詩人、日本書紀を訳す 五
「一書に言うには、天神は伊奘諸尊・伊奘冉尊に「豊葦原の千五百秋の瑞穂の地というのがある。あなたが行って治めるべきである」と言われ、天瓊矛を下さった。
そこで二柱の神は天上浮橋に立って、矛をさしおろして大地を求めた。青海原をかき回して引き揚げるときに、矛の先から滴り落ちる潮が固まって島となった。これを名付けて磤馭慮嶋と言った。
二神はこの島に降りたって広大な御殿を建てられた。また天を支える主柱も建てられた。陽神は陰神に問われた『あなたの身に何かできあがったものがありますか』答えていうには『私の身はできあがって、陰のはじめと言うものがひとところあります』
陽神は言った。『私の身にもまた、できあがって、陽のはじめというものがひとところあります。私の陽のはじめをもって、あなたの陰のはじめに合わせようと思う。あなたは柱を左に回りなさい。私は右にまわりましょう』
別れて回り出会ったときに陰神がまず声を上げた。
『ああなんて、いい男だこと』ついに交わって最初に蛭子を生んだ。それで、葦の舟に乗せて流してしまいました。次に淡島を生みました。この子は子供の数には入れませんでした。
そのため天に戻って、こと細かくその有様を申し上げました。これを聞いた天神は鹿の肩骨を焼いて占いを行い、言われた。
『女性が最初に声をかけたからなのです。もう一度もどりなさい』そうして、帰還に良い時をも占って戻された。
二神は、また改めて柱を回られた。陽神は左に周り女神は右に回った。二神が再びであった時に陽神は言われた『ああ、良い娘だ』陰神は後に答えて言った。『ああ良い男だ』
そうしたのちに、同じ宮に住み子を生んだ。大日本豊秋津島と名付けた。次に淡路島。次に伊予二名島（四国）。次に筑紫島。次に隠岐の三子の島。次に佐渡島。次に越の島（能登半島。島であったという説がある）。次に吉備子島（岡山県の児島半島。これもかっては島であったのであろう）。これによって全てを大八州国と名付けた。
また他の一書に言う。二神は天霧の中に立って、『私は国を得よう』と言われた。そして天瓊矛を、さしおろして探られると磤馭慮島を得た。それで矛を抜き揚げて喜んで言った『良かった。国があった』
また他の一書に言う。二神は高天原におられて言われた。
『国こそあれ』と。そして矛をもってかき混ぜて作った。
また他の一書に言う。二神が語り合って言われるには
『なにかあぶらのような物が浮かんでいる。あの中に国があるだろう』と言って、玉飾りの矛をもって海をかき混ぜて島を作った。
また、他の一書が言う。陰神が先に言われた。
『ああうれしい。良い男だこと』と。この時に、陰神の言葉が先になったことを、礼節に叶わないと、もう一度、柱の周りを回った。そして、陽神が『ああうれしい、良い娘だこと』そうして遂に交合しようとしたが、その方法を知らなかった。その時セキレイが飛んできてしきりに腰を振った。二神はそれを見て、交わる方法を知った。」
田沼は再び、プリントから目をあげて、沙也香にちろりと視線を当てた。沙也香は恥ずかしがるとと言うより、あきれた顔をしていた。田沼は言った。
「どうだい。このあっけらかんとした描写は。まことに以て、これではセクハラみたいになってしまうが、仕事のためだ我慢して下さい。ああ喉が渇いた」
田沼は缶ビール二本とノンアルコールビールを冷蔵庫から出して、二人にビール、自分のためにはノンアルコールを配って。栓を開けた。
