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詩人、日本書紀を訳す 一

 翌日の夕方、沙也香が田沼に、構想の進み方等を聞いているとき、ドアがノックされた。「どうぞ」と答えると、早川が入ってきた。早川は、室内に立っている沙也香にちょっと驚いた風であった。沙也香が和服であったからである。今日、品川で沙也香の高校時代のクラスメートが結婚式を挙げたのだ。沙也香は、このところ田沼先生にご無沙汰であったのと、日頃田沼から「君が和服を着たらキレイだろうな」などと言われていたので、それでは先生の所に行こうと思い、夕方時ではあるが、やって来ていた。

田沼は早川に声をかけた。

「おや、いらっしゃい。早川君、ここにおられる女史が、文化浪漫社の編集社員山辺沙也香さんだ。沙也香さん、彼がうわさの鎌倉女子大学の助教授の早川祐司さんだ」

「うあ、祐司さんなんて田沼先生にいわれると、ゾクゾクとするなあ。・・・あ、初めまして、先生御用達のきれいな出版社員がいると、先生から聞いていました。あなたですか、光栄です。よろしくお願いいたします」

「先生はお世辞が上手なんですよ。がっかりなさったでしょう」 

「いえいえ」祐司は顔を横に振ってにっこり微笑んでみせた。沙也香も微笑んだ。

「文化爛漫社の出版部におられるなら、歴史専門出版社ですから歴史にお詳しいんでしょうね」

「紺屋の白袴とよく言いますね、私もそのたぐいなんですの。歴史はすきなんですけど歴史書をそんなに深く読み込んではいません」

「そうですか、でも、歴史に少しでも詳しいなんて、良いですね」

「うむ、若い者どうしで盛り上がってるな。おじさんを置いてけぼりにしないで下さいね」

「あ、先生失礼しました。そこにいたんですか」と、祐司が混ぜっ返した。 

「はいはい、解りました。解りました。そろそろ、お勉強を始めましょうね、小生意気な生徒諸君」 

「はーい」と二人の声が同時であった。

「うむ、返事だけはよろしい。それでは、始めるぞ、質問などは後で頼むね」

    

 田沼はすでにそこに置いてあった応接セットのテーブルの上に置いたPCプリントを取り上げた。

「エート、これも古事記と同じように、私が訳した物だ。ちなみに日本書紀には古事記に太安万侶が書いているような序文などはない。『日本書紀 巻第一 神代上』 の題名のあとこう始まる。・・・天地がいまだ別れず陰と陽も未だ別れない古い昔、混沌であることはぐるぐる回る溶き卵のようでしたが、かすかにきざしのようなものがあるようでありました。その中で澄んだ物が分かたれたなびいて天となり、重くにごったものは積もって大地となるに及んで、精妙な物質はつながりやすく、重く濁った物質は固まりがったかった。・・・あの、早川生徒君、沙也香さんの方ばかり横目で見てないで聞いてくださいね」

 早川は顔を赤くして言った。「濡れ衣だ!聞いてますよ、田沼教授」沙也香は、そのやりとりが面白くてクスと笑った。


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