよかろう」
「き、貴様ァァァァっっ!!」
「ち、ちょっとみんなーっ、喧嘩はダメなんだよっ!」
「「「「は、はいっ!」」」」
───そう、実にモテていた。よく聞けば求婚されていた。
まぁ、愛を司る神様だけあって容姿はダントツだもんな。暁穂も神様だけあってかなりの美しさだがエロースに勝ると断言できないだろう。まぁ個人的には暁穂の方が好みなんだけど。
しかし、よくよく見れば、どうやらモテているのはエロースだけではないらしい。
「どうか我が息子と.....」と貴族共に言い寄られている恭香や白夜、如何にも無骨そうな酒豪たちに絡まれて酒飲みの速さで勝負し始めた輝夜、令嬢さんたちにモテモテのレオンとマックスに、男性貴族の集団に囲まれつつあるアイギス、ネイル、浦町。
「はぁ......、これだからイケメンは嫌なんだよ。マックスとかマジで死ねばいいのに」
「マスターはマックスさんに対する態度が酷いですね、毎度思ってましたが。まぁそれだけ認めてるということなのでしょうが......、少し嫉妬してしまいます」
───甚だしい勘違いであった。
僕がマックスを認めてる? 強さも頭脳もまだまだじゃないか。僕が劣ってるといえば顔だけだぞ、顔だけ。......はっ、事故死でもすればいいのに。
そんなことを思っていると、暁穂は少し呆れ混じりにこう続けた。
「それに恭香さんたちが求婚されていることにはどうも思わないのですか? 流石にマスターを好いている者としては少々悲しいのですが......」
暁穂の口から出た珍しく感情のこもった言葉に思わずそちらを向いてしまう。
暁穂は目を伏せており、今彼女がどんな顔をしているか、どんな気持ちでそういったのかは定かではないし、無理に空間把握を使って確かめようとも思わない。
───けれどまぁ、それが本心だってことくらいは、誠実の片眼鏡が無い僕にだって分かることだった。
「別になんとも思わないわけじゃないよ。嫉妬もするし求婚してる男に怒りも覚える。何より悲しいし......、寂しいなぁって思う時もある」
その言葉に暁穂はバッと顔を上げ、その少し泣きそうな顔で僕へとなお問いかける。
「な、ならばっ......」
けれど、僕はその続きを言わせるつもりは無いし、ましてや僕の話も最後まで終わっていない。
僕は左手の人差し指でトンっと暁穂のおでこを軽く弾くと、「ひゃっ」と可愛らしい声を上げて恨めしそうにこちらを見てくる暁穂へと、こう続けた。
「僕はお前らを誰かにやるつもりなんてないよ。ましてや奪われるつもりなんて微塵もない」
そうして僕は、目を見開いて固まってる暁穂の肩へとポンと手を置いて、ニヤリと口の端を吊り上げてこう言った。
「だから安心して僕について来い。それとも何か、僕を嫌いになる予定でもあるのか?」
少しクサかった気もしないでもないが、これが今の僕の本心だ。
嫉妬するのは自分に自信が無い証拠。誰かに彼女らを取られやしまいか、そう心配する心の隙間が生み出す悪感情だ。
僕は絶対に彼女たちを離しやしないし、ましてやこんなイケメンでも無い僕を好きになってくれた女の子たちだ。他の誰かに一目惚れしてホイホイついて行ってしまうことも考えられない。
「まぁ、僕に出来るのはせいぜいお前らをまとめて守ってやれるくらい強くなることくらいだよ、だから今は守ってくれよ? 暁穂さんや」
僕がそう話しかけた先には、先程までの悲しげに顔を歪めた彼女は存在せず、
「ふふっ、最後の台詞以外は最高にかっこよかったですよ、マスター」
───そう、嬉しげに微笑む一人の女性がいるばかりであった。
☆☆☆
「なんで私たちが求婚されてる間にいい感じになってるのかなぁ......?」
「別にいい感じになってないし、それに大丈夫だ。さっき言った台詞の中にはきちんと恭香のことも含まれてるから」
「......なんだろう。嬉しいのか嬉しくないのかわかんないや」
なにやら求婚されるのに疲れたのか帰ってきた恭香たちを迎え入れ、僕らは今纏まって雑談を交わしあっている。
───というのも、彼女らは求婚されるのに疲れて帰ってきただけでなく、ほかの貴族達が何故かなりを潜めてそれぞれの纏まりへと帰って大人しくしているのだ。自分たちだけ長机の前にしがみついて料理を貪っているわけにも行くまい。
「それにしても主様は本当にカッコイイ時はカッコイイのぅ......、これでいつものクズくてチキンなところがなければ最高なのじゃが、....わ、妾としては鬼畜のクズに辱めを受ける方がそそると言うか.........、と、とにかく妾は主様のこと裏切らないのじゃよ!」
「クハハッ! 願望丸出しだな白夜よっ!」
「うわっ、輝夜、お前ものすっごい酒臭いぞ? ちょっと近寄んないでくんない?」
「あ、主殿っ!?」
とまぁ、大人しいかどうかは別として、僕らもこうして歓談モードへと突入していた、
───その時だった。
先程まで流れていた演奏が曲の終わりを迎え、それとは一変した厳かな曲が流れ始める。
それと同時にそわそわし出す貴族達。
「あ、なるほど」
僕はそれらを見てハッと気がついた。
先ほどの不可思議な行動と今の状況を鑑みるに、おそらくこの先に待っている答えはたった一つだろう。
ガシャン、ガシャン、と鎧のパーツが擦れる音がしたと思いきや、僕達が入場してきた大きな扉から完全武装した騎士達に護衛されたアイツらが現れる。
先頭を歩くのは聖剣エクスカリバーを帯剣したアルフレッド。
その後ろを......、
国王のエルグリット
婦人のエミリー様
第一王子ギルバート
第一王女ルネア様───なにやらキョロキョロと視線だけで何かを探しているご様子だったので、僕はサッと輝夜の後ろに隠れた。
第三王女のアメリア様、と続き......、
───そして、オリビアが姿を現わ.........
と、僕はそこで言葉を失った。
水色のドレスに身を包み、軽く化粧をしているのだろう、その頬は少し赤く染まっている。
両手を体の前に置き、華麗にお辞儀をする様はまるでお姫様。
そこにいつもの「~ですぅ」とか言ってはしゃぎ回ってる彼女の雰囲気はどこにも見当たらず、僕は思わずこう呟いた。
「.........え、あれ誰?」と。
オリビアもお姫様!
ちなみにオリビアは軍に入っていましたが、単純にオリビア自身が自由の無い王族という立場を嫌ったからです。伏線じゃありません。
それと、ギンたちは王族が出てくる前に料理食べちゃってますが......、まぁ、茶目っ気ということで。
次回! そろそろ事件でも起こってほしいものです。