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ふたたび研究会 一

十二月の半ばになった。何となく年の暮れの気配が、祐司の大学にも、沙也香の出版社にもただよって、一日ぐらいなら閑がとれて、また病室に昼過ぎ三人が集まった。

「あれから、どうしたなんて、野暮な事は聞かないよ。・・・・・・で、どうだったの・・・」

「あはは、聞いてるじゃないですか。御飯を食べて、カラオケやって別れました。ね、沙也香さん」

 沙也香は、「メ」という顔で、田沼を可愛らしくにらめつけた。


「オホン・・・さて、研究会開始!・・・この前の記紀についての感想からすると、君たちが見落とした重大な事がある」

「え、それはなんですか」と祐司は声をあげた。

「古事記ではイザナギとイザナミが生んだ島・地域の順番が淡路島・四国・隠岐の三島・筑紫(筑前、筑後地域)・豊国(豊前、豊後)・肥の国(肥前・肥後)・熊蘇くまその国(熊本南部、鹿児島)・壱岐島・対馬・佐渡・大倭豊秋津島おおやまととよあきつしま(大和を中心とした幾内)で、ここまでを最初に生んで大八島国おおやしまぐにであるとしている。さらに吉備の児島(岡山県児島半島)・小豆島・大島(山口県の大島か)・女島ひめじま(大分県国東半島の東北の姫島か)・五島列島・両児島ふたごのしま(長崎県男女群島)だ」老眼鏡をかけ、目をプリントに落として読んでいた田沼が目をあげた。田沼のめがねは遠近両用だから、めがねを下げて、視線を送ってくるような事はなかった。

高そうな金縁のめがねである。


「この順番が問題だね。最初に生まれた島々または地域の一群を大八島国おおやしまぐにと読んでいるね。この呼び名は、自らを大和国と言う前の古い国名と思うのだが、なんとこの一群で最後に生まれるのが、近畿地方の古名であると言われている大倭豊秋津島おおやまとあきつしまなんだ。この順番が日本書紀では、本文においても。引用する一書でも、最初に生まれるのが大倭秋津島おおやまとあきつしまだ。そして最後に生まれるのが、古事記にはない越の国(富山、新潟)だ。この表記には明らかにある秘密が隠されていると僕は思う。日本書紀編纂時に、古事記のようであった誕生の順番が入れ替えられ追記されたと僕は考えるのだ。古事記が、太安万侶の序文によらなくても日本書紀よりずっと古い文章である証拠を、僕は古事記の文から読み取ったんだ。それはね、日本書紀にある越の国が、古事記にはないと言うことだ。越の国は八世紀頃になってやっと倭人のエリアに入ってきた、アイヌの領地だから、古事記が古い歴史書であるなら、古事記に越の国の誕生の記事がないのは当然だ。・・・太安万侶の序文では、日本書紀に先立つ十年前に完成した事を示す、年号が書いてあるのだけれど、実際には古事記の成立は日本書紀成立より相当前であったと思われるね。・・・僕の考えでは50年ぐらいは充分に古いと、思う。だから古事記は最初はは文字でなく稗田阿礼のような者による口承による伝承の歴史だったのではないかな。・・・ところで日本書紀が、ここでは、地域の生まれた順番を書くことを控えているように見えるのも怪しさをつのらせるね。一書を羅列するけど、国生みの順番をかいているのは、本文と次に引用する一書のみなのだ」


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